サンタクロースは葱に乗って

■ショートシナリオ&
コミックリプレイ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月24日〜12月29日

リプレイ公開日:2006年12月28日

●オープニング

 聖夜祭の前の夜、トナカイの引くソリに乗ったサンタクロースのおじいさんが、良い子にプレゼントを持ってくる‥‥。
 それは、キャメロットの一般的な家庭の子供なら、誰でも知っている、そして、期待している事だった。
 だが、田舎では少々事情が違う。
 地元の伝承やらデマやら思い込みやら、色んなものが解け合って、妙ちくりんな事になっている場合もあった。

 そしてここ、葱を生み出した巨匠の孫娘、ワンダが住む里では‥‥
「サンタクロースは葱に乗ってやって来るのよ!」
 そういう事になっていた。
 ただし、この里にサンタさんがやって来た――葱に乗って――事は、ない。
「ううん、違うわ。サンタさんはちゃんと毎年来てくれてるのよ。ただ、サンタさんは夜中に来るの。良い子は夜中になんか、起きてないでしょ?」
 だから、サンタさんの姿を見た者はいない、と、こういう訳だ。
 しかし、最近の子供は大人びていると言うか、妙に理屈っぽいのが多いと言うか、可愛い気がないと言うか‥‥
「そんなの、実際この目で見なきゃ信じられないね! どうせプレゼントなんか、父さんや母さんが用意するんだろ?」
 ああ、夢がない。

「だからね、子供達にサンタさんを見せてあげたいの!」
 キャメロットの冒険者ギルドで、相変わらず葱の着ぐるみに身を包んだ――当然、尻尾の中身はフライング葱だ――ワンダは力説する。
「私だって、この歳になればもう、サンタさんが本当はいないんだって事くらいわかってるわ」
 葱に乗っているという部分は否定しないのか?
「でも、子供達にはまだ、夢を持っていてほしいの。ほら、お誂え向きに真っ赤な葱もある事だし」
 ワンダは懐から毒々しいまでに真っ赤に塗られた細身のフライング葱を取り出す。
「サンタさんの赤い衣装に良く似合うでしょ?」
 似合うとか似合わないとか、そういう問題ではない気もするんですが。
「プレゼントと、大きな袋、それにまるごとサンタさんは私が用意するわ。勿論、お尻に穴の開いた、特別製を、ね!」

 ギルドの片隅で、その会話に耳を傾けていた男が一人。
 それは、葱の覇者になるという夢に破れ、それ以来何故かワンダにこっそりと付きまとっていた‥‥あの、赤フンだった。
 あれ以来、フライング葱の工房は厳重に管理され、もはや盗み出す事も叶わない。
 だが、彼は諦めたわけではなかった。
 ――チャンス到来――
 赤フンは物陰から飛び出すと、ワンダが手にした赤い葱を奪い取り‥‥刺した。
 公衆の面前で。
「ふんっぬおぉぉぉれは悟った! あの時の敗因はここにあったのだと!」
 赤フンは『ここ』を思いっきり強調する。
「だが、最早そんな事はどうでもいい!」
 どうでもいいんですか?
「俺は‥‥俺はっ! 生まれてから、ずっと、良い子だった! 近所の子供の手本となるような、素晴らしいお子様だったのだ!」
 それが、こんなになるなんて‥‥一体、何が?
「なのに、そんな良い子の俺に‥‥サンタさんは一度もプレゼントをくれなかった!!!」
 可哀想に。
「‥‥邪魔してやる。プレゼントなど、届けさせるものかぁっ!!!」
 赤フンは、泣きながら飛び出して行った‥‥。

●今回の参加者

 ea0061 チップ・エイオータ(31歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea0448 レイジュ・カザミ(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea5984 ヲーク・シン(17歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)

