恋セヨ ヲトメ ?

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:5人

冒険期間:01月25日〜01月30日

リプレイ公開日:2007年02月02日

●オープニング

「ここは、いつ来ても賑やかですね」
 片付けても片付けても一向に減る気配のない仕事の山から逃げ出したボールスは、いつものようにルルを肩に乗せ、買い物客で賑わう市場や露店の並ぶ広場、生活感の漂う路地裏などを、ぶらぶらと歩いていた。
 道端で誰憚る事なく大声でおしゃべりに興じるオバチャン達の会話は、あらたまった場所では聞く事の出来ない庶民の本音を教えてくれる、貴重な情報源だ。
 勿論、彼が仕事の合間に散歩をするのは情報収集の為だけではない。
 他愛もないおしゃべりを聞くのは単純に楽しいし、おばちゃんパワーには元気を貰えるような気もする。
 駆け回る子供達の、殆ど騒音としか思えないような歓声も、この国が平和な証拠だと思えば耳にも心地良い。
 だが‥‥そんな平和に影を落とす存在も、確実に増えていた。
「――気ィ付けろババア!」
 通りの少し先から、罵声が聞こえてきた。
 見ると、老婆が尻餅をつき、周囲には買い物籠からこぼれたのだろう、野菜や果物が散らばっていた。
 その前に、人相のよろしくない、筋骨逞しい男が仁王立ちしていた。
「そっちが先にぶつかって来たんじゃないか! ばーちゃんに謝れ!」
 ――べしゃっ!
 老婆の脇に立っていた少年が、男に生卵を投げつけた。
「こ‥‥のガキぃ‥‥っ! ブッコロス!!」
 だが、振り上げた男の拳は少年には届かなかった。
「やめましょう、相手は子供ですよ?」
「な‥‥何だてめえ!? 離しやがれ!」
 男の太い腕は、それに比べて随分と細い腕に掴まれ、ピクリとも動かない。
「このガキは、俺の服を汚しやがったんだぞっ!」
「洗えば落ちますよ」
「シミになったらどうしてくれる!?」
「今更シミのひとつやふたつ増えたところで、どうという事はないように見えますが?」
「‥‥んだとォ、こんガキャぁ‥‥っ!!」
 余計な一言が、火に油を注いだらしい。

 周囲には、いつのまにか人だかりが出来ていた。
「まあまあ、大丈夫なのかねえ? 医者、呼んどいたほうが‥‥」
 心配そうに言うオバチャンに、露店のオヤジが聞いた。
「大丈夫って、どっちが?」
「そりゃ決まってるさ、あの細っこい兄さんの方だよ!」
 オヤジはガハハ、と笑った。
「まあ見てなって。それにな、どうせ呼ぶならお役人にしといたほうが良いぜ?」

「‥‥一発、殴れば気が済むのですか?」
 相変わらず男の腕を掴んだまま、ボールスは言った。
「では、どうぞ」
 少年と老婆は、既に野次馬達が男の手が届かない場所に避難させていた。
 もう、離しても大丈夫だろう。
 ボールスがゆっくり手を離すと、男はボキボキと指を鳴らし、肩と首を回した。
「良いのかい? 人相変わっちまうぜ?」
 ボールスはそれには答えず、無防備に突っ立っている。
「ふん、良い度胸だ。ほんじゃまあ、遠慮なく‥‥!」
 だが、繰り出された男の拳には、ナイフが握られていた。
 ――ブンッ!
 ナイフが空を切る。
「な‥‥に!?」
 一瞬前まで目の前にいた相手が、視界から消えていた。
「刃物は反則ですよ」
 後ろから声が聞こえた。
 ボールスは振り向いた男の手首を掴むと、腹に蹴りを見舞った。
 そのまま、倒れ込んでくる体の下に潜り込み、背中から地面に叩き付ける。
「うぐおっ!!」
 更に、腕を後ろに捻り上げられ、男はナイフを取り落とした。
「おーい、兄ちゃん。コレ使うかい?」
 露店のオヤジがロープを投げて寄越す。
 それで男を縛り上げ、一件落着。

