【Evil Shadow】未だ残る傷跡
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:9〜15lv
難易度:普通
成功報酬:6 G 48 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月24日〜10月31日
リプレイ公開日:2006年11月01日
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●オープニング
部屋の一角に置かれた、古びた毛布。
ついこの間まで、そこには大きな黒猫がいた。
いや、それは黒猫などではなかったのだが‥‥。
目の前で奇怪な姿に変わるのを見た。死体が消えてなくなるところも。
多分、いや、絶対に、あの騎士や大人達の言う事が正しい。あれは猫なんかじゃなかった。
でも、それでも信じられない。信じたくない。
「‥‥グリード‥‥」
少年の足は、墓場へと向かっていた。
墓標だけの、黒猫の墓のもとへ‥‥。
その朝早くギルドを尋ねて来たのは、一見どこにでもいそうな、ごく普通の青年だった。
「おはようございます」
聞き覚えのあるその声に、受付係は眠そうな顔を上げ‥‥一瞬で眠気が吹き飛んだ。
「‥‥ボールス卿‥‥!」
良かった、ちゃんと顔を覚えていた。偉いぞ自分。
心の中でそう呟きながら相手をよく見ると、ボールスは腕に真っ白い子猫を抱えていた。
「今日はこの子の事でお願いに来たのですが‥‥」
そう言って、子猫をカウンターに乗せた。
毛の長い、ふわふわの子だった。遠目には真っ白に見えたが、よく見ると顔の真ん中と尻尾に薄茶糸の毛が混じっている。
「この子を、この間の少年‥‥ランド君に届けてほしいのです」
数週間前、可愛がっていた猫を亡くした少年がいた。
「‥‥そろそろ、新しい友達を見付けてあげても良いのではないかと思いまして‥‥深い悲しみも、新しい出会いが癒してくれるものです。少なくとも、私の場合はそうでした」
子猫はカウンターの上に置かれたまま、大人しくしている。知らない場所に連れて来られた恐怖も感じていないようだ。初対面の受付係に撫でられても嬉しそうに喉を鳴らしている。
「随分、人懐こい猫ですねえ」
「ええ、この子ならきっと、どこへ行っても上手くやっていけるでしょう。ただ、あの少年が、すぐにこの子を受け入れてくれるとは思いませんが‥‥それでも、何か出来る事があればと‥‥」
「わかりました、責任を持ってお届けしますよ」
「ありがとうございます。ただ‥‥私からだという事は、内密に」
「え? 良いのですか?」
「仇からの施しなど、受けたいとは思わないでしょう? どこかで拾ったとでも言って下さい。では、私はこれから当分留守にしますので‥‥よろしくお願いします」
置き去りにされそうな予感がしたのか、子猫が大きな目でじっとボールスを見上げ、み〜、と鳴く。
「‥‥元気で、可愛がってもらうのですよ」
そう言って名残惜しそうに子猫の頭を撫でると、ボールスはギルドを後にした。
子猫は黙ってその後ろ姿を見送っていた。
「‥‥さて、じゃあキミはこの籠に入っててくれるかな?」
暫く後、カウンターの上で飾り物のようにじっとしていた子猫を籠に入れ、依頼書を掲示板に張り出そうとしたその時。
ドアが勢い良く開いて、一人の男が転がり込んで来た。
「ど‥‥どうしました!?」
額から血を流したその男は、受付係にしがみつき、叫んだ。
「む、息子を‥‥助けて下さい!」
受付係は額の傷を洗い流し、応急手当をした上で、男が落ち着くのを待って話を聞いた。
「息子が‥‥急に暴れ出して‥‥私や、村の者、手当たり次第に襲いかかり、森の奥へ消えてしまいました。後を追おうとしたのですが、森には凶暴なモンスターも多く‥‥とても、私ひとりでは‥‥」
「急に‥‥と言うのは、何か心当たりは?」
「‥‥村の者の話では、墓場にいた息子の周りに、何か青白いものがいくつもまとわりついていたと‥‥そのひとつが急に消えたと思ったら‥‥息子の顔つきが変わっていたそうです」
「‥‥息子さんは、何故墓場なんかに?」
「それは‥‥」
男は少し言い淀む。話して良いものかどうか‥‥。
「そこに、猫の墓があるのです。何もない、からっぽの墓ですが‥‥」
猫の墓? 何もない、からっぽの‥‥?
