【Evil Shadow】遅れて来た死者

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:8人

サポート参加人数:7人

冒険期間:10月04日〜10月09日

リプレイ公開日:2006年10月12日

●オープニング

 先日、オークニー古城でアンデッドを主体とするモンスター軍と、冒険者達を交えたイギリス王国軍との大規模な戦闘があった事は、周囲の村々にも知れ渡っていた。
 もちろん、それが王国軍の勝利に終わった事も。
 だから、城から逃げる敗残兵はあるにしても、今更城へ向かう者などいる筈もないと、誰もが思っていた。

 ‥‥しかし、それは歩いていた。
 遅ればせながら召集に応じるべく、オークニーの古城を目指して畑を横切り藪を突き抜け、脇目もふらず一直線に。
「‥‥今更、どうしようってんだろうなあ‥‥」
 畑仕事をしながらそれを見ていた生者が二人。彼等は互いに顔を見合わせる。
「アレだよな、いつでも間が悪いっての? 何にでも乗り遅れるようなヤツって、いるよな‥‥」
「‥‥ズゥンビにも、いるんだ‥‥そういうヤツ‥‥」
 自分を見つめる者がいる事にも気付かず、それはひたすら歩き続ける。
 半分腐って落ちたその顔には、焦りの表情を浮かべているようにも見えた。
 ズゥンビの割には足が早いような気もする。
「‥‥必死なんだろうなあ、仲間に追いつこうとして‥‥」
 とっくに戦闘は終わったのに。
 何だか哀れみさえ覚える。
「そう言えば、うちの村にもいたよな、そういう間抜けなヤツ」
「ああ、でも、憎めない、良いヤツだった‥‥」
「あいつ、見ず知らずの子供をかばって、モンスターにやられたんだよな‥‥」
「‥‥あいつも、あんなふうになっちまったのかなあ‥‥」
「‥‥許せねえな、あんな良いヤツまで、あんなバケモンにしちまうような連中は‥‥」

 かくして、キャメロットのギルドに『はぐれズゥンビ』退治の依頼が持ち込まれる事となった。
「その、黒幕ってヤツが誰だか、どこにいるのかもわかんねえけど、目の前にいるヤツくらいは何とかしてやりてえと思ってさ」
「あいつ見てると、昔のダチを思い出すんだ。どうか、安らかに眠らせてやってくれないか?」
 二人の青年は、小さな金袋をカウンターに置いた。
「村のみんなから集めたんだ。少ないけど、これで‥‥頼むよ」

●今回の参加者

 ea5521 蒼月 潮(23歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0606 キッシュ・カーラネーミ(32歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb1839 深海 未咲(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3530 カルル・ゲラー(23歳・♂・神聖騎士・パラ・フランク王国)
 eb5868 ヴェニー・ブリッド(33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb7109 李 黎鳳(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb7212 プリマ・プリム(18歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 eb7401 ルシア・ディアルス(19歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

フローラ・タナー(ea1060)/ ロミルフォウ・ルクアレイス(ea5227)/ フリッツ・シーカー(eb1116)/ フレイ・フォーゲル(eb3227)/ アレーナ・オレアリス(eb3532)/ シェリル・オレアリス(eb4803)/ 龍一 歩々夢風(eb5296

●リプレイ本文

「‥‥っと、目撃地点からオークニーの古城までの一直線上にいるって考えればいいんだよね?」
 プリマ・プリム(eb7212)がギルドで借りた地図を上から覗き込む。
「依頼人がズゥンビを発見した地点はこの辺りかしら」
 キッシュ・カーラネーミ(eb0606)が小さな村のあたりからオークニー城までを指でなぞる。
「今もまだ、このどこかを懸命に歩いてるってワケね」
「何か目印になる物があればいいんだけど‥‥丘や大きい岩みたいな」
 李黎鳳(eb7109)の問いに、深海未咲(eb1839)が答える。
「この地図には載っていないようですね。一番大きくて目立つ目印と言えば、やはりオークニー城ですが‥‥」
「そこから逆に辿るほうが効率は良いわね、敗残兵の問題さえなければ」
 と、キッシュ。
「大丈夫よ、もしそんなのがいても、空飛ぶ絨毯でスイスイですもの」
 ヴェニー・ブリッド(eb5868)が艶やかに微笑む。
「ただし、女の子限定だけど」
「じゃあ、ぼくは乗れないの? 乗ってみたかったな〜、空飛ぶ絨毯」
 カルル・ゲラー(eb3530)は残念そうしていたが、すぐに天使の笑顔に戻って言う。
「でもいいや、ぼくは戦闘馬の『しど』に乗って行くんだ。はぐれアンデッドさんが襲ってきたら、頑張って戦って追い払うね」
「では、私はブーツをお借り出来ますか?」
 蒼月潮(ea5521)がヴェニーに申し出た。
「そうすれば、僕も皆さんの後を楽に追えるでしょうから」
「じゃあ決まりだね!」
 プリマは地図をクルクルと丸めて両手で抱え込む。
 まずはオークニー城に向かう事となった一行は、友人のふしぎなおどりに見送られ、キャメロットを後にした。

