寄宿舎のろまんす
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:STANZA
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月05日〜11月10日
リプレイ公開日:2005年11月13日
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●オープニング
放課後、人気のない校舎裏。
嫌な予感はしてたんだ。あいつ、近頃ずっとこっちのほうばっかり見てた。
教室や食堂で毎日顔を合わせてるんだから、話があるならそこですれば良いんだ。なのに、わざわざこんな所に呼び出すって事は‥‥。
「君が好きだ」
やっぱり。
好きだと言われて嬉しくない人はいないって、誰かが言ってた。そりゃ確かに、嫌われるよりはずっと良い‥‥かも。
あいつは背も高くて、顔だって悪くない。文武両道で公明正大、リーダーシップもあるし、まさに非の打ち所のない優等生。おまけに実家はとびっきりのお金持ち。そんなヤツに好きだって言われたら、女の子なら泣いて喜ぶかもしれない。
でも‥‥。
「だって、僕は男なんだよ!?」
ギルドのカウンターの向こうでは、僕より少し年上の女子生徒が面白そうにクスクス笑っている。
「好きだとか愛してるとか君が欲しいとかっ! そんな事、男に言われて嬉しいワケないだろっ!?」
「そう? 世の中にはそういうシュミのコもけっこういるみたいだし、良いんじゃない?」
「良くないっ! 他人事だと思って楽しんでるだろ!!」
「まあまあ、そう怒んないでよ。 でも、その相手の子の気持ちもわかるな〜」
女子生徒は上半身を乗り出して僕の顔を覗き込んだ。
「だってキミ、カワイイもん。背もちっちゃいし、女の子みたいだし」
そう、昔から言われていた。姉や妹たちよりも、よっぽど女の子らしいって。でも、だからって中味まで女っぽいわけじゃない。好きな女の子だって、ちゃんといる。告白は‥‥出来ないけど。
その時。背後に人の気配がした。
「ティム、こんな所にいたのかい? ひどいなあ、キミったら、話の途中で逃げ出したりして」
ディーンだ。諸悪の根元。
「さあ、行こう。まだ話は終わっていないよ。キミの返事も聞いていないしね」
返事も聞かずにクチビルを奪おうとしたのは誰だっ!!
「た、助けてぇえっ!!!」
慌てて書き終えた依頼書を女子生徒の手に押しつけて、僕は一目散に逃げ出した‥‥。
―――依頼内容―――
僕はFORの生徒です。
ある人物に告白されて困っています。
断りたいのに、その人は僕の話なんか全然聞いてくれずに、ひとりで勝手に盛り上がっています。
このままでは平穏な学園生活を送る事が出来ません。
どうか、彼を諦めさせて下さい。(相手の名前は、依頼を受けてくれた方にだけお教えします)
●リプレイ本文
―――カランコロン♪
玄関先に仕掛けた鳴子が来客を告げる。この部屋の持ち主、鷹野翼(ea9115)は立ち上がり、ドアの向こうに問いかけた。
「合言葉を言え。『剣』」
「‥‥『盾』‥‥じゃなくって、『ペン』だったね、あっはっは!」
豪快な笑い声が廊下に響く。声の持ち主、ガルネ・バットゥーラ(eb1978)は翼が部屋の鍵を開けるなり、大きな体を折り曲げるようにして部屋に上がり込み、真面目にやってくれと言わんばかりの翼の背を軽く叩いて言った。
「ごめんごめん、ちょっとからかってみただけさ。人生、何事も余裕ってものが必要だろ?」
「えーと、これでみんな揃ったのかな?」
部屋の真ん中で、今回の依頼人であるティムの隣に座った月白兎(eb1017)が一同を見渡す。
「ああ。じゃあ、そろそろ始めようか。‥‥貞子殿、良いかな?」
先程から黙ったままの忌野貞子(eb3114)は、とろけるような視線でじっと一点を見つめていた。ティムも小柄だが、隣の白兎は更に小さい。そしてカワイイ。おまけに兎耳バンドまで付けている。
(「うふふ‥‥。ティムきゅんにもおそろのウサ耳‥‥2人並んでウサ耳に女子制服‥‥。うふふふふ〜♪♪」)
