【物資補給阻止】堕ちた騎士道
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:7人
サポート参加人数:3人
冒険期間:01月01日〜01月06日
リプレイ公開日:2007年01月08日
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●オープニング
●止まらぬ流れの中で
「ラーンス様!」
深い森の中を捜索していた騎士は、見つけ出した円卓の騎士を呼んだ。ラーンス・ロットは振り向くと共に深い溜息を吐く。
「またか‥‥いくら私を連れ戻そうとしても無駄です」
「連れ戻す? 私どもはラーンス様と志を同じくする者です。探しておりました。同志はラーンス様の砦に集まっております」
「砦だと!? 志を同じく?」
端整な風貌に驚愕の色を浮かべて青い瞳を見開いた。
騎士の話に因ると、アーサー王の一方的なラーンスへの疑いに憤りを覚えた者達が、喜びの砦に集まっているという。
喜びの砦とは、アーサー王がラーンスの功績に褒美として与えた小さな城である。この所在は王宮騎士でも限られた者しか知らないのだ。
状況が分らぬままでは取り返しのつかない事になりかねない。ラーンスは喜びの砦へ向かった。
――これほどの騎士達が私の為に‥‥なんと軽率な事をしたのだ‥‥。
自分の為に集まった騎士の想いは正直嬉しかった。しかし、それ以上にラーンスの心を痛めつける。
もう彼らを引き戻す事は容易ではないだろう。
「ラーンス様、ご命令を! どんな過酷な戦となろうとも我々は立ち向かいましょう」
――戦だと? 王と戦うというのか?
ラーンスは血気に逸る騎士達に瞳を流すと、背中を向けて窓から覗く冬の景色を見渡す。
「‥‥これから厳しい冬が訪れる。先ずは物資が必要でしょう。キャメロットで食料を補給して砦に蓄えるのです。いいですね、正統な物資補給を頼みます」
篭城して機会を窺う。そう判断した騎士が殆どであろう事に、ラーンスは悟られぬように安堵の息を洩らした――――。
「アーサー王、最近エチゴヤの食料が大量に買い占められていると話を聞きました。何やら旅人らしいのですが、保存食の数が尋常ではないと」
円卓の騎士の告げた報告に因ると、数日前から保存食や道具が大量に買われたらしい。勿論、商売として繁盛した訳であり、エチゴヤのスキンヘッドも艶やかに輝いていたとの事だ。
「‥‥王、もしやと思いますが、ラーンス卿の許に下った騎士達が物資を蓄えているのでは‥‥」
「あの男は篭城するつもりか‥‥」
苦渋の思いに眉を戦慄かせるアーサー王。瞳はどこか哀しげな色を浮かべていた。そんな中、円卓の騎士が口を開く。
「冒険者の働きで大半は連れ戻しましたが、先に動いた騎士の数も少なくありません。篭城するからには戦の準備を進めていると考えるのは不自然ではないでしょう」
――戦か‥‥本気なのか。出来るなら戦いたくはないが‥‥。
「ならば物資補給を阻止するのだ! 大量に買い占めた者から物資を奪い、可能なら捕らえよ!」
難しい命令だった。先ずはラーンスの許に下った騎士か確かめる必要があるだろう。全く無関係な村人や旅人が聖夜祭の準備で買う可能性も否定できない。保存食というのが微妙だが‥‥。
それにこれは正しい行いなのか? 否、そもそも王を裏切ったのだから非はラーンス派にある。王国に戦を仕掛けるべく準備を整えるとするなら、未然に防ぐのは正当な行いと言えなくもない。
――なぜ戻って来ないラーンスよ。おまえの信念とは何だ? なぜ話せぬ‥‥。
聖夜祭の中、王国の揺れは終わりを迎えていなかった――――。
円卓の騎士ボールス・ド・ガニスにその情報がもたらされたのは、それから数日後の事だった。
ここ数日、キャメロットの北方にある村が賊に襲われ、食糧を奪われる事件が相次いでいる、と。
賊達は倉を襲い、冬に備えて蓄えられた貴重な食糧を略奪し、北へ去って行くという。
