【揺れる王国】救出を阻止せよ!

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月01日〜12月06日

リプレイ公開日:2006年12月05日

●オープニング

「王妃が見つからないのはラーンスといるからに違いない。あやつはグィネヴィアを余から奪ったのだ。騎士道を踏みにじるとは円卓の騎士としてあるまじき行為!」
 戦の決意を高めるアーサー王に、ラーンス派は釈然としない面持ちだった。
 王が本気で勢力を募れば、近隣から多くの騎士や公爵、伯爵が集まる事だろう。
 しかし、ラーンスは本当に罪人なのか? 様々な憶測が流れるものの、未だ深い霧の如く全容は見えていない‥‥。
「私達はラーンス・ロット様が無実だと信じている!」
「あぁ、ラーンス様は我々を引き連れて従えたまま王妃とお会いしていたんだ。王妃とラーンス様は一線を踏み越えてはいない!」
「それよりもアーサー王だ。一線を踏み越えた確証もなくラーンス様を罪人扱いとは!」
「そうだ! ラーンス様にのみ怒りの矛先を向けるのは、どうかしている!」
 ラーンスを支持する勢力は、王妃と騎士は一線を踏み越えてはいなかったと主張すると共に、ラーンス・ロットへ怒りを露に向けるアーサーへの不信感を募らせていた。
 この問題は王宮内に注ぎ込まれた濁流の如き勢いで、瞬く間に広がったのである。
 ――仕えるべき王を信じるか?
 ――無実の罪を着せられたラーンス・ロットを信じるか?
 森を彷徨う凄腕の剣士も予想通り、かの騎士だった。
 ――私の行為は決して王への信義、王妃への忠節、この国への忠義を裏切るものではない。
 私は、私の信念に基づき、真実を証明するまでは王宮には戻らぬ――――。
 ラーンスは冒険者にそう答えたという。
「しかし‥‥ラーンス様は騎士を切り殺したとも聞いたぞ?」
「否、あれは騎士として卑怯にも不意打ちを行った故、咄嗟の対応だろう。ラーンス様は責められる者ではない」
 事態は深刻な状況へ向かっていた。
 ラーンス・ロット派は王宮から離れ、信じる者が退いたと噂される『喜びの砦』へ向かおうと準備を始めたのである。
 喜びの砦へは10日以上の日数が掛かるらしいが、彼らの意思は固いものだった。 
 このままでは王国は二つの勢力に分断されてしまう。この事態を鎮められるのは――――。


 酒場の奥、薄暗い一角で、騎士と思しき身なりの男達が額を寄せ合い、声をひそめて何やら熱心に話し込んでいた。
「‥‥おい、聞いたか? 円卓の騎士の‥‥ボールス卿が行方不明になってるらしいぞ」
「何だって!?」
「犯人は、ラーンス卿を快く思わない連中らしい」
「ああ、余所者だからと、あの一族を認めようとしない連中か」
「良いではないか、出自がどうであろうと、ラーンス卿はイギリスの誇る最高の騎士だ。ボールス卿とて、あのお人柄は信頼出来る‥‥そこらの純血よりも、な」
 『純血』という言葉に悪意を込めて、吐き捨てるように言う。
「それで、ボールス卿は? 部下達は助けに向かったのだろうな?」
「いや、それが‥‥一向に動く気配がないそうだ」
「何だと!?」
「彼等は主君を見殺しにするつもりか!?」
「‥‥そうではない」
 彼等の背後から若い男の声がした。
「‥‥貴殿は‥‥?」
「我々は、不用意に行動を起こさぬように厳命を受けている。今は、ご家族をお守りするのが我々の使命だ」
 ボールスの配下だと言うその青年の答えに、騎士達は一斉に反論した。
「しかし、主君の危機には命令に逆らってでも駆けつけるのが騎士というものだろう?」
「そうだ、ご家族をお守りするのに、全員は要らぬだろう。人員を割き、救出に向かう事は出来る筈だ」
「それをしないとは、貴殿らの忠誠心とは、その程度のものか!」
 青年は目を閉じて、ひとつ、深呼吸をした。
「我々、騎士団の者が動けば、事は公になる。そうなってしまえば、我々と‥‥彼等の対立は誰の目にも明らかになるだろう。そうなれば民衆をも巻き込み、この国の分裂は決定的になる‥‥それは、主の望むところではない」
「もう、手遅れさ」
 一人の騎士が、手にした酒を飲み干し、空のカップをテーブルに叩き付けるように置いた。
「とっくに分裂しているだろう、アーサー派と、ラーンス派にな!」
 その音と大声、そして内容に、酒場じゅうが静まり返る。
「‥‥っと、大声を出しすぎたな‥‥」
 男は再び声をひそめた。
「とにかく、拉致などという卑劣な行為を許す訳にはいかぬ。貴殿らが動かぬなら、我等が動く」
「そうだ、我等の手でボールス卿を救い出す!」
「国が割れるなら、我等はラーンス卿のお味方に付くまで!」
 騎士達は口々にそう言うと席を立ち、青年の制止も聞かずに店を出て行った。


