復活の葱! 伝説を継ぐ者

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月06日〜12月11日

リプレイ公開日:2006年12月13日

●オープニング

 季節外れの嵐に見舞われたその夜。
 キャメロット郊外のとある工房で、新たな伝説が生み出されようとしていた。
 伝説に挑むその少女の名は、ワンダ。
 あの、フライング葱を開発した巨匠の、孫娘だった。
「負けないわ、お爺ちゃん。これからは、女の子だって葱に乗る時代よ!」
 彼女が開発していたのは、初心者に優しく、女の子にも扱いやすい、やや細身の‥‥葱型改造フライングブルーム。
 元がフライングブルームであるからして、普通に跨りMPを消費する事によって普通に飛べる‥‥筈なのだが、その歴史において、何やら重大かつ珍妙な誤解が生じたらしい。
 発明の歴史とは、すなわち失敗と試行錯誤、誤解と思い込みの歴史である。
 そして、その誤解と思い込みは、あえて訂正される事なく現在に至っていた。
 かくして、ワンダは挑戦する事となる。強度と性能をを落とさずに、どこまで柄を細く削れるか、その限界に。
 やがて‥‥。
「出来た!」
 稲光に細身のシルエットが浮き上がる。
 少女の手で高々と差し上げられたそれは、てかてかと光る赤い色に塗られていた。
 その時。
 ――ピカッ!
 ガラガラドッシャーーーン!!
 バンッ!
 鍵をかけておいた筈のドアが勢い良く開かれ、雨を巻き込んだ冷たい風が工房の中に吹きつけた。
「ふははははっ! 待っていたぞ、この時を!」
「――誰っ!?」
 開け放たれたドアの前で、仁王立ちする見知らぬ男。
 赤いマスカレードに赤いマント。そして、赤いフンドーシ。
 それ以外には、何も身に纏っていない。
「‥‥‥‥!!」
 これが、世に言うキャメロット名物‥‥ヘンタイ!?
 少女が一瞬ひるんだ隙に、赤フン男は彼女に飛びかかり、手にした赤い葱を奪い取った!
「量産型の3倍のパワーを誇ると言われる、伝説の赤い葱‥‥! これで俺は、この世界の覇者となるのだっ!」
 たった今、この世に生を受けたばかりの赤い葱は、あっという間に伝説になった。3倍パワーという、アリエナイ尾鰭を付けて‥‥。
 伝説は、開け放たれたドアから彗星のごとく飛び出して行った。
「待ちなさいっ!」
 少女は、開発の参考用にと手許に置いていた葱を慣れた手つきで素早く装着すると、嵐の中へと彗星を追う。
 だが、カヨワキヲトメに、ノーマル葱は負担が大きすぎたようだ。
 ましてや、フルスピードで飛ばすのはこれが初めてだった。
「く‥‥っ! これくらいの痛み‥‥耐えてみせるっ!」
 しかし、叩き付ける雨と、限界を超える痛みに目が眩み、意識が遠くなる。
「ふはははは、ぶわぁ〜かめ! 未だに愚かな思い込みに囚われているとはな! そうして無駄に体力を消耗している限り、この俺には永久に追い付けんわ!」
 赤フンの声が遠くから響く。
 少女は目標を見失い、失速した。

 翌朝、嵐が去ったキャメロットの冒険者ギルドに、ずぶ濡れになった何かが転がり込んできた。
 葱の形をした、着ぐるみ。
 尻の部分には、ふわふわの尻尾のように見えるものが生えていた。
 その中身は‥‥ご想像にお任せしよう。
「た、助けて‥‥このままでは葱が、愛と平和のシンボルが、悪に染まってしまう‥‥」
 着ぐるみを着た少女は、そう言ってカウンターに突っ伏した。
 その手に、何か手紙のようなものを握り締めて。

『葱リストに告ぐ。俺はただ一人の選ばれし者、真の覇者である。よって、俺以外の葱リストは抹殺してやるから指定の場所へおいでませ。何人でもまとめてかかって来るが良い、俺の前には敵などなっしんぐ!』