「村人の話では、彼等は立派な馬に乗り、鎧こそ身につけていませんでしたが、武器も身なりも、とても賊とは思えない、立派なものだったそうです」
調査に向かった部下のひとりが報告する。
「まるで、時折視察に訪れる、お城の騎士様のようだったと、村人の一人が」
黙って報告を聞いていたボールスは、小さく溜め息をつくと、苦々しげに言葉を吐き出す。
「‥‥とうとう、山賊に成り下がりましたか‥‥」
ラーンスに味方しようと喜びの砦へ向かった騎士の数は、相当なものだった。
彼等を養うとなれば、いくら砦に蓄えがあったとしても、いつかは底を突く。
物資の補給が必要になった時に彼等がどんな手段を取るか、ボールスはそれを案じていた。
正当な手段ならまだ良い。
だが、ラーンスの元に集う者達全てが、志し高く高潔な人物ではないだろう事は、一連の動きを見ていれば容易に想像出来る。
実際、村を焼き払ったり、女性に暴行を働くような事も起きているという。
「ご苦労でした。引き続き調査をお願いします」
ボールスは部下を下がらせると、老執事を呼んだ。
「また、暫く留守にします。後はいつものように」
「‥‥止めに行かれるのですかな?」
ボールスは固い表情で頷く。
民を守るべき者が、一体何をしているのか。
ラーンスが命じたとは思えない。
戦の準備をしている、とも。
だが、彼が望むと望まざると、事態は確実に悪化の一途を辿っていた。
「これ以上、籠城を長引かせる訳にはいきません。正当なものも含め補給ルートを調べて、物資は全て押さえます」
とは言え、ラーンスの従弟であるボールスに対して、彼との繋がりを疑う者も少なくなかった。
部下を引き連れて行動すれば、あらぬ疑いを持たれかねない。
「ルルだけ、連れて行きますね」
ボールスは手早く荷物を纏めると、伝令役のシフールを伴い、鎧も付けず殆ど普段着とも思える軽装で自宅を後にした。
「ギルドに寄って行きます。ついでに、エルの事も頼んできますよ」
●リプレイ本文
「栄誉あるキャメロットの騎士様が本来守るべき民から食物を奪おうなどと、どうして許されましょう? 神もアーサー王も、ついでに私も許しませんっ」
出がけにメロディーの効果を受けたせいか、ルル・ルフェ(eb6842)の気分は思い切り高揚していた。
高揚しすぎて、糧食を忘れる程に。
同じくサラ・フランティス(eb9807)も保存食の用意を忘れていたが、幸い多めに用意していた導蛍石(eb9949)が二人に快く分けてくれた‥‥勿論、実費は徴収したが。
「そう言えば私、ボールス様のペット様と同じ名前のようですね」
殿を進むボールスを振り向いたルルの言葉に、もう一人のルルが猛然と突っかかる。
「あたしはペットじゃないわっ! ボールス様のコイビトで片腕で、ナカマなんだからっ!」
そんな会話を聞き流し、ボールスは前を行くイーシャ・モーブリッジ(eb9601)の他人をはねつけるような背中を見つめていた。
ギルドから渡された書類に、彼女は家が没落した際に娼妓になる道を選んだとある。
ボールス自身、男でなければ‥‥そして、運良く従兄に拾われなければ、国を追われた時に同じ道を歩んでいたかもしれない。
だから、それが間違っているとは言えない。
間違いだとしても、それ以外に選択の余地がない、そんな社会を作り出しているのは自分達だ。
彼自身は妻一筋だが、同じ男性として言える立場ではないし、何を言っても白々しく聞こえるだけだろう。
「ちょっと、難しい顔して何考え込んでるの?」
スズカ・アークライト(eb8113)が顔を覗き込む。
「まさか、砦に行ってラーンス卿と話をしようなんて思ってるんじゃないでしょうね? 貴方が今動いたら、どちらも疑心暗鬼になるだけよ?」
「しませんよ、そんな事」
ボールスは笑って答える。
彼は今、直接ではないものの、恩人に牙を剥こうとしていた。
その日の夜、野営地に報告が入った。
