蘇った男

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:7人

サポート参加人数:7人

冒険期間:01月21日〜01月26日

リプレイ公開日:2007年01月30日

●オープニング

 ひとりの冒険者が、とある任務の最中にモンスターに襲われ、命を落とした。
 しかし、彼は蘇った。
 とは言っても、ズゥンビやレイスなど鮮度のよろしくないモノとしてではない。
 ピチピチフレッシュなまま、文字通りに生き返ったのだ。
 そして、無事に生還した彼の眼前に突き付けられたものは‥‥。

「いやあ、仲間が教会に運び込んでくれてさあ、こうして無事に生き返ったワケなんだけどね」
 蘇った男は、ギルドの掲示板に張り出された依頼を品定めしながら、応対に出た受付係に言う。
「その治療費っての? それがまあ、バカみたいに高くてさあ、皆が立て替えてくれたみたいなんだけど、これからそれを返さなきゃいけないワケよ。目が覚めたら、請求書がババーン、ってな、はっはっは〜」
 男は他人事のように言うと、陽気に笑った。
 彼は宵越しのゼニを持たないタイプらしい。
「だから、なんかこう、パァーっと派手に稼げる仕事、ないもんかね?」
「でも、報酬の良い仕事はそれなりに危険ですよ? また教会の世話になるような事でもあれば、借金を返すどころでは‥‥」
 受付係の言葉に、男はちっちっちっと人差し指を振った。
「それがね、俺、蘇ってから、なんかパワーアップしたって言うの? なんか超人的な力を身に付けちゃったって言うか、なんかそんな感じでさ、負ける気がしないんだよね。今なら円卓の騎士だって手玉に取れそうな感じ?」
 男はそう言うと、手近の依頼書を一枚、ひっぱがした。
「そんなワケでさ、この仕事、俺ひとりで片付けるから、報酬8人分よろしくなっ!」

 止める間もなく出て行った男の後ろ姿を呆然と見送りながら、受付係は今までそこに張られていた依頼の内容を思い出してみる。
 確か、雪に閉ざされた山から下りてきて、村人や家畜を襲うモンスターを退治してくれという、シンプルな依頼だった筈だ。
 数は3匹。
 腕の良い冒険者なら、ひとりで立ち向かう事も不可能ではないだろう。
 だが、そのモンスターとは‥‥トロル。
「あの人、ファイター‥‥ですよね?」
 トロルは火傷以外のダメージは短時間で治癒してしまう。
 あの男がいかに良い腕を持っていたとしても、これは分が悪いだろう。
 本人がまた教会に運ばれ、借金が増えるのは構わない。
 だが、仕事が失敗に終わればギルドの信用に関わる大問題だ。
「すみません、誰かあのお調子者に手を貸してやってくれませんか!?」

●今回の参加者

 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3179 ユイス・アーヴァイン(40歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3970 ボルジャー・タックワイズ(37歳・♂・ファイター・パラ・ビザンチン帝国)
 ea9027 ライル・フォレスト(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9951 セレナ・ザーン(20歳・♀・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb5295 日高 瑞雲(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ルシファー・パニッシュメント(eb0031)/ ガブリエル・シヴァレイド(eb0379)/ 紗夢 紅蘭(eb3467)/ フィーネ・オレアリス(eb3529)/ ベルトーチカ・ベルメール(eb5188)/ 龍一 歩々夢風(eb5296)/ イーシャ・モーブリッジ(eb9601

●リプレイ本文

「こんにちは、ギルドから派遣されて参りました、ジークリンデと申します」
 フライングブルームを両手に、ジークリンデ・ケリン(eb3225)が微笑む。
 出迎えた村人達は予期せぬ綺麗所の訪問に戸惑いを隠せなかった。
「あのォ‥‥俺達、トロルを退治してほしいって頼んだんだけど‥‥?」
「ええ、勿論その為に来ましたのよ?」
 後から仲間達が追いついて来る筈だと聞き、村人達はほっと胸をなで下ろす。
 彼等は知らないのだ。
 目の前でたおやかに微笑むこの女性の怖ろしさを‥‥。
「被害の状況と、トロルが現れる場所などをお教え頂けますでしょうか?」
 ジークリンデの問いに、村人が答える。
「ああ、この裏の山が奴等の住処らしい。この間は家畜小屋を壊されて、羊や豚を持ってかれた。人に被害が出る前に、何とかして欲しいんだが‥‥」
「わかりました。それから、この辺りで‥‥大きな炎を使っても良いような場所はありますかしら?」
「炎って‥‥お嬢さん、何する気だ? まあ、燃えても良いっつーか、燃やして欲しいモンはあるけどな」
「ああ、まだ少し早いが、畑を焼いて貰うのも良いかもしれねえな」
 この村では春になると畑に枯れ残った雑草を焼き払い、肥料にしていた。
 そこへ誘い出せば、ファイヤーボム超越も怖くない。
「楽しみですわね」
 ジークリンデはにこやかに微笑んだ。