「‥‥本当に、何とお礼を申し上げて良いやら‥‥」
 玄関先で、老婆が何度も頭を下げている。
 腰を抜かした彼女は、自宅まで送り届けて貰ったのだ‥‥ボールスの背に負われて。
「良かった、もう歩けますね? ‥‥あなたも、いきなりタマゴはダメですよ?」
 ボールスは買い物籠を持った少年の頭を撫でると、何か礼をしたいと言う二人の申し出を丁重に断り、名前も告げずに去った。
「‥‥ねえ、名前くらい教えてあげても良かったんじゃない?」
 通りを歩きながら、ルルが言った。
「あの子、円卓の騎士に助けられたって知ったら、きっと大喜びすると思うんだけど」
「それで、あっという間に噂が広がったらどうするんですか?」
 余り顔が知られてしまうと、お忍びで散歩を楽しむ事も出来なくなってしまう。
 本人は、まだ目立っていないつもりでいるらしい。
 既に充分、目立つ事をやっている気もするが。
「それより‥‥誰かに尾行られている気がしませんか?」
 ボールスの言葉に、ルルはそっと後ろを振り返ってみる。
 物陰に隠れるようにして、こちらを伺っている少女が一人。
 ルルに見られている事には気付いていないようだ。
「‥‥何よ、あの子」
 ルルは、その瞳の中に何かイヤ〜なものを感じた。
 新手のライバル出現!?
「ボールス様、走って!」
 その言葉に、ボールスは傍らの路地に飛び込んだ。
「あ、待って! 何で逃げるの!? ねえ、待ってよ! あたしの王子様ーっ!」
 少女が追いかける。
 だが、標的はあっという間に見えなくなってしまった。
「‥‥撒きましたか?」
 暫く走った後、ボールスはルルに訊ねた。
「‥‥うん、だいじょぶみたい」
「‥‥それで‥‥ここは?」
 ――迷った、らしい。


「だからっ! その人を探してほしいのっ! まわりのオジサン達に聞いても名前は知らないって言うし、後をつけたら逃げられちゃったし!」
 次の日、冒険者ギルドにひとりの少女の姿があった。
 名を、ジェニーと言うらしい。
 年の頃は17〜8、淡い茶色の髪を無造作に背に流し、服装はごく一般的な庶民風だが、磨けば美人になりそうだ‥‥とは、受付係の見立て。
「その人はね、ええと、髪は黒くて、肩にギリギリ届くくらいのストレート、背は‥‥このくらい!」
 自分の頭から20センチくらいの所で手を振る。
「顔はよく見えなかったけど、カッコイイに決まってるわ! だって、すんごい強くて、優しくて〜、ああ、もう絶対、あの人はあたしの王子様だわっ! 運命の人なのよっ! バレンタイン直前のこの時期に出会うなんて、きっと神様の思し召しよっ!」
 名前も知らない、顔もよく見えなかった相手に、どうやったらそこまで思い込む事が出来るのか‥‥女の子の頭の中は摩訶不思議ワールド。
「‥‥たったそれだけの情報で、この広いキャメロットからその彼を探し出せと?」
 受付係はそう言ったものの、実は心当たりがないでもない。
 と言うか、彼の知る中では該当者はただひとり。
 そして、それは多分、恐らく、確実に、正解に違いない。
 だが‥‥。
 いつも彼と一緒にいる小さなシフールの、カンカンに怒った顔が目に浮かぶ。
「‥‥わかりました。では、人探しという事でお受けしますが‥‥あまり、期待はしないほうが良いですよ?」
「なんで?」
 少女は首を傾げる。
「仕事をきっちりこなすのが冒険者の役目でしょ? 見つからなかったら、評判落ちるって言うか、あたしが落としてあげる☆」
 ‥‥手強い。
「でも、もしその人に、奥さんとか‥‥恋人がいたら?」
 受付係はダメモトで食い下がってみた。
「そんなの、蹴落としちゃえば良いじゃない。大丈夫、どんな女にも勝つ自信はあるわ。あたし、磨けば美人なんだから!」
 やっぱりダメか。
「とにかく、その人を探して! デートのお膳立てまでしてくれたらカンペキね。報酬も弾むわよ?」
 ‥‥だ、そうだ。

●今回の参加者

 ea0071 シエラ・クライン(28歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea5913 リデト・ユリースト(48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb5868 ヴェニー・ブリッド(33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb8226 レア・クラウス(19歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ヒナ・ホウ(ea2334)/ 桜葉 紫苑(eb2282)/ ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)/ セイル・ファースト(eb8642)/ ディディエ・ベルナール(eb8703