つい今し方、ボールスと話していた少年の姿がかぶる。
「その子の名前は‥‥?」
受付係の問いに、男は答えた。
「ランド‥‥と言います」
●リプレイ本文
「サイ、この匂いを辿れる?」
ヴァレリア・ロスフィールド(eb2435)が、少年の父親に借りた持ち物の匂いを愛犬に嗅がせた。
「ワン!」
サイはひと声吠えると、まだ朝靄に包まれた森に続く小道を駆けて行く。
5人の冒険者達がそれに続いた。
「この分やと、案外簡単に見つかりそうやな、ランドはん」
と、シーン・オーサカ(ea3777)。
しかし、少年の足取りはやがて小道を離れ、藪の中へ入って行く。
暫く行くと、行く手に小川が流れていた。
「クゥ〜ン」
サイが悲しげな声を上げてヴァレリアを見上げる。
「水が‥‥匂いを洗い流してしまったようですね」
「向こうに上がった跡があるな」
クロック・ランベリー(eb3776)が対岸を指差す。
「仕方がありませんね、ここからは地道に探しましょう」
ミィナ・コヅツミ(ea9128)の言葉に、シーンが手近の木にグリーンワードをかけてみる。
「うん、ここを通った事は間違いあらへんな」
一行は森の中をうろつくモンスターや猛獣に出くわさないように用心しながら捜索を続けた。
帰りに迷わないように目印を付けながら慎重に進む。
途中で何度かゴブリンやオークを見かけたが、手強そうな相手と見て取ったのか、すごすごと逃げて行った。
「‥‥ここを人間の少年が通らなかったですか?」
セレナ・ザーン(ea9951)が、その日何度目かのオーラテレパスで冬眠前の餌集めに忙しいリス達に語りかけた頃には、既に森の中には夕闇が迫っていた。
「今日はそろそろ、打ち切った方が良さそうだな」
クロックの言葉に一同も同意する。
ヴァレリアが荷物からランタンを取り出して灯を付けた。
簡単な食事を済ませ、クロックが最初の見張りに立つ。
しかし、秋の夜は長い。まだ寝るには早すぎた。
「ランド様は猫さんと悲しい別れをしたのですね‥‥」
セレナが呟く。
「その寂しさを亡霊に付けこまれたのなら、悲しいことですわ。 必ずお助けせねばなりませんわね」
「神に仕える者として、亡者の存在を許す訳にはいきませんしね。わたくしで力になれるのなら、全力を尽くします」
ヴァレリアがランタンの灯りを見つめながら言った。
「早う助けて、ネコちゃんを渡してあげないかんな」
シーンが努めて明るく言う。ボールスから託された子猫や、他のペット達は村で預かって貰っていた。
「あの子の名前はみんなで一緒に考えたげるとか、どないかな☆」
「名前‥‥そうですね‥‥マリンちゃんでいかがでしょう?」
と、ミィナ。
「あ、それエエなあ、ぴったしや!」
明るく笑うシーンだったが、ふと真顔に戻って呟いた。
「‥‥お腹、空かせとるやろな‥‥」
一刻も早く助けてやりたい。
だが、土地勘のない夜の森を動き回るのは危険が多すぎる。
少年の身を案じながら何も出来ずに過ごす夜は、とても長く感じられた。
翌朝、一行は再び歩き始めた。
傍らの木や動物達に少年の消息を訊ねながら歩く事暫し‥‥突然、前を行くヴァレリアの愛犬サイが前方に向かって吠え始めた。
「ワンッ! ワンワンッ! グルルル‥‥!」
前方に、何かがいる。
その気配を察して、ミィナの髪がザワザワと逆立ち、瞳が赤く染まる。
「見付けたか‥‥!」
クロックが手にした杖を構え、藪をかきわける。
そこに、膝を抱えて蹲った少年がいた。
両脇に青白い炎を従えている。
少年がゆっくりと立ち上がった。生気のない瞳が冒険者達に向けられる。
「ナンダ、オマエタチ‥‥」
子供の声とは思えない。
「ランド様、あなたを助けに参りました」
セレナの言葉に、少年は鼻で笑った。
「タスケナド‥‥イラヌ‥‥オト‥‥大人、なんか‥‥みんなウソツキだ‥‥みんな‥‥大ッキライだ!」
冒険者達をなぎ払おうと、少年の腕が振り上げられる。
「ランド君を傷つけずにレイスだけダメージを与えます。どうか援護を!」
ヴァレリアがコアギュレイトを唱えると、少年の動きが止まった。
「可哀想ですが、暫くそこで待っていて下さい。先にこちらの2体を片付けます!」
言いざま、自らにオーラエリベイションを付与したセレナが1体のレイスに斬りかかる。
もう1体にはクロックが殴りかかり、ライトニングアーマーを纏ったシーンが清らかな聖水をぶちまける。
「高速詠唱初級ウォータボム2連射や!」
ウォータボムは空気中の水分を集めて撃つ魔法だ。清水を撒いたらその水分を集める事になって、レイスに対して威力アップ‥‥と、思ったのだが。