●サポート参加者

オーガ・シン(ea0717)/ 来生 十四郎(ea5386

●リプレイ本文

 ここはキャメロット郊外。
 葱サンタとして子供達に夢とプレゼントを届けるべく、勇者達が続々と‥‥とは言っても4人だけだが、集まってきていた。
「サンタクロースはいるよ。最近来てくれなくなって悲しいんだけど」
 まず登場したのが、黒ゴシック調の渋い服装に身を包んだレイジュ・カザミ(ea0448)。
 歴戦の勇者にして、世界で最も葱の扱いに長けた猛者のひとりとして名を馳せている、あの葉っぱ男だ。
 前回の戦いでも、最後に勝利を掴んだのは友の思いに支えられた彼の一撃であった。
 その宿敵、赤フン男との再戦。
 だが、今回は戦うだけではない。
 そう、葱とは、争い、戦い、憎み合う為の道具ではない。
 愛と友情を育むもの、それが葱。
 昔も葱で戦った者達と最後には友情を分かち合えた。
 今回も上手くいく筈だ。
「にゃっす! 葱少女隊のパラーリアだよぉ☆」
 パラーリア・ゲラー(eb2257)が、集まった仲間に元気に挨拶する。
「クリスマスだもん♪ みんなが幸せにだよぉ♪」
「うん、葱リストとして皆や赤フンさんに、幸せのおすそ分けができたらいーな」
 チップ・エイオータ(ea0061)にとっても、久々に故郷で乗る葱。
「じゃあこれ、レイジュさんにお願いするね」
 チップは、袋に入った何かモコモコな物をレイジュに手渡す。
「俺も、用意してき‥‥」
「にゃー! にゃにゃにゃーにゃにゃっ」
 赤いマフラーをたなびかせ、颯爽と登場したヲーク・シン(ea5984)は‥‥どこからともなく現れた黒猫の集団によって取り囲まれ、あっという間に連れ去られてしまった。
 そう、今回の任務には絵師が同行している。
 絵にも描けないもの、描いちゃったら報告書が発行禁止になってしまうようなモノは、画面に登場させてはならないのだ。
 そしてヲークは、マフラー以外何も身に纏っていなかった。
 例えそれが危険箇所自動防衛機能を完備しているとは言え、危険を冒す事は出来ない。
 ひとりはみんなのために。
 ここは報告書の発行を優先させて貰おう。
「じゃあ、僕が囮になるから、二人はその間に」
 レイジュは残されたヲークの荷物から何やら取り出すと、チップから渡されたものと一緒にサンタ袋に入れる。
「うん、レイジュさん、大変な役目だけどよろしくね」
「レイジュせんぱい、ふぁいと〜、なのっ☆」
 チップとバラーリアに見送られ、特製サンタ服を身に纏ったレイジュは飛び立つ。
 囮用の大きな袋を担ぎ、そして尻には‥‥勿論、葱。
 その為の『特製』なのだから。
「じゃあ、おいら達も行こうか」
「はいっ、チップせんぱい♪」
 二人も、本物のプレゼントを葱にくくりつけ、飛び立つ。
 一足先に葱の村へ向かったワンダとは、途中で合流出来るだろう。

「‥‥何が聖夜祭だ。何がプレゼントだ!」
 赤フンは、拳を固く握り締めると、空を仰いだ。
「俺には聖夜を共に過ごす相手もいない。サンタさんも来ない。聖夜祭など‥‥だいっきらいだーっ!」
 見上げた夕暮れの空が涙に滲む。
 葱サンタなど、絶対に許さん。
 ここで張っていれば、奴等は必ず現れる。
「‥‥来た!」
 真っ赤な空に、真っ赤なサンタ服。
 そこへ、更に朱を加えるべく、真っ赤な葱を刺した赤フンが飛び立つ!
 画面真っ赤で見にくい事この上もないが、葱を刺した姿をカモフラージュするには丁度良い。
 上空を挑発するように飛び回るレイジュめがけて、赤フンは一直線に突進した。
「レイジュ・カザミ! いつぞやの戦いは見事だった。だが! 今日の俺は今までとは違う!」
 そう、今日の赤フンは、刺していた。
「ふふ、また会ったね! 僕の名前を覚えていてくれたなんて、嬉しいよ」
 レイジュは余裕の微笑みを浮かべる。
「こんな風に会ったのも何かの縁。でも、この僕に2度勝てると思っているのかい?」
「俺は悟った! 葱の超神秘パワーを存分に引き出すには、やはり刺すしかないのだと! 今日の俺は無敵! プレゼントは俺のものだあっ!!!」
 両雄激突!
 長い前置きの間にすっかり暗くなった空に火花が散る!
 だが、何度目かの激突の後、赤フンは気付いた。
「貴様‥‥何故、本気で戦わん!? 貴様の力は、こんなものではない筈だ!」
 その時、葱の村の方角から、風に乗って子供達の歓声が聞こえてきた。
「まさか‥‥囮か!?」
「今頃気付いても遅いよ! 仲間がプレゼントを配り終わるまで、僕の相手をして貰うからね!」
 そう言うと、レイジュはぱぱっとサンタ服を脱ぎ捨て‥‥葉っぱ男に変身した!
「待て待て待て待て〜〜〜〜〜っ!!!」
 そこへ、ゴオォォォという唸りと共に、黒猫によって何処かへ連れ去られた筈のヲークが帰ってきた!
 彼は、どこから調達したのか、葱に乗っている。
「葉っぱ男がアリで、マフラー男がナシってのはどういう基準だーっ!?」
 それもそうだ。
 ヲークは、赤いマフラーをどう見ても不自然な形になびかせ、そのままの勢いで赤フンに激突した!
「うぐおっ!?」
 何故だ‥‥怒りのパワーでは決して負けてはいない筈なのに‥‥ふ、綺麗に、決まっちまったぜ‥‥。
 とか何とか思いながら、赤フンは推力を失い、静かに落ちて行く。
 その時、村の方角から一筋の煙が立ち上った。
「‥‥潮時だね」
 レイジュは持っていた袋を落ちていく赤フンに投げると、葱を捻り方向を変える。
「行こうか、ヲークさん」

