【捜索】浚われた娘

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:7人

サポート参加人数:3人

冒険期間:02月16日〜02月22日

リプレイ公開日:2007年02月23日

●オープニング

「つまりグィネヴィアはあの男の許にはいなかったと言うのだな?」
 アーサー王は喜びの砦に潜入を果たした一人の密偵からの報告を聞き、思わず腰をあげた。
 先の物資補給阻止の際、巧く紛れ込んだ者がいたのである。日数の経過から察しても砦が遠方にある事が容易に理解できた。新たにもたらされた情報に、円卓の騎士が口を開く。
「もしかすると、隠し部屋や他に隠れ家があるのでは?」
 しかし、男は首を横に振る。いかにラーンスとは言え、隠し部屋か他の隠れ家があれば向かわぬ訳がない。そんな素振りもなかったとの事だ。
 ――ならば、グィネヴィアは何処にいるのか?
 ――ラーンスは何ゆえ篭城なぞ‥‥!?
「否‥‥違う」
 アーサーは顎に手を運び思案するとポツリと独り言を続ける。
「ラーンスは森を彷徨っていたのだ。喜びの砦は集った騎士らの為‥‥ならば」
 ――グィネヴィアは見つかっていない。
 同じ答えを導き出した円卓の騎士の声も重なった。王妃は発見されていない可能性が高い。
 アーサーは円卓の騎士や選りすぐりの王宮騎士へ告げる。
「冒険者と共に『グィネヴィア再捜索』を命じる! 但し、王妃捜索という目的は伏せねばならん! ギルドへの依頼内容は任せる! 頼んだぞ!」
 新たな神聖暦を迎えたキャメロットで、刻は動き出そうとしていた――――。

 ――集められた食料はこれで全てか‥‥。
 ラーンス・ロットの瞳に映ったのは、騎士達に依頼した補給物資の全てだった。誰が見ても長き篭城を凌げる量ではない。血気盛んな騎士が彼の背中へ口を開く。
「戦の準備を整えましょう! 我々に残された道は他にありません!」
 予想していた声にうろたえる事なく、ラーンスは青い瞳を流す。集まった騎士達の眼差しから覚悟を決めた色が窺えた。
 ――王よ‥‥何故、邪魔をしたのです。これでは騎士達を留めておく事は‥‥!!
「それは危険です。恐らく物資補給に失敗した我々を待ち構えている事でしょう。それでは術中に嵌るのと同じ。‥‥森で狩りをするしかありません。モンスターの肉でも構わない」
 飢えを凌ぐ為とはいえ、騎士達にとっては屈辱的な事かもしれない。何ゆえ森で狩りを行い、挙句は醜悪なモンスターの肉でさえ食らわねばならぬのだ。しかし、現実が過酷なのも事実。
「‥‥ラーンス様が、そう仰られるなら」
「‥‥すみません、苦労を掛けてしまって‥‥」
 円卓の騎士が詫びると、周囲の者達は首を横に振る。
「何を申されますか! 我々が押し掛けたのがそもそもの始まり。冒険者たちに諭された事が今になって‥‥分かった気がします」
「ですが! 我々はラーンス様と共にある事に変わりありません! 行きましょう! 森へ!」
 ラーンスは口元に僅かな微笑みを浮かべる瞳を和らげると、力強く頷いてみせる。
「森で何か発見したら報告して下さい」
 アーサー王の命が下る数日前の事であった――――。


