お客様は重要参考人

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 46 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月23日〜07月26日

リプレイ公開日:2009年08月09日

●オープニング

 離宮での事件から数日後。
 宝剣とともに行方不明になった弟子の捜索を冒険者達に任せ、円卓の騎士ボールス・ド・ガニスは王宮の周辺で独自の調査を行っていた。
 現場を訪れ、関係者に話を聞くうちに行き着いた、ひとりの人物。
 それはつい最近王妃の信頼を得、側近く仕える様になった女性騎士‥‥メリンダ・エルフィンストーン。
 混乱の中、パーシ・ヴァルに背中から斬り付け、ラーンス・ロットの逃亡を幇助したとされる彼女は今、事件の重要参考人として王城の一室に身柄を拘束されている。
 だが、彼女は事件に巻き込まれた衝撃故か、或いは裏で糸を引く真犯人であるとの嫌疑を懸けられている故か、事件の事は何も、黙して語らなかった。
 そして斬られた方のパーシもまた、行動の自由を奪われていた。
(「‥‥円卓に集う者はその技量と人格共に、この国最高の騎士である筈‥‥なのに、その忠誠を疑うのか‥‥王よ」)
 今回の事件の事を考えれば、それもやむを得ない事かもしれない。
 王の宝剣エクスカリバーを奪って逃走したのは、円卓の中でも最高の騎士と謳われるラーンス・ロット。
 あの離宮に現れた者が本物かどうか、それはまだわからないが、よしんば偽物であるにせよ円卓の騎士全てに対する王の信頼が揺らぐのも無理からぬ事だろう。
 しかし、それでも‥‥
(「彼を疑うべきではない。彼の忠誠を‥‥」)
 ボールスは王城を見上げ、その何処かに囚われている友を思う。
 そして‥‥ゆっくりと城門を潜り、城の中へと姿を消した。


 数刻後、ボールスの姿は城の一室にあった。
 そこは部屋の中央に大きな円卓が置かれた広間。
 騎士達に招集がかかる時、円卓の座席はほぼ全てが埋められる。
 だが、今この部屋にいるのは‥‥彼と、もうひとり。
 イギリス国王アーサー・ペンドラゴンその人だった。
「王よ、パーシ卿に自らの汚名を雪ぐ機会をお与え下さい」
 ボールスの嘆願に、王は僅かに眉を寄せた。
「‥‥パーシ自らがそれを望むというなら、それも良かろう。だが‥‥」
 本人からそんな要望が出されたとは聞いていない。
「本人が望まぬ以上は‥‥」
「王よ、彼が自らの行いについてあれこれと言葉で釈明を行う、その様な者だとお考えですか?」
 その言葉に、王はただボールスを見据える。
「機会を得れば、彼は必ずやその潔白を自ら証明して見せる事でしょう」
「‥‥そうだな。あいつはそういう奴だ」
 暫しの間を置き、王は静かに微笑んだ。
「ただし、監視は付ける。良いな?」
「‥‥ありがとうございます」
 ボールスは丁寧に頭を下げた。
「では‥‥拘束されているもうひとかた、メリンダ・エルフィンストーンについても同様の措置が取られると、そう解釈してもよろしいでしょうか」
 同じ嫌疑で身柄を拘束されている者同士。
 円卓の騎士と王宮騎士という違いはあれど、どちらも騎士の誓いを立てた者である事に変わりはない。
 その扱いに差を付ける様な事はすまいと、言葉には出さないが‥‥
「よかろう」
 王は苦笑いを漏らしつつ頷いた。
 この男は自分を試したのだろうかと、ふとそんな考えが浮かぶ。
「‥‥及第点は貰えたのだろうな」
 呟いた言葉に、ボールスは小さく微笑を返した。
「ひとつ、伺いたい事がございます」
「何だ?」
 ひと呼吸置いてから、ボールスは言った。
「王よ、貴方にとってエクスカリバーとは‥‥何ですか?」
「国の為、民の為の力だ」
 間髪を入れずに答えが返る。
「メリンダの処遇は、お前に任せる」
 何か問題が起きた時には責任を取れ、などと‥‥そんな事は言わない。
 言わずとも、それが当然の事だとお互いが理解していた。

