思わぬ拾いもの
 |
■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月15日〜12月20日
リプレイ公開日:2006年12月23日
|
●オープニング
「とーさまの、うそつきー!」
ボールス邸に、小さな大嵐が吹き荒れていた。
「せーやさいに、ぱーてぃーすゆっていったのにー!」
泣きわめき、駄々をこねる息子に、ボールスは困り果てていた。
「ですから、パーティーは向こうの家でやると言ったでしょう? その時は私も戻りますから‥‥」
「やだやだやだーっ! ここがいいー! どこにもいかないーっ!」
エルディンは床にひっくり返り、手足をバタつかせて泣き喚く。
この頑固な所は誰に似たのか‥‥ボールスは大きく溜め息をついた。
「‥‥わかりました‥‥」
円卓の騎士も、子供には勝てない。
「その代わり、私がいない間は絶対に外に出てはいけません。それが守れますか?」
「ぜったい‥‥おにわは?」
「庭もダメです。家の中で遊びなさい。良いですね?」
「‥‥そしたや、ここにいてもいい?」
ボールスは頷いた。
「‥‥じゃあ‥‥えう、そーすゆ‥‥」
エルディンは渋々頷き、父の服の裾を引っ張った。
「ねえ、とーさま、ぱーてぃー、かーさまもくゆよね? ねっ? ねっ?」
「いや、それは‥‥」
エルの言うかーさまとは、とある冒険者。当日に都合が付くかどうか、来てくれるかどうかも今はまだわからない。
だが、ここで否定したらまた大騒ぎになるやもしれず、ボールスはとりあえず曖昧に答えを濁しておく事にした。
「えう、かーさまにぷえぜんとあげゆのー!」
その答えを自分に都合良く解釈したエルは、今泣いたカラスはどこへやら、一転してご機嫌な笑顔を見せた。
「‥‥王子、やはり坊っちゃまはお手許に置かれたほうがよろしいのでは?」
息子をどうにか納得させ、居間に戻ったボールスに、二人の様子をこっそり窺っていた老執事が声をかける。
「部下達も屋敷を守っている事ですし、もうこの間のような事は‥‥」
この間の事とは、息子と執事を盾にされ、ボールスが誘拐されたあの事件の事だ。
それ以来、ボールスの部下達が屋敷を守っていた。
「しかし、市中にはまだ不穏な動きがあるようですし、この国も未だ行方が定まらない中で、私邸の警備ばかりを手厚くする訳にはいかないでしょう?」
息子も3歳になり、少々の旅にも耐えられるようになってきた。
長く家を空けて寂しい思いをさせるのも可哀想だし、それほど危険もないだろうと思って連れてきたのだが‥‥見通しが甘かったようだ。
自領の城ならば衛兵が常駐し、構造上も守りは堅い。この無防備な別邸よりは安全だろう。
だが、今すぐに帰すのは無理のようだ。
「部下達には、市中の警戒に当たって貰います。その代わり、ここには‥‥」
暫く後、冒険者ギルド。
「すみません!」
慌てた様子で入って来たのは‥‥一見、剣の道には縁がなさそうな、優しげなお兄さん。
「‥‥ボールス卿‥‥?」
受付係は、いつもと違う相手の様子に目を丸く‥‥したつもりだったがやっぱり糸目って、それは置いといて。
ボールスはマントにくるんだ何かを大事そうに抱えていた。
「あの、猫に詳しい方は‥‥!?」
そう、マントの中身は子猫。
それも、まだ目も開かないような、生まれたばかりの子猫が‥‥いっぱい。
「ここに来る途中で‥‥その、つい、見付けてしまいまして‥‥」
人家もない場所の、道端に置かれた古い籠。
風に飛ばされて来た訳でも、誰かが虫干ししている訳でもなさそうだ。