ひとり妄想に浸る貞子をひとまず脇に置いて、『悩める子羊ティムくんのサポート大作戦』なるものの、作戦会議が開始されたのだった。
「ティムさんは女の子みたいに見える事に悩んでいるのかしら?」
年上の女性2人に挟まれて縮こまるティムを前に、サラン・ヘリオドール(eb2357)はニッコリと微笑んだ。
「どんな人に見えるかは、たった二つのことで変わってくるのよ。だからまずは一つ目を変えに行きましょう」
「そうだね、まずはその見た目から変えていかないと、いくら中味を男らしくしようったって無理があるからねえ」
ガルネは窓際に置かれた椅子に座り、腕組みをしながら目の前のティムを上から下まで眺めまわす。座っていても、相手を見おろす格好だった。
「何だい、その立ち方は! それじゃどんなに男らしい格好をしたところでオカマの女装だよ」
確かに、膝を内側に向け、腰を僅かに捻り、そして小首を傾げたその姿はドレスを着せたらさぞかし似合うだろう。
「ごっ、ごめんなさい。だって僕、この学校に入る前はずっと女の子の格好をさせられてたから‥‥」
子育ての段階から、既に間違った方向に行っていたらしい。いや、間違いを間違いとも気付かせないほど、彼の女装は似合っていたという事か。
「ほら、しゃんと背を伸ばす! 顔を上げる!」
まずはその立ち居振る舞いから正そうと、ガルネの檄が飛ぶ。
「そんでもって相手の顔をまっすぐ見て話す! もっと胸をお張り! 堂々と歩きな!」
「は、はいっ!!」
‥‥そして、かれこれ2時間はたっぷり過ぎた頃。何とか様になってきたところで、2人はティムを理容院へ放り込んだ。
「理容師さん、格好いい男の子に見える髪形にしてほしいの。どんな感じが良いかしら?」
「格好いい‥‥と、言われましても‥‥」
「そうねえ、今がサラサラフワフワのストレートだから、正反対にしてみるのはどうかしら? どう、ティムさん?」
「あの、僕は‥‥何でもいいです」
「ハッキリしない子だねえ。自分の意見もちゃんと言えないようじゃ、格好いい男には程遠いよ」
「あ、はい、ごめんなさい! え、えーと、じゃあ‥‥」
一方その頃。他の3人‥‥正確に言えば2人、は、ディーンの説得を試みていた。
「君、ディーン君だね?」
学校の中庭で誰かを捜している様子のディーンに白兎が話しかける。
「ティム君だったら、今日は町に出かけてるよ。女の子とデートだって」
ディーンの眉が不愉快そうにぴくりと動く。
(「う、ウソはついてないよね、うん。女の子っていうのはちょっとウソかもしれないけど」)
心の中で自分にツッコミを入れつつ、白兎は続けた。
「あの、気を悪くしないで聞いてほしいんだけど‥‥。あのね、ティム君は君の事、あんまり良くは思ってないみたいだよ?」
「何故わかる? ティムがそう言ったのか?」
ディーンが白兎の目をまっすぐに見ながら問う。いかにも自分の全てに自信があるといった態度だ。
「そ、そうじゃないけど‥‥でも、困ってたよ? もしも、本当に好きだって思うなら、あんまり相手を束縛しないほうが良いと思うな」
「そうだな」
翼が後を引き取る。
「ディーン殿は少し事を急ぎ過ぎではないか? ティム殿も突然の事で困惑しておられるし、考える時間も必要であろう」
「ボクにとっては突然でも何でもないけどね。まあ良いさ、君達がそう言うなら、確かに急ぎすぎたのかもしれない」
ディーンは、ひとつ溜め息をついた。
「ボクはずっとティムを見ていたのに、彼はボクの想いに全然気付いてくれなかった。だから‥‥」
「そりゃ、男同士でそんな風に想ったりするって、普通は考えないよね」
「ディーノ殿の求める関係は一般には祝福されぬものだ。‥‥本当に、彼を同性と知っての事なのか?」
「もちろん、そうさ。好きになった相手がたまたま同性だった、それだけの‥‥」
「応援しますっっ!!!」
突然、背後で黄色い声が弾けた。今まで男性2人の影になり、殆ど存在感のなかった貞子だった。
「やっぱりそうなんですね! 容姿が女の子に似ているから、とかじゃなくて、本気でティムきゅんの事が好きなんですねっ!?」