「‥‥と、いう次第じゃ」
「‥‥では、それを止めるのが2つ目のご依頼ですね?」
 受付係は、新しい羊皮紙をカウンターに置く。
「その場に居合わせたのは、オードという者じゃが、そやつの話では、中の一人に見覚えがあったらしい。サイモン・ブレイムという名の騎士じゃ。自宅もわかっておる」
「その彼が、中心人物ですか?」
「いや、それはわからん。じゃが、何か行動を起こすなら何処かに集まって相談位はするじゃろう。奴等は監禁場所を知らん筈じゃからな‥‥いや、誰かが意図的に情報を流す事も考えられるな。現に、王子の拉致も噂になっておる」
「相手の狙いが、この国の分裂なら‥‥助けに来させたほうが事が大きくなる‥‥?」
「そうじゃな‥‥」
 老執事は額の皺をますます深くして、暫し考え込む。
「思ったより、大きな力が働いとるのかもしれんな。まあ、どちらにせよ、その者の後をつければ残りの者も一網打尽‥‥いや、捕まえろとは言っとらんが」
 要は彼等を説得し、ボールスが冒険者達の手で無事に救出されるまで下手な動きをしないように、押し止めて貰えれば良い。
「連中も、王子が無事なら文句はないじゃろうし、王子の言う事になら耳を貸さぬ訳にもいくまいからの」
 ‥‥だから、王子じゃないってのに、この爺さんは。

 そのような次第で2つ目の依頼も受理され、2つの依頼書は並べて張り出される事となった。
 ただし、あまり目立たない場所に‥‥。

●今回の参加者

 eb5382 佐伯 小百合(29歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb8346 ラディオス・カーター(39歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb9033 トレーゼ・クルス(33歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb9055 鎖守 天授(33歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb9506 スカル・ペネント(26歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「サイモンの屋敷までは、僕が案内させて頂きますね。皆さん、よろしくお願いします」
 ボールス配下の若い騎士、オードは礼儀正しく挨拶を述べた。
 部下の躾は行き届いているようだ。
「ラディオスだ、よろしく頼む」
 ラディオス・カーター(eb8346)は気さくに答える。
「隠密行動が得意なわけではないが、まあ何とかなるだろう」
「この国でも内乱の兆しですか、母国だけではないようですね」
 鎖守天授(eb9055)が呟く。
「内戦阻止」
 佐伯小百合(eb5382)が、簡潔に意見を述べた。
「そうだな。卿の救出、その気持ちもわからなくは無いが‥‥」
 同じ神聖騎士であり、年齢も同じトレーゼ・クルス(eb9033)は、ボールスに親近感を持ったようだ。
「国の分裂を併発されてまで救出される‥‥それをボールス卿が望むとは思えない」
 その言葉にオードは頷き、全員が揃った事を確認すると、一同を促した。
「では、こちらです‥‥」

 オードは戦闘馬の手綱を引き、急ぎ足で町を抜ける。
 郊外に出たところで、彼は遠くに見える一軒の屋敷を指差した。
「あそこです。まだ、中にいると良いのですが‥‥」
「自分が中を透視しましょう‥‥もっと近付かなければ無理ですが」
 天授の言葉にオードは頷き、自分の馬の後ろに彼を乗せた。
 ラディオスはセブンリーグブーツを装備している。馬の速度に遅れる事はないだろう。
「すみませんが、お二人はどこか見晴らしの良い場所で見張って頂けますか?」
 馬上からトレーゼと小百合に声をかける。
 トレーゼも馬を持ってはいるが、二人乗りは少々厳しそうだった。
「そうだな、相手も馬で出てくるだうろから、少し離れて見張ったほうが見失わずに済みそうだ」
「監視、任せて」