「力‥‥か」
 去り行く王の足音を背中に聞きながら、ボールスは呟いた。
 確かにそれは為政者にとって必要なものだ。
 そして、あの宝剣はその大いなる力故に、決して敵の手に渡してはならぬものだという事もわかる。
 しかし‥‥
 この国の騎士として自分に出来る事は‥‥もう、それほど多くないのかもしれない。
 ボールスは目を閉じ、座り慣れた椅子の背を指先でそっと撫でた。


「‥‥ボールス、様‥‥あの、円卓の騎士、の‥‥?」
 メリンダは琥珀色の瞳を一杯に開いて、目の前の騎士をじっと見つめていた。
 いや、鎧も纏わず武器も帯びずにそこに立ち、柔和な微笑を浮かべている姿は、そうと紹介されなければとても騎士には見えない。
 だが、それよりも更に彼女を驚かせたのは、その円卓の騎士が自分の身元引き受け人となる、という申し出だった。
「あの、どうして‥‥」
 ボールスとは面識も接点もない。
 王宮騎士として、そして伯爵令嬢としても名前くらいは知っていたが、会うのはこれが初めてだった。
「事件の重要参考人として、あなたのお話を伺いたいのです」
 それを聞いて、メリンダの表情が硬くなる。
 だが、ボールスは構わず続けた。
「でも、あなたも身柄を拘束されたままでは落ち着かないでしょうし、常に疑いの目を向けられていたのでは心が休まる暇もないでしょう」
 自由を奪われ精神的に追い詰められた状態では、頭もそして心も、自分の思い通りには動いてくれないものだ。
 だが、そこで出た言葉は「真実」として人の記憶に刻まれてしまう‥‥例えそれが本人の意図しないものであろうとも。
「ですから暫くの間、私の家に客として滞在して頂こうかと思うのですが‥‥如何ですか?」
「私が‥‥ボールス卿のお屋敷に? 本当によろしいのでしょうか?」
 疑いをかけられている身で、しかも客として、などと。
「あなたも猫がお好きだと伺ったものですから。きっと喜んで頂けるだろうと思って」
 猫、可愛いですよね‥‥と、ボールスは子供の様な屈託のない笑みを浮かべる。
「‥‥ええ、確かに‥‥わたくしも猫は好きですわ。でも‥‥」
「ああ‥‥勿論、お客様に監視を付ける様な事もしませんから、ご安心下さい」
 妙な下心がない事は、言う迄もない。
「そんな‥‥逃げるかもしれない、とは‥‥お考えにならないのですか?」
 まるで不思議な生き物を見るかの様に、メリンダはボールスを見た。
「逃げたければ、どうぞ」
「‥‥!」
「止めはしません。その代わり‥‥追いかけて、討つ事になるでしょう」
 逃げるという事は、自らの罪を認めるという事だ。
「あなたも騎士なら、逃げる事の愚かさは理解出来ると思います」
「‥‥ええ」
 暫しの躊躇いの後、メリンダは言った。
「では‥‥お言葉に甘えさせて頂きますわ。暫くの間、どうか‥‥よろしくお願い致します」
「良かった。では、まず初めに‥‥お近付きのしるしにお茶会でも如何ですか?」
 またしても予想外の発言。
 事件の事で大変な騒ぎになっているこの時に、その重要参考人‥‥いや、容疑者とも言うべき自分を交えてのんびりお茶会などと‥‥正気の沙汰とも思えない。
 だが、ボールスは至って正気、かつ大真面目だった。
「園遊会は大変な事になってしまいましたから、もう一度仕切り直しという事で、ね?」
 にこにこにこ。
「事件の事については、何も訊きません。あなたが‥‥逃げずに立ち向かえる様になるまで、のんびり待ちますよ」
 勿論、その間何もせずにいる訳ではない。
 ウォルを助け出し、宝剣を取り戻し‥‥そしてラーンスにも話を聞き、場合によっては‥‥
 いや、それは彼等の後を追った冒険者達が戻ってからの事だ。
 まずは楽しもう。
 結局はそれが近道になる事を信じて。