山賊騎士達はそれまでに奪った物資を山積みにした荷馬車を連ねた補給部隊と共に、ゆっくり北に向かって移動しているらしい。
「その途中の村を襲うつもりのようです。恐らく、荷馬車の空きから見てそこが最後になるかと」
部下は、地図の一点を指差した。
「急げば、明日の夜には先回り出来そうですね」
「では、今から?」
「‥‥いや、今日は休んでおきましょう。明日は恐らく夜通しで見張る事になるでしょうから」
「‥‥なんとも見下げ果てた話さね」
見張りついでに二人のやりとりを聞いていたイレクトラ・マグニフィセント(eb5549)が呆れたように呟く。
「軍資金が足りたとしても強奪するのだろうな、そういう連中は」
「恥ずかしながら、それが騎士を名乗る者の‥‥一部ではありますが、実状です」
「そんなものを、何故わざわざ私ら冒険者に? 秘かに片付けてしまえば知られずに済んだものを」
確かにそうだ。
だがボールスは、敢えて冒険者達に協力を要請した。
その意味を、戦いの中で感じ取ってくれる事を期待して。
「‥‥海の騎士としての誇りと魂を叩きつけてくるよ、ボールス卿」
肩をポンと叩いて、イレクトラは見張りに戻って行った。
「じゃあ、今夜はゆっくり休んで良いんだね?」
計画を聞いたアルディス・エルレイル(ea2913)が、得意の竪琴を奏で始める。
「ねえ、発泡酒持ってきたんだけど、皆で飲まない?」
だが、スズカのその提案はボールスに止められた。
野営に危険は付き物、いざという時に酔って判断が鈍っては命に関わると言うのだ。
「ええ? こんなの酒のうちに入らないわよ」
「戦いでは、僅かなミスが生死を分けます。あなた自信が危うくなるならまだしも、仲間を危険に巻き込んだらどうしますか?」
「‥‥円卓の騎士って、ホント苦労性のカタブツなんだから!」
スズカはブツブツと文句を言いつつも、発泡酒を引っ込める。
「ゆっくり休むには、心安らぐ音楽さえあれば充分ですよ」
アルディスの奏でる静かな音色が、野営地に広がっていった。
翌日。
問題の村を目前にして、ボールスは補給部隊を潰して来ると言い残し、一人で消えてしまった。
部下を伴っている様子もないのだが‥‥まあ、心配する事はないだろう、多分。
それよりも自分達の心配が先だ。
ここからは冒険者達だけで任務を遂行しなければならない。
夕刻近く、村に辿り着いた彼等はまず、村人達に事情を説明して回る。
「村人様達は、一箇所に集まって頂いたほうが良いでしょうか?」
ルル・ルフェの提案で、村人達には広場に面した数件の家に集まって貰う事にした。
食糧倉庫とは丁度反対の位置だ。
ここなら倉庫を監視しつつ、村人達の安全も守れる。
広場を挟んでいるので、戦う為のスペースも充分だった。
治安を守る騎士団の目が行き届かず、自分の身は自分で守るしかない辺境の村らしく、周囲は柵に囲まれ、出入り口はひとつしかない。
その門から続く道に、蛍石が罠を仕掛けて回った。
スズカに借りたロープを地面すれすれに張っただけの簡単なものだったが、相手が油断していればこんなものにも引っかかってくれるだろう。
そして真夜中。
高い木の上で見張りをしていたアルディスが物音を聞きつけた。
荷馬車が近付いて来る。
どうやら、それに乗せて略奪品を運ぶつもりらしい。
数は‥‥少なくとも5人。
恐らく、他にもどこかに潜んでいる筈だ。
アルディスから連絡を受けたスズカと蛍石が倉庫の前で身構える。
反対側では民家を背にしたイレクトラとイーシャが弓に矢をつがえた。
その後ろにはルルとサラ、そして木の上にはアルディス。
自分の手さえ見えないような真っ暗な中で、果たして効果的な攻撃が出来るかは疑問だったが、待ち伏せている以上、明かりをつける訳にもいかない。
‥‥ところが。
門の辺りが突然明るくなる。
賊の一人が魔法を使ったのだろう。
「うわ、丸見え」
アルディスが呆れ顔で呟いた。
どうやら賊達は最初から隠れて事を行うつもりはないようだ。
寧ろ、戦い‥‥いや、虐殺を楽しむつもりなのか?
