魔の雪山をサバイバれ!
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 76 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月28日〜02月04日
リプレイ公開日:2007年02月05日
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●オープニング
「‥‥退屈じゃのォ‥‥」
「‥‥ほんに、退屈じゃ。こう毎日、雪に降り込められちゃ何も出来んわい」
「‥‥何か、面白い事はないもんかのォ‥‥」
山の麓にあるその村では、このところ毎日のように雪が降り続いていた。
もっとも、雪が降るのは毎度の事だし、そんな時に室内で行う手仕事はいくらでもある。
退屈している暇はない筈なのだが‥‥
「‥‥仕事にも、飽きたのォ」
という訳で。
暇を持て余した村人‥‥主にジイさん達は、村長の家でシワの寄った額を寄せ合い、何やら悪巧みの相談を始めた。
「何か、面白い事はないもんかのォ」
「何か刺激が欲しいのォ」
余程退屈しているらしい。
「そうじゃ!」
ひとりの老人が、ポンと手を打った。
「若いモンを、雪山に放りだしてみるのはどうじゃ?」
「‥‥放りだして‥‥どうするんじゃ?」
「近頃の若いモンはフヌケておるからの、冬の大自然の厳しさっちゅーモンを叩き込んでやるんじゃ。裸で放りだして、3日間生き延びてみろ、とな」
「ふむ、面白そうじゃの。じゃが、すっぽんぽんは‥‥色々拙いのと違うかのォ?」
「いやいや、ハダカっちゅーのは、アレだ、余計な道具や飾りやらは持たずに、っちゅー事じゃ」
「ああ、成る程。確かに、近頃の若いモンは、指輪やら何やらジャラジャラ付けおってからに、格好ばかり気にしておるからのォ」
「ほっほっほ、それで、わしらはこっそり後をつけて、若いモンが四苦八苦するサマを見て楽しもう、っちゅー訳じゃな?」
「ぴんちになったら颯爽と助けに現れるワケじゃ」
「おお、そりゃあ面白そうじゃ」
ジイさん達は大いに盛り上がった。
しかし、そんなハジけた空気に水を差す一言。
「じゃが、大丈夫なんかいのォ? 山にゃモンスターも出よるし、もし、村の若いモンに何かあったら‥‥」
かくして。
後日、冒険者ギルドにこんな依頼が持ち込まれる事と相成った。
『魔の雪山サバイバル大会 参加者募集!』
『雪山の頂上に眠るお宝を探し出せ! 自給自足、3日間のサバイバル体験がキミの魂を揺さぶる!』
『参加資格:特になし』
『参加条件:装備は防寒具のみ。武器は1種類のみ携帯可。その他道具は寝袋と、他1種類のみ。食糧の持ち込みは不可』
『その他:万一の際のレスキュー体勢は整えてあります。安心してご参加下さい』
‥‥サバイバって、みる?
●リプレイ本文
「何故サバイバるかって? そこにヤマとオチがあるからさ!」
防寒具以外は装備禁止のサバイバルで、漢の最終兵器である褌着用を死守した‥‥と言うか、そんなもの誰も剥ぎ取ろうとは思わないが‥‥リ・ル(ea3888)は、目の前の白い山を指差す。
オチはどうか知らないが、山は確実にそこにあった。
しかし、雪山と聞いて想像していた程、険しくも高くもなさそうだ。
天気も快晴、悪化しそうな兆しも見えない。
「――ただ、白。いや詩人なら此処を白銀と言うかな」
アラン・ハリファックス(ea4295)が評す通り、山の中腹あたりまでは一本の木さえなく、ひたすら真っ白な斜面が続いていた。
そこから上には雪の花を咲かせた森が広がり、更に頂上付近には針葉樹の緑も見える。
「植生はなかなか豊富なようだね」
狩人の目でそれらを見て取ったフレイア・ヴォルフ(ea6557)が言う。
「これなら、森の中には獲物が沢山いそうだな。鹿は獲っても良いんだったよな?」
出発前、村の爺さん達に聞いたところでは、鹿や兎、狐などは獲っても良いという事だった。
「ふむ‥‥鹿か。獲れれば食糧には不自由せぬであろうな」
言いながら、尾花満(ea5322)は妻であるフレイアの荷物を受け取る。
荷物と言っても寝袋程度だが、背負っていてはいざという時に身軽に動けない。
それに、無駄に体力を消耗させたくないとの配慮もあった。
「では、参りましょうか」
雪山の知識に長けたアクテ・シュラウヴェル(ea4137)が先に立ち、その隣にセオフィラス・ディラック(ea7528)が並ぶ。
「雪原ではこちらも目立ちすぎますし、まずは森に到達する事を考えましょう」
しかし、一面の雪野原は見た目ほど甘くはなかった。
