秘密基地を救え!
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:01月23日〜01月28日
リプレイ公開日:2007年01月31日
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●オープニング
ボク達の秘密基地は、森の中のでっかい木。
夏の間は枝の上に作った小屋で過ごす事もあるけど、今は寒いからね。
木のウロって言うんだっけ、中が空洞になっててさ、入口は狭いけど、中けっこう広くて暖かいんだ。
子供なら10人くらい、平気で入れる。
ボク達は毎日、そこで遊んでた。
だけど――。
「ぼくのおかし、だれかとったー!」
チビが泣き出した。
しばらく降り続いた雪が止んで、久しぶりに秘密基地に行ってみたら、隠しておいたお菓子がなくなってたんだ。
ボクは皆に聞いてみたけど、誰も知らないって言うし、ウソはついてないと思う。
だって、雪の上に人間でも獣でもないような足跡があったし、枝の上に組んだ小屋も壊されてたんだ。
皆で一生懸命作った小屋を、仲間が壊す筈ないだろ?
ボク達は、犯人を確かめる為に、新しいお菓子を基地の中に置いて、こっそり見張ってみる事にした。
ほら、犯人は必ず現場に戻って来るって言うしね。
そしたら、来たんだ。
ズルそうな、変な顔した、汚い小人みたいな奴等。
あれ、多分、ゴブリンって奴だ。
基地の周りにあった足跡は、2匹か3匹分だと思うんだけど、今度はゾロゾロと、10匹くらい!
んー、もうちょっと、少なかったかもしれないけど。
そして、そいつらは中に入ってっちゃった。
それっきり、出てこない。
「ボク達の基地を、乗っ取るつもりか‥‥!?」
許せない。
あんな奴等、追い出してやる。
武器さえ持ってれば、あんなの簡単にやっつけられるさ‥‥!
「こらーっ! そんな物を持ち出して、どうするつもりだ!」
次の日、家からこっそり剣を持ち出そうとした仲間のひとりが、親に見つかっちゃった。
そいつが全部しゃべちゃったせいで、ボク達は全員、お説教。
「子供だけでモンスターを退治しようなどと、馬鹿な事を考えるんじゃない!」
木刀でお尻を叩かれた。
「しかし、森にモンスターが出ると言うなら、退治せにゃならんな。場所はどこだ? 教えなさい」
教えちゃったら、秘密じゃないじゃん。
「おじさん、合言葉は?」
言えなきゃ、教えない。
仲間以外には、絶対に教えるもんか。
良いさ、大人はどうせ、何でもすぐ忘れちゃうんだ。
そしたらまた、今度はヘマしないように、慎重に‥‥武器がダメならクワでもカマでも、オモチャの木刀だって構うもんか。
あいつらを、やっつけてやるんだ。
ボク達の秘密基地は、ボク達が守る!
●リプレイ本文
「大変だ! オレ達の森に変な大人がいるぞ!」
子供達のボス、フィーの元に報告が入る。
「あいつら、何やってんだ‥‥?」
知らせを受けたフィーは、少し離れて木陰から様子を窺う。
変な大人達は、木ぎれや藁、細い丸太などを組み合わせ、何かを作っているらしかった。
「秘密基地か〜、懐かしいわね〜」
丸太を組み合わせ、柱や土台を作り上げて行くラーイ・カナン(eb7636)を手伝いながら、リスティ・エルスハイマー(eb9192)が楽しそうに言う。
「私も小さい時、兄さんと一緒に作ったな〜。父さん達に見つかってすぐ壊されたけど、あの時の悔しさはまだ覚えてるわ。ねえ、ラーイさんも作った事ある?」
「ああ、俺も小さい頃、秘密基地で親友と一緒に過ごす時間が何よりも好きだった」
異性と触れあうと狂化を起こしてしまうラーイは、リスティに触れないように気を付けながら答える。
「子供にとって秘密基地は何よりも神聖で大事な場所だ」
その大切な秘密基地を無事に取り戻してやりたい。
それにはまず、子供達と仲良くなって場所を教えて貰う必要があった。
彼等の信頼を得、仲間と認めて貰えるようにと作り始めた秘密基地。
だが、冒険者達はこれも仕事のうちである事をすっかり忘れ、素で楽しんでいるように見えた。
「ねえねえ、ブランコ作ろう、ブランコ!」
クリスティーヌ・チェイニー(eb9605)は、ラーイが余った丸太で作っておいたブランコにロープを通す。
それを背の高いアガルス・バロール(eb9482)が手近の木の枝にしっかりと結び付けた。
「出来た出来たー!」
クリスティーヌは、早速こいでみる。
頬を切る風が冷たいが、そんな事は気にしない。
「‥‥いいなあ‥‥。ねえ、ボク達の基地にも、あれ作ろうよ!」
木陰で様子を見守る子供達の数は、いつの間にか増えていた。
歓声を上げながらブランコを漕ぐクリスティーヌの様子を、指をくわえて見ている子もいる。
「ねえ、乗せてあげようか?」
背後から声がした。
