キツネ狩り。
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月23日〜11月28日
リプレイ公開日:2006年12月01日
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●オープニング
――ワン、ワン! ワン!
遠くで猟犬の声がする。
「ポム、どこ行っちゃったんだ‥‥!?」
少年は、友達の姿を探して森の中を彷徨っていた。
猟犬の声は、どんどん近付いてくる。
「こんな事なら‥‥あのクマの親子を逃がさなきゃ良かった!」
あのクマが森にうろついている限り、貴族達は森に入れなかったのに‥‥。
少年は故郷の村を追われて、この森に逃げ込んだ。
ここは滅多に人も来ないし、食べ物も豊富にある。
友達も出来た。
当分はここで、平和に暮らせると思っていたのに!
「ポム、どこだ!? どこにいる!?」
「きゅん、きゅん!」
少年の呼びかけに応えるように、藪の中から茶色の毛糸玉のような子狐が転がり出てきた。
「ポム!」
だが、それと殆ど同時に猟犬の姿が‥‥!
「グルルルル‥‥ッ!」
猟犬達は二人を取り囲み、じりじりと迫る。
「坊主、そのキツネを寄越しな」
「それは我々の獲物だよ、横取りはいけないなあ」
犬を追って現れた数人の男‥‥この森を猟場にしている貴族と、その取り巻き。
彼等は弓矢を手に、少年に迫った。
「来るな! こいつは僕の友達だ! お前らなんかに渡すもんか!」
ひとりの貴族が、蔑むような笑みを浮かべる。
「ケダモノが友達か。ハーフエルフには似合いだな!」
「‥‥!!」
「お前も一緒に、狩ってやろうか?」
貴族は、弓に矢をつがえ、ギリギリと引き絞る。
「お、おい、それは拙いんじゃないか? いくら何でも‥‥」
「脅かすだけさ。ボクの腕前は知ってるだろ?」
少年は、腕に抱えた子狐をギュッと抱きしめた。
逃げようにも、後ろでは猟犬が牙を剥いている。
「やめろ‥‥僕を傷付けるな‥‥! 僕はこの森を‥‥燃やしたくない!」
ビシッ!
矢は、少年の腕をかすめて飛んだ。
一文字の傷跡に血が滲む。
「さあ、次はどこが良‥‥‥‥!?」
次の矢をつがえようとした手が、凍り付いた。
目の前の少年の髪がざわりと波打ち、瞳が深紅の色に染まる。
その手には、真っ赤な炎が踊っていた。
「あ、あの悪魔を始末しろ! 一刻も早く、グズグズするな!」
例のハンカチ貴族が、ハンカチでドアノブを掴む事も忘れてギルドに転がり込んできた。
顔じゅうススにまみれ、髪や服があちこち焼けてチリチリになっている。
「ど、どうしたんですか‥‥!?」
その有様を見て、受付係は何かのバチが当たったのだろうと思う。
だが、それはそれ。今はとりあえず、彼の話を聞かねばなるまい。
「あの、ハーフエルフの小僧! うちの猟場に火を付けやがった! ボクの森が‥‥パパに貰ったボクの森が丸焼けだ!!」
それはお気の毒に。
受付係は棒読みで社交辞令を述べる。
森の動物達が無事なら‥‥まあ、天罰が下ったというところだ。
だが、仕事は仕事。
その日、ギルドの掲示板に新たな依頼が張り出された。
『焼けた森に潜むハーフエルフの少年を捕縛、連行されたし。生死不問』
「‥‥今度は、誤魔化しは効かねえな‥‥」
いつものようにギルドで暇を潰していた、見た目だけはベテランの冒険者が呟く。
「何とか、助けられないものでしょうかね、その子‥‥」
あのハンカチ貴族に、狩りも、あの森も、少年の追求も、全てを諦めさせる良い方法はないものか。
せめて、少年を赦す気にでもなってくれれば良いのだが‥‥。
――また‥‥やってしまった。
燃やすつもりなんか、なかったのに。
動物達は無事だろうか?
