ころころぽんぽこ

■ショートシナリオ&プロモート


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:4人

冒険期間:10月07日〜10月14日

リプレイ公開日:2005年10月17日

●オープニング

 天高く馬肥ゆる秋。
 先の戦が終わって暫し、久しぶりの休暇にのんびりしすぎたのか、はたまた秋の味覚がおいしすぎたのか‥‥人も馬も、コロコロに太っていた。
「よいせっ! どっこらせっ!」
 一人の騎士が愛馬の脇に立ち、その背にまたがろうとしていた。
「‥‥むううぅ、とりゃあぁっ!!!」
 掛け声だけは勇ましく、勢いを付けて挑む彼だったが、何しろ足が上がらない。懸命の努力も虚しく地面に尻をついた。鎧も着ていないのに体が重い。いや、鎧も着られないほど、彼の腹はポンポコになっていた。
 そしてポンポコなのは愛馬も然り。このままでは例え主人が元のスリムな体型であろうと、いや、何も乗せなくても走るのは無理だった。
「ふうふう、やはりダメか‥‥」
「ぶひひん」
「はあはあ、しかしこのままでは領主様の召集にお応えする事は出来ん。何としても元の体型に戻らねば‥‥しかも今すぐに!!」
「ぶひーん!」

 とても騎士とは思えないコロコロとした青年が、ギルドのカウンターに両手をついて、深々と頭を下げた。
「頼むっ! このレイ・リンクス、恥を忍んでお願い申し上げる。私と愛馬のシルバーを痩せさせてくれっ!」
「ご依頼は、ご自身と馬の減量‥‥という事でよろしいでしょうか?」
 糸のような細い目をした受付係が確認を求める。こんな依頼はあまり聞いた事がなかった。
「そうだ。ご領主から命令が下ったのだ、今から半月‥‥いやそれは昨日の事だ。2週間後に騎士団に合流せよと。いや、戦ではない。通常の任務だ。しかし馬にも乗れぬこの有様では‥‥っ!」
 青年は言葉を詰まらせた。騎士だの貴族だの、そういった世界の事はよくわからないが、命令違反がどんな結果を招くかは大体想像がつく。
「それで、そんなに急に太ってしまった事に何かお心当たりは?」
「いや、前の戦が終わってから、つい気が弛んだと言うか‥‥」
 青年は急に相好を崩した。
「えへへ、女房の手料理がねえ、これがまた最高に美味いんですよ〜、あっはっは〜!」
 場の空気が、音を立てて白んでいった。

●今回の参加者

 ea1137 麗 蒼月(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2253 黄 安成(34歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea5984 ヲーク・シン(17歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 ea9027 ライル・フォレスト(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb2253 キーラ・ベスパロフ(22歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3349 カメノフ・セーニン(62歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

チップ・エイオータ(ea0061)/ 紫城 狭霧(ea0731)/ エル・サーディミスト(ea1743)/ 五百蔵 蛍夜(ea3799

●リプレイ本文

「‥‥美味し、そう‥‥」
 目を細めてウットリと呟く麗蒼月(ea1137)の目の前にあるのは、ぽんぽこ騎士様の奥方ご自慢の愛情手料理‥‥ではなく、彼の愛馬シルバーの姿だった。彼女は自分の愛馬『非常食』と、目の前のまん丸な『非常食2号』の姿を見比べ、その見事な肉付きに嘆息する。
「2号、貴方‥‥とても、良い、馬ね‥‥あら、よだれが」
 食べ物にしか、見えていないらしい。
「聞いたか?」
 傍らで馬の状態を確認していたライル・フォレスト(ea9027)が、苦笑まじりに馬に声をかける。
「お前、気合い入れて痩せないと蒼月さんに美味しく食べられちまうぜ?」
「ぶひひひん!」
 ライルはポケットからメモを取り出して蒼月に渡した。
「蒼月さんは食事管理の担当だったよね? これ、俺が考えた献立の注意点なんだけど‥‥役に立つかな?」
「‥‥ありが、とう。参考に、する、わ‥‥」
 そこへ、屋敷周辺の様子を確認していた黄安成(ea2253)とヲーク・シン(ea5984)が戻ってきた。
「うむ、上手い具合に少し離れたところに綺麗な水が流れる川があった。早朝の水汲みランニングには丁度良いじゃろう」
「この家はなだらかな丘の上に建ってるんだな。土地は広いし、馬も人も存分に動けそうだ。ふふ‥‥極限までシゴキ倒してやるぜっ!」
 そう良いながら拳を握るヲークの熱意には、何やら方向の違ったエネルギーを感じないでもない。
「じゃあ、中に入ろうか。騎士さんたちに計画を説明しないと」
「食事の‥‥管理、は、今夜から‥‥ね」
「そうじゃな、せっかく早めに着いたんじゃ、時間は有効に使わねば」
「残りの2人も夕方には着くんだよな?」
 様々な手段で他のメンバーよりも少し早めに到着した4人は、それぞれの計画を胸に、騎士の屋敷の戸口をくぐった。