貞子は思いっきり逃げ腰のディーンの手を両手で握りしめ、熱く語る。
「大丈夫です! イギリスはカマの国ですからっ!」
「さ、貞子殿、それではティム殿の依頼が‥‥」
貞子の豹変に、こちらも逃げ腰になりながら翼が異を唱える。だが。
「まあ、結果としてティムきゅんの依頼は反故になりますが‥‥これも真実の愛の為!」
既に聞く耳はどこかに飛んでいってしまったらしい。
「あ、あの、ディーン殿、とにかく、後刻、話し合いの席を設けさせて貰う」
ディーンをしっかりと捕まえたまま熱く語り続ける貞子の頭越しに、真面目な話し合いを続けようと頑張る翼。
「そこでどう返答されようとも‥‥あの、その、相手の意思を尊重するのも、また、愛というものではないかと思うのだが‥‥き、聞こえたか?」
「そうそう、相手に重荷になるような事をすれば、それが君に返ってくるだけだから‥‥き、聞こえたー?」
白兎も負けじと声を張り上げる。
「とにかく、また後でねーっ!」
そして、その場には諦め顔のディーンと紫ピンクなオーラをまとった貞子が残された。
「ディーン君、ティムきゅんにはウサ耳とネコ耳、どっちが似合うと思いますか〜☆ 私としては、白兎きゅんとおそろのウサ耳がオススメなんですけどっ!!」
そして。
理容院から出てきたティムの頭は‥‥爆発していた。短く刈った髪に油を付け、四方八方にツンツン立たせている。金色のウニかイガグリか、といったところだ。
「そ‥‥それがアンタの考える格好いい髪型‥‥な、ワケだ‥‥」
笑うとも呆れるともつかない複雑な表情でガルネが言う。
「あの、似合いません‥‥か?」
似合う、似合わないというレベルの問題ではなさそうな程、それは珍妙なシロモノだった。が、サランは笑顔で答える。
「ううん、似合ってるわ。それに、ティムさんが自分で決めた事だもの、ねえ?」
何が『ねえ?』なのかは微妙だが。
「じゃあ、外見が整ったところで、中味も変えてみましょうか。尊敬する男の人は、どんな人なの?」
「尊敬する人‥‥ですか?」
「そう、その人をお手本にすれば、女の子に間違われたりする事もなくなると思うの」
ティムは顔を輝かせて答える。
「アーサー王です、もちろん!」
「お、言ったね。それじゃ、何があっても、誰が相手でも逃げるわけにはいかないねえ」
「そうね。たとえお断りするとしても、きちんとお返事をしたほうが良いと思うわ」
「そう、イイ男ってのは、外見だけじゃない、心に余裕、度胸、勇気が揃ってる男のことさ」
ガルネが大きな手で思いっきりティムの背を叩く。
「ほら、逃げずにふんばって、立ち向かっておいで。逃げ回ってばっかで相手の話も聞かない様じゃ、いつまでたっても一人前の騎士にゃなれないよ」
「は、はい、行ってきます!」
夕暮れも近付いた頃、校舎裏ではティムVSディーンの第2ラウンドが開始されようとしていた。
背後の茂みでは今回の依頼を受けた面々が息を潜めて見守っている。
「あ、あの、ディーン。僕は‥‥あの、き、気持ちは嬉しい‥‥けど、でも僕は男なんだしっ!」
「そんな事、関係ないって言っただろう?」
「き、君にはなくても僕にはあるんだっ!」
ティムは顔を真っ赤にし、息を切らしている。一方のディーンは相変わらず涼しい顔だ。
「わかった。要するにキミはボクが嫌いなんだね?」
「そ、そうじゃなくてっ! だ、だから‥‥普通に‥‥」
ティム君、ここでひとつ深呼吸。
「友達になろうよ。僕、君のことあんまりよく知らないし、だから、友達として普通に付き合おう?」
「‥‥そうだね。確かに、ボク達はお互いをもっとよく知り合うべきだ。深い付き合いはそれからでも遅くない」
「ふ、深い付き合いって‥‥」
「まあ、そのうち、ね。きっと時がキミの心をほぐしてくれるさ。その時まで、ボクはずっと待っているよ」
待たなくていい。待ってたって僕の気持ちは変わるもんか‥‥。と、声に出せれば『サポート作戦』は大成功なのだが。まあ、きちんと話し合いが出来ただけでも立派に成功と言えるだろう。
「ところで、ティム。友人としてキミにひとつ忠告があるのだが」
「え、何?」
「その髪型‥‥やめたほうが良いね。趣味が悪いし」