 一方こちらは後発組。
「一人で行かれた戦士の方も心配ですけれど、村の方々も心配ですわね」
 雪の中を歩きながらセレナ・ザーン(ea9951)はそう言うが、恐らく他には誰も、蘇った男の心配などしていないだろう。
 いや、ある意味心配ではあるのだが‥‥。
「今回もお守りの依頼なんですよね〜?」
 と言うユイス・アーヴァイン(ea3179)の言葉が全てを表していた。
 頼むから余計な事をして被害を拡大させないでくれ。
 男が村に着く前に、追いつければ良いのだが‥‥。
 ‥‥と、先頭を歩くライル・フォレスト(ea9027)が何かを見付け、立ち止まった。
「あれは‥‥」
 行き倒れ?
 冒険者達が慌てて駆け寄る。
 倒れていた男は‥‥ギルドで聞いた蘇った男の人相風体とそっくりだった。
 どうやら、ろくな準備もせずに飛び出し、ここで力尽きたらしい。
 とは言え、まだ息はある。
「‥‥仕方のない奴だな‥‥」
 呆れ顔で言いながら、ルシフェル・クライム(ea0673)がリカバーをかけ、蘇った男は再び蘇った。
「‥‥はっ! お、俺は‥‥また死の淵から蘇ったのか!? おお、この漲るパワー! 俺は無敵‥‥」
「この、ど阿呆っ!」
 ガツン!
 浮かれる男の後頭部に、日高瑞雲(eb5295)の怒りの鉄拳が炸裂した。
「てめーみてぇなアホのせいで、どんだけの人間が迷惑してると思ってんだ!?」
 ライルが依頼を受けた経緯を男に話して聞かせるが‥‥。
「そいつは迷惑をかけたな。だが、心配は無用! トロルなどこの俺の手にかかれば赤子も同然! あんたらはこの俺の超越的な力を目の当たりにする好機を得たと思って、じっくり見学してくれれば良いや。あ、報酬は全部、俺のモンな?」
 ダメだこりゃ。
「そんなに自分が強いと思うなら、見せてみろよ、あんたの実力とやらを」
 ライルの言葉に、男は鼻を鳴らした。
「ダメダメ、あんたじゃ相手にならないよ。せめて円卓の騎士でも連れてきてくれなきゃ」
「デカい口は、俺を倒してからきいて貰おうか!」
 ライルは問答無用で男に斬りかかる。
 男は流れるような華麗な動作でその攻撃を避け、目にも止まらぬ速さで反撃を仕掛けた‥‥つもりだった、らしい。
 だが、現実は‥‥ライルの攻撃をかわすだけで手一杯、とても反撃に転じる余裕などなさそうだ。
「お、おかしい! こんな筈では‥‥っ!」
 男は、あっという間に追い詰められた。
「それがてめーの実力なんだよ、わかったかこのタコ!」
 瑞雲の罵声が飛ぶ。
「自分の実力がわかったなら、後は私達に任せてほしい。失礼だが、貴殿にトロル退治は‥‥無理だ」
 ルシフェルの言葉に、男はいきり立った。
「そんな筈はないっ! 伝説でも昔話でも、死の淵から蘇った英雄は超人的な力を‥‥っ!」
「てめーは英雄じゃねーから。つーか、そんなモン真に受けるな阿呆。ったく、てめーの仲間がてめーみてえなアホを蘇生させんのにどんだけ苦労したと思ってんだ?」
「折角仲間に助けてもらった命だ。簡単に投げ出すような行動は、彼等も良くは思わないだろう。‥‥勿論、報酬の分け前はきちんと渡す。それで良いな?」
 ルシフェルの問いに、男は答えなかった。
「それじゃ、行こうか!! トロルが待ってるぞ!!」
 ボルジャー・タックワイズ(ea3970)が元気に歌いながら歩き出す。
「今度の相手はトロールだ〜、焼かなきゃ傷は元通り〜♪  焼かなきゃ続くぞ、戦いが〜、パラの戦士はやっつける〜♪」