振り返った子供達の目に映ったのは‥‥シフールの竪琴弾き、アルディス・エルレイル(ea2913)。
木陰に隠れたつもりの彼等の姿は、空を飛べるアルディスからは丸見えだった。
「ほんと!? のってもいいの!?」
小さい子が嬉しそうに言い、返事も聞かずに飛び出して行った。
「あ、バカ! 行くなよ! 悪い奴等だったらどうすんだ!」
フィーが止めるが、時既に遅し。
子供達は我先にと飛び出し、彼等に気付いてブランコから降りたクリスティーヌを取り囲んだ。
「は〜い、順番順番〜」
「ふむ、もう2つ3つ作っておいた方が良いかもしれんな‥‥」
ブランコの盛況ぶりを見ながら呟いたアガルスは、ふと足元で目を丸くして自分を見上げる子供に気付く。
「‥‥こんな大きな人間は珍しいか?」
子供はビクっとして一歩後ろに下がる。
だが、図体が大きいだけで悪い奴ではないと判断したらしい。
再び興味津々の様子で近寄ってくる。
「どれ、肩車でもしてやるか」
アガルスは子供をひょいと抱き上げると、自分の肩に乗せた。
「あー! 良いなー!」
「オレもオレもー!」
アガルスは、たちまちブランコに負けない人気者になった。
「ねえ、何作ってるの?」
ひとりの子供がラーイに訊ねる。
「秘密基地さ」
「‥‥大人でも、そんなの作るの?」
「大人だって、秘密基地は大好きなのよ?」
リスティが答えた。
「‥‥村の大人は、そんな事言わないよ?」
「ではきっと、私達は変わり者なのでしょうね」
ソフィア・スィテリアード(eb8240)が微笑む。
「あなた達も、一緒に作りませんか?」
「そうそう、皆で作ればきっと楽しいよ!」
それは、知ってる。
自分達の秘密基地も持ってる。
でも、その基地は今‥‥。
その時、腕組みをしたフィーが彼等の間に割って入った。
「お前ら、何のつもりだよ? ボク達に取り入って、どうする気だ?」
他の子供達がはしゃぎ回る中、リーダーだけは流石に冷静だった。
「取り入るなんて、そんなつもりは‥‥」
「お前ら、大人達に頼まれて、ボク達の邪魔しに来たんだろ?」
「邪魔とは‥‥ゴブリン退治の事でしょうか?」
ソフィアの問いに、フィーはふん、と鼻を鳴らした。
「やっぱりな。でも、ボク達の秘密基地はボク達が守る。誰の力も借りない。これはボク達の戦いなんだ!」
「‥‥邪魔をするつもりはない。少し手助けをさせて貰うだけだ」
ラーイが言った。
「俺たちは冒険者だ。モンスターを退治して皆を守るのが俺の仕事だ。秘密基地の場所は決して誰にも言わない。男と男の約束だ」
「ボクは女だ!」
‥‥え。
「‥‥あ、いや、それじゃ‥‥」
予想外の展開に、ラーイは頭を抱えた。
見た目も話し方も、どう見ても男の子なのに‥‥握手を求めなくて良かった。
「とにかく、俺たちは約束を守る!」
「信用出来るもんか!」
「自分の領地を護ろうとゴブリンと戦う事を決意している、その心根は我ら騎士に通じるものがある。騎士として、その思いは尊重しよう。だが‥‥」
「ふん!」
フィーは子供を肩車したまま、精一杯気を遣って話すアガルスの言葉にも耳を貸さなかった。
向こうから、アルディスの声が聞こえる。
「え、なになに? キミ達も秘密基地持ってるの? いいな〜、見てみたいな〜。ねえねえ、どこにあるの? 教えてよ、僕達の基地よりカッコイイ?」
「‥‥おい! 教えるな! ボク達だけの秘密だぞ!」
フィーが叫ぶ。
「でもさ、この人達、悪い人じゃなさそうだし‥‥」
「きちのかいぶつ、やっつけてくれるって!」
誰も、リーダーに従おうとはしない。
「‥‥なんだよ、裏切り者!」
フィーはそう言うと、一人で家に帰ってしまった。
一方その頃、子供が苦手なリューフェル・アドリア(eb8828)と、自ら地味な役目を買って出た柊静夜(eb8942)は村で情報収集に当たっていた。
「そうですか、普段は山でも滅多に見かけないのですね?」
今までこの村では、ゴブリンの被害に悩まされた事は殆どないらしい。
それがこの冬に限っては、村の近くでも時々見かけるのだと言う。
「今年は、山に餌が少ないのかもしれんな」
リューフェルはそう言って歩き出した。
「どこから来たかは解らんが、引っ越してきたのなら元の巣穴の方にもまだ他にゴブリン共が残ってるかもしれん。俺はそちらを調査しておこう」
災いは元から断つべし。
「俺は後から合流する。そこらの木に何か印でも付けといてくれ」
しかし、彼はこの寒いのに防寒着もなしに山に入るつもりなのだろうか。
途中で行き倒れなければ良いが‥‥。
翌朝、即製の秘密基地で一夜を過ごした冒険者達の元に、子供達が慌てふためいた様子で転がり込んできた。
「た、大変だよ!」
「フィーがいなくなっちゃった!」
「隠しといた剣も、なくなってるって!」
まさか、一人でゴブリン退治に向かったのか?