「こんばんは〜!」
「おお、良い匂いじゃ。丁度夕飯に間に合ったようじゃのう」
 その日の夕方、のんびりマイペースで歩いてきたキーラ・ベスパロフ(eb2253)とカメノフ・セーニン(eb3349)の2人が到着し、にわかに大所帯になった食堂に全員が顔を揃えた。
「皆さん、わざわざお集まりいただいて、誠に恐縮です。改めて、よろしくお願いいたしますっ」
 依頼人の騎士レイ・リンクスが、ぽんぽこなお腹に邪魔されながらも深々と頭を下げる。
「よろしくお願いしますわね〜」
 旦那の置かれた苦境をわかっているのかいないのか、ほわ〜んぽや〜んとした感じの奥方が、隣でニコヤカに微笑む。
「うわ〜、ほんとにポンポコだねえ」
 キーラが無邪気に騎士のお腹に手を伸ばす。
「ねえねえ? そのお腹さわらせて?」
「は、はい、どうぞ‥‥」
「では、わしは奥さんのお尻を触らせてもらおうかの‥‥」
 と言いつつ手を伸ばしかけたカメノフのツルピカな後頭部に仲間の視線が突き刺さる。後ろで蒼月の鉄扇が、ジャラン、と凶悪な音をたてた。前を見れば、騎士がこんな時にも肌身離さず身につけている、腰の剣に手をかけている。
「じょ、冗談じゃよ、冗談‥‥年寄りのちょっとしたオフザケじゃ、のう?」
 笑いながら手を引っ込めたカメノフだったが、まだ剣から手を離さない騎士の目は『ヤッタラコロス』と語っていた。奥方の攻略は難しそうだ‥‥。
 そんな周囲の無言の戦いをよそに、キーラは嬉しそうにポンポコなお腹をなでなでしていた。
「まんまるだあ〜。赤ちゃんが入ってるみたい」
 その言葉に、並んで立つ夫婦の顔が揃って朱に染まった。
「い、いや、それは、つ、妻のほうで‥‥」
「ええっ、奥さん、オメデタなのっ!? わあ〜、おめでとう!」
 それを聞いたヲークの背に、何やら黒い炎が立ち上ったように見えたのは気のせいだろうか‥‥。

 そして翌朝。本格的な減量作戦が始まった。
「おはよう、レイさん。よく眠れましたか?」
 ライルが厩から馬達を引き出しながら、庭先で眠そうに大アクビをする騎士に声をかける。
「いや、それが‥‥腹が減ってどうにも‥‥」
 食事制限は昨夜から始まっていた。いつものように腕によりをかけて、たっぷり作られたご馳走の数々だったが、騎士の前に並べられたそれは『アレもダメ、コレもダメ』という冒険者の判断の元に横取りされ、その大半が彼の口には入らなかったのだ。
「しかし、夜中につまみ食いをしなかったというのは感心じゃな」
 物置から持ち出した木製の桶を二つ、騎士の前に並べながら安成が言う。
「安成さん、これは?」
「まずは朝食前のひと仕事、水汲みじゃ。台所の瓶がいっぱいになるまで、川から水を運んで来るのじゃ」
「ですが、水ならすぐそこに井戸が‥‥」
「それでは運動にならんじゃろう? 瓶の水は全て捨てておいた。水を汲んで来ない事には食事の支度も出来んぞ?」
 安成の言葉に、騎士は両手に空の桶を持って歩き出す。その尻に、簗染めのハリセンの一撃が飛んだ。
 パァンっ!! 良い音だ。
「歩くな、走れっ! 全力疾走じゃ!!」
「は、はいぃぃっ!!」
 重い体でドスドスと走る騎士の後ろを、ハリセンを持った安成が追いかける。
 そんな二人を見送ったライルは、傍らのまんまる馬に話しかけた。
「‥‥それじゃ、君にはまず軽く歩いてもらおうかな。いきなりハードにやると故障が心配だからね。色々教わってきたから、安心して任せてよ」
「ぶひっ」
 ‥‥パァン!!
 遠くでまた、景気の良い音が炸裂した。

