あのひとに逢いたい
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月13日〜11月18日
リプレイ公開日:2006年11月20日
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●オープニング
ハロウィンの夜、少年はランタンを高く掲げ、玄関前で空の彼方をじっと見つめていた。
その夜には死者が蘇り、生者の元に会いに来るという言い伝えを信じて。
「お母さんに会えるんだね!?」
そう言って目を輝かせた息子に、父親は言えなかった。
それはただの言い伝えだ、などとは‥‥。
ハロウィンが終わり、母のために摘んだ野の花が枯れても、少年の望みが叶えられる事はなかった。
「うそつき! 会えるって言ったじゃないか!」
少年はそう言うと、食事も摂らずにベッドに潜り込んでしまった。
「‥‥それ以来‥‥起きて来ないのです!」
父親は、冒険者ギルドのカウンターに身を乗り出して言った。
「近くに住む、昔は冒険者だったと言う老人が、それはモンスターの仕業だと‥‥このままでは眠り始めてから一週間後に息子は‥‥レイモンドは死ぬと、そう言うのです!」
レイモンド‥‥レイは、母親が病で死んでから、笑う事を忘れたようだった。
それが今、寝言で母の名を呼びながら幸せそうな笑顔を浮かべている。
「‥‥いっそのこと、このまま幸せな夢を見ながら死なせてやるのも‥‥」
「じょ、冗談じゃない! 息子さんを見殺しにするつもりですか!?」
受付係の言葉に、父親は顔を赤らめた。
「わかってます! ‥‥一瞬でも、そんな事を考えた自分が恥ずかしい‥‥でも」
父親は首を振った。
「息子が目覚めた時、私はどうすれば良いのでしょうか。夢を見ているほうが良かったと言われれば、私にはどうする事も‥‥」
レイはまだ7歳。一人っ子で、母親にベッタリの甘えん坊だった。
このままでは、助かったとしてもまた、同じ事の繰り返しになるかもしれない。
「何とか‥‥息子を助けて下さい!」
●リプレイ本文
「‥‥お母さん‥‥」
夢の中に現れた幻の母に向かって、少年は手を伸ばす。
その手を、藤村凪(eb3310)は自らの両手で包み込んだ。
「おかーちゃん、恋しいやろーな‥‥。でも、このままじゃ、あかんねんで?」
凪は、その手をそっと毛布の中へ戻す。
「とにかく、ここじゃ戦えない。何かを壊す心配のない広めの場所が欲しいんだが、この近くにないか?」
七神蒼汰(ea7244)が、少年の父親である依頼人に尋ねる。
近くに広場があるが、流石にそこでは人も多い。結局、町外れの空き地まで連れ出す事になった。
毛布にくるまれた少年を蒼汰が背負い、家を出る。
「レイ君は、私達が必ず助けます。ですから、安全な所で待っていて下さいね」
ディアナ・シャンティーネ(eb3412)は、心配そうに見守る父親にそう声をかけ、仲間の後を追った。
広い空き地の真ん中に、毛布でくるまれた少年が寝かされる。
冬が近いとは言え、今日は風もなく、陽射しも暖かい。エスナ・ウォルター(eb0752)の愛犬ラティが、少年を守るようにその側に座った。
エスナはその隣に膝をつき、両手を合わせて祈る。
「みんなが‥‥貴方を守るから‥‥大丈夫、です」
凪も自らの愛刀を手に、無言で祈る。
ディアナは全員にグットラックを掛けて回った。
「‥‥母親の記憶が無い、生まれてすぐ母親と死に別れた俺に、何が出来るのか‥‥正直、判らないが‥‥」
だが、放ってはおけない。
蒼汰はヘキサグラム・タリスマンを2つ取り出し、それぞれに祈りを捧げる。
だが、2つ目のそれは、発動した気配がない。
「重ねがけは効かないのか?」
「では、私は五行星符呪を試してみますね。違うアイテムなら効果があるかもしれませんから」