●リプレイ本文

「‥‥からかわないで下さいよ」
 それが、事情を聞いたボールスの第一声。
 嬉しいような、困ったような、それともただ照れているだけなのか、複雑な表情で冒険者達を見る。
「いや、冗談でもからかっている訳でもないである。ボールス卿、心当たりはないであるか?」
 リデト・ユリースト(ea5913)に問われて、ボールスは暫し考え込む。
「確かに、この間ちょっとしたトラブルはありましたが‥‥」
 主人よりも先に思い当たったルルが、肩の上で目を吊り上げ、顔を真っ赤にしている事には気付いていない。
「本人に心当たりがなくても、依頼書を読む限り、私の中で該当する王子さまは一人しかいないわ」
 ヴェニー・ブリッド(eb5868)が妖しく微笑む。
 どうも何かを企んでいそうな表情だが、目の前の男は勿論そんな事には気付かない。
「困りましたね。何とか穏便にお断り出来れば良いのですが‥‥」
「そう言うと思ったである。大丈夫、ちゃんと作戦を考えておいたであるよ」
 そう言うと、リデトは隣で恥ずかしそうに俯いているクリステル・シャルダン(eb3862)をつついた。
「あ、あの‥‥」
 なかなか言い出せずにいるクリスに代わって、レア・クラウス(eb8226)が言う。
「つまり、クリステルを恋人に仕立てて一芝居打とうって話よ。そのジェニーって子、恋人がいても諦めない、なんて言ってるみたいだけど、熱愛っぷりを見せつければ流石に降参すると思うの」
「あの、私が恋人役で、お嫌ではありませんか?」
 クリスがおずおずと訊ねる。
「もし他の方のほうが良いようでしたら‥‥」
「ああ、いや‥‥クリスさんこそ、良いのですか?」
 訊くなよ。
「ただ懸念は、人間とエルフという事であるな」
 ジーザス教では異種族間の恋愛は禁じられている。
「そこをつかれると反論が難しそうである」
 それを聞いて哀しげに瞳を曇らせたクリスを見て、ボールスが言った。
「確かに、教義ではそうなっていますし、私も立場上それを否定は出来ませんが‥‥気にする事はありませんよ」
 差別を助長するような教義など‥‥いや、それは言えない。
 神聖騎士として、そして円卓の騎士としても、言ってはならない事だ。
「寧ろ、それを逆手にとってみるのはどうでしょうか?」
 サクラ・フリューゲル(eb8317)が言った。
「神に祝福されない事を承知で貫く禁断の愛という事であれば、ジェニーさんも納得して頂けるのでは‥‥あ、私も神聖騎士としてこんな事を言ってはいけないのかもしれませんが」
 確かにインパクトはありそうだ。
「ちょっと、待って下さい」
 今まで黙って聞いていたシエラ・クライン(ea0071)が口を挟んだ。
「最初から会わせないとか、もっともらしい理由や演技で誤魔化してしまう方が確実で後腐れ無い対応なのは承知しているのですけど‥‥10代頃の頭の中が恋愛で一杯になる時期が他人事でない身に取ってはどうしても捨て置けないのですよね。ですから、会う所までだけでもお願い出来ないでしょうか?」
「勿論、会うつもりではいますよ」
 と、ボールス。
「ただ、皆さんのお話だと、それだけで納得して頂ける方ではなさそうなので‥‥」
 クリスは切り札、という訳だ。
「ああ、そうですか。良かった‥‥」
 シエラは、ほっと胸をなで下ろした。
「では、私は先にジェニーさんに会って、少しお話をしてみますね。何か、彼女に伝えては拙いような事はありますか?」
「‥‥いや、特に‥‥余り嘘を重ねるのも申し訳ないですし」
 待ち合わせは明日の午後、1時間程度なら都合を付けられると言うことで、シエラはジェニーとの交渉に向かった。
「では、こちらも少し準備をしておくであるかな。ボールス卿、少し変装をしてみてはどうであるか?」
 服装は女の子の夢見る白を基調にした王子様風、そして目を大きく見開き‥‥
「こ、こうですか?」
 何の意味があるのかわからないが、とりあえず素直に目を見張ってみる。
「‥‥ぷっ」
 その様子に、リデトは思わず吹きだした。
「じょ、冗談であるよ?」
 変装した方が良いというのは本当だが。
「でも‥‥それじゃジェニーさんが探してる相手と違うって思われないかしら?」
 レアが言う。
「ちゃんと見付けてあげないと、失敗なのよね」
「そうであるな‥‥」
「私はいいですよ、このままで。ただ、クリスさんは少し変えた方が良いかもしれませんね」
 円卓の騎士には敵も多く、それはこの温厚で微妙に頼りなさげな騎士も例外ではない。
 その恋人ともなれば、敵意を持つ者の標的にされる危険があった。
「髪型を変えるだけでも印象が変わるであるかな?」