腰の辺りまで積もった雪をセオフィラス‥‥セオが隣のアクテの分までスコップで掻き分けながら進む。
彼女に手伝わせるつもりは、さらさらなかった。
なんたって崇拝と言っても過言ではないほど、敬愛するお方だから。
セオはひたすら黙々とスコップを振るう。
その単調な作業に程良く痺れた彼の脳裏には、ムフフなコンボが渦を巻いていた。
雪山・遭難・雪洞でアクテと二人きり・お互いの体温で暖めあって、それから、あーなってこーなって‥‥ああ、もう死んでも良いかも。
「‥‥おい、交代だ」
幸せな白昼夢を破ったのは、スコップの持ち主リルの声。
「あ‥‥ああ」
魂の抜けたような表情で、セオは持ち主にスコップを返し、後ろに下がる。
勿論、アクテも一緒だ。
「1人の敵を倒すには一振りの剣があればよく、さらに一軍を率いるには1頭の馬がいればよい」
リルが雪を掻き分け進む中、共に前線に上がってきたアランがのんびりと詩人なセリフを吐く。
「しかし馬は無く、万全の武器もない。戦場で例えるならまるで一兵卒か」
「そして、ここにあるのは1本のスコップだ」
アランの目の前に、それが突き出される。
交代。
「‥‥あ、悪い」
一行が漸く森の端まで辿り着いた時、冬の陽は既に西に傾いていた。
「‥‥腹‥‥減ったな‥‥」
「‥‥ああ‥‥」
結局、ここに着くまでの間、生き物の姿は全く見えなかった。
「今日はこの辺りに雪洞でも作るか」
辺りにはビバーク出来そうな岩場などは見当たらない。
リルはアクテに安全そうな場所を訊き、雪の斜面を踏み固め始める。
そこに更に雪を積んでドーム状に踏み固め、掘って雪洞を作るのだ。
手間はかかるが、それを惜しんでは安全を確保出来ない。
ここに来るまでにも雪をかき続けた彼の腕は既に限界に近付いていたが、限界に挑戦してこそのサバイバル。
「では、私は薪を拾って来ますわ。それから、喉が乾いても雪は食べないで下さいね。水は雪を溶かして沸騰させてから使って下さい」
「じゃあ、あたしも一緒に行って野草でも探して来るよ。ついでに何か獲物が捕れれば良いんだけど」
フレイアはそう言って、弓矢とナイフを手にとる。
「では、拙者は湯でも沸かしておくか‥‥」
雪の下から掘り出した石で簡単な竈を作り、セオが手近の木から払ってきた枝を並べる。
「アクテ、行く前に‥‥」
ヒートハンドを頼む。
湿った生木はなかなか燃えない上に、煙が酷い。
「‥‥救助を求める狼煙と間違われそうだな」
雪を踏み固めながらアランが呟いたその時。
「なんじゃい、小僧っ子ども、もう降参かいのう?」
「だらしないのォ」
口々に言いながら、爺さん達がどこからともなく現れた。
‥‥まあ、確かに隠れてこっそり見物しているとは言っていたが‥‥。
「いや、これは違う」
リルが言った。
「第一、救難信号は炎を上げると言っておいただろう?」
「ほう、そうじゃったかのう? まあ、ええわい。で、まだ降参はせんのじゃな?」
当たり前だ。
始まったばかりで降参などしてたまるか。
「そりゃ結構。楽しませて貰うぞい、ヒヨッコども」
そう言うと、爺さん達は年寄りとは思えない身軽さで、あっという間に木立の中へ消えて行った。
慣れ、とはそういうものか。
やがて木立の中から良い匂いが漂ってきた。
爺さん達が村から持ち込んだ食糧で煮炊きを始めたらしい。
「‥‥あれは‥‥わざと、だな」
「それ以外に考えられるか?」
匂いは風上から漂ってくる。
冒険者達の空きっ腹が哀しげに鳴いた。
その時、匂いをかぎつけた‥‥などと言うと犬か何かのようだが‥‥アクテとフレイアが戻って来た。
「何だ、この匂い?」
「セオさんが罠で何かを捕らえて下さったのかと思いましたが‥‥」
仲間の話を聞いて、フレイアが眉をひそめる。
「この時間帯は獣が一番活発に動く時だ。何もなきゃいいけどね」
言われて、アクテがインフラビジョンを試みた。
木立の奥がぼんやりと赤く染まって見えるのは煮炊きの熱と煙だろう。
と、木の陰に赤く見えるものが‥‥
「何か、います!」
その言葉に、冒険者達は武器を手に一斉に走り‥‥いや、走れない。
走れないが、それでも精一杯急いで爺さん達の元へ駆けつけた。
「爺さん!」
「おお、何じゃ、やっぱり降参か?」
「なに呑気な事を‥‥見ろ!」
狼だ。
狼の群が、じわじわとその包囲を縮めていた。
その数は‥‥10匹以上はいるだろうか。
でも良かった、フロストウルフじゃなくて。
冒険者達は爺さん達と、それにアクテとフレイアの二人を守るように取り囲む。
「全魔法を‥‥解除しましょうか?」
アクテの問いに、フレイアが首を振った。
「まだまだ、こんなもんじゃ生命の危機とは言えないよ」
「そういう事だな」
――ビシッ!