 それは、赤フンからの挑戦状だった。
「私はもう、戦えない‥‥誰か、代わりに、この国を、葱を、守って‥‥ネギ、リス、万歳‥‥っ!」

●今回の参加者

 ea0448 レイジュ・カザミ(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0729 オルテンシア・ロペス(35歳・♀・ジプシー・人間・イスパニア王国)
 ea2207 レイヴァント・シロウ(23歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea5386 来生 十四郎(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb5296 龍一 歩々夢風(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「一度は平和利用された葱が、またこんな事になるなんて‥‥」
 オルテンシア・ロペス(ea0729)は戦いの前に少しでも体を温めて貰おうと、火を熾し暖めたワインを配る。
「有り難く頂戴しようか」
 酒には目がない来生十四郎(ea5386)は嬉しそうに受取り、一気に飲み干した。
「しかし懐かしいな。前にもこんな事があったような気もするが‥‥」
「えっ、以前にも葱が奪われた事が!?」
 葱型の防寒着を着込み、応援に駆けつけた今回の依頼人にして葱開発者、巨匠の孫娘ワンダが驚きの声を上げる。
「迂闊でした。葱がそんな人気沸騰アイテムだったなんて‥‥知っていればもっと厳重に警戒したのに!」
「人気‥‥いや、まあ、そうだな‥‥」
 十四郎は曖昧に答える。
 確かに、一部には絶大な人気を誇るらしいが‥‥。
「暖かい食べ物も用意するわね」
 と、オルテンシア。
 ただし、材料の保存食は各自で提供のこと、だそうだ。
「忘れた人は、私が倍額で売ってあげる〜」
 ワンダが手を出した。
「‥‥あの子は、寒くないのかしら?」
 オルテンシアの生暖かい視線が、選手控え室(テント)から出てきた龍一歩々夢風(eb5296)に注がれる。
「寒くなんてないヨ? だって龍たんのソウルは熱く燃え上がってるんだモン☆」
 龍一の右手には葱、そして左手には円卓の騎士アグラヴェイン卿の肖像画。
 それ以外は一糸纏わぬすっぽんぽんだった。
「コレね、この前オークションで落としたばかりのお気に入りなの〜v」
 畏れ多くもそれで大事な部分を隠しつつ、龍一は不思議な踊りを踊り始めた。
「葉っぱ神様からその伝説をお聞きして以来ずっと恋焦がれていたモノ‥‥『葱』」
 踊りは更にヒートアップし、龍一は高らかに歌い、踊る!
「あいとはぁ〜ときにぃ〜いたみをぉ〜ともなうぅ〜ものぉ〜〜〜♪ 裸(ら)・舞(ぶ)!」
 ぶすり。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 初めての痛み、そして、初めての‥‥
「カ・イ・カ・ンv」
 ――カラン‥‥
 龍一の全身から力が抜け、持っていた肖像画が乾いた音をたてて地面に落ちる。
「いけない! 黒い服の人達が‥‥!」
 オルテンシアが叫ぶ。
 そう、報告書に載せられないようなモノを公衆の面前に晒した者は、即刻黒服によって連れ去られ、冒険期間が終わるまで拉致監禁されてしまうのだ!
 しかし、彼等が来る前に、それはやって来た。
 岩とヒースの荒野、その地上すれすれに音もなく、矢のような速さで近付くそれは‥‥
 ――ドガァッ!!
「ぎゃんッ!?」
 快感に酔いしれ、無防備な龍一の腹に、赤い葱の先端が突き刺さる!
「ふはははは、愚かなり葱リスト!」