●今回の参加者

 ea0071 シエラ・クライン(28歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2834 ネフティス・ネト・アメン(26歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea2913 アルディス・エルレイル(29歳・♂・バード・シフール・ノルマン王国)
 ec4979 リース・フォード(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec5609 ジルベール・ダリエ(34歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 キャメロットは今日も夏らしい晴天に恵まれていた。
 朝っぱらから強い日差しが照り付ける中、重そうな籐籠を手に少し危なっかしい足取りで歩くシエラ・クライン(ea0071)は、木陰でその足を止めた。
 暑い。重い。
 いや‥‥暑くない。重くない。
 この暑苦しいローブは魔法使いのイメージを守る為には欠かせないものであるし、可愛い愛猫2匹が入った籠は確かにちょっと重いが、気にしない。気にしたら負けだ。
 大丈夫、日差しはレジストサンズヒ−トの魔法が防いでくれる。
 目指す猫屋敷までは、あと少し。
 シエラは気合いを入れ直すと、籐籠を持つ手を替えて再び歩き出した。


「猫さんズ〜♪ 元気だったかな♪」
 猫屋敷には、現在猫が20匹。
 久しぶりに屋敷を訪れたリース・フォード(ec4979)の声に、様々な色をした40の瞳がキラリと輝く。
「うわ、猫雪崩れ‥‥っ!」
 尻尾をぴんと立てた猫達が、屋敷の奥から溢れて来た。
「ほんとに人なつこい子達だね‥‥それとも、俺のこと覚えててくれたのかな?」
 リースは見えない尻尾をぶんぶん振りながら手近な猫達の頭を撫でる。
「もうちょっと待っててね、後でオモチャ作ってあげるから」
 ところで家の主人は、と見ると‥‥いた。
 猫達の向こうで笑っている。
 頭に黒いネコ耳を付けて。
「‥‥ええと‥‥全くボールス卿らしいというか‥‥」
「ああ、これですか?」
 ネコ耳を付けた円卓の騎士は嬉しそうに微笑んだ。
「以前貰ったものを引張り出してきたのですが‥‥似合いますか?」
「ええ、とても良く‥‥いや、そうじゃなくて」
 何故かリースの頭の中で、猫達が手を繋いでダンスをしているビジョンがぐるぐると回っていた。
 何だか、目眩がする。
「俺が言ってるのは、メリンダさんの事で‥‥」
「せや、被疑者を引き受けた上にお茶会やなんて、普通は思いつかへんで」
 リースの後ろから顔を出したジルベール・ダリエ(ec5609)がぺこりと頭を下げる。
「ボールス卿とは初めましてやね。‥‥で、一体何を企んではるんです?」
「企むなんて、人聞きが悪いですね」
 にこにこにこ。
「ただの気紛れですよ。それとも、気に入ったのでお持ち帰りしました‥‥とでも言った方が良いのかな?」
 ‥‥どこまで本気なんだ、この人は。
「いやいやいや、しませんからボールス卿はそんな事!」
 リースがぶんぶんと首を振る。
 犬猫ならやりかねない、と言うか実際やってるが、人相手には絶対ない‥‥多分、きっと。
「でも、まあ‥‥少し安心しました」
 色々な意味で『らしさ』が戻ってきているのは‥‥いい事、なのだろう。
 それに、少しは元気も出て来た様だ。
 本人に訊いたら「元から元気ですよ?」と大嘘を吐かれそうではあるが。
「私には騎士とかよく判らないから、ボールスさんが何を考えたかなんて判りっこないけども。ただ閉じ込められちゃうよりもいいわよね、きっと」
 ネフティス・ネト・アメン(ea2834)が微笑み、屋敷の奥を覗き込んだ。
「ところで‥‥その、メリンダさんはどこかしら?」
「彼女なら‥‥ほら、あそこに」
 ボールスが視線を移した先に、メリンダがいた。
「庭が見たいと言うので‥‥」
「って、一人でほっといて良いんですか!?」
 リースが遠くに見えるメリンダの影と、ボールスとを見比べる。
 庭から通りへ通じる門は開けっ放し。
 重要参考人なのに。逃げられたら大変な事になるのに。
 だがボールスは彼女を信じているのか、それともわざと泳がせているのか、或いは何も考えていないのか‥‥
「皆さん揃った様ですし、どなたか呼びに行って頂けませんか?」
 その笑顔からは何も読み取る事が出来なかった。
「じゃあ、私が行って来るわね。ああ、そうだ‥‥ねえ、ボールスさん。もう1人お客様を呼んで貰っちゃ駄目? 」
 ネティが汰訊ねる。
「王妃様小間使い見習のロミー。同じ事件の関わりで、メリンダさんも心配してると思うの」
「そうですね。では、ちょっと呼びに行って来ます。彼女もそろそろ解放される頃合いでしょうから」
 ついでに楽師でも頼んで来ると言って、ボールスは屋敷を出て‥‥
「ボールス卿!」
 ‥‥行きかけた所で、リースが呼び止める。
「外して下さいね、それ」
「‥‥あ」
 振り向いたその頭上に、黒いネコ耳が誇らしげに立っていた。