「ほんと!? 見付けてくれたの!?」
 シエラの報告に、依頼人ジェニーは躍り上がって喜んだ。
「それで、名前は? 歳は? どこに住んでるの!?」
 シエラは住所などは巧みに伏せながら、誰でも知っていそうな情報を並べる。
 尤も、彼女もそう多くを知っているわけではいが。
「ええ、子持ち!? じゃあ、奥さんもいるのよね?」
「ええと‥‥確か、亡くなったと聞いていますが」
「じゃあ、恋人は?」
「いないと思います」
 ここで切り札を出す訳にはいかない。
「う〜ん、子持ちはちょっとショックね‥‥。でも、その子を落とせば親だって落ちたも同然よね」
 息子も落ちないと思いますが。
「うん、コブのひとつやふたつ、気にしない! じゃあ明日ね。あ、その子も連れて来て!」

 ‥‥そしてここにも、子供をダシに作戦を展開しようと企んだ人物がひとり。
 だが‥‥。
「ふむ、申し訳ありませんな。エル坊っちゃまは今、城のほうに戻られておいでですので」
 執事に言われて、ヴェニーはがっくりと肩を落とす。
 無敵のエルディンに「かーさまだいすきー」とか言わせて相手に付け入る隙を与えない、題して「女は強し、されど母はもっと強し」の計を使おうと思っていたのに。
 仕方がない、ここはじっくりと成り行きを楽しま‥‥いや、見守らせて貰おう。

 翌日、ジェニーはかなり頑張って自分に磨きをかけていた。
 ここへ来るまでの間にも、何人もの男が彼女を振り返り、じっと見つめていた。
 イケる。
 彼女はそう思った。
 だが‥‥目の前の男は眉ひとつ動かさず、いきなり断りを入れてきた。
「ちょっと、納得出来ないわ! それに何よ、そのハーレム状態はっ!?」
 仲介役のシエラが一緒なのは仕方がない。
 しかし、彼の周りにはレア、サクラ、ヴェニー、そしてクリス。
 更に、とてもライバルには見えないだろうが‥‥大人しくしているように言われて渋々シエラの肩に乗っているルルと、ちょっと見女性に見えなくもないリデト。
「あたしは、ただの見物人よ♪」
 ヴェニーが微笑む。
 と、レアが前に進み出た。
「私は、あなたの邪魔しに来たのよ。この人に惚れ込んでるのは、あなただけじゃないんだから!」
 勿論、芝居だ。
 レアとしては少々複雑な心境のようだが。
「冗談でしょ?」
 と、ジェニー。
「だってあんた、エルフじゃない!」
「‥‥それは、関係ありません」
 ボールスが口を開いた。
「申し訳ありませんが、どちらの方もお断りします」
「なんで!? 彼女いないんでしょ? 試しに付き合ってみるとか、それくらいしたって良いじゃない!」
 案の定、ジェニーは食い下がった。
「すみません、実は‥‥」
 と、後ろを振り返る。
「クリス」
 ごめん、今だけ呼び捨て。
 呼ばれて隣に並んだクリスの肩を、そっと抱き寄せる。
 今日の彼女は髪を上げていた。
 そのせいで、長い耳が余計に目立つ。
「お二人は、祝福されない事を承知の上で、それはそれは深く愛し合っていらっしゃるのです」
 サクラが真顔で歯の浮くような解説を繰り広げる。
「それにほら、とてもお似合いでしょう? 他の方が入り込む隙など、髪の毛1本分もありませんわ」
 このまま、本当に付き合ってみてはどうかと勧めたくなる程に。
 しかし、ジェニーは疑わしげな眼差しで二人をねめつける。
「‥‥なんか、ウソくさいのよねえ‥‥」
 どうも、言動の端々にぎこちなさが滲み出ているらしい。
「本物なら、キスして。あたしの目の前で、熱くて濃〜い、恋人のキス」
「‥‥人前で、それは‥‥」
「なによ、出来ないの?」
 言われて、覚悟を決めたボールスはクリスに向き直り、唇を重ね‥‥
「だめーーーーっっ!!!」
「い‥‥ったたた‥‥っ!」
 残念。
 ぶちキレたルルに耳を思い切り引っ張られ、それは未遂に終わった。
「そんなの、あたしが許さないんだからっ!!」
「な〜んだ、やっぱり芝居だったのね?」
 ‥‥バレた?
「そうよ、芝居よ! 悪いっ!?」
 ルルは開き直った。
 あの、皆さんの努力が水の泡なんですけど。
「ボールス様はあたしのものなんだからっ! あんたなんかに絶対渡さないわ!」
「ふっ」
 ジェニーは鼻で笑った。
「エルフならまだしも、あんたシフールでしょ? ありえないわ、現実を見なさいよ」
「そ‥‥っそんなの、余計なお世‥‥っ」
 目に涙を溜めて体を震わせるルルをつまみ上げ、ボールスは自分の肩に乗せた。
「謝って下さい」
「何よ? だってホントの事じゃない!」
「あなたを騙そうとした事についてはお詫びします。しかし‥‥」
「じゃあ何? この子の気持ちに応えられるって言うの?」
「出来ません。それはルルも承知しています。それでも‥‥その気持ちは嬉しいし、大切にしたい。‥‥謝って下さい」
 ボールスはジェニーの前に跪いた。
「ちょ‥‥っ、やめてよ、みっともない!」
 ジェニーはたじろいでいる。
「この人は、そういう人なんである。それが嫌なら‥‥」
「あなたには合わないって事ね」
「残念ですが、諦めたほうが良いと思います」
 口々に言われ、ジェニーはぷーっと頬を膨らませる。
「なによ、カッコイイ人だと思ったのに‥‥もういい!」
 捨て台詞を残すと、くるりと踵を返し、振り返りもせずに行ってしまった。
「ふん! あんたみたいなお子ちゃまに、ボールス様の良さはわかんないわよっ!」
 あっという間に立ち直ったルルが、その背中に向かって舌を出した。

