3時のおや‥‥じ!?
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月18日〜09月23日
リプレイ公開日:2006年09月26日
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●オープニング
午後のひととき、お茶とお菓子で優雅な時間を楽しむのは、暇と金を持て余した貴族の特権‥‥とは限らない。
暇も金も、さほど余裕があるとは思えない一般庶民の中にも、貴族の暮らしぶりを真似したがる人々がいた。
そして、ここにも‥‥。
「は〜い、ミントちゃん、おやつの時間ですよぉ〜♪」
フリルの付いた可愛らしいエプロンをかけた初老の男が、満面の笑みを浮かべて厨房から現れる。
彼が手にした皿には甘い香りを漂わせた焼き菓子が山と盛られていた。
「今日は山で摘んできたベリーを入れた焼き菓子に、手作りのジャムを挟んでみたの。どうかしら?」
何故かおネエ言葉で、食卓に座った娘に菓子を勧めるオヤジ。
「うん、美味しいよ、お父さん。ホントに上手だね‥‥」
「‥‥確かに、美味しいし、あたしも嬉しいんだけど‥‥」
ぽっちゃりとした、年の頃は17〜8の娘がギルドの受付係を前に溜め息をつく。
「でもね、お砂糖って高いのよ? 知ってるでしょ? 確かにうちは、それほどお金に困ってはいないけど‥‥」
娘が言うには、父親は半年ほど前に休暇を取って以来、お菓子作りが病みつきになり、今では仕事そっちのけでお菓子の新メニュー開発に心血を注いでいるらしい。
「お兄ちゃん達も働いてるから、働かない事は別に構わないのよ。お父さんもそろそろ引退の歳だし、隠居したら好きな事を存分にやって貰おうって思ってたわ。でも、こんなにお金のかかる趣味なんて‥‥ねえ?」
ねえ、と言われても。
「それに、あたしも言われちゃったのよ、カレシに、それ以上太ったら別れるって」
「それは‥‥困りますね」
「ううん、別に良いのよ。そんな事言う男はこっちから願い下げってフッてやったから」
「あ、そ、そうなんですか」
「でも、そいつにデブだから別れた、なんて言われたくないじゃない? だからあたしもダイエットを始めたんだけど‥‥」
父親の心を込めた美味しいお菓子が、毎日のように食卓に上る。
「せっかく作ってくれたのに、食べなきゃ悪いでしょ? それにホントに美味しいのよ」
娘は再び深い溜め息をついて苦笑いを浮かべた。
「‥‥そうよね、あの嬉しそうな顔を見たら、やめろなんて言えないわよね」
だから。
「ねえ、どうすれば良いと思う?」
‥‥そんな訳で、ギルドの掲示板にはこんな依頼が張り出される事となった。
『お茶会、開きます。美味しいお菓子を食べに来て下さい。お菓子作りの得意な方も、一緒に腕を磨きましょう』
「あの‥‥、こんなんで良いんですか?」
受付係が当惑顔で問う。
「お菓子作りをやめさせる話では‥‥?」
「うん、あたしもそのつもりだったんだけど‥‥しょ〜がないわ」
娘はカラカラと笑った。相談しているうちに、考えが変わったらしい。
「楽しみを取り上げて、老け込まれちゃっても困るし。それにほら、大勢集まれば何か良い考えが浮かぶかもしれないじゃない?」
●リプレイ本文
晴天に恵まれた初秋の昼下がり。依頼人の家の周囲には、焼き菓子の甘い香りが漂っていた。
「皆さんいらっしゃ〜い、お待ちしてましたワ♪」
お茶会に呼ばれた冒険者達を、フリフリエプロンのおぢさまが歓迎する。
「今日は天気も良いから、お庭にテーブルをセットしてみたのよ、さあどうぞこちらへ」
「お招きに預かり、感謝する。こう見えても私は甘いものには目がなくてね」
テーブルに並べられた色とりどりの菓子に目を奪われつつ、デュラン・ハイアット(ea0042)が一同を代表して謝意を述べる。
「あ、いらっしゃ〜い。今、お茶入れるから、好きなトコに座って待っててね」
依頼主のミントがティーポットを片手に手を振る。
「お言葉に甘えて、ゆっくりとお菓子を楽しみましょ♪」
フィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)が真っ先に飛んで行った。
「サクサクで美味しいです〜〜〜」
エヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)がトロけそうな笑顔で焼き菓子を頬張る。
「やっぱりハチミツだと、ここまで柔らかくてサクサクには焼き上がらないかもしれませんね」
「そうでしょ? だからやっぱり、お菓子作りにはお砂糖は欠かせないのよね」
おぢさまは砂糖の使用にコダワリがあるようだ。
「でも‥‥」
と、エヴァーグリーンは小声で付け加えた。
「美味しいお菓子は食べたいですけど、太るかもしれない心配は少しでも少ないほうがいいですのぉ‥‥女の子ですもん‥‥あ、ほら、甘いの苦手な人だっていますし‥‥ね?」
「‥‥菓子は嫌いではないが‥‥砂糖の強い甘みは苦手だ‥‥」
アザート・イヲ・マズナ(eb2628)が、激甘の菓子をちびちびと囓りながら呟く。
「甘くないお菓子、ですか?」
お菓子は甘いものという先入観があるらしいおぢさまには想像出来ないようだ。
「ふむ、料理の楽しさに取り付かれた親父殿の気持ちは良くわかる。作り手が楽しくなければ本当に美味い料理などできぬからな。砂糖にこだわりたい気持ちもよくわかるが‥‥」
尾花満(ea5322)が菓子の出来映えに感心しながら口を挟む。
「しかし、無理に砂糖を使わずとも、素材の甘さを活かした調理法はあるのだ。その道を求めるのもまた一つであるぞ」
「そうでござるな、この菓子はとても美味しいでござるが、砂糖は高価でござる故、拙者の働く農場ではとても手が出せないでござる」
沖鷹又三郎(ea5928)は自分の働く農場の状況を簡単に説明した。
「オヤジ殿、より値段を抑えた菓子作りを共に考えては頂けないでござるか? それに、油や砂糖は多く摂り過ぎると健康に良くないと聞いた事があるでござる」
「この季節であれば、リンゴや栗、ブドウなど果物も入手しやすいであろう。‥‥そうだ、キャロットケーキなどと言うものもあるな。人参は比較的手に入りやすかろうし、他に比べて太りにくい食材であるから使い勝手も良かろう」
満の提案に、又三郎が頷く。
「私、アザートさんに甘酒を頂いたのですが、これに合うお菓子も考えてみませんか?」
エヴァーグリーンが甘酒を差し出した。
「アマザケ‥‥?」
おぢさまは初めて見たらしい。栓を開けて匂いを嗅いでみる。
「これジャパンだと子供でも飲んでいいお酒だそうなんですけど、甘いお菓子だと合わないんですよね〜」
「確かに、しょっぱい物が欲しくなる匂いだわ」
「でしょ? 木の実を炒って塩味を付けるとか‥‥」
「ああ、それ! 良いわね!」
「じゃあ、明日は森に材料集めに行きましょうか」
菓子を頬張りながら、フィオナが提案する。
「自慢の目で色々探してあげるわよ」
翌日も秋晴れに恵まれた。暑くもなく寒くもなく、森の中には日差しが溢れ、散策には絶好の日和だ。
「あ、あそこにベリーがあるわよ。あっちには栗の木も‥‥ミツバチの巣もあるわね。ハチミツが採れるかしら?」
フィオナが忙しそうに飛び回り、皆がその後を追いかけるように採集して回る。持参した袋や籠は、たちまち森の恵でいっぱいになった。
その帰り、森では手に入らなかった材料を市場で買い込み、台所には季節の材料がどっさり。
その中に、何故か粉にしていない麦‥‥しかも大麦の袋があった。
「これで水飴を作ってみようと思ってな」
満の言葉におぢさまは首を傾げる。
「ミズアメ‥‥?」
「ジャパンの甘味料だ。発芽させたものを煮詰めれば、透明な飴が出来る‥‥筈なのだが」
「なるほど、ジャパンの‥‥」
おぢさまは感心したように首を振った。
「いや、皆さん本当に色々な知識をお持ちですね。来て頂いて本当に良かった。この機会に、存分にその知識を吸収させて頂きますぞ」
何故か突然、おネエ言葉が治っている。
「では、早速料理に取りかかるとするでござるか」
「そうね、そうしましょ♪」
又三郎の言葉に嬉々としてエプロンをかける。どうも、エプロンが何かのスイッチになっているようだ‥‥。
「ねえ、ミントちゃんも一緒に作ってみたらどうかしら?」
フィオナがミントに声をかける。
「いや、あたし作るほうはあんまり、その‥‥あははっ」
笑って誤魔化すミントのお腹を、フィオナはムニムニとつまんだ。