 暫く後。
「‥‥行方不明? ロミーが?」
 お茶会用にセッティングされた居間で、メリンダと共にその知らせを聞いたネティの顔から血の気が引いて行く。
「そんな‥‥あの子は何もしてないわ。ただ‥‥見てしまっただけで」
「ええ、私もそう思っていました。事情を聞き終わったらすぐにでも解放されて、元の仕事に戻れるだろう、と」
 甘かった。
 いや、世間知らずだったと言うべきか。
 それはボールスが予想もしていない結果だった。
「すみません。私がもっと気を付けていれば‥‥」
 メリンダと一緒に、彼女も連れて来るべきだった。
「いいえ、私が悪いのですわ。あの子まで巻き込んでしまって‥‥」
 メリンダも責任を感じているのか、力なく項垂れている。
「何か、私に出来る事はないでしょうか‥‥そうですわ、あの子を探しに‥‥!」
 だが、ボールスは首を振った。メリンダとて完全に自由の身となった訳ではないのだ。
「捜索隊が結成されるそうです。今はその結果を待ちましょう」
「‥‥そうね。今は出来る事をしましょ」
 ネティが努めて明るく言った。
「楽師さん達に演奏お願い出来るかしら? 明るくて楽しい曲が良いわ」
 楽の音に合わせてネティは舞い始める。
「さあ、元気良く派手にいくわよ☆」
 ネティの本職は占い師だが、姉には及ばないものの、ジプシー旅芸人の嗜みとしてそれなりの芸は身につけていた。
 足首に付けた鈴の音を響かせながら、ネティは楽しげに舞う。
 その舞いが好評のうちに終了したタイミングを見計らい、リースが荷物の中から色々取り出した。
「さて、と。お茶会にゃ〜」
 どさどさどさ。
「お菓子とお茶がないと始まらないでしょう♪ 舞姫さんも、お疲れさま」
 魔法の冷や水と緑茶の葉で作った冷茶を差し出す。
「メリンダにはこれ。ジャパンのお菓子は食べた事ある? なかなか美味しいよ♪」
 冷茶と共にその手に押し付けられたのは、大きな饅頭。
「え、あの‥‥」
「それとも、こっちが良いかな。食べると幸せな気持ちになれるんだって」
 饅頭の上に星形のラッキークッキーをトッピング。
「ありがとう、ございます。でも、そんなに気を遣って頂かなくても‥‥」
「なに言うとるんや。メリンダさんはお客さんや、遠慮せんと、どーんと構えとき」
 ジルベールが笑い、リースに負けじとお菓子を差し出す。
「では、私も‥‥」
 シエラも、クルミ入りクッキーをどさり。
「ありがとう、助かります」
 いつもなら、弟子が張り切ってお菓子作りに精を出す所なのだが、とボールスが苦笑いを漏らす。
 しかし彼は今、従兄のもとで家政夫になっていた‥‥と言うのも何か違う気はするが。
 まあ、彼の事は心配いらないだろう‥‥師匠よりもずっと世渡り上手だし。
「じゃあ、俺はちょっとした手品でも披露しよか。余興その2や」
 ジルベールはメリンダの視線が自分に向いたのを見ると、やおら手のひらを彼女に向ける。
「ここ、注目や」
 指差したのは人差し指と中指の間。そこにはコインが一枚挟まっていた。
「よ〜く、見ててや? 3、2、1‥‥はい!」
 手のひらをメリンダに向けたまま、ジルベールはその手をぎゅっと握る。
 一瞬の後に開かれた手の中には、何もなかった。
「あの‥‥コインは、何処へ?」
「さあ、どこやろね?」
 ジルベールは悪戯っぽく微笑む。