「メリークリスマス♪ 良い子の皆にプレゼント持って来たよ!」
「にゃっす! 葱さんただよぉ☆ いい子にプレゼントをもってきたんだぁ♪ 」
 葱の村にある小さな教会の周囲を、葱サンタが飛んでいた。
「サンタだ!」
「葱サンタだ!」
「ほんとに葱に乗ってるー!」
 子供達は大喜びだ。
 だが、子供達は‥‥いや、大人も知らない。
 彼等が、実は葱に『乗って』はいない事を。
 そこは、ワンダ特製のサンタ服が見事に隠してくれていた。
 チップとバラーリアは地上に降り立つと、葱を抜いた‥‥勿論、その際にこっそり手早く拭き取る事も忘れない。
「さあ、並んで並んで。プレゼントは順番だよ」
「良い子は誰かな〜?」
 二人は並んでプレゼントを配る。
 真っ赤なサンタ服に身を包んだその姿は、とても可愛らしく、まるで小さな恋人同士。
 子供だけでなく、大人も周りを取り囲んで、ワイワイキャアキャア大騒ぎだった。
 そんな中、脇に立てかけてあった葱にこっそりと手が伸びる。
 葱を手に、藪に駆け込んだ人影の背には、赤いマフラーがたなびいていた。

 森に落下した赤フンは木々の枝に守られ、どうにか大した怪我もせずに地上に降り立つ事が出来た。
 そして、傍らに落ちている白い袋に目を留める。
 中に何か入っているらしい。
「‥‥何だ、これは‥‥?」
 中には、毛糸の帽子と、妙ちくりんな服。
 そして、カード。
「ふ‥‥ふふふざけるな! 何がパーティーだ! 何が招待状だ!」
 その文面を読んだ赤フンの顔が真っ赤に染まる。
「罠だ。罠に決まってる。俺に、俺にプレゼントをくれる奴など‥‥っ!」
 だが、妙ちくりんな服は置くとして(失礼)、手編みの真っ赤な帽子はふんわりと暖かい。
 顔を赤く染めたのは、怒りの感情ではなかったのかもしれない。

「‥‥赤フンさん、来ないね」
 村人の心づくしのパーティーもたけなわ、チップは心配そうに村の入口を見る。
 パーティーへの招待状と、プレゼント。
 あれを素直に受け取れないほど、赤フンの心は荒んでしまったのだろうか。
「いや‥‥来たよ」
 レイジュが立ち上がる。
 門の外の暗がりに、おかしな格好をした赤い男が立っていた。
「サンタからのプレゼントは気にいったかい?」
 赤フンは答えない。
 下を向いたまま、顔を赤らめている。
「過去の事は忘れて、今日は一緒に楽しもう! 貴方も今日から葱の友達さv」
 レイジュはその手を引いて、赤フンをパーティー会場の中心に引っぱり出す。
 トモダチ‥‥良い響きだ。
「さあ、葱サンタからもう一つ プレゼント、今夜のスペシャルゲストだよ!」
 チップが皆に紹介する。
「これは伝統的な、由緒ある衣装でね。異国では、こんな格好で聖夜を祝うんだ」
 赤い毛糸の帽子に、赤い褌をエプロンのように垂らしたモコモコの赤いツナギ服。
 赤褌とネイルアーマーと防寒服一式を、どう組み合わせたらこんな代物が出来上がるのかは想像もつかないが、まるごと赤フン(もどき)の作者の説明を純朴な村人達は信じた。
 そう、信じたのだ。
 何しろ、葱サンタを信じる人々だから。
「メリークリスマス、赤フンさん。今夜は一緒にパーティーを楽しもうね」
 チップが呆然としている赤フンにエールのカップを手渡す。
「帽子、気に入ってくれたかな。葱の刺繍のところは友達の十四郎さんが手伝ってくれたんだ。ほら、こないだ戦った人だよ。ところで‥‥お名前は何ていうの?」
 チップの問いかけに、赤フンは小さな声で呟いた。
「‥‥レッド・クリムゾン‥‥」
 名前まで真っ赤っかだ。
「今まで、誰も俺の名前など気にかけてくれなかった‥‥俺の素顔も、誰も見ようとはしてくれなかったのに‥‥」
 赤フン‥‥いや、レッドはそう言うと、赤いマスカレードを外した。
 意外にも、いい男だった。
 そう、女性が騒ぐようなイイオトコに限って、変態だったり○○だったりするのは悲しい現実。
「そだそだ、あたしからも贈り物をあげるね♪」
 パラーリアが手作りの革の上着を手渡す。
「寒いカッコして、風邪ひかないように、ねっ」
 そして、傍らのチップのほうに向き直る。
「えとえと、チップせんぱい、こないだは素敵なドレスをありがと〜なのっ♪」
 ――ちゅっ☆
「みんな、ご苦労様。これはあたしからの、ほんのお礼よ。気に入ってくれると良いんだけど」
 ワンダが小さな包みを冒険者達に手渡した。
 それは、葱サンタへのクリスマスプレゼント。

 めり〜くりすます♪ みんなも幸せになろ〜♪

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