リルが手にした鞭で狼の足元を叩き付け、挑発する。
それを合図に狼たちが一斉に飛びかかってきた。
普段の装備なら狼など物の数ではないのだが‥‥いや、例え装備が貧弱でも、彼等にとっては狼など物の数ではなかった。
リルは鞭で脇の一頭を牽制しつつ、飛びかかってきた狼の頭にスコップを叩き付ける。
「手にすれば即ちそれが武器。これぞ蒼天二刀流!」
森の中に勝ち誇ったような笑いが響く。
満はフレイアの前に立ち、霞刀を振るった。
その後ろから援護の矢が飛ぶ。
勿論、矢は後で回収するつもりだ。
持てる数が限られている以上、出来るだけ節約しなくては。
一方、そちらのペアのように堂々とタッグを組めないセオではあったが、さりげなくアクテの前に立ち、存在をアピールする。
‥‥通じているかどうかは不明だが。
やがて、不利を悟った狼達は‥‥残った数は多くはなかったが‥‥じりじりと後ずさると、踵を返し森の奥へ消える。
自分が相手ををしていた一頭を斬り伏せたアランが、後を追おうとして足を止めた。
「‥‥いつもだったら追っかけてって叩き伏すところだが‥‥そういう場ではないな、此処は」
‥‥と言うより、追えない。
走れない。
「いや、すまんかったのォ」
「ちーと油断しておったわい」
爺さん達が頭を下げる。
「お詫びに‥‥どうじゃ、食って行かんか?」
だが、冒険者達はその誘いを断った。
「幸い、肉は手に入れたしな」
リルがニヤリと笑う。
「うむ、狼か‥‥食えぬ事もあるまい」
本気か?
まあ、世の中には犬を食用に供する文化もあるようだし‥‥似たような、もの?
かくして、ゲームは続行。
その夜、余った肉を燻製に加工しながら満はフレイアに言った。
「フレイアはいつも‥‥このような環境で猟を行っておるのだな。頭の下がる思いだ‥‥」
「ん、わかったら、大事にしてくれ」
「‥‥しておる、つもりだが‥‥足りぬのであろうか」
‥‥まあ、これ以上の覗き見は野暮というものだろう。
翌日も、空は爽やかに晴れ上がっていた。
だが、風が強く、地吹雪が舞っている。
「‥‥行けるか?」
リルは全員の体調を確認する。
誰も、問題はないようだ。
いや、問題は、ある。
雪かきや雪洞作りで使う筋肉は、普段鍛えているものとは微妙に違うらしい。
肉体労働に参加した男性陣は、ことごとく‥‥程度の差はあれ、筋肉痛に悩まされていた。
しかし、その程度の事で立ち止まってはいられない。
限界を超え、リミッターを解除した先に、きっと新しい何かが見える‥‥筈。
かくして、一行は山頂を目指して出発した。
昨日までのなだらかな斜面とは違い、ここから先は勾配がきつくなっている。
急な斜面ではクライミングに自信のあるリルが先頭に立ち、鞭を木の幹に引っかけて先に登り、そこにロープを結び付ける。
後続の者達はそれを支えに登った。
滑ったり転んだり、転げ落ちたり‥‥それでも大きな怪我をしないのは日頃の鍛錬の成果か。
「しかし‥‥どこまで続くんだろうな、これは」
木の幹にナイフで目印を付けながら歩くフレイアがぼやく。
植生が針葉樹に変わって暫く経つが、木々に視界を遮られ、一体どこまで登れば頂上に辿り着くのか見当も付かない。
タイミングが悪いのか、獲物の姿もさっぱり見えなかった。
そう高くはない山だ。
麓から見た感じでは、そろそろ見えてきても良さそうなのだが‥‥。
その時、突然目の前の視界が開けた。
「頂上‥‥なのか?」
「そのようですわね」
セオの問いに、アクテが答えた。
ご丁寧に、旗が一本、風にはためいている。
その下に、雪を被った何かが置いてあった。
「下山に便利なアイテムと言っていたが‥‥」
まさか空を飛ぶ野菜の類いでは。
だったらどうしよう。
乗るのか、俺。
いや、あれは本当は刺さなくても飛べると、最近どこかで聞いた‥‥などと心の中で葛藤しつつ、リルは雪を払い除けた。
「‥‥ソリ‥‥?」
空飛ぶ野菜は、田舎の爺さん達が簡単に手に入れられる程には普及していないようだ‥‥まだ、今のところは。
「確かに、便利そうではあるが‥‥」
満が首を捻る。
「必要なスキルは‥‥騎乗であろうか?」
ソリはどうやら二人乗りのようだ。
よく見れば、要返却などと書かれたカードが置いてある。
「組み合わせは‥‥やはり先と同じだろうな。俺は騎乗ならそこそこ出来るが‥‥」
と、アラン。
ソリなど操った事は‥‥あったか?
下山にそれを使うべきか否か、冒険者達は迷っていた。
だがここに、全く迷いのない男がひとり。
「アクテ、勿論乗っていくだろう?」
うれしはずかし二人乗り。
さて、どうする。
危険を覚悟で一気に滑り降りるか、それとも自前の足でゆっくり堅実に下りるか。
冒険者達の試練はまだまだ続く‥‥。