「こういうん、もしかして初めてやったかな? 楽しんで貰えたやろか?」
「はい!」
 メリンダの顔に浮かんでいた緊張の色は、随分薄くなった様だ。
「よかった、だいぶ良い顔になったね」
 リースが尻尾を振った‥‥見えないけど。
「折角ボールス卿が与えてくれた機会だ。心が沈みがちかもしれないけど、ここは一つ、少しの休暇だと思ってのんびりするといいよ」
「はい、ありがとうございます」
「あ、でも、無理に明るくする必要も、笑う必要もないからね?」
 大丈夫、とメリンダは小さく頷いた。
 それからはごく普通に、他愛のない世間話が続く。
 実家の伯爵家の事や、王妃様はどんな人か、明日のお天気から流行の服や髪形、飼い猫のクセまで‥‥
 そんなお喋りの間にも、ジルベールは指にはめた石の中の蝶の動きをさりげなく警戒していた。
 先程の手品で見せたのとは反対の手、しかも石を手のひらの側に向けているので、気付かれる心配はないだろう。
(「正直、ラーンス卿を手引きした時の出来事を考えたら、どーしてもメリンダさんを疑いたくなる‥‥」)
 だが、今はまだ誰も彼女の口から何があったかを聞いていない。
 全ては悪魔の計略だったのかもしれない。そして今も、どこかで様子を見ているのかも‥‥
 しかし、蝶がその羽根を動かす気配は全くなかった。
「さっきの手品やけど」
 世間話の続きとでもいった調子で、ジルベールが言った。
「ホンマは手握ったときに親指と人差し指の股にコイン挟んで隠してるだけやねん。手を裏から見たらすぐ分かるんやけどね」
 物事の一面だけ見て判断するのは危険な事だ。
 色々な方向から見なければ真実は見えて来ない‥‥あの事件も、彼女の視点から見て、あの時何があったのか。
 それは他の人が見た光景とは違う物だったかもしれない。
「俺は真実を知りたい。メリンダさんかて、そうやろ?」
 メリンダは表情を強張らせる。
 本当にきちんと話を聞いて貰えるのか、まだ疑いと不安が残っている様だ。
「まあ、急がんでもええ。ゆっくりでええから、な」
「そうそう、メリンダさん。何か占って欲しい事はない?」
 ネティがタロットを取り出す。
「得意はこれだけど、水晶玉でも占星術でも。『アメン神の娘』の占いは良く当たるって巷じゃ評判なんだから」
「占い、ですか? でも、何を占って頂けば良いのか‥‥」
「恋愛運は勿論、仕事運に金銭運。それに悩み事があれば選択の灯火を掲げてあげるわよ?」
「でも、もし悪い結果が出たら、と思うと」
 メリンダは申し訳なさそうに微笑む。
 今の状況では、この先に明るい未来があると素直に思えなくても仕方がない事かもしれない。
「ボールスさんも、どう? 占い師として忠告すると、何か悩みがあるって顔よ?」
「そんな風に、見えますか?」
「見えるわね。占い師じゃなくても、そう見えるんじゃないかしら」
 その言葉に、何人かが小さく頷く。
 だが、当の本人は困った様に首を傾げていた。
「悩みと言っても‥‥悩んでも仕方のない事ですし。ただ、色々な事が哀しくて‥‥寂しいだけです」
 自分を取り巻く世界が、そして、人の心の有り様が。
「ああ、すみません」
 何だか、場が湿っぽくなってしまった。
「そろそろ片付けて、遊びましょうか」
 そこらで退屈そうにごろごろしながら待っている、猫達と‥‥