 一方、台所ではキーラがぽわ〜んとした奥方を相手に熱弁をふるっていた。
「あのね、夜はもう寝るだけだから、いっぱい食べちゃうと太っちゃうんだって。だけど朝はしっかり食べないと駄目なんだよ。ず〜っと少ないままだとバテちゃうからね」
 母親の受け売りらしい。
「だから、朝はいっぱいごちそう作ってね」
「‥‥でも、お肉は、ダメ。鶏肉、なら‥‥良い、わ。一日、一回‥‥」
 蒼月がライルのメモを読みながら言う。
「でも〜」
 奥方がぽや〜んと抗議した。
「お肉、貯蔵庫にいっぱいありますの。食べないと腐ってしまいますわ」
「大丈夫だよ、その分は俺達が平らげるから‥‥うわ、すげえ!」
 貯蔵庫を覗いたヲークが歓声を上げる。牛、豚、羊‥‥二人暮らしの一週間分とはとても思えない量の肉がストックされていた。反面、野菜の蓄えは殆どない。
「でも、ダーリンはお肉が大好きで‥‥私の作るお料理を、それは美味しそうに食べてくれますのに。皆さんはどうして‥‥私たちの幸せを壊そうとなさいますの?」
「いや、そうじゃなくて」
 確かに新婚ボケでノロケる騎士のシアワセ気分を少々ブチ壊してやりたいという思惑はなきにしもあらず。だが、奥方を悲しませるのは本意ではなかった。
「だから、これは愛の鞭なんだよ。このまま旦那が馬にも乗れずに騎士団を解雇されたら、美味しい食事どころじゃなくなるんだぜ?」
「そうだよ、お腹の赤ちゃんだってお父さんのお仕事がなくなったら、食べるものなくなっちゃうんだよ?」
「‥‥美味しい、料理‥‥を‥‥いつでも、食べられる。それが、幸せ‥‥」
 蒼月のどことなく重い口調に、さすがのぽや〜んとした奥方も感じるところがあったようだ。
「‥‥わかりました。それなら、私も心を鬼にして頑張ってみます‥‥。あの、どんなものを作れば‥‥?」
「そうだな、まずは野菜を中心にしたほうが良いぜ。そのほうがカスも沢山出るからな」
「カス?」
 キーラの問いに蒼月が答える。
「‥‥お通じ、の事」
「おお、そうじゃ。わしはお通じがよくなる薬草やキノコでも採ってくるかのう」
 部屋の隅でスカートめくりのチャンスを窺っていたカメノフが言った。
「騎士殿には大岩転がしの特訓でもしてやろうかと思っておったのじゃが、このあたりには崖も岩もないようじゃからのう。‥‥ちぇ、つまらん‥‥」
 最後の一言は独り言のようだ。
「お嬢さんがたも一緒にどうじゃ?」
「そう‥‥ね。食欲を、抑える薬草‥‥教わって、きたから。‥‥でも、何かしたら‥‥」
 ジャラン、と鉄扇が鳴る。
「じゃあ、僕も行こ。おじいちゃん、薬草の事教えてよ」
「‥‥ジイさん、大人が無理っぽいからって子供に手ェ出したら、犯罪だぜ?」
「わかっておるわい、いくらわしでも子供のスカートなぞ‥‥」
 ニヤニヤ笑いながら問うヲークに、わかっているにしては何故か汗をかきながら、カメノフが答える。
「何? 僕のスカートが気になるの? ‥‥あ、もしかして、おじいちゃんもはきたい?」
「‥‥それも、犯罪だと‥‥思う、わ」

 そして3日目。ライル担当の馬の減量は順調に成果を上げていた。蒼月の視線と言葉が余程堪えたのか、食われちゃタマランとばかりに自ら積極的に走り、そして餌の量も控えていた。
「よしよし、良い子だな。‥‥予定より少し早いけど、乗せて走って貰おうかな?」
「ひん!」

 一方騎士は‥‥相変わらず、朝の空気に安成のハリセンの音が鳴り響き、その後も組み手に剣術、ランニング、しかもサボり対策にカメノフのブレスセンサーによる監視付きと、休む暇もなかった。しかし、頭に『必勝』‥‥とはとても読めないジャパン語もどきが書かれた鉢巻きを締め、汗だくになって頑張っても、なかなか目に見える成果は出なかった。
「オラオラ! 剣にハエがとまってるぞ!」
 木剣を使った剣術の稽古でも、ヲーク相手に全く歯が立たない。どうやら動きだけでなく、戦士としてのカンも鈍っているようだ。
「はあ、ふう、お、おかしいな‥‥こんな、筈、では‥‥はあはあ」
 それでも初日に比べれば動きもだいぶ機敏になり、あっさり小食メニューにも慣れてきたようだ。この分なら5日は無理でも、騎士団に合流する頃には元の体型に戻っている事だろう。

 しかし、任務から戻った後で、あっというまに再びころころぽんぽこにならないという保証は‥‥。
「ダーリン、お仕事頑張ってね。う〜んとおいしいごちそう、い〜っぱい用意して待ってるわ(はぁと)」