「こんにちは、またお世話になります」
 だいぶ慣れてきた様子でギルドの戸口をくぐった青年は、そう言って受付係に頭を下げる。
 相変わらず礼儀正しい人だ。
「ああ、ボールス卿‥‥あなたも、ですか?」
 このところ、ギルドには毎日のように王宮の騎士が依頼を出しに来ていた。
 円卓の騎士も、何人か来ていた筈だ。
 何が起きているのか詳しい事はわからないが、何かが動いているらしい。
 だが、ボールスはカウンターへは向かわずに、掲示板の前に立った。
「‥‥この依頼、私が受けても良いでしょうか?」
 とある依頼を指差す。
「それは‥‥」
 辺境の村で、若い娘が行方不明になったという。
 歳は18、とりたてて美人でもないが、男好きのする顔立ちで、実際色々な噂が絶えないらしい。
 だから、単なる駆け落ちの類かもしれないという可能性もあるようだが‥‥。
「ただの人捜しですよ?」
 賊に浚われたらしいという情報もある。
 近頃、森では季節外れの狩りが行われ、見知らぬ人間が出入りしているとも。
 だが、いずれにしろ円卓の騎士の力を借りるような事件ではない。
「なによ、円卓の騎士が人捜ししちゃいけないって言うの?」
 いつもの定位置に収まったルルが言う。
「いや、まあ、そりゃ、助かりますけど‥‥」
 なんでまた?
「では、人数が揃った頃にまた来ますね。ここを集合場所に使わせて頂いて構いませんか?」
 そう言うと、ボールスは準備をしてくると言ってギルドを後にした。
「‥‥依頼を出しに来たんじゃ、なかったのかな‥‥?」
 何となく腑に落ちない。
 そう言えば、仲間が受けた他の依頼も、何かスッキリしないものが多かったという。
「‥‥まあ、良いか」
 何か他に意図があるとしても、自分が口を挟むような事ではない。
 それが何でも、円卓の騎士なら上手くやるだろう。
 ‥‥あの人の場合は、何となく危なっかしいのも事実だが‥‥。

「良かったね、丁度良い依頼があって」
 帰り道、上機嫌に言うルルをボールスが窘める。
「不謹慎ですよ、事件などないほうが良いのですから」
「そりゃそうだけど、でも、助けに行くんだもん、良いじゃない」
 予定していた場所とも近い。
 これで『捜しもの』も見付かれば、一石二鳥だが。
「‥‥ルル、怒らないのですか?」
 だしぬけに、ボールスが訊ねた。
「なに? なんで? ボールス様、何かあたしに怒られるような事したの?」
「いや、別に‥‥」
 気まずそうに目を逸らす様子を見て、ルルは笑った。
「な〜んだ、あの事?」
 例の一件‥‥休暇中の、彼にとっては予想外の出来事。
 黙っておけば良いものを、ボールスはご丁寧にルルに報告していた。
 だが、その反応は意外にも淡泊なものだった。
「だって、気付いてないのボールス様だけだったし」
「‥‥そ‥‥そうなんですか?」
 そうなんです。
「それに、返事してないんでしょ?」
「まあ‥‥そうですね」
「じゃあ、今までとな〜んにも変わんないじゃない。あたしの地位は揺るぎないわ!」
 ルルは勝ち誇ったように胸を張った。
「それより、まだ他にも隠れライバルがいるって、あたしの鋭い嗅覚が告げてるわ! いい? 女の人相手に、不用意に微笑んだりしたらダメだからねっ!? これ以上ライバル増えたらたまんないわっ!」
「‥‥そんな‥‥」
 美形の従兄じゃあるまいし。
 彼が微笑むと、その周囲に女性が集まる現象は何度も目撃しているが‥‥。

 さて、その従兄殿は今頃どうしているのか。
 刃を交えるような事にならなければ良いと、ボールスは願う。
 だが、この捜索で何も見付からなければ、そうなる可能性は高い。
「何としても‥‥せめて手掛かりだけでも、見付けなければ‥‥」

●今回の参加者

 ea2913 アルディス・エルレイル(29歳・♂・バード・シフール・ノルマン王国)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb3412 ディアナ・シャンティーネ(29歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb3671 シルヴィア・クロスロード(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb5549 イレクトラ・マグニフィセント(46歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb8346 ラディオス・カーター(39歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

七神 蒼汰(ea7244)/ アナトール・オイエ(eb6094)/ ウェイル・アクウェイン(eb9401

●リプレイ本文

 旅の楽師など滅多に訪れない辺境の村に、たおやかな楽の音が響いていた。
 ――ポロロ〜ン♪
 わんこに乗った竪琴弾きアルディス・エルレイル(ea2913)が最後の一音を紡ぎ終わると、小さな村の広場は拍手と歓声に包まれる。
「ありがとう」
 アルディスは一礼すると、何か対価をと申し出た村人に首を振った。
「いいよいいよ、その代わり、馬や荷物を預かって貰えると嬉しいんだけどな♪」
 勿論、その申し出は快く受け入れられた。
 何しろ彼等は、行方不明になったこの村の娘、ヘレンを捜す為にやって来たのだから。