少年は子狐を腕に抱えたまま、未だあちこちで火がくすぶり続ける森の中に立ち尽くしていた。
●リプレイ本文
そこには、鳥も、動物も、そして人の姿もなかった。
「焼けた森は悲しいですが‥‥燃やしてしまったあの子の悲しみはどれほどのものでしょう‥‥」
もはやリカバーをかけてもどうにもならない、焼けこげた鳥の死体を土に埋め、グレース・コンウェル(eb7439)は静かに手を合わせた。
「どこにいるのか‥‥心細い思いをしているだろうな。早く見付けてやりたい」
少年の警戒心を少しでも解こうと、ラーイ・カナン(eb7636)は幼い兎を腕に抱いていた。
焼けた森は、見渡す限り隠れる場所もない。
だが、ラーイは声に出して呼んでみた。
「頼む。出てきてくれ。お前を傷つけるつもりはない!」
周囲を見渡す。
「俺もハーフエルフだ! 話がしたい!」
だが、返事はなかった。
「‥‥この辺りには、いないようですね‥‥」
二人は傷ついた動物達を見付けては出来るだけの手当をしつつ、少年を捜し続けた。
夕刻近く、反対方向から探していたシア・シーシア(eb7628)とシュネー・エーデルハイト(eb8175)が合流するが、二人も少年を見付けられずにいた。
残るは、森を隔てている川の向こう‥‥そこまでは、火の勢いは及んでいなかった。
「あら‥‥?」
グレースが川沿いの藪から細い煙が上がっているのを見付け、冒険者達は火を消そうと走り出す。
だが、現場に辿り着いた彼等が見たものは‥‥冷たい水に膝まで浸かり、自分のシャツで水をすくって火元にかけようとしている少年の姿だった。
「‥‥!!」
冒険者達の姿に気付いた少年は、慌てて姿を隠そうとする。
「待て!」
ラーイが前へ出る。
「お前を傷つけるつもりはない」
「そうですよ、ここにはあなたを傷つける人は居ません、安心して下さい」
言いつつ、グレースは少年にメンタルリカバーをかけた。
その効果か、少年は川の中で立ち止まり、こちらを向いた。
「‥‥あなた達は‥‥この間の‥‥?」
クマの親子を逃がす為に、力を尽くしてくれた人達。
「そうだ、キミが森を燃やしたとは信じられなくてね‥‥事実を確かめに来た」
遅れて到着したローガン・カーティス(eb3087)がフライングブルームから飛び降り、ファイヤーコントロールで火を消して見せた。
「え‥‥そ、それ、火の魔法‥‥!?」
驚きの声を上げる少年に、ローガンは言った。
「キミも炎の使い手なら、出来る筈だ」
「え‥‥僕も?」
「私も以前、森林火災を消し止めることが出来なかったから‥‥もっと、強くなろうと思った。自分の火魔法が、森や動物達の為に役立つ時が来ると信じて」
「森や‥‥動物達の為‥‥火が‥‥?」
「さあ、いつまでもそんな所にいたら風邪をひいてしまいます。こちらに上がって、服を乾かしましょう」
グレースが手を差しのべるが、少年は俯いたまま動かない。
「俺はラーイ・カナン。お前と同じハーフエルフだ。お前の名前は?」
同じハーフエルフという事に安心したのか、少年は顔を上げた。
「‥‥ラティ‥‥」
「ラティ、お腹もすいているでしょう?」
「きゅん!」
少年の代わりに、藪の中から転がり出てきた子狐が返事をした。
翌日、少年の口から事の次第を聞いたシアとシュネーは、ハンカチ貴族の屋敷を訪れていた。
だが、応対に出た執事が胡散臭そうな顔で奥に引っ込んでから、既にかなりの時間が経っていた。
「やっぱり、冒険者風情には会ってくれないのかしらね」
「だとしたら、望み薄だな」
二人は、父親が公正な人物なら、ラティ少年と依頼人との仲立ちを努めて貰おうと思っていたのだが‥‥。
「あの子、捕まれば間違いなく死刑ね」
ドアに背を向け、遠くに見える森の焼け跡を見つめながら、シュネーが言う。
「それを避ける為に、僕達はここに来てるんだ」
シアの言葉に、シュネーはわかっていると言うように首を振った。
「弱者が迫害されるなんて当たり前の事‥‥でも、弱者はそれに命懸けで逆らう‥‥それも『当たり前の事』よね」
その時、後ろでドアの開く音がした。
なかなか帰ろうとしない二人に根負けしたのだろう、執事はいかにも迷惑そうな顔をしつつも、二人を中へ招き入れた。
「さて、話とは何かね?」
ハンカチ貴族・父が、口元にハンカチを当てて話す。
その仕草は息子とそっくりだった。
「その少年の腕には、確かに矢傷がありました。残念ながら、証拠の矢は見つかりませんでしたが‥‥森が全焼の状況で先に手を出したのが少年なら、火の手が上がる中、息子さんには矢をつがえて撃つ暇などない筈です」
シュネーの言葉に、父親は暫く考えてから答えた。
「ふむ‥‥、確かに、猟場が焼けた事は聞き及んでおる。だが、息子は自分達の火の不始末が原因だと、そう申しておったが‥‥そうか、成る程‥‥」
ハンカチ貴族は、父親に事実を告げていなかったらしい。
「君らの言う事が事実だとすれば、それは貴族にあるまじき卑劣な行為と言わざるを得んな」