 屋敷に辿り着いた3人は馬を近くの藪に隠し、慎重に近付く。
 オードから相手の特徴を聞いた天授は、エックスレイビジョンで壁越しに中を覗き込んだ。
「どうも、見当たらないようです‥‥」
「遅かったか?」
 ラディオスが舌打ちする。
 と、その時、屋敷の裏手から微かに話し声が聞こえた。
 3人はそっと、声のする方に近付いてみる。
 サイモン・ブレイムが、真っ黒い馬に乗った大男と、何やら話し込んでいた。
「‥‥なるほど‥‥そこに、‥‥‥‥だな?」
 話の内容はよく聞き取れない。
 だが、大体の見当は付く。
「あの大男が、トレーゼさんの言っていた煽動者のようですね」
 用事が済んだのか、大男は馬主を巡らし、背後の藪に消えた。
「‥‥追うか?」
 ラディオスが問う。
 だが、オードは首を振った。
「今は、他の騎士達を押さえるのが先です」
 息を潜めて見守る彼等の前を、馬を引いたサイモンが通り過ぎる。
 彼はそのまま門を出ると、使用人に何事かを告げて走り去った。
「俺が追う。馬じゃ目立ちすぎるからな‥‥見失わない程度に遅れて付いて来てくれ」
 ラディオスはそう言うと、サイモンの後を追った。
 相手は振り返る事もしない。
 やがて馬は道を逸れると、森の中へ入って行った。
「森なら多少の土地勘がある‥‥見失わずに済みそうだな」

 サイモンが向かったのは、森の中にある貴族の狩小屋らしき建物だった。
 10人も入れば身動きがとれなくなりそうなその小屋の中に、騎士が3人。
 4人の騎士が外に出て、誰かを待つように小屋の近くをうろついていた。
「皆さん、しっかりと武装を固めていますね‥‥」
 身を隠した藪を透かして、天授がその様子を観察する。
 どうやら、まだ人数が揃わないようだ。
「‥‥では、僕はボールス様の屋敷に戻ってお帰りを待ちます」
 オードの言葉にラディオスが答える。
「ああ、こっちは任せろ。持ちこたえて見せるさ」

