水玉リンゴを死守せよ
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:7人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月29日〜11月03日
リプレイ公開日:2006年11月06日
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●オープニング
「だめー! おばーちゃんのリンゴ、たべちゃだめー!」
幼い少女がホウキを振り回し、庭に植えられたリンゴの木の周りを走っている。
「とりさんにはあげないの! これはおばーちゃんにあげるの!」
戦いは今のところ少女にやや分があるようだ。もっとも、ホウキの届かない上の方の実は、既にだいぶ鳥につつかれてはいたが‥‥少女が守りたいのは、下のほうにある丸い紙が貼られた奇妙なリンゴだった。
リンゴは太陽の光に当てないと赤くならない。陽の当たらない部分は青いままになってしまうのだ。
少女は、それを利用してリンゴに絵を描く方法を、父親に教えて貰った。
リンゴの実がある程度大きくなるまで袋を被せて大事に育て、袋から出したら青いリンゴに紙を貼って日光に当てる。
もうそろそろ、期待通りに水玉模様のリンゴが収穫出来る筈だった。
ところが――。
「おばーちゃんのリンゴ、たべられちゃったー!」
父親に連れられてギルドを尋ねた少女は、カウンターの前で泣きじゃくっていた。
「どうも、ゴブリンの仕業らしいのです」
父親が代わりに状況を説明する。
「うちはちょっと郊外にあるもので、時々モンスターが庭に入り込んだりする事もあるんです。大抵は家の中でじっとしていれば、それほど悪さをする事もなく、すぐに出て行ってくれるのですが‥‥」
昨夜は5〜6匹がリンゴの木の周囲に集まり――
「たべてたのー!」
少女がお婆ちゃんの誕生日にプレゼントする為に大切に育てた、かわいい水玉模様(に、なる筈の)リンゴ。
ゴブリン達に食い散らかされてしまった。
「水玉リンゴは5個ほど作ったのですが、幸いそのうちのひとつは無事だったのです。でも、それはまだ収穫には早くて‥‥」
ゴブリン達もそれがわかっていたのだろう、やられたのは食べ頃のリンゴばかりだった。
「もう2〜3日は陽に当てないと模様もはっきり出て来ないのです。あの木にはまだ沢山の実が成っていますから、それが熟した頃にまた来るかもしれません」
残った最後の水玉リンゴを、何としてもゴブリンから守ってほしい。
それが親子の願いだった。
●リプレイ本文
庭の中心に植えられた大きなリンゴの木。
その幹に、神無月明夜(ea2577)は愛犬の東雲をロープで繋いだ。
「いーい? 怪しい奴が来たらすぐに吼えて知らせるのよ。でも人間に噛み付いちゃダメよ?」
「うぉん!」
東雲は、任せておけ、とばかりに一声吠えると得意気に尻尾を振った。
「これが水玉模様のリンゴかぁ。どんな感じに出来るのか、楽しみだねっ」
神楽香(ea8104)の言葉に、少女は小さな手でリンゴを少しだけ回転させて言った。
「こーやってね、ちょっとずつまわして、みんなまっかにするの」
裏も表も、まんべんなく陽が当たるように気を配っているようだ。
「ふむ、祖母のためか。感心な子だな」
アレス・ジル・バイゼス(eb8439)はそう言って、岩のような手で少女の頭を撫でた。
少女はゴツゴツした感触に思わず首を引っ込め、その手をまじまじと見つめる。
