しふしふ大ぴんち!
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月14日〜10月19日
リプレイ公開日:2006年10月22日
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●オープニング
秋空の下をスイスイと飛び回るトンボに混じって、シフールの子供達が野原で遊びに興じていた。
そこに近付く人相のよろしくない男が二人。
ひとりは手に大きな網を持っていた。
「お前は向こうに回れ、気付かれるんじゃねえぞ」
網を手にした大男が、もう一人の小男に命じる。
「俺が合図したら、あのガキ共を脅かしてこっちへ追い込むんだ、良いな?」
小男は黙って頷くと、草むらの中を音も立てず、滑るように走って行った。
暫く後。
藪の中でキラリと何かが光る。
それを目ざとく見つけたひとりのシフールが、何だろうと近寄ろうとした時‥‥。
――ウガォワギャアァッ!!!――
人間のものとは思えない奇声を発して、小男が草むらから飛び出し、めちゃくちゃに腕を振り回した。
「キャアァッ!」
シフールの子供達は驚いて一斉に反対方向へ逃げ出す。
だが、そこには大男の残忍な微笑みと共に、大きな網が待ち構えていた。
「へっへっへ、大猟大猟♪」
網の口をしっかりと掴み、大男は中身をよく見ようと目の高さまで持ち上げた。
網の中にはパニックを起こし、泣きじゃくる小さなシフールが7人。
だが大男は、それを見てガッカリしたように鼻をならした。
「ちっ、こんなにいやがるのに、たったの二匹かよ」
大男はそう言うと、網の中から5人の子供を掴み出し、ゴミでも棄てるかのようにポイと草むらに投げた。
網の中に残ったのは、蝶の羽根を持った子供が二人。
「しょうがないっスよ、ちょうちょ羽根は珍しいっスからね」
小男がかん高い声でなだめるように言い、少し心配そうな顔つきになる。
「でも、バレないっスかね? 今んとこ妖精そっくりに見えるっスけど‥‥」
「まあ、本物を知ってるヤツにはバレるだろうな。だが、そいつは俺達が考える事じゃねえ、上の連中に任せておけば良いのさ」
大男は二人のシフールを頑丈な鳥篭に移すと、足元の草むらで震えている子供達には目もくれずに歩き出した。
「シフールの子供、しかも蝶の羽根を持った子供だけを狙って‥‥?」
ギルドのカウンターでは、浚われた子供の両親だろう、シフールの男女が沈痛な面持ちで受付係の青年と相対していた。
「はい、シフールの子供を妖精と偽り売りつける、悪辣なペット業者に雇われた連中らしく、その拠点も突き止めたのですが‥‥」
父親も自分で出来るだけの事はしたようだ。
だが、相手も後ろ暗い事をしている自覚はあるようで、アジトには用心棒が置かれ、子供達が閉じ込められているらしい一角は特に厳重な警備が敷かれていた。
「中から漏れ聞こえてきた会話によると、まだ売りに出すつもりはないようです。もう少し集めてからだと言っていましたので‥‥」
つまり、放っておけばますます被害は広がる、という事だ。
「お願いです、子供達を助けて下さい‥‥!」
●リプレイ本文
月が明るい夜だった。
「こういう無力な子供を狙ったやり方は、俺は嫌いだ」
ラーイ・カナン(eb7636)は、建物の裏手に立つ恐そうな顔をした用心棒に気付かれないように、物陰にそっと回り込む。
「業者達は引き渡すとしても‥‥息があればいいわけよね?」
クァイ・エーフォメンス(eb7692)は可愛い顔に不敵な微笑みを浮かべつつ、ラーイとは反対の物陰に身を潜めた。
用心棒は裏口のドアに寄りかかり、大アクビをしている。
二人は目で合図を交わし、両側から一斉に飛び出した。
「な、何だテメエら!?」
驚いた用心棒が身構える暇もなく、左右から剣が振り下ろされる。
余りにもあっけなく、戦いは終了した。
「‥‥こんなんで用心棒が務まるのかしら?」
務まってません、これっぽっちも。
その様子を上空から見ていたフィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)が、テレパシーで表の仲間に報告した。
「こちら『鷹の目』、裏口の制圧を確認!」
フィオナは素早く降下すると、用心棒をロープで縛り上げている二人に問いかける。
「それで、突入するのはどっちかしら?」
「‥‥‥‥‥‥」
返事がない。
二人とも自分が残って入口を塞ぐつもりだったようだ。
「‥‥中の奴は手強いかもしれん。腕の立つほうが入ったほうが良かろう」
「そうなると、私‥‥かしら」
「じゃあ、準備が整ったらクァイちゃんに連絡するわね」
言い残すと、フィオナは再び上空に舞い上がり、表玄関へ向かって飛んで行った。
「突入前に気付かれたら拙い。なるべく音を立てないように行くよ」
イレクトラ・マグニフィセント(eb5549)が、傍らのブラッド・クリス(eb7464)に声をかける。
ブラッドは黙って頷くと、手にしたハンマーの柄を握り直し、戸口の前に佇む用心棒の後ろに静かに回り込む。
用心棒が大きな伸びをして両手を上げたその瞬間――
イレクトラが抜き身の剣を月光に閃かせて目の前に飛び出す。
「んな‥‥っ!?」
――ごいんっ!!