「ペルシュ、ペフティ。お友達沢山いるから、好きな様に遊んでらっしゃい」
 ネティに言われ、猫は猫仲間、犬は犬仲間の所へ駆けて行く。
「え、メリンダって猫好きなのに猫さんから好かれないの? それって昔から?」
「ええ、近寄ると逃げてしまうんです」
 リースの問いに、メリンダは寂しそうに頷く。
「だからいつも遠くから見ているだけで‥‥」
「うーん、でも俺も好かれているのかな‥‥ほら猫って気まぐれだし」
 いや、リースくんは好かれてますから、どう見ても。
「それとも猫さんが苦手な匂いでもするのかな?」
 くんくん。
 いや、人の鼻じゃわからないと思うよ‥‥ってか、それは拙いと。
「でも、嫌われてんのは気の毒やね」
 ジルベールが荷物をごそごそ。
「猫っぽいカッコしたら仲間と思ってくれるかもしれへんで? ほれ、これでどや!」
 取り出したのは、ねこさんキャップとキャットハンズ。
「恥ずかしいことあらへんて! ほれ、あれ見てみぃ」
 そう、円卓の騎士がネコミミ付けて喜んでいるのだ。
 若い女性、しかも美人の猫扮装くらいどうってことない。ってゆーか見たい。
「そうそう、猫さんと仲良くなる秘訣はね‥‥同化する事ですっ!」
 こんな風に、と猫まみれのリースがボロ布で作ったボールを投げて寄越す。
「そんなわけで‥‥遊ぶのにゃー♪」
「これを、投げれば良いのでしょうか」
 投げたボールに猫達が群がる。
 だが、それをメリンダの所へ持ち帰ってくれる猫はいなかった。
 仕方なく自分で取りに行こうとすると、さあっと波が引く様に逃げてしまう。
「うーん、何があかんのやろ?」
 尻尾が足りないのか。それとも猫になりきろうとする気合いか。気合いなのか。
「メリンダさん、ちょっとこれを持って下さいませんか‥‥」
 シエラが、とうとう最後の手段に出た。
 毛糸の靴下にマタタビを詰めたものをメリンダの両手に持たせる。
「はい。ロゼちゃん、ミルフィーユちゃん、ゴー♪」
 声と共に、大きな猫と小さな猫が突進して来た。
「あ、離さないで下さい。こう、適当に上下に動かして‥‥」
 二匹は夢中でじゃれついている‥‥メリンダの体をよじ登らんばかりの勢いで。
 恐るべし、マタタビの魔力。
「猫って‥‥柔らかいのですね」
 夢中で靴下に齧り付いている猫の背をそっと撫でたメリンダが言った。
「もしかして‥‥触ったのも初めて?」
「はい、あの、触ろうとすると逃げてしまうので」
 そこまで嫌われていたのかと、リースが目を丸くする。
「でも、良いよね。小さくて暖かいものって不思議と和むでしょう? 心がホッと出来るって大事だと思うんだ」
 暫くはここにいるようだし、少しずつ仲良くなってみるといい。
「ここには猫さん以外の動物も沢山いるから、嫌じゃなかったら。慣れるまで時間はかかるかもしれないけどね」
「慣れると言えば‥‥」
 シエラがちらりとボールスを見て、私見ながら、とメリンダにそっと耳打ちをする。
「ボールス卿にも、慣れるまでは大変かもですね」
「え‥‥?」
「騎士としては無敵超人かその一歩手前‥‥、と言った感じなのですけど、ちょっとぽややんだったり、その割に腹黒? だったり‥‥」
「ぽややんは‥‥わかる気がします。でも、腹黒‥‥なのですか?」
「せやな、今も何を企んどるんか、よーわからんし」
 なんか色々、勝手な事言われてますが。
「という事で、慣れる為の第一歩として‥‥ボールス卿と手合わせをしてみてはどうでしょう」
 何故そうなる。
「ボールス卿には大量ハンデを付けて、メリンダさんにはフレイムエリベイションで援護しますので」
「あ‥‥面白そう、ですわね」
「重装備で猫を抱いて貰って」
「ついでに目隠しとか、どや?」
「両足縛っちゃおうか」
「あ、ボールスさんが負ける未来が‥‥」
 ‥‥事件の真相追求?
 それはまあ、ぼちぼちと。