 その頃、仲間達は被害者の家を訊ね、その家族から事情を聞いていた。
「あの、失礼ですが‥‥駆け落ちの可能性もあると伺っていますが、何かお心当たりは?」
 ディアナ・シャンティーネ(eb3412)の問いに、母親が首を振った。
 そのつもりなら身の回りの品くらいは持ち出す筈だ。
 だが、森に薬草を採りに行くと言って出かけた朝、彼女が持って出たのは薬草を入れる籠がひとつ。
 その籠は、森の入口近くで見付かったという。
 リースフィア・エルスリード(eb2745)は愛犬の朧丸に籠の匂いを嗅がせた。
「まずは、その場所に行ってみましょう」
「そうだな、何か手掛かりが残っているかもしれない」
 ラディオス・カーター(eb8346)はそう言うと、テントを担ぎ上げた。
「他にも、重い物があったら引き受けよう。力仕事は男の特権だからな」

 父親の案内で向かったその場所には、特に荒らされたような形跡もなかった。
「‥‥さて、何の抵抗もせずに自分から付いて行ったのか、それとも‥‥」
 現場を調べたイレクトラ・マグニフィセント(eb5549)の言葉を、シルヴィア・クロスロード(eb3671)が引き取る。
「余程手際の良い相手だったのでしょうか。例えば、きちんと訓練を受けた者のような」
 シルヴィアには何か心当たりがあるようだ。
 いや、彼女だけではなく、恐らく全員に。
「近頃、森に見知らぬ人間が出入りしていると聞きましたが」
 リースフィアが父親に尋ねた。
「‥‥いや、俺は見た事ねえが‥‥聞いた話じゃ、随分と身なりの良い連中らしいな。夏にはこの辺の森でも貴族連中が狩りをする事があるが、そんな感じの‥‥」
「それで、その人達は今どこに?」
「確か、あっちからこっちに、狩りをしながら移動してるって聞いたな」
 父親が指差したのは、東から西の方角。
 彼をその場に残し、一行は森の中を西に向かって歩き始めた。

「こうして森を歩いていると、あの探索を思い出しますね」
 残された僅かな匂いを辿って先を行く犬達の後に続きながら、シルヴィアがボールスに話しかける。
 あの探索とは、以前ラーンスを探した時の事だ。
「あの時のように、また一芝居打ってみますか?」
 ボールスが笑う。
「誰かが悲鳴を上げたら、出て来るかもしれませんよ」
「まさか‥‥!」
 冗談だろう、と、シルヴィアは思う。
 だが、騎士達がこの森にいるなら、或いは‥‥?
「ボールス卿、もしこの探索でラーンス卿に会う事があったら‥‥どうしますか?」
 ディアナが問いかけてきた。
 どうすると言われても、相手の出方次第だが‥‥。
「ラーンス卿とは争う以外の道が必ず残っていると、私は信じています。ですから、今後どんな事があろうと、絶対に諦めないで下さい。身内で争うというのは、とても悲しいことですから‥‥」
 ボールスはそれには答えず、ただ微笑みを返す‥‥ルルに耳を引っ張られながら。
 その三人に少し遅れて、クリステル・シャルダン(eb3862)が続いていた。
 森はエルフの庭のようなものだが、今のところ何の痕跡も見付からない。
「さてね、内容は普通の依頼なのに、仲間が普通じゃないさね。いや、冒険者が普通の人なのかと聞かれても困るのだがな」
 イレクトラは前を行くボールスの背中を見ながら、冗談めかして隣のクリスに話しかけた。
 彼女にもこの捜索で出会うであろう相手の予想は付いていたが、あえて気付かないふりをする事に決めたようだ。
 周囲を警戒しながら、イレクトラは話を続けた。
「しかしね、森の中も良いが、そろそろ海が恋しいさね」
「イレクトラさんは、軍船乗りでいらっしゃいますものね」
「いつかは船でジャパンまで行ってみたいものだが、さて、ジャパンってのはどんな所なのかね?」
 ジャパンなら、クリスも一時期住んだ事がある。
 二人は暫く、異国についての話に花を咲かせた‥‥勿論、小声で、周囲の様子に気を配りながら、だが。
 ラディオスが最後尾から、前を行く仲間が気付かなかったような僅かな気配や痕跡を探りながら歩くが、目に見えるものは何も残っていないようだ。
「結局は犬の鼻が頼りか?」
 彼の足元では、仕事をさせるにはまだ早い二頭の子犬がじゃれ合っていた。