その不自然さが気になって、ふと中を覗いてみた。
「‥‥やっぱり‥‥」
捨て猫。
幸い、まだ全員元気そうだった。
見付けてしまったものは、放っては置けない。
しかし、彼にはこんな小さい、生まれたての子猫を育てた経験はなかった。
「とりあえず、あっためた方が良さそうですよね?」
受付係も猫は嫌いではない。
革袋にお湯を入れ、即席湯たんぽを作って持ってきた。
「それでは、ええと‥‥この子猫達の世話をしてくれる方の募集‥‥ですね?」
「はい、よろしくお願いします」
ボールスは熱くなりすぎないようにと、マントを重ねた下に湯たんぽを入れ、子猫達をくるみ直すとギルドを後に‥‥しようとした。
「‥‥あ」
ドアに手をかけた時、何かを思い出したらしい。
「すみません、ついでに屋敷の警備もお願い出来ますか?」
本命だった筈の任務は、子猫の前にあっさり降格されてしまった。
「私もなるべく家にいるようにしますので、恐らく大丈夫だとは思いますが‥‥」
●リプレイ本文
「おお、お待ちしておりましたぞ」
玄関で老執事が出迎える。
子猫達は、暖炉のある居間に置かれた毛布の上にかたまっていた。
何故か、一頭の犬がその側に寄り添い、子猫達を舐めてやっている。
「‥‥い‥‥犬?」
マルク・ウィラン(eb9115)が目を丸くする。
確か、この家には猫も沢山いると聞いたような?
しかし、猫達は物珍しげに見るだけで、母親代わりを買って出る者はいなかったらしい。
そこで、試しにこの‥‥いつも笑っているように見えるので、母国語でリールと名付けた変わり者の犬に見せたところ、こうなったという訳だ。
リール君、実はオスなのだが、母性本能に溢れていた。
「あれ? ボールス様は?」
ティズ・ティン(ea7694)は周囲を見渡す。
そう言えば、エルディンの姿もない。
そこへ、ルルの元気な声が響く。
「たっだいま〜!」
玄関先へ出てみると、ボールスが息子の手を引いて帰ってくる所だった。
「あ! かーさまだ!」
出迎えの中にその姿を見付けたエルは、転がるようにクリステル・シャルダン(eb3862)目がけて走る。
「わーい、かーさまー!」
飛び付かれて思わずよろめくクリスに、ボールスは目顔で申し訳ないと謝り、小さく溜め息をつく。
そして、ティズの姿を見ると、持っていた包みを差し出した。
「今の季節、乳は出ないそうです。代わりにこれを貰ってきたのですが‥‥」
「確かに私、ヤギのミルクって頼んだけど‥‥自分で買いに行ったの? って言うかナニコレ、くっさー!」
包みの中には、ヤギのチーズとバター。
チーズからは、鼻を突く強烈な匂いがした。
「これを溶かして飲ませるのは‥‥ダメでしょうか?」
「円卓の騎士の依頼って言うから来てみたんだが、猫の相手かい!?」
いかついドワーフ、ラーバルト・バトルハンマー(eb0206)が、犬の腹に身を寄せてうごめく物体を見下ろす。
「はい、すみません猫です」
素直に謝るボールス。
「ったく、騎士が猫に負けるな!」
お説教をされてしまった。
どう見ても、ラーバルトの方が強そうだ‥‥。
「 誰にでも弱みってあるんですね」
と、マルクもしみじみ。
「円卓の騎士様も、無垢な子供と子猫の前には形無し、ですね」
マルティナ・フリートラント(eb9534)にまで言われてしまった。
だが、彼女はちゃんとフォローも忘れない。
「あるいは、子供にせよ子猫にせよ、突き放すことの出来ない心根こそが円卓の騎士様らしいというべきなのかもしれませんが」
「いえ、ただの猫好きですよ」
それに、親バカ?