「‥‥とりあえず‥‥成功、であるかな?」
「‥‥だと良いのですが」
 嵐が去り、顔を見合わせる冒険者達。
 ボールスは大きな溜め息をつくと、その場に座り込んだ。
 疲れた。
 モンスター100匹相手に戦う方がまだ楽かもしれない。
「‥‥ありがとね、ボールス様」
 ルルが目の前の地面に立ち、見上げる。
「ご褒美に、ちょっとだけ自由にしてあげる」
 そう言うと、どこかへ飛んで行ってしまった。
 気が付けば、周囲には冒険者達の姿もない。
 ただ一人を除いては。
「あの‥‥ボールス様」
 クリスが申し訳なさそうに言った。
「お忙しいのに、ご迷惑をおかけして‥‥」
 ボールスは服に付いた汚れを払いながら立ち上がった。
「私の方こそ、すみません、変な事にお付き合い頂いて‥‥。あなたには、本当にいつもご迷惑ばかりおかけしていますね」
 いや、迷惑ではないと思うが。
 迷惑なのは寧ろ、その超越クラスの鈍さだろう。
「い、いいえ。あの、ボールス様とでしたら‥‥」
 クリスは蚊の鳴くような声で言った。
「お芝居を本当にしても、あの、構わないのですけれど‥‥」
「‥‥え? すみません、もう一度‥‥」
 ほら、肝心な事は聞こえない。
「あ、いいえ、何でもありませんわ」
 二度も言える筈がない。
 クリスは恥ずかしさを隠すように、荷物から何かを取り出した。
「あの、これを‥‥何か今日の記念が欲しくて‥‥ご迷惑でしょうか?」
 それは、小さな猫の置物。
 実はカワイイ物好きだったりする円卓の騎士は、嬉しそうに受け取った‥‥何の記念かは、よくわかっていないようだが。
「ありがとうございます。でも何をお返しすれば良いのか‥‥」
 咄嗟に思いつかないので、それはまた、いずれ。
「では、折角ですから暫しの間、恋人気分を味わいましょうか?」
「え‥‥きゃっ!」
 ボールスはクリスをひょいと抱き上げ‥‥人混みに紛れた。
「あーっ!」
 実は物陰に隠れてこっそり様子を窺っていた冒険者達が声を上げる。
「逃げた!」
「バレてた?」
「良いなあ、お姫様抱っこ」
「家政婦はみた♪ ボールス卿熱愛発覚!?」
「追うであるか?」
「当然!」
 ‥‥キャメロットは、本日もそれなりに平和‥‥かな?