 時折休憩を挟みながら森の中を歩く事、半日余り。
 結局その日は何も見付からず、冒険者達は早めに野営の準備に入った。
「煮炊きをしても良ければ、温かい食事を用意しようと思うのですが‥‥」
 ディアナの申し出をボールスは問題ないと判断し、ついでに余計な一言を付け加えた。
「では、食事の用意はお二人にお願いしましょうか」
 二人とは、ディアナとクリス。
 ‥‥いや、その二人を組ませるのは、ちょっと拙いような気が‥‥しませんか?
 しかし、野暮天の朴念仁は不治の病。
 それに、まともな料理が出来そうな者は他にいないのだから、この場合は仕方がない。
「火の番は、男三人の交代だな」
「そうそう、ボールス卿も少しは休まないとダメだよぉ?  今までちゃんと寝てないんだから」
 男性二人に言われ、ボールスは苦笑する。
「大丈夫ですよ、慣れてますから」
「だめです!!」
 途端に、四方から女性の声が飛んできた。
「ボールス様だけに負担をかける訳にはいきませんもの」
 クリスが少し頬を染めながら微笑む。
「女性陣にはなるべく眠って貰いたいものだがな」
 ラディオスが言うが、そこは男女平等にという事で話が決まったようだ。

 しかし交代の為に夜中にクリスが起きだして来た時、彼は相変わらず火の側で物思いに耽っていた。
 従兄の事でも考えているのだろうか。
 その邪魔をしないようにと、クリスは少し離れた所で焚き火の炎を見つめる。
 炎の反対側ではアルディスが静かに竪琴を奏でているのだが、気分は何となく、二人きり。
 天敵(?)ルルは、テントの中で寝息を立てていた。
 頬の紅潮を見咎められたら炎のせいにしてしまおうか、などと考えていたその時。
「寒いでしょう?」
 いつの間に動いたのか、ボールスはクリスのすぐ脇に腰を下ろし、その背を自分の毛布で包み込んだ。
「‥‥ああ、いや、何もしませんから」
 当たり前だ。
 ただ、細身の彼女がとても寒そうに見えたらしい。
 二人は1枚の毛布にくるまり、ただ黙って揺れる炎を見つめる。
 だが、そんな穏やかな時間は、長くは続かなかった。
 火の側で寝そべる犬達の耳がピクリと動く。
 続いてアルディスの耳も何かを捉えた。
 彼は上空に舞い上がると、暗闇に目を凝らし、耳を澄ます。
『誰か‥‥来るみたいだよ』
 テレパシーで伝えた。
 ボールスが剣を構え、クリスは仲間を起こしに走る。
 やがて、森の奥から小さな足音と、荒い息づかいが聞こえてきた。
 現れたのは、素肌に毛布を巻いただけの女性。
「‥‥ヘレンさん‥‥ですか?」
 ディアナの問いに、相手は何故知っているのか、という顔で見返す。
「良かった、あなたを捜していたんですよ。お怪我はありませんか?」
 勿論、怪我はなくとも傷を負っているだろう事は察せられたが、誰もあえてそれには触れない。
 彼女の世話は女性に任せ、男性陣は周囲を警戒するが、追っ手がいる気配はなかった。