「しっかし、騎乗で動物には慣れてっけど、さすがに生まれたばかりの猫はな〜」
短い手足に、細い尻尾。小さな耳が頭の脇に付いている。猫と言うより、まるでネズミだ。
「 ま、しゃあねー。で、何すりゃ良いんだ?」
「暫くは2〜3時間おきにミルクをあげる必要がありますの」
クリスは牛乳に卵黄と砂糖を混ぜて作ったミルクを先を撚った綿に含ませ、犬のお腹‥‥丁度乳首がある辺りにもっていく。
まだ目は開かないが、暖めたミルクの匂いを感じたのか、子猫はもぞもぞと動くと綿の乳首に吸い付いた。
「手ごたえのあるものを用意した方が良いかと思ったのですが‥‥わんこさんがいてくれて、良かったですね」
犬の腹を前足で押しながら懸命にミルクを飲む子猫の様子を見て、マルティナが安心したように微笑み、ミルクを含ませた綿を他の子猫の鼻先に差し出した。
「こらこら、喧嘩するなよ」
リドル・リンカー(eb6179)が差し出したミルクを、2匹の子猫が奪い合っている。
小さな爪の生えた前足で相手を押しのけ、我先に吸い付こうとしていた。
マルクが負けたほうの子猫を拾い上げ、自分の膝に載せてミルクをやる。
「くれぐれも『亡き猫』なんて事が無いように頑張りましょうね」
縁起でもない事を。
食事が済んだら、次は排泄。
母猫がいれば、舐めて綺麗にしてくれるのだが、人の手で育てる場合はそうもいかない。
生まれたばかりの子猫は自力では排泄も出来ないのだ。
クリスがお湯を含ませた布でそっと刺激してやる。
ちょろちょろと、オシッコが出てきた。
「へえ〜、そうやってやるんだ!」
ティズが感心して手許を覗き込む。
「でもさ、この子達、みんなメス? だって、付いてないし‥‥って、純真無垢な女の子に何いわすの!」
どか!
隣にいたマルクがどつかれる。
「あ、ゴメン!」
「いや、大丈夫です‥‥」
かなり痛いけど。
「あの、それは‥‥もう少し大きくならないとわかりませんわ」
「え、そうなの?」
目利きの専門家なら、瞬時に見分けられるそうだが、素人にはまず無理らしい。
「でも、これを2〜3時間おきに‥‥夜中もずっと、なんですね。母猫は偉いですね‥‥」
見よう見まねで排泄の手伝いをしながらマルティナが言う。
子供の世話には昼も夜もない。
担当時間外はしっかり休んで、仕事中に居眠りなどしてミルクを忘れたりする事がないように気を付けなければ。
仕事を引き受けた以上、自分の担当時間にきちんと働くのが、正しい責任の取り方だと、彼女は思う。
「んじゃ、俺はこの時間、見張りにでも立つかな」
翌日、全員が世話の仕方を一通り覚えたところでラーバルトが玄関前の歩哨に立つ。
「こんな完全武装のでかいドワーフがいたら、近寄りがたいよな」
確かに、魔除けにも良さそ‥‥げほげほ。
その前で、リドルとマルクが護衛を兼ねてエルを遊ばせている。
「ねーねー、こえ、できうー?」
葉を落とした木の枝に、板がいくつもぶら下げてある。
エルは足元に転がる小さな木の、ちょっとイビツなボール――それは、木の下に沢山転がっていた――を手に取ると、板のひとつを目掛けて投げた。
「えいっ!」
だが、それは目標の遙か手前で失速し、へろんと落ちる。
「あたうと、いいおとすゆんだよー。でもね、とーさまへたくそなのー」
それは多分、わざとじゃないかと思うんですが。
「よし、じゃあ私が‥‥」
リドルが手近の球を拾い上げ、投げる。
「あれ?」
当たらない。
今度はマルクが挑戦する。
コン!