「おじちゃん、おてて、いたくない?」
おじちゃん‥‥と呼ばれるにはまだ早いのだが、立派な顎髭のせいか、少女には自分の父親よりも年上に見えるらしい。
「ああ、痛くはないよ。お嬢ちゃんは、どうかな?」
微笑んで、少女の髪をくしゃくしゃにする。
「い、いたくない‥‥けど、へんなかんじぃ〜!」
少女はコロコロと笑った。
時奈瑠兎(eb1617)が、笑いが止まらない少女の頭上、遙か上から声をかけた。
「水玉リンゴは私達がちゃんと守るから安心して。美味しく熟れた水玉リンゴをおばあさんへのプレゼントするんだものね」
「うん!」
「さて、どうしましょうか‥‥」
少女が家の中に入ったのを見届けて、シンクレア・クロフォード(eb8529)が切り出す。
「あんないい子を泣かすなんて許せません。ゴブリン達にはお仕置きが必要ですわ」
瑠兎が大きな拳で自らの手をバシンと叩く。
水玉リンゴの色付き具合はまだ充分ではなかったが、他のリンゴは美味しそうな色で見る者を誘っている。
今夜もゴブリン達が襲ってくる事は充分に考えられた。
「あたしは木の回りに落とし穴を掘っておくから、みんな落ちないように気を付けてね」
と、香。だが、彼女自身を含めて誰もスコップを持っていない。
「依頼人さんに借りられるかな‥‥?」
「わたくしはまず、ゴブリンの棲家を探そうと思うの。依頼人さんや近所の人、猟師さんとかに聞けば何か分かるかもしれないわ」
明夜の提案に、アレスが顎髭を捻る。
「それも良いが‥‥今日のところは山狩りは無理だろう。この季節、陽が暮れるのは早い」
「ふむ、拙者は山狩り班に加わろうと考えておったが‥‥夜の森ではゴブリンのほうが有利であろうな」
セルゲイ・シュトロレイム(eb8543)は、落ちていた囓りかけのリンゴを手に取った。
「ゴブリンがリンゴが好きならリンゴでおびき寄せてはいかがだろうか。それで全滅させられればそれで良し、逃げられても‥‥」
「そっか、後をつければ巣穴まで案内してくれそうだね」
香がポンと手を打った。
「周辺の地理を見る限り、ゴブリンの巣はそう遠くないように思われます。皆さん、頑張って下さいね」
近衛深雪はそう言うと、ひとり来た道を引き返して行った。
陽が暮れて、辺りがすっかり静まり返った頃。
普段ゴブリン達が現れるという方角に向けて、誘導するようにリンゴが幾つか並べられている。
その先には美味しそうなリンゴの山‥‥だが、その前にシンクレアにオーラパワーを付与された剣を構えて立ちはだかる人物がいた。
「ゴブリンよ、リンゴを食いたくば、拙者を倒してみせよ!」
セルゲイが大声で呼ばわる。
その挑発に乗せられたのか、それともリンゴの甘い香りに誘われたのか‥‥どこからともなく、数匹のゴブリンが姿を現した。
明夜と香が水玉リンゴを背中に守るようにして立つ。明夜は両手に日本刀を構え、香は片手に氷の円盤をいつでも投げられるように持ち、もう一方の手にはランタンを掲げている。
その光に浮かび上がった1匹は、仲間への土産にするつもりなのか、大きなずだ袋を背負っていた。
その姿を見て、物陰から様子を窺っていた瑠兎の中で何かが弾けて切れた。
彼女は暗闇の中からぬうっと姿を現し、気付かずに通り過ぎようとした袋ゴブリンをむんずと引っ掴んだ。
「女の子を泣かすなんて悪さが過ぎたわね‥‥覚悟はいいかしら?」
ランタンの仄かな明かりに照らされたその額には、くっきりと青筋が浮かび上がっている。
――びったあぁぁん! びしべしばしっ!