リノルディア・カインハーツ(eb0862)が魔よけのお札を燃やした。
その時‥‥
「‥‥うるっさいわねえ‥‥」
少年の体から、もやもやと霧のようなものが現れた。
「今、良いところなんだから、邪魔しないでくれる?」
霧は、体の半分を少年の中に残したまま、女の姿をとった。女は、武器を手に周囲を取り囲む冒険者達を見て、鼻で笑った。
「楽しい夢を壊そうとする無粋な連中‥‥あんな達にはデリカシーってものがないのかしら?」
「‥‥サキュバス‥‥!」
ミカエル・テルセーロ(ea1674)が喉の奥から絞り出すように叫ぶ。
ふわふわの天使のように見える彼だが、その内側には怒りの炎がたぎっていた。
「心の隙に付け入るやり口、相変わらず悪魔はこずるい‥‥」
しかし、サキュバスが少年から離れない限り攻撃魔法は撃てない。
「ふふ‥‥どうしたのかしら、坊や? 手も足も出ないって顔ね」
サキュバスが嗤う。
「坊やもあたしの好みよ‥‥この子の後で、遊んであげようかしら?」
「黙れ! 母親を思う心を弄びやがって‥‥覚悟しろ!」
蒼汰が魔剣を抜き放ち、サキュバスの胴を両断する。
「‥‥ぐ‥‥ッ」
斬られた胴は霧散し、またすぐに元に戻る‥‥が、結界で能力を制限された上に、魔剣での攻撃‥‥ダメージは予想以上に大きかった。
「‥‥こざかしい‥‥ッ!」
サキュバスは少年の体を離れ、蒼汰に襲いかかる。
その隙に、ディアナが少年の体を遠ざけ、リノルディアそのそばに聖なる釘を打ち込んだ。
「これでもう、この子には近づけません! 皆さん、お願いします!」
リノルディアの叫びに、凪がフェイントアタックをかけ、エスナのアイスチャクラが追い打ちをかける。
サキュバスの動きが止まる。
「紅の精達よ‥‥破壊と再生を司る手で、惑わすだけの影を燃え消しておくれ!」
狙い済ましたミカエルのマグナブローが人の形をした霧を吹き飛ばした。
サキュバスは消えた。
だが、少年はまだ目を覚まさない。
「レイ君、起きて‥‥目を覚まして下さい‥‥」
リノルディアがテレパシーで呼びかける。
「お母さんが居なくなってレイ君は寂しいでしょう。でも、夢の中にいたままじゃレイ君のお父さんが一人ぼっちになってしまいますし、寂しい思いをしてしまいます‥‥」
少年の眉がぴくりと動く。
既に、幸せそうな表情は消えていた。
「‥‥お母さん‥‥待って、行かないで‥‥!」
うわごとのように呟く。
「自分が寂しい、悲しいと思うことをお父さんにも思わせてはいけません。そんなことになったら、お母さんもきっと寂しくて悲しくて、安心して眠る事が出来なくなってしまいます。 それだけは、絶対に駄目です。レイ君はちゃんとおきて、お父さんにおはようを言わないと‥‥!」
少年の目から涙が溢れ、頬を伝った。
「いやだ‥‥僕はお母さんと一緒に行くんだ! もう、こんなとこ、いたくない!」
少年は眠りから覚めた。だが、自ら起きようとはしない。目を閉じたまま、夢の中に消えた母親の姿を探す。
「お母さんの夢を、見てたのかい?」
そんな少年の手を取り、ミカエルは静かに話しかける。
「‥‥命は、一度散れば蘇らない。だからこそ、皆大切に抱きしめて生きているんだよ。ほら、目を開けてごらん?」
「怖がらないで‥‥目を開けて、周りを見てください‥‥」
エスナが少年の頬を伝う涙を拭う。
「私も‥‥大切な人たち‥‥失いました‥‥ お父さんとお母さん‥‥育ててくれたお養父さん‥‥みんな、私の大切な人たちです‥‥」
少年は頑なに目を閉じている。
だが、心まで閉ざしてしまったわけではないようだ。
「なのに、平気なの? なんで平気でいられるの!?」
「‥‥平気じゃ‥‥ありません‥‥。とても悲しくて‥‥私、泣き虫だから‥‥ずっと泣いてて‥‥でも」
エスナは続けた。