 だが、ズゥンビ探しの道中は、それほどスイスイとは行かなかった。
 空飛ぶ絨毯が一度に飛べるのは一時間。獲物の場所が正確にわからない以上、見つかる前にMPが底をつく恐れがあるし、戦闘の為にもある程度は残しておく必要がある。
 結果、途中までは皆で歩く事となった。
 歩きながら女性陣はおしゃべりに花を咲かせる。
「ん〜、間の悪い子もいたものね」
 ヴェニーが言うと、黎鳳も溜め息混じりに呟く。
「私も結構間が悪いし、何か他人事じゃないかも。 兎も角、早く眠らせてあげた方が良いよね」
「今となっては、葬り去ることが供養‥‥てワケね。確かに気分は良くないけど‥‥」
 キッシュの言葉をヴェニーが引き取った。
「きっちり、終わらせてあげるべきでしょうね。やっぱり」
「あ、お城が見えてきたよ!」
 先行して飛んでいたプリマが前方を指差す。
「じゃあ、そろそろ乗っても良いかしら?」
 ヴェニーが絨毯を広げる。
「今のところ、敗残兵とかは見えないみたい。問題のズゥンビさんもいないね」
 プリマが周囲を警戒する中、女性陣が絨毯に乗り込む。
 ズゥンビや敗残兵を見付け次第、後ろから追う潮とカルルに合図を送る事を取り決め、絨毯は城に背を向けズゥンビが発見された場所に向かって飛んで行った。

 そして飛ぶ事数時間。既に辺りは夕焼けに染まっていたが、ズゥンビは影も形も見えない。
「この辺りで接触しても良い筈なのですが‥‥ズゥンビというのは予想以上に足が遅いのでしょうか?」
 未咲が首を捻る。
「それとも、反対に予想以上に足が早くて、とっくに城に着いちゃってた、とか‥‥まさか方向を間違えた?」
 と、黎鳳。
 プリマがサウンドワードで探ろうとしたが、岩だらけの荒野には物音ひとつしない。
 未咲もテレスコープを試してみるが、既に影に呑まれた場所も多く、動くものの姿は確認出来なかった。
「とにかく、暗くなってから動くのは危険です。この辺りで休みませんか?」
 潮の提案に一同は頷くが、テントの用意をしている者は誰もいなかった。
「寝袋も‥‥ペットと一緒に預けて来てしまったわね、そう言えば」
 キッシュは寝袋を探そうとして、はたと気が付く。
 行軍のスピードに付いて来れないペットはギルドに預けて来てしまったのだ‥‥装備品と一緒に。
「ここで待ってたらズゥンビさん来るかもしれないし、寝ないで待って‥‥」
 と、カルルが言い終わらないうちに、背後で微かに‥‥異様な物音がした。
 ――ズルッ‥‥ベチャッ、ズルッ‥‥ベチャッ‥‥
「前方50メートル、ズゥンビの足音!」
 プリマが声を殺して叫ぶ。
 既に辺りは暗さを増し、戦うには不利な状況だった。しかし、ここで見逃すわけにはいかない。
 ズゥンビは行く手を塞ぐ岩を乗り越え、転がり落ち、また立ち上がって歩き始める。
「‥‥本当に一直線に進んでるのね‥‥」
 キッシュが感心したように呟く。
「そうまでして、貴方を突き動かすのは何なのかしらね‥‥もう従わなければならない命令もないのに」
 黎鳳はズゥンビに向かって全力で駆け寄り、飛び蹴りを食らわせる。
 ズゥンビはバランスを崩してひっくり返るが、またすぐに起きあがり、黎鳳の事など目に入らないかのように歩き出す。黎鳳はひたすら足払いをかけてズゥンビを転がし続けるが、ズゥンビは何度転がされても起きあがってくる。
「これじゃ、埒があかない‥‥!」
「俺に任せろ!」
 そこへルシア・ディアルス(eb7401)が割って入り、ズゥンビの目の前にホーリーフィールドの結界を張った。
 ズゥンビは結界に阻まれ、先に進めない。
 たかだか直径3メートル程度の結界だが、避けて通る事は頭にないようだ。結界に弾き飛ばされ、ひっくり返ってはまた起きあがる。
「‥‥可哀想だけど‥‥ごめんねっ!」
 哀れなズゥンビに、カルルは剣を両手で握って思い切り振り下ろす。
「あなたを呼んだ者は、あそこには、もういません。あなたの魂に幸いあれ!」
「氷雪の鎮魂歌を、せめてもの餞に‥‥!」
 潮がオーラパワーを付与した拳を叩き込み、キッシュがアイスブリザードで吹雪を起こす。
 既に相当なダメージが蓄積されている筈だが、ズゥンビは倒れない。よろめきながら、まだ前へ進もうとしていた。
「う〜ん、曇りじゃないとピカピカを落とせないのよねえ」
「曇り空が良いのですか?」
 星空を仰いだヴェニーの嘆きを耳にした未咲がウェザーコントロールで雨雲を呼び、ヴェニーがそれを使ってヘブンリィライトニングを落とす。
 ‥‥ズゥンビは、動かなくなった。

 プリマが竪琴で鎮魂歌を奏でる中、岩だらけの荒野に苦労して掘った穴に、哀れなズゥンビが横たえられた。
 そこに、ヴェニーが清らかな聖水をふりかける。
 これでもう、誰に呼ばれても起き上がる事なく、安らかに眠れるだろう。
「この人は死んだ後も頑張ってたんだもの。ゆっくり休む権利はあるよね‥‥」
「もう、貴方は自由なんだから‥‥おやすみ」


『かるるくんのにっき』
「今日は、眠りから無理やり起こされて、戦わされた哀しいズゥンビさんを昇天させてあげました。今度こそ、聖母さまの御許にちゃんと旅立てますように」