 広い畑のど真ん中に、縄で繋がれた羊が一頭。
 先行したジークリンデと合流した冒険者達は、雪を積み上げた影に隠れてその様子を窺っていた。
 羊を囮にトロルを誘き出そうという作戦だったが‥‥
「は〜てさてさて〜、うまく引っかかるでしょ〜か〜?」
 ユイスはブレスセンサーのスクロールを広げる。
 村人の話では、前回奪っていった獲物もそろそろ尽きる頃だという。
 罠に気付いて警戒するような頭もなさそうだ。
 ‥‥ほら来た。
 夕暮れの迫る中、山裾に広がる森から現れた3つの大きな影を、目の良いライルがいち早く見付ける。
「さてさて〜、派手にずばーっとやっちゃってくださいな〜」
 ユイスは希望者にスクロールを使ってバーニングソードの効果を付与した。
「おいらはまだいいや!! 焼かずに戦ってみたいからね!!」
 ボルジャーは敢えて炎を使わずに戦いを挑むつもりらしい。
「トロルが強いか、パラの戦士が強いか勝負だ!!」
「わたくしも、結構ですわ」
 セレナも魔法の付与を辞退した。
「魔法に頼らずともトロルと戦える重武装をして参りましたので。 トロルが受けた傷を一瞬で治せるとしても、瀕死を超える打撃を与えれば倒せるはずです」
 セレナは巨大な剣を両手に構え、一歩前へ踏み出す。
 しかし、重装備の代償として、セレナの動きは鈍い。
 ただでさえ動きの制限される雪の積もった畑では、移動するだけでも一苦労だった。
 その間に、身軽な者達がトロルに迫る。
「さ〜て、華麗にぶっ倒してやろうじゃねえか!」
 瑞雲がトロルの巨体にスマッシュEXを叩き込んだ。
「図体がデカいだけあって、流石にニブいな。見てな、ちゃちゃっとぶった斬ってサクっと終わらせるぜ!」
 雪山の影からその様子を見ている筈の男に言う。
 だが、男はそこにはいなかった。
「そうさ、さっきは相手が悪かったんだ! 相手が強ければ強い程、俺も強くなる! 俺の可能性は無限大! 英雄は逆境にあってこそ輝きを放つのだ!」
 もう、どうしようもない。
 囮の羊を安全な場所へ避難させようとしていたライルの脇を走り抜け、男は一直線にトロルに突っ込んで行った。
 先程の模擬戦の様子から見て、トロルの攻撃をまともに食らえば再び教会のお世話になる事は間違いない。
「かぁくごぉおお‥‥おっ!?」
 剣を振り上げた瞬間、男の体が硬直する。
「‥‥大人しく見ていろと言うのに! また借金を増やすつもりか!?」
 コアギュレイトで男を拘束したルシフェルが、トロルとの間に割って入り、左手の盾で攻撃を受け止めた。
 そこへ、漸く追いついたセレナが渾身の一撃を叩き込む!
 トロルは耳障りな悲鳴を上げると雪の中に倒れ込んだ。
 もう再生はしないようだが、ユイスが念の為にファイヤーボムのスクロールを使う。
「お守りと言うのは、本当に大変そうですね〜」
 硬直したままの男を片付けるライルに向かってクスリと笑いかけた。
 その向こうでは、ボルジャーがひとりトロルに立ち向かう。
「行くぞ!! パラスマーッシュ!!」
 トロルの攻撃は直線的だ。
 一撃が大きいとは言え、当たらなければどうという事もない。
 ボルジャーは相手の攻撃を巧みに避けながら攻撃を続けた。
 一撃で重傷クラスのダメージを与えている筈なのだが、あっという間に傷口が塞がってしまう。
 それでもお構いなしに、ボルジャーはライトハルバードを振るい続ける。
「まだまだ!! もうちょっとお願い!!」
 たっぷり堪能するまで、哀れなトロルは刻まれ続けた‥‥。

「‥‥馬鹿は死ななきゃ治らねえとはよく言うが‥‥てめーの馬鹿は死んでも治らねえな。つーか、死ぬ前より酷くなってんじゃねーか?」
 男の生前‥‥いや、今も生きているが、それがどうだったのかは知らない。
 だがきっと、今より多少はマトモだった筈だ‥‥と、思いたい。
「でも、俺の実力はこんなもんじゃない筈なんだ! あんたらが邪魔するから‥‥!」
 まだ、わかってないらしい。
「根拠のない強さなど無い。全てはその者の鍛錬の結果だ。夢から覚めたら急に超人的な力が身に付いたなど、ある筈がない」
 ルシフェルが言う。
「それに、如何に実力があったとて、仲間との協力というものは忘れてはならないだろう。 自分一人でやれるというのは傲りであるな」
「今回もし一人だったら、どうなっていたと思う?」
 と、ライル。
 教会に運んでくれた仲間や、ギルドに迷惑をかけた自覚があれば良いのだが。
「夢が見たいなら、お見せしましょうか〜?」
 ユイスがイリュージョンのスクロールを引っぱり出し、何やら恐ろしいモノを見せようとする。
 本人曰く、男の人生の根本にある、強さと言うモノが単なる幻影に過ぎない事を自覚させ、その自信を完膚なきまでに叩き潰してしまうようなモノ‥‥らしい。
 が、流石にそれは人格を破壊しそうだ。
「では、村の皆さんの許可も頂いておりますので‥‥」
 ジークリンデがにっこりと微笑む。
「『本物』をご覧頂きましょうか」
 そして、まっさらな畑の真ん中に直径100メートルの巨大な火球を撃ち込んだ。
「子供の出る幕はないと思うのですけれどいかがでしょう?」
 焼き畑、完了。
 洗脳も、完了?