「あんまり、効いてへんみたいやな‥‥」
だが、仲間の攻撃は確実に効いていた。
レイスの攻撃に対しては、ミィナがホーリーフィールドを張って防ぐ。
「この世ならざる不浄のモノよ。在るべき所に疾くお帰りなさい!」
ヴァレリアがピュアリファイで止めを刺し、レイス達は完全にその存在を失った。
丁度その時、少年にかかっていたコアギュレイトの効果が切れ、両腕を振り回した少年が何事かを叫びながら飛びかかってきた。
ヴァレリアは再度拘束を試みるが、魔法を使ったばかりで詠唱が間に合わない。
咄嗟に、ミィナが清らかな聖水を投げつけた。
「ギャアアァァッ!」
耳障りな悲鳴が空を裂く。それは少年の喉から発せられたものではあったが、少年の叫びではなかった。
だが、少年に取り憑いたモノは、焼け付く痛みに悶えながらも憑依を解こうとはしない。少年の弱った心は、さぞかし居心地が良いのだろう。
「こいつを引き剥がさない事には、攻撃も出来ないな」
クロックは杖を構え、防御の姿勢をとっている。
「ランドはん! 自分でそいつを引き剥がすんや!」
シーンの呼びかけに、少年が僅かに反応したように見えた。
「悲しい記憶は辛い‥‥けど生きてたらそんな事は必ず体験すんのや! 負けたらアカン!」
シーンは必死に呼びかけ続ける。
少年の目に、僅かに生気が戻った。
「‥‥でも‥‥グリードはもう、いないんだ‥‥父さんも、あいつらも、僕を騙して‥‥!」
「だとしても、過ちは償う事が出来ます!」
と、セレナ。
「だけど、グリードは帰って来ない!」
「それでも‥‥あなたには未来があります! 新しい出会いも、傷を癒す時間も!」
「過去の妄執しかない邪霊とアンタはちゃうんやで!」
――わかってる。誰のせいでもない。でも、誰かのせいにしたら、心が軽くなった。傷が癒えるまでの間だけでいい、誰かに悪者になっていて欲しかった‥‥。
その思いを、取り憑いたレイスが増幅させ、心の中は憎悪で満たされた。
「う‥‥わあぁぁぁッ!!!」
振り上げられた少年の腕は空を切り、地面にたたき付けられる。
その瞬間、少年の体から青白い炎が吹き出した。
「――出たぞ!」
クロックが攻撃に転じ、ミィナは少年の体をレイスから遠ざけるとホーリーフィールドで包み込んだ。
セレナはその前に立ち、再び誰かに取り憑こうと動くレイスに魔剣を振るう。
最後の一撃は、ヴァレリアの唱えるピュアリファイだった。
断末魔の悲鳴を残して、それは完全に消え去った‥‥。
「ランド様、ご無事でいらっしゃいますか!?」
セレナがミィナの腕に抱かれた少年に駆け寄る。
少年は気を失っていた。
「‥‥無理もありませんね‥‥恐らく何日も、食事さえ摂らなかったのでしょうから」
ヴァレリアの言葉に、シーンが心配そうに少年の顔を覗き込んだ。
「大丈夫やろか‥‥アイスコフィンかけて、教会に運んだほうがええんちゃうか?」
「そこまでは‥‥しなくても良いでしょう。ゆっくり休ませてあげれば大丈夫ですよ」
狂化の解けたミィナがリカバーをかける。
腕や足に出来た小さな傷が、たちまち癒えてゆく。
「心の傷も、魔法で癒せれば良いのですが‥‥お辛かったでしょうね、ランド様‥‥」
セレナは目に涙を溜めている。
そんな彼女の方をポンと叩いて、シーンが陽気に笑った。
「大丈夫や、今度は新しい友達もおるしな」
「そうだな‥‥さあ、陽が暮れる前に戻ろう」
クロックが、眠っている少年の体を軽々と抱き上げた。
少年はベッドに起き上がり、部屋の隅に置かれた古びた毛布を見つめていた。
この間まで、大きな黒猫の指定席だった場所。
そこに今、小さな白猫が丸まっている。
お前は、グリードの代わりにはなれない。誰も代わりになんかなれない。
可愛がってなんか、やるもんか‥‥。
そう思って、寝ている子猫を睨み付ける。
見られている気配を感じたのか、子猫は目を覚ますと、ぐーんと伸びをして少年を見た。
少年はプイと目を逸らす。
だが、子猫はお構いなしに尻尾を立ててトコトコ近寄って来た。
ベッドの上に身軽に飛び上がり、ゴロゴロと喉を鳴らしながら少年の膝の上で体を丸め、昼寝の続きを始めた。
「‥‥何だよ、図々しい奴だな‥‥」
そう言いながらも、少年は子猫を払い除けようとはしなかった。
膝がほんわりと暖かい。
グリードを膝に乗せた事は一度もなかった。喉を鳴らして甘えてくる事も。
「‥‥マリン‥‥か」
そっと触れた子猫の毛は、柔らかく滑らかで‥‥とても、暖かかった。