 赤い葱に跨り、上空に舞い上がった赤フンは挑発するように地上の葱リストを手招いた。
「そのような変態が後継者とは、葱リストも地に落ちたものよ。やはり貴様らはこの俺に滅ぼされる運命! 葱の覇者はこの俺だ!」
「‥‥赤フンの変態に言われる筋合いはないな」
 葱を手に、十四郎は着物の裾を端折る。
「ふふ、君のようなヘ・ントゥアーィが覇者を名乗るか。よろしい。ならば――私は新世界の神になる」
 葱の着ぐるみを着てもこもこになったレイヴァント・シロウ(ea2207)が立ち上がる。
 既に葱は尻尾の中に装着済みだ。
「龍一さん、後は僕達に任せて、テントで治療を‥‥」
 そう言って葱を受け取ろうとするレイジュ・カザミ(ea0448)の手を、龍一が止める。
「‥‥まだ‥‥出来るヨ‥‥アコガレの葱リストへの道‥‥俺はまだ走りだしてない‥‥!」
 龍一は傍らに転がる盾(肖像画)を手に取ると、ふらつく足で立ち上がる。
「俺のためだけじゃなく、ネギリスの未来のために‥‥葱リスト候補生龍たん、いきまーす!! 」
 龍一は大地を蹴り、赤フンに向かって一直線に舞い上がる。
 それを見た戦士達の尻に‥‥いや、魂に火がついた!
 十四郎とレイヴァントが龍一を追い、3人は上空で赤フンを取り囲んだ。
「ふん、3対1か‥‥」
 赤フンは、びっ、と3本の指を突きだす。
「3分だ。3分以内に、お前達全員を沈めてやる」
 それを聞いた十四郎が不敵に笑う。
「そんな台詞を吐いて、実際に3分で倒せた奴はいない‥‥いや、この時点でお前の敗北は決まった!」

「‥‥どうしたんでしょう、4人とも、全然動きませんね」
 下で見守るワンダが不思議そうに見上げる。
「相手が名乗りを上げたり、技の準備をしている間は攻撃してはいけない‥‥それが戦いのマナーよ。赤フンも、それ位は心得ているようね」
 オルテンシアが解説する。
「でも、この三角形の陣形は、まさか‥‥あれが出るの!?」

「‥‥行くぞ! 必殺・トライアングルアターック!!!」
 誰かが叫ぶ。
 と同時に、3人の戦士は赤フンの周りを縦横無尽に飛び回り始めた。
 十四郎は流石初代の貫禄、ブランクを感じさせない葱テクで敵を翻弄する。
 他の二人が狙われ難くなるよう、自らが囮になるつもりなのだ。ここで出来るだけ相手の体力を削いでおく。そうすれば、後は‥‥。
「頂点に立とうとしたのはお前が最初じゃない、しかし誰一人叶わなかった。何故か判るか?」
 フルスピードで旋回と体当たりを繰り返しながら、十四郎は赤フンに問う。
「判る必要などないわ!」
 赤フンはそれを上回るスピードで急旋回し、引き離しにかかる。
「貴様らがそれを尻に刺している限り、この俺には勝てん! 貴様らの限界は尻の限界! だが、俺には魔力が尽きるまで限界はないのだ!」
 確かに、十四郎の尻はそろそろ限界に達しようとしていた。
 既に感覚はなく、いつ葱が抜け落ちてもおかしくない状態だ。
 だが、まだだ。まだ、引き下がる訳にはいかない。
 十四郎はリタイアと見せかけ急降下すると、一転、急上昇。
 着ぐるみのせいで動きがモタつくレイヴァントに襲いかかろうとした赤フンを、すり抜けざまに蹴り飛ばした。
「ぬうぅッ小癪な!」
 顔面を蹴られた赤フンの逆襲!
「くッ」
 赤い葱の先端が脇をかすめ、十四郎はバランスを崩した。
「葱を尻に刺した貴様らには、こんな攻撃は出来まい!」
 赤フンは葱から落ちかかる十四郎には構わず、その先端を龍一に向けた。
 龍一は葱初体験な上に、飛び立つ前にかなりのダメージを受けていた。
 赤フンの立派な赤フンを奪い取ろうと気力で飛び回っていたが、その手は赤フンに触れる事すら叶わない。
「最初のイケニエは貴様だ、ど素人!」