「ゴブーーーッ!!!?」
強烈な往復ビンタが炸裂した。
その衝撃に目を回した哀れなゴブリンは、自分が背負っていた袋に無造作に突っ込まれる。
シンクレアが袋の口を糸できっちりと縛り、その様子を呆然と見ていた仲間の足元にどさりと投げ捨てた。
余程恐ろしかったのだろう、ゴブリン達は慌てて袋を拾い上げると、一目散に逃げて行った。
「あ、逃げるよ! 追いかけなきゃ!」
香が叫ぶ。
だが、周囲は暗い。無理に追っても見失う可能性が高いし、夜の森にいるのはゴブリンだけとも限らない。
「大丈夫です、ちゃんと目印を付けておきましたから」
シンクレアが大きな糸巻きを手に微笑んでいた。
「あの袋の口を縛るのに、この糸を使ったのです」
依頼人の入れ知恵だった。
糸巻きはクルクルと糸を吐き出し続けている。ゴブリン達は何も気付かずに、巣への道を急いでいるようだ。
糸に気付いたとしても、それが何を意味するかまではわからないだろう。
「そっか、じゃあ、明るくなってから、その糸を辿れば良いんだね!」
翌日、念のためリンゴの木の見張りに香とシンクレアの二人を残し、冒険者達はゴブリンが残した糸を辿って行った。
森の中を暫く行くと、低い崖のようになった所に小さな洞窟が口を開けている。糸はその中に消えていた。
「どうやら、ここが奴等の巣のようだな」
アレスが中の様子を窺う。
と、数匹のゴブリンが穴から飛び出して来た。衛兵‥‥の、つもりなのだろうか、手には不格好な棍棒を握り締めている。
「さあ、かかってこい!」
「ゴブーッ!」
セルゲイの挑発を合図に、ゴブリン達は一斉に飛びかかって来た。
だが、彼等の前に立ちはだかる瑠兎とセルゲイは強かった。ゴブリン達は片っ端から撃退され、たちまち戦意を失い巣の中に逃げ帰ろうとする。
「‥‥深追いは禁物であろうな。後々の為に全滅させておきたい所ではあるが‥‥」
セルゲイの言葉に瑠兎も薙刀を収める。
「中に何匹いるか、わかりませんからね」
「では、とりあえず出入り口を塞いでおくとするか」
アレスがディストロイを唱えると、洞窟の入口が音を立てて崩れた。
念には念を入れ、瑠兎がバーストアタックで更に岩を崩し、隙間なくガレキで埋める。
「出口はここだけとは限らないわよね‥‥ちょっと迷わせてあげようかな」
言いつつ、自分たちが中に入らないように気を付けながら、明夜がフォレストラビリンスをかける。
効果は1時間ほどだが、ゴブリン達の気を削ぐには充分だろう。
そして‥‥洞窟を塞がれて身動き出来なくなったのか、はたまたリンゴの木を守る冒険者達に恐れをなしたのか‥‥それ以来、ゴブリン達はぱったりと姿を見せなくなった。
天気にも恵まれ、水玉リンゴは順調に赤味を増していき、いよいよ収穫の日。
少女が小さな手で丁寧に木からもぎ取り、ちょっといびつな丸い羊皮紙に付いたノリを水で洗い流す。
現れたのは、真っ赤な地に薄緑色の斑点‥‥いや、水玉の、毒々しい‥‥いや、可愛らしい、リンゴ。
「できたあ!」
少女は大喜びで、冒険者達に見せて回った。
「ねえねえ、おばーちゃん、よろこぶかな?」
「うん、きっと喜ぶよ」
と、香。
「今度ボクも、こういったリンゴを作ってみたいなぁ」
「らいねん、みんなでいっしょにつくろーよ!」
「そうね、じゃ、来年は縞々林檎ね」
明夜が微笑む。
「お婆ちゃんの名前入りとかもおもしろいんじゃない?」
少女はきれいに洗ったリンゴを箱に入れ、プレゼント用にラッピングを始めた。
そこに、瑠兎が森で見付けた花を添える。
「わあ、きれいにできたね!」
少女は大喜びだ。
「おねーちゃん、おにーちゃん、それに、おじちゃん! どうもありがとう! おれいに、リンゴいっぱいたべてってね!」
だが、彼等にとっては少女の満面の笑顔こそが、最高の報酬だった。