「ある人がこう言ってくれました‥‥『死者は甦らないけど、エスナが忘れない限り、その人はいつもエスナの側に居てくれるよ』って‥‥」
「俺も母親と死に別れたんだ‥‥寂しいと思う時もあった。でもな、お前が覚えている限り、母さんはお前の此所にずっと居る。離ればなれなんかじゃないぞ」
蒼汰がそう言って少年の胸に軽く触れた。
「そんなの‥‥わかんないよ!」
少年は突然起きあがり、目の前の蒼汰に掴みかかった。
「僕はお母さんに会いたいんだ! 今までここにいたのに‥‥何で邪魔するんだ!?」
「なんで? 簡単な事だ。君と同じ気持ちでいる人を、もっと悲しませる事になるから」
ミカエルが言う。
「君のお父さんは、今度は君も失って泣かなくちゃいけないの?」
「お父さん‥‥?」
「そうだ、家族は母親だけじゃないだろ? お前が母親の所へ行ったら今度は父親が悲しい思いをするんだぞ?」
少年は、下を向いた。
その背を、凪はぎゅっと抱きしめた。
「毛布以上に温かいやろー♪」
少年は、一瞬抵抗のそぶりを見せる。だが、その温もりは抗い難かった。
「今度家でとーちゃんにもしてもらいーな? ええもんやで‥‥あ、ほら、噂をすればとーちゃんや」
丁度その時、心配した父親が姿を現した。
だが、彼には息子にかける言葉が見つからない。
「‥‥レイ‥‥」
名前を呼んだまま、そこに立ち尽くしていた。
「どうすればええのんか、ウチもわからへんけど、傍に居てあげてーな?」
凪は、毛布役を父親に譲った。
「な? 暖かいやろ?」
返事の代わりに、お腹がぐうと鳴った。
「はい、今はこれを食べて元気になって、ね?」
ディアナがまだほんのりと暖かい流動食を差し出す。
「‥‥食べたくない!」
少年はそっぽを向いた。
だが‥‥彼のお腹は持ち主の意志とは裏腹に、更に激しく鳴いた。
それはそうだろう、もう何日も食事を摂っていないのだから。
「ほら、レイ君の体は元気になりたいって言ってるよ? たぶんお母さんも‥‥レイ君には元気に育って欲しいんじゃないかな。元気に育って、精一杯生きて、立派に人生を全うしたなら、その時はレイ君を笑顔で迎えてくれると思うの」
少年の意地も、食欲には勝てなかった。
一口、食べてみる。
「‥‥まずい」
言いながら、手は止めない。
「‥‥でも‥‥お母さんの‥‥味‥‥する‥‥」
椀に入った流動食は、少々塩味がきつくなりそうだった。
翌日。
少年は元気に‥‥とはいかなかったが、とにかく無事に起きてきた。
悪夢にも、そして楽しい夢にも妨げられず、ぐっすり眠れたようだ。
「何か動物を飼われてみるのも良いかもしれませんね」
ベッドに上がってきた子犬の頭を撫でている少年の姿を見て、ディアナが父親に提案する。
「ペットから元気をもらえるかもしれませんし、何か学び取るものもあるでしょう」
それは、彼女自身の体験から出た言葉なのだろう。
今日は一緒ではないようだが、彼女にも大切な、尻尾の生えた友達がいた。
「早く元気になるとええなあ。とーちゃんも気張ってな」
凪が父親の肩をぽんと叩く。
「‥‥人は誰でもいつかは死ぬけど‥‥一緒に居た時間は無くならないから‥‥」
エスナが呟いた。
そう、最愛の人を亡くして辛いのは息子だけではない。
彼もまた、もしかしたら息子以上に辛い思いをしているのだ。
ただ、大人はその感情をストレートに出せないだけで‥‥。
「大切な人がいなくなるのはとっても辛いけど、あなたを大切に思って、手を差しのべてくれる人はきっといるよ。その手を離さないで、大切にしてね」
ミカエルの言葉に、父親は頷いた。
「そうですね。まず、あなた方が手を差しのべてくれた‥‥。本当に、ありがとうございました。あの子も、きっと大丈夫です。こんなに多くの方が気に掛けて下さるのですから‥‥」
「‥‥強く、生きて欲しい‥‥な」
自分の境遇と重ね合わせ、蒼汰が呟いた。