急いで追わなければ。
「秘密基地の場所、教えてくれるわね?」
リスティの問いに、子供達は口々に答えた。
「うん!」
「こっち!」
「はやく!」
「‥‥あんな奴等、ボクひとりで充分だ。誰の手も借りるもんか‥‥!」
だが、勇ましい言葉とは裏腹に、フィーの足は震えていた。
目の前の秘密基地。
ゴブリン達はその中にいる。
なのに‥‥どうして足が動かないんだろう?
その時。
「フィー!」
「待って!」
「無茶をするな!」
口々に叫んで、冒険者達が森から飛び出してきた。
「‥‥邪魔するな!」
今まで硬直したように動かなかった足が、急に軽くなった。
フィーは大きな剣を振りかざし、騒ぎを聞きつけて飛び出してきたゴブリンに向かって行った。
「危ない!」
クリスティーヌがスリープをかける。
ゴブリンはその場に倒れ込んだ。
だが、後続の仲間に蹴飛ばされ、たちまち目を覚ましてしまった。
ソフィアがフィーや基地に当たらないようにグラビティーキャノンを放つ。
ゴブリン達がひっくり返った隙に、リスティはフィーを連れ戻した。
「何すんだよ、放せ!」
「貴方は勇気がありますね。でも、ここは私達に任せて頂けませんか?」
前に立ちふさがった静夜が言う。
自分の力で基地を守りたいというフィーの気持ちを無為にしたくはないが‥‥。
起き上がったゴブリンが、こちらに向かって来る。
「仕方がありませんね、あまり血で汚したくはないのですが‥‥」
そう言いながら、静夜は剣を抜き払う。
「待って!」
子供の目の前で血を流すのは、ショックが大きすぎるだろう。
アルディスはゴブリンにイリュージョンの魔法をかけた。
途端にゴブリンは立ち止まり、体から何かを払い除けるような動作をする。
身体中に大量の蟻が群がり身体を食べ尽される、そんな幻影を送り込まれたらしい。
ゴブリンは断末魔の悲鳴を上げた。
その形相と声に、フィーは思わず目を閉じ、耳を塞ぐ。
「ね、ここは任せて。安全なとこに下がってよう?」
クリスティーヌの言葉に、フィーは素直に頷いた。
暫く後。
秘密基地を占拠していたゴブリン達は一匹残らず外に引き出され、ソフィアが操るツタに絡め取られて身動き出来なくなっていた。
「ちょっと殴ってみる?」
クリスティーヌが問いかけるが、子供達は首を振った。
「‥‥では、私はこの子達を送り届けてきますね。その後で、また戻りますので‥‥」
ソフィアが言い、アガルスも続いた。
「帰り道に戦士の一人は居た方がいいだろう」
「私も、家まで見送った後にみんなと合流するね」
と、クリスティーヌ。
その頃になって、漸くリューフェルが合流してきた。
どうやら行き倒れにはならずに済んだらしい。
「巣を見付けた。掃除に行くぞ」
冒険者達は秘密基地のゴブリン達を片付けると、大元の巣を潰しに向かった。
子供の目がなければ手加減する必要もなく、思う存分暴れられる。
これで子供達も、安心して遊べるようになるだろう。
「‥‥だいぶ壊されているな。直しておいてやるか」
3日目の朝、ゴブリン達に壊された基地でラーイは大工道具を広げる。
ついでにブランコも作ってやれば喜ぶだろう。
「うわ、ゴブリンくさっ!」
中に入ったリスティが、思わず鼻をつまむ。
暫く占拠されていたせいで、中には悪臭が満ちていた。
「綺麗に掃除して空気を入れ換えないと、とても使えませんね」
後に続いたソフィアが言う。
「‥‥ボクも‥‥手伝うよ」
その声に振り返ると、入口にフィーが立っていた。
どうやら、冒険者達を仲間と認めたらしい。
「それじゃ、私達の秘密基地の管理もお願いしようかな。絶対また来るから、その時までお願いね?」
「今度はお互いの秘密基地を行きっこして遊びたいなー」
ソフィアとクリスティーヌの言葉に、フィーはうん、と頷いた。
「掃除が終わったら、お菓子が待ってるよ」
と、アルディス。
「いっぱい持ってきたからね、皆で食べよう!」
「‥‥願わくば彼らが大人になった時、我々よりも良い道を選ぶ事が出来ますよう‥‥」
ほのぼのとした空気が満ちる中、静夜はひとり、そう祈った。