「あたったー!」
カラン、コロン、コン、カラカラン。
板に当たった球が次々に跳ね返り、その度に軽い音をたてる。
「すごーい! もっともっとー!」
男性陣が外に出ている間、女性陣は子猫の面倒を見ていた。
「‥‥誰もお腹を壊してはいないようですね」
様子を見に来たボールスが、安心したように言う。
「うん、牛乳はよくないって聞いたけど、この子達は平気みたいだね」
と、ティズ。
ヤギチーズバターミルクの出番はなさそうだ。
「しかし、人も猫も、赤ん坊の世話は大変ですね。無事に育ってくれると良いのですが」
「ええ、本当は母乳をあげられると一番良いのですけれど‥‥」
クリスが悲しげに目を伏せる。
「生まれたばかりの子猫達を捨てるなんて」
「でも、そのお陰でこの子達に出逢えたのですから‥‥それに、皆さんをお呼びする口実にもなりましたし」
ボールスの胸元に光る十字架。
その鎖は、新しいものに替えられていた。
「‥‥ねえ、私達はちょっと休もっか」
ティズがマルティナの袖を引っ張る。
「え、でも‥‥どうしたんですか、急に?」
「良いから良いから!」
突然の提案に戸惑いながら、マルティナは引きずられるように部屋の外へ出る。
「あの‥‥?」
わけがわからずにいるマルティナをよそに、ティズは丁度通りかかったルルを呼び止めた。
「ねぇ、エルくんって、クリスにべったりだねぇ」
「うん、まあ、おこちゃまだし、しょーがないんじゃない?」
「ルルちゃん、ライバル出現だね。これじゃあ、愛人にもなれないよ?」
ニヤリと笑う。
「ちょ、アイジンってナニよ! ゲヒンな言い方しないでよねっ! ‥‥って、ライバルってナニ? そりゃチビさんもそのうちイイオトコになるだろな〜とは思うけどっ! あたしはボールス様一筋なんだからねっ!」
「だーかーら」
ティズが意味ありげに室内を指差す。
そこでは、子猫を挟んでボールスとクリスが穏やかに談笑していた。
しかも、二人っきり。
「‥‥ああ」
マルティナが何かを納得したらしい。
ルルも、漸く気付いた。
「だめーっ! 絶対ダメっ!!!」
断固妨害。ルルは矢のようにすっ飛んで行った。
そして最終日、何匹かの子猫の目が、うっすらと開き始めた。
薄い青、ベイビーブルーと呼ばれる、この時期の子猫独特の色だ。
「‥‥可愛いですね‥‥」
マルティナがその顔を覗き込む。
まだ見えてはいないようだが、順調に育てばすぐに歩き出し、走り回るようになるだろう。
「短い間しかお手伝い出来ないのが残念ですね」
「ボールス様、この子達に名前をつけてはいけませんかしら?」
クリスの提案に、ボールスは快く応じる。
「でも、この子達は皆同じような模様で‥‥区別が付くかどうか」
子猫達は、揃いも揃ってサバ白‥‥よく店で売られている猫と同じ模様だった。
クリスはそんな一匹を抱き上げる。
「あなたの名前はジニアよ。幸福という花言葉を持つ花の名前なの。あなたの生涯が幸福な物でありますように‥‥」
「では、この子は‥‥」
マルティナもお気に入りの子を抱き上げる。
「キルシュブリューテを縮めてキルシュ、などはどうでしょう? 春に咲く、異国のピンクの花の名だそうですが」
「じゃ、この子はビルケね。ゲルマン語で白樺って意味だよ」
「ESTEAL‥‥で、どうだろう」
「エミルにしておきましょうか」
「ん、にゃおん、だな。うん」
猫の名前は植物関係で統一していたのだが‥‥しかし、折角考えてくれた名前だ。
ボールスは異を唱えなかった。
「この子猫、貰っては拙いのかな?」
世話をするうちに愛着が湧いたのか、リドルが問う。
「構いませんよ。ただ、今はまだ無理ですが‥‥」
もう少し大きくなったら、また会いに来てほしい。
「それまで、責任を持って育てますから」