「でも、自分が食べているものをしっかり理解することは大切よ? ダイエットの効果も上がるんじゃないかしら」
「う〜ん、そうか‥‥。それもアリかもね」
ミントは自分でもお腹の余分なお肉をつまんでみる。
「そう言えば、シフールの人ってみんなスリムよね。シフール秘伝の特別なダイエットとか、あったりするの?」
「空を飛ぶのってけっこう疲れるから、良い運動になるのよね。それに、太って飛べなくなったら死活問題だし?」
「そっか、そうよね、あははははー!」
料理組が台所に籠もった後、ひとり庭に出たアザートはペット達とひなたぼっこをしていた。
トカゲのみどりはテーブルの上に乗り、午後の日差しを浴びて気持ち良さそうだ。ウサギのみみも庭に生えた草を食み、のんびりと寝そべっている。犬や猫も一緒に庭に出ていたが、彼等の事は気にならないようだ。相手もみみを獲物だとは思っていないらしい。
猫を膝に乗せてまどろみかけた時、背後で扉の開く音がした。
「ねえ、ちょっと味見してみない?」
ミントが皿に出来たての菓子を乗せて近付いてくる。
「お砂糖の代わりに栗とハチミツを使ったの‥‥って、あたしが作ったワケじゃないけど」
カラカラと笑いながら差し出された菓子を、アザートは手に取り口に運ぶ。
「‥‥悪くない‥‥この甘さは良い感じだ‥‥」
「でしょ? お砂糖たっぷりも魅力だけど、こういうのも良いわよね、上品な甘さって言うの?」
表情豊かな娘だ、そう思いながらアザートは気になっていた事を聞いてみる。
「‥‥父親の半年前の休暇、菓子作りの原因になる何か‥‥あったのか」
「え? ああ、ちょっとあちこち旅行に行っててね、その時に出されたお菓子がものすごく美味しかったんだって。それをあたしにも食べさせたいと思って作ってみたら‥‥こうなったワケ」
ミントは苦笑いしながら肩をすくめて見せる。
「じゃあ、どんどん色んなの作るから、出来たらまた持って来るね」
それから暫く、三度の食事の代わりにお菓子がテーブルに並ぶ日々が続く事となった。
「うん、これなら甘酒と一緒でも食べられますね‥‥それに、甘いものが苦手なお父様にも食べてもらえそうです」
エヴァーグリーンが嬉しそうに試作品を頬張る。
「この材料なら農場でも作れるでござるな」
又三郎は出来たてのアップルパイを切り分け、箱に入れる。友人への土産用だ。
「経営が苦しい中で、いかに安くて美味しい料理を作っていくか‥‥大層難しいでござるが、やりがいのある仕事でござるよ。オヤジ殿も菓子ばかりでなく、日々の食事作りにも挑戦してみてはいかがでござるか?」
「それが‥‥料理は自分の領分だと、妻が譲らないもので。それに、娘の喜ぶ顔が見たくてやっているようなものですし」
父親は照れたように笑い、娘も嬉しそうに頬を赤らめる。
「そうでござるな、拙者も美味しいと食べてくれ元気に働く家族の笑顔を見るのが何より楽しみでござる」
「しかし、これだけのものが作れるなら、何処かの店にでも数量限定で置いてもらって売り物にしたらどうだ?」
テーブルに並んだ菓子をひとつずつ味見しながらデュランが言う。
「次の材料費の足しにもなろう‥‥ほへに、ほほくのひほのふひにはひればひおひおなひへんはひへるほいうもも‥‥んぐぐっ!?」
食べながら何か言うものだから、何を言っているのかわからない。
喉に詰まった菓子をお茶で流し込んで言い直す。
「あー、それに、多くの人の口に入れば色々な意見が聞けるというもの‥‥だ」
「店に‥‥ですか?」
「そうだお父さん、聖ミカエル祭があるじゃない!」
祭なら素人でも店が出せる。ミントの提案に冒険者達が口々に同意した。
そんな中、満がようやく出来上がった水飴の鍋を台所から持って来る。
「どうにか出来上がったようだ‥‥間に合って良かった」
鍋の中には透明な粘り気のある液体が入っていた。スプーンで掬うとどこまでも伸びる。
「透明なハチミツみたいね。もっと粘り気がありそうだけど」
と、フィオナが感想を述べる。
「湯で延ばせば料理にも使える。勿論、このまま舐めても良いが」
「懐かしいでござる。こう、箸で絡めて‥‥」
ジャパン出身の又三郎が食べる真似をした。
冒険者達のお陰で、おぢさまの知識とレパートリーは随分広がったようだ。それを元に、更なる高みに登ろうとする彼の情熱は誰にも止められない‥‥。