どうやら、話のわかる人物のようだ。
「追い詰められた上の狂化とはいえ、森を燃やした少年にも責任はある。 彼には森の再生をする事で償いをさせる。だから少年を赦すように言って欲しいんだが」
しかし、シアの言葉に対する返事は意外なものだった。
「いくら、必要かね?」
「‥‥いくら‥‥とは、何が‥‥?」
「それが事実か、そうでないか、そんな事はどうでもよろしい。問題は、醜聞が外部に漏れた、その一点に尽きる」
「まさか、もみ消せと‥‥?」
「その通り。金ならいくらでも出す。その、ギルドの依頼とやらを取り消すには、いくら必要かね? そうそう、君達にも口止め料を払わねばならんかな? いくら欲しいんだね?」
「‥‥ふざけないで!」
シュネーが席を蹴って立ち上がる。
「この親にして‥‥か」
シアも、呆れたように首を振って立ち上がった。
「待ちたまえ! 君達、金が欲しくはないのかね!? ギルドの十倍‥‥いや、百倍は出すぞ!?」
だが、二人は振り返らなかった。
「キ、キサマらあぁぁっ! どうしてくれるんだ、この役立たずどもっ!!」
両の頬を真っ赤に腫らしたハンカチ貴族が冒険者達の元に怒鳴り込んで来たのは、その日の夕刻だった。
どうやら、随分と長い間、彼等の姿を探し回ったらしい。
ハンカチは肩で息をしながら冒険者達に詰め寄った。
「どうして、どうしてパパにバラすんだ!? 見ろ! キサマらのせいだぞ!」
そう言って、両の頬を指差す。
「‥‥お前は、父親に話すなとは言わなかった。嫌なら、最初から断っておけば良い」
ラティ少年を後ろにかばったラーイの言葉に、ハンカチはますます逆上する。
「キサマ、その小僧を見付けておきながら、何故すぐにボクの所に来ない!?」
「公正な第三者に仲立ちを頼もうと思ってたんだよ。まあ、見込み違いだったがね」
シアの言葉に、シュネーが続ける。
「だから、これから教会に行くところだったのよ。この子を厳正に裁くために、神父様にちゃんと記録を取って頂こうと思って」
冒険者ギルドは仕事の斡旋以外の業務は行わない。そこで思いついたのが教会だった。神の前でなら、嘘偽りは言えないだろう。
「きょ、教会だと‥‥!?」
勿論、自らの非を認めるつもりなど毛頭ない彼は、教会になど行ける筈もない。
「この、役立たずどもが! ‥‥だが、そいつを見付けた事だけは褒めてやる。さあ、そこをどけ!」
ハンカチは弓矢を取り出し、少年を守るラーイに狙いを定めた。
「やめて下さい!」
グレースがホーリーフィールドを張り、皆を守る。
「猟場が焼け、怪我もした貴方の怒りもわかります。 ですが、子供を相手に大人数で脅して、弓矢で怪我までさせるというのは大人として恥ずかしい事だと思います。 どうか慈愛と寛容の心で許してあげて下さい」
「そうだな、こいつも反省している。お前の森の再生に尽くすだろう。 だからお前も貴族として寛大な所をみせてはどうだ?」
と、シア。
「黙れ!」
だが、ハンカチは聞く耳を持たない。
そんなやりとりの間、ローガンはそっと川に近づき、水中に潜む何者かに向かって小声で囁いた。
その声に反応して、水面がゆっくりと盛り上がり‥‥
「ふん、キサマもハーフエルフだな? どけ、どかなければ、キサマも一緒に‥‥」
――ザバアッ!!
川の中から、巨大な生き物が現れた。
亀のような胴体に、龍の首と蛇の尾を生やした姿。
夕闇の迫る中、その濡れた体はひときわ大きく、恐ろしく見えた。
「な、何だ、こいつは‥‥!?」
「この森の、ヌシ‥‥だそうだ。この森を長い間見守ってきたが、少年の責任ではない‥‥と言っている」
ローガンが通訳を装う。
「ば、バカな‥‥そんな‥‥」
「森は時間をかけて再生させる。それまで猟はやめてほしいそうだ」
「ふ、ふん、こ、ここはボクの土地だぞ、そこで何をしようと‥‥」
――ズシィン!
「ひっ!」
あくまで非を認めようとしないハンカチに、巨体が詰め寄り‥‥吹雪を吐いた。
「ひイィィィッ!!!」
ここに至って漸く、ハンカチは己の非を認め、そして脱兎のごとく逃げ去った。
「この役立たずども!」
そんな捨て台詞を残して‥‥。
「ガラード、嫌な役をやらせてしまって、すまなかった。ありがとう」
ローガンは巨獣の首筋を軽く叩いた。
「とりあえず、危機は去ったようですね」
グレースは、緊張を解いた少年に微笑んだ。
「ですが‥‥これから、どうしましょう? やはり、森での生活が良いのですか?」
「人のいる所は‥‥嫌だ。皆がいじめるから‥‥」
「皆ではないだろう?」
ラーイが言った。
「俺もハーフエルフとして多少の偏見は受けてきた。だが俺には理解してくれる仲間や友人、家族がいる。一人ではないんだ‥‥お前も、な。行く所がなければ、暫く一緒に暮らしても良い」
その言葉に、少年は目を見張り‥‥そして、顔を輝かせる。
「い‥‥良いの!? ポムも一緒に!?」
ラーイは黙って頷いた。