何も言わないうちに、ブラッドのハンマーで後頭部を痛打され‥‥用心棒はどさりと地面に崩れ落ちた。
「こちらも制圧完了かしら?」
フィオナがタイミングよく上空から舞い降りて来る。
「見ての通りさね。それで、中の様子は何かわかったかい?」
イレクトラの問いに、フィオナは首を振った。
「流石に窓も全部閉まってるし、中の様子まではね。でも、明かりの漏れてる窓はひとつだけ、多分そこに集まってると思うわ」
窓はどこもかなり高い位置に付いている。そこから逃げるには少々手間取りそうだ。
「では、そろそろ行くか?」
と、ブラッド。
「そうさね。フィオナ殿、合図を頼むよ」
「了解! こちら『鷹の目』、突入準備、良いか?」
フィオナが裏口のクァイにテレパシーを送る。準備OKの返事が返ってきた。
「3、2、1、アルファ、ゴー! シフールに代わってお仕置きよ! なんてね♪ 」
‥‥フィオナ殿はシフールじゃないのかい‥‥と、心の中でツッコミを入れながら、イレクトラがドアを蹴破って突入する。
裏口も体当たりで突破したようだ。
突然の物音に、中の者がざわついている。
「な、何だテメエら!?」
このテのお方は、他にセリフを知らないらしい。
イレクトラの投げたナイフが頬を掠め、後ろのドアに突き刺さる。
「子供達は、そこかい?」
問いかけるイレクトラに、用心棒は剣を抜いて飛びかかって来た。
外の二人よりも多少は出来そうだ。
しかし、破邪の剣を手にした彼女の敵ではない。
「これは魔物と戦う為の剣らしいがね、この相手なら慈愛神セーラ様も正当性を認めてくださるな」
イレクトラが用心棒を相手にしている隙に、一味の者が一斉に逃げ出した。
「通さないわよ?」
その前に、クァイが立ち塞がる。
だが、一人では全員を防ぎきれない。
「裏口に一人、表に二人逃げるわ!」
フィオナが入口を固める二人にテレパシーを送る。
「悪党は許さん!」
怒声と共に容赦ない攻撃が襲う。
ブラッドはスマッシュEXで、逃げてきた二人を纏めて片付けた。
「逃げられると思うか!」
ラーイは髪を振り乱して走って来た人物にスマッシュをぶちかまし、手早くロープをかけ‥‥ようとしたが、慌てて手を止めた。
目の前でノビているのは、人相もよろしくない、歳もかなりのものではあったが‥‥とりあえず、女性だった。
「誰か‥‥代わりにこいつを縛ってくれ」
ラーイは異性と触れ合うと狂化を起こし、やたらサディスティックになるらしい。
「この場合、それくらいが丁度良いと思うけど?」
言いながらも、クァイが作業を引き受けた。
「恐かっただろう? ほら、これでも食べて待ってると良い‥‥好物なんだろ?」
イレクトラは無事救出された子供達に焼き菓子を差し出した。
自前で何か調達するつもりだったが、それを聞いた子供達の母親が彼女に託したのだ。
「あー、おかーさんのニオイだー!」
「だー!」
「お父さんとお母さん、もうすぐお迎えに来るから、もう少し待ってましょうね?」
そう語りかけるフィオナに、子供達は元気に頷いた。
「事前の情報では、賊は5人だったよな?」
ズラリと並べられた悪党どもを前に、ブラッドが疑問を呈する。
用心棒が3人、業者が‥‥4人。
「おい、もう一人はどうした?」
窓は閉まっている。出入り口からも一人も逃がしてはいない。
「どこかに隠れてるのか?」
‥‥誰も答えない。
――がすっ!
用心棒を思いきりブン殴り、その隣の男の胸ぐらを掴み上げた。
「次はお前だ。こうなりたいか?」
ぶんぶんぶんっ。
「じゃあ、素直に吐きな?」
悪党に人権は認めない主義らしい。
「‥‥へっ、今頃まんまと逃げおおせてるだろうさ。アイツはチビで身軽だからな」
と、部屋の隅の暖炉をアゴで指した。
「そう言えば、小男がいた筈だな‥‥ここから?」
よく見ると、暖炉の周りが真っ黒いススで汚れている。
その時、外でカサリと音がした。
「私が追うわ!」
クァイが飛び出して行った。
だが、外はいつの間にか月が雲間に隠れ、真っ暗だった。
更に、相手はススにまみれて真っ黒になっている筈だ。
見つかるわけがない‥‥そう思いつつ、クァイは暗闇に目をこらし、耳をすます。
「そう言えば、小男のほうは音もなく草むらを移動出来たって言ってたわよね‥‥」
暫くして雲が晴れたが、やはり何も見えなかった。
「‥‥ごめん、逃がしたみたい」
諦めて家の中に戻ったクァイが見たものは‥‥ロープをムチ代わりに悪党どもをシバく、ラーイの姿だった。
「ど‥‥どうしたの!?」
「いや‥‥お嬢さん方がはしゃぎ回っててね。首ったまに抱きつかれたらしいのさ」
イレクトラが肩をすくめた。
捉えられていたシフールの子供達は姉妹だった。確かに異性には違いない‥‥。
「ラーイ殿の気が済んだら、役人に引き渡すとするかね」
「下っ端の一人くらい、逃がしても仕方ないわ。子供達が無事だったんですものね」
フィオナがお菓子のお裾分けをクァイに手渡した。
「ん、おししい!」
何はともあれ、めでたしめでたし‥‥?