「誇りある騎士が山賊だなんて‥‥ダメなんだよ? 」
アルディスは木の上から魔法を唱える。
「ムーンアロー! あのライトを持ってる奴に当たれ!」
淡い光の矢が闇を裂いて飛ぶ。
それを合図に、二人の射手も一斉に弓を射かける。
突然の攻撃に、賊達は浮き足立った。
敵の存在に気付いた何人かが剣を抜いて向かって来るが、罠に足を引っかけ無様にひっくり返った。
「さ〜て、最近ストレスが溜まってたからね〜。思いっきり鬱憤晴らしさせてもらうわ」
スズカが不敵な笑みを湛えて、ゆらりと立ち上がる。
「あんたらみたいなのが何にも考えてないから、一般人が迷惑するのよ!」
スズカは何やらえらい剣幕で賊達に突っ込んで行った。
「もう! 侍も騎士も朴念仁ばっかりなんだから〜っ!!」
どうやら失恋の痛みを怒りに変えて、黒い炎が腹の底から燃え上がっているらしい。
彼女を止められる者は誰もいなかった。
「相手をしてもらうぞ、騎士ども。 戦いの先にある、至高の輝きを、この私に魅せてみよ!」
蛍石が呼ばわるが、山賊と堕した騎士達に輝きなどある筈もない。
「少林寺拳流、蛇絡!」
相手を転ばせ、気絶を狙う。
だが、相手は腐っても騎士、そう簡単には体勢を崩せない。
「ふ、そう来なくてはな。だが、私は力の続く限りこの剣を振るい続ける!」
蛍石は吠えた。
「才なく誇りもなく、人を苦しめる愚物。相応の惨めさに沈んで散れ!」
前線の二人の活躍で戦いは有利に進んでいるかに見えた。
だが、後方で援護する者達の存在に気付いた賊が彼等に向かって来た。
「来たね。あたしが出る。援護を頼むよ」
イレクトラは隣で弓を構えるイーシャにそう言うと、弓を剣に持ち替えて前に出た。
「軍船乗りとは国を守るものだ、その誇りを見せ付けてくれる!」
その後ろでは、サラが弱った敵にコアギュレイトを使い続けていた。
身動き出来なくなった所を、アルディスがロープで簀巻きにする。
――その時。
「動くな! 武器を捨てろ!」
賊の一人が手に火の付いた松明を持ち、いつの間にか倉庫の入口に立っていた。
「動くなよ? 動いたらこいつに火を付けるぜ?」
その距離はサラの魔法の射程外だった。
「武器を捨てて、仲間の縄を外せ。さっさとしろ!」
だが、賊は咄嗟に木の上に隠れ、狙いを定めるアルディスの存在には気付いていないようだ。
「ムーンアロー! 松明を持ってる、あの男に当たれ!」
淡い光の矢が男の手に当たり、松明が転がる。
その隙に、イーシャは素早く矢をつがえ、放った。
放たれた矢は弧を描いて飛び‥‥
「‥‥当たった!」
それは、まぐれかもしれない。
しかし、運も実力のうちだ。
この戦いで、彼女は何を感じたのだろうか。
「‥‥傍観も、立派な共犯ですよ」
門の外で成り行きを見守っていたクレリックの背後から、穏やかな声がした。
「‥‥ボールス卿!?」
ボールスは抜き身の剣を下げている。
「い、いや、私は何も‥‥!」
「‥‥まあ、良いでしょう、一人位は報告する者が必要でしょうし」
ボールスは剣を納めて言った。
「戻って、ラーンス卿に伝えなさい。これ以上籠城を続け、混乱を助長させるつもりなら‥‥私はあなたの敵に回ると」
「‥‥ええと、それで‥‥本当に潰して来たんですか?」
賊の捕縛が終わった頃に姿を現したボールスに向かって、冒険者達が恐る恐る訊ねる。
「はい、ちょっと首謀者の首を刎ねてきました」
「ええっ!?」
ボールスは恐ろしい事を爽やかな笑顔で言ってのけた。
「まあ、応急処置はしておきましたから、そのうち繋がるでしょう」
別の意味で首が繋がるかどうかはさておき。
「さて、奪われた物資を返しに行きますよ。手伝ってくれますよね?」
‥‥夜通し働いてクタクタなのだが‥‥誰も、断る事は出来なかった。