「あたしは森に慣れてるから‥‥奴等を巻くなんて簡単よ」
 翌朝、女性達の世話と魔法の効果で、ヘレンはかなり元気を取り戻していた。
 隙を見て逃げ出して来たと言う彼女の案内で「賊」の野営地に踏み込んだ一行が見たものは、案の定、喜びの砦に向かったとされる騎士達の姿だった。
 だが、それだけではない。
「‥‥ラーンス‥‥!」
 テントの奥から姿を現したのは、ラーンス・ロット。
 まさか、彼が付いていながら?
「私は今朝、ここに着いたばかりだが‥‥何かあったのか?」
 何かと素行不良な配下の様子を見て回っている最中だったらしい。
 部下達を取り囲み、武器を向ける冒険者達に事情を聞いて、その顔色が変わった。
「‥‥呆れたものです」
 リースフィアが騎士達に詰め寄る。
「自決するか、キャメロットに連行されるか、今ここで斬られるか‥‥どれでも選んで下さい。どれかを選んで下さい」
 だが、騎士達は下を向いたまま何も答えない。
 反応がないと見ると、今度はラーンスに向き直った。
「貴方はあの時、王を裏切っていない、と言いました。では今はどうですか? ‥‥いいえ、今や貴方がどんなつもりであるかは関係ない状況です。この現状を打開するために即刻釈明を。あるいは、そうとわかるような行動をお願いします」
 毅然とした態度で迫る若い騎士に、ラーンスは言った。
「‥‥時が来ればそうするつもりだ。だが今は、これ以上事態が悪化しない事を‥‥」
 そんなやりとりを、ボールスは黙って聞いていた。
 強く握った拳が僅かに震えている。
「‥‥ボールス様?」
 クリスにそっと袖を引かれ、漸く力を緩めた。
「‥‥彼女は私達が責任を持って村まで送り届けます。あなたは、この者達の処分を。ご自分の責任を果たして下さい」
 固い表情でそれだけ言って、背を向けようとしたその時。
 犬達が森の奥に向かって一斉に吠えだした。
 やがて、その方角に冒険者と思しき一団が姿を現し、中の一人が静かに歩み寄る。

「ボールス卿‥‥君も花を探しに行ったものと思っていたが」
「‥‥パーシ卿‥‥!? 何故、ここに‥‥」
 シルヴィアが驚きの声を上げる。
 パーシは彼女に軽く笑みを向けると、同僚と対峙する金髪の騎士に軽く会釈をし、真っ直ぐにその瞳を見据えた。
「ええ、そのつもりだったのですが‥‥。パーシさ‥‥いや、パーシ卿、そちらは?」
 ボールスの問いに、パーシはラーンスに視線を据えたまま答えた。
「ああ、有力な情報を掴んだ」
 ラーンスが僅かに眉を動かす。
 その、何かを問いたげな視線に応えるように微笑むと、パーシは続けた。
「北の森でマレアガンスの城を見つけた。最上階には探していた花もね」
 マレアガンスとは、王妃に強い想いを抱いていた騎士だ。
 そこで見付けた花とは‥‥。
「‥‥見付かったのですか!?」
 ラーンスにもその意味がわかったのだろう、瞳を大きく見開き、頬を僅かに紅潮させている。
「だが、城を取り囲む部下の数は多く、辺りにはモンスターも徘徊している。一旦引き返して報告が先だと判断した」
 今にも飛び出して行きそうなラーンスに、パーシが釘を刺す。
「今踏み込んで勝てる数ではない」
「‥‥では、早急に戻って作戦を立てる必要がありますね」
 ボールスは再びラーンスに向き直った。
「ラーンス‥‥あなたは、どうしますか?」
「‥‥今はまだ戻れない。その、マレアガンスの城を落とす時は助太刀も考えよう。だが、今は‥‥」
 予想通りの答えに、ボールスはどうする、と、パーシに目で問う。
「俺の依頼はモンスター退治と花探しだ。卿の捕縛ではない‥‥そうだな?」
 と、パーシは答え、冒険者達を見渡す。
 確かに依頼は解決済み、そしてラーンスについては仕事の範疇ではない。
 このまま見逃す事に抵抗はあるが、円卓の騎士がそう判断したなら自分達はそれに従うまでだ。
「‥‥すまない」
 ラーンスは2人の円卓の騎士と冒険者達に頭を下げると、配下を連れて森の東へ消えた。
 その後ろ姿を黙って見送ったボールスの肩を、パーシが軽く叩く。
「先に戻るぞ」
「‥‥はい、陛下に一刻も早く吉報を。私達はもう一仕事ありますので‥‥」
 
「漸く、光が見えたな」
 背中から聞こえるラディオスの声に、ボールスは頷いた。
 花さえ無事に取り戻せれば、全てが好転すると信じたい。
 その為には、冒険者達の力も必要になるだろう。
「‥‥戻りましょうか」
 振り向いた彼は、いつもの穏やかな表情に戻っていた。