「いけない!」
 オルテンシアが叫ぶ。
「もう一度あの攻撃を受けたら‥‥!」

「死ねえぇぇい!」
 赤い葱の先端が、龍一に迫る!
「く‥‥っ間に合え!」
 ――ドカァッ!!
「‥‥じゅ、十四郎‥‥さん‥‥!?」
 龍一の目の前に、十四郎が立ちはだかっていた。
 その手に、赤い葱の先端を握り締めて。
 だが、彼にはもう、それを敵の手から奪い取る力はなかった。
 赤い糸を引いて、葱が落ちて行く。
 それを追うように十四郎の体も。
「これで良い‥‥後は‥‥」
 龍一がそれを支えようとするが、彼もまた限界に達していた。
「葉っぱ神様‥‥いつか、エロスカリバー対決‥‥を‥‥!」

 その姿を見ていたレイヴァントの中に、何かが満ちた。
「行くぞ! キャスト・オフ! ――全竜変身・チェンジ・レヴァイアサン!」
 レイヴァントの体が燃え上がる‥‥ように見えたのは、着ぐるみの中に着ている太陽のローブのせいか。
 ――ズバァッ!
 自ら放ったオーラショットで、ヴィヴィットでヴァイオレットなオシャレ着ぐるみが吹き千切れる!
「ああっ! ひどーい! せっかくオーダーメイドで作ってあげたのにー!」
 下からワンダの抗議の声が響く。
「すまない少女、だが私は前に行く!」
「なにぃっ!? さっきまでと動きが違うだと!?」
 レイヴァントに何が起きたのか‥‥これがスーパーなんたら人というものなのか!?
 それとも、戦いの中で進化したと言うのか!?
「だが、所詮は貴様もあの二人と同じ‥‥既に限界は見えている!」

「いよいよ、僕の出番だね?」
 上空ではスーパーレイヴァントが孤軍奮闘を続けている。
 レイジュは葱を手に、上空を振り仰いだ。
「レイジュさん、怪我人の手当ては任せて、力一杯戦ってきてね」
 オルテンシアに励まされ、レイジュは葉っぱスタイルの尻に深々と葱を装着した。
「この感触、この痛み。しばらく忘れていた葱の感触が今!」
 痛みと共に沸き上がる熱い闘志。
 数々の葱の戦いを潜り抜けてきた勇者、葉っぱ男が今、飛び立つ!

「僕こそがキャメロットの葉っぱ男にして、初代葱リスト、そしてキャメロットのHERO☆レイジュ・カザミ!」
 地上から飛び立った勢いのまま、レイジュはレイヴァントの動きに気を取られていた赤フンの下から体当たりを食らわせた!
「うぐぉっ!?」
「人が作った葱を盗んだ上に、葱の覇者になろうなんて許せないね!」
 初代葱リストの名にかけて、そして、ここまで道を作ってくれた仲間の為にも、負ける訳にはいかない。
 絶対に。
「葱の礎を築いたこの実力で、盗人に教えてあげる。真の葱の覇者がいかなる存在なのかって事を!」
「貴様があの、葉っぱ男か。だが、所詮は貴様の尻も常人と同じ!」
「それはどうかな? レイヴァントさん、行くよ!」
「任せなさい! 行くぞ、クロックアップ!」
 レイヴァントはオーラエリベイションで志気を高め、推力全開で飛び回る。
 彼の飛行跡には細く赤いものが糸を引く。
 それでも彼は、飛ぶ事をやめなかった。
 葱の勇者に道を開くまで――!

「力に取り付かれた者は真の葱リストにはなれん。葱と葱に乗る仲間を思う心、それが葱リストだ‥‥」
 十四郎が痛む尻を庇いながら立ち上がり、空を見上げる。
「‥‥戦うだけが葱ではないのよ」
 オルテンシアの言葉にワンダが拳を握り締めた。
「葱が育む友情‥‥素晴らしいです!」

「さぁ、葱の勇者よ――全てを捻じ込んでこい!」
 赤い糸を引いて落下するレイヴァントの瞳に、赤フンに止めを刺すべく突っ込んでいくレイジュの勇姿が映る。
「うおおぉぉぉぉっっっ!!!」


「‥‥赤フンよ‥‥葱に抱かれて眠れ」