「‥‥遅いぞ」
「貴殿が最後だ‥‥臆病風に吹かれたかと思ったぞ」
 最後の一人が小屋に到着した時、森の中はすっかり闇に包まれていた。
「全部で8人か‥‥」
 中に入るのは諦めたほうが良さそうだ。
「ドア、封鎖」
 小百合が中の騎士達に気付かれないように、小屋の裏手にあった薪をドアの前に積み上げ、長めのもので鎹のように固定する。
「これも使えそうだな」
 ラディオスも放置してあった壊れた荷台を引きずって来てドアの前に押し付け、更に森の中で見付けてきた倒木を乗せた。
「‥‥なかなか、飲んでくれませんねえ‥‥」
 天授は酒を飲ませて馬を酔わせようとしていたが、馬達は見知らぬ人間の振舞酒に警戒していた。
 仕方なく、せめて馬具だけでも外しておこうとするが‥‥
「ぶひひーん!」
 馬達は一斉に騒ぎ出した。
 小屋の中で、騎士達が色めき立つ。
 何事かと外に飛び出そうとするが‥‥ドアは開かない。
「何者だ!?」
「ここを開けろ!」
 騎士達はすし詰めになった小屋の中で口々に叫ぶ。
 互いの鎧と武器がぶつかって、ガチャガチャと騒々しい。
 そんな彼等の耳に届くように、トレーゼは大声を上げた‥‥もっとも、保存食を持たずに来た彼は、空腹で微妙に力が入らなかったりするのだが。
「自分達はお前達の暴挙を止めに来た者だ。首謀者と話がしたい」
「暴挙だと? 何を根拠に‥‥我等は、ここで狩りの相談をしているだけだ」
 中から返ってきたその言葉に、ラディオスが鼻を鳴らす。
「ふん、狩り‥‥ね。獲物は、円卓の騎士か?」
「‥‥!!」
 小屋の中が静まり返る。
 やがて、返事が返ってきた。
「誰かは知らぬが、止めだては無用。それとも、奴等の一味か? だとすれば、我等は力ずくでもここを突破し、卿の元へ馳せ参じる覚悟!」
 ――ドカン!
 小屋が揺れた。
 誰かが扉に向けてオーラショットでも放ったのだろうか。
「‥‥お前達も騎士なら、己の感情は律せよ。ボールス卿がそれを望むとでも思うのか?」
 トレーゼが説得を続ける。
「もし、この行動が名誉になると思っているなら‥‥勘違いも甚だしい。お前達の早まった行動がこの国に何をもたらすか、それがわからないとしたら‥‥お前達に騎士を名乗る資格はない!」
 ――ドカン、バキバキ!
 バリケードが破られ、騎士達が小屋から溢れ出す。
「‥‥誰かと思えば‥‥この、冒険者ふぜいがッ!」
 その顔は恥辱に赤く染まっている。
 騎士達は一斉に剣を抜き払った。
「実力行使か‥‥喜んで受けて立とう。英国騎士と剣を交えられるとは光栄だ」
 ラディオスは楽しそうに剣を抜く。
「喧嘩上等」
 小百合はぼそりと呟くと、手近の敵にバーストアタックを仕掛け、油断していた相手の剣を砕いた。
「仮に自分がここで、お前達を殺すとしても、後悔はすれど否定はしない。それは卿とて同じ筈だ」
 トレーゼは明らかに自分よりも実力が勝ると思われる相手に対しても怖じ気づく様子はない。
「このまま行かせれば、より大きな災いの種となる」
「何を言うか、災いの種を蒔いているのは、奴等の方だ!」
「だから、それに乗せられて浮き足立ってるお前達も同じなんだよ!」
「ボールス卿の部下が苦渋に耐えてるというのに、それで良いのか?」
 ラディオスは騎士の一人を切り伏せ、問いただす。
「彼らの想いは、どうでもいいってことなのか?」
「く‥‥っ、奴等は、主人の危機さえ救えない、腰抜けだ。だから我等が‥‥」
「お前らは、何も見えちゃいない」
 戦いが繰り広げられる中、天授は物陰に隠れながらライトの魔法で辺りを照らしていた。
「昼間だったらサンレーザーが使えるのに‥‥!」
 これでは援護も出来ない。
 仲間達も頑張ってはいるものの、相手は完全武装の騎士。
 しかも、その数は倍‥‥いや、自分が戦闘に加われない分、倍以上だ。
「ボールス卿、早く来て下さい‥‥!」
 やがて、空腹のせいか動きが鈍くなったトレーゼが足払いをかけられ、地面に倒れ込んだ。
「面倒をかけさせおって‥‥!」
 相手の剣が喉元に突き付けられる。
 その時‥‥
「うぐっ!?」
 騎士の動きがぴたりと止まった。
 まるで見えない糸で全身を絡め取られたように、身動きが出来ない様子だ。
「‥‥大丈夫ですか?」
 トレーゼは声のした方を見る。
 他の者も動きを止め、一斉にそちらを見た。
「どうやら、間に合ったようですね‥‥」
 天授は安堵の溜め息をつく。
「‥‥遅い到着だな」
 ささやかな苦情に、ボールスは乗っていたケルピーから降りるとトレーゼに歩み寄り、手を差しのべた。
「すみません。‥‥怪我は?」
「いや‥‥とにかく、この頑固者達の説得を頼みますよ」

 だが、説得の必要はなさそうだった。
 騎士達はボールスの姿を見るや戦意を失い、ある者は武器を取り落とし、またある者はその場に膝を折る。
 ボールスは何も言わずに、冒険者と騎士の区別なく治療をして回った。
「‥‥あなた方が私の身を案じて下さった事には感謝しています」
 一通りの治療を終え、漸く口を開く。
「ですが、今後は何が起きようとも、一切の手出しは無用です」
「しかし‥‥!」
 異を唱える騎士を制して、ボールスは続けた。
「騎士とは何か、騎士たる者が真に守るべきは何なのか、もう一度よく考えてみる事です。それがわからなければ、あなた方に騎士の資格はない。‥‥帰りなさい」
 言葉は穏やかだが、表情は硬い。
 騎士達は頭を垂れ、一人、また一人と、馬を連れて小屋を後にした。

「取りあえずは決着か。しかし、まだ暫くは混迷しそうだな」
 トレーゼが溜め息をつく。
「内乱の兆しか‥‥。また親の無い子が増える」
「食い止めます。何としてでも」
 その為の、円卓の騎士だ。
「ああ、そう願いたいな」
「‥‥期待」
 小百合がぽつりと呟いた。