【ご近所の勇者様】火事だ!

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:02月24日〜02月27日

リプレイ公開日:2007年03月03日

●オープニング

「火事だーーーっ!!」
 冒険者ギルドに駆け込んだ男は、そう叫んだ。
「か、火事だ、誰か、ま、魔法の使える人を‥‥っ!」
 様々な才能を持つ者が多く集まる都市部では、火を消すのに水は殆ど使わない。
 ファイヤーコントロールなどの魔法でサクっと消すのが通例だ。
 その為、町で組織する自警団には、消火に使える魔法を心得た者が大抵ひとりは所属しているものだが。
「いや、それが、今日は町の反対側でも火事があって、魔法使いが出払っちまってるんだ!」
 もう暫くすれば帰って来るとは思うが、その間にも炎の勢いは増し、木造住宅が多い下町の現場は殆どが燃やし尽くされてしまうだろう。
「だ、だから、早く誰か来てくれ!」
 その時。
 店の奥でひとりの男が立ち上がった。
「‥‥俺の出番だな‥‥」
 それは、普段からギルドに入り浸り、まるでヌシのような顔をしているが、その実一度も依頼を受けた事がないという、あの男‥‥通称、新米オヤジ。
 不敵な笑みを浮かべたオヤジは、身に纏っていたものを豪快に脱ぎ捨てた。
「今こそ、この無駄に鍛え上げた筋肉が役立つ時っ!!」
 そこに現れたのは‥‥いや、なんか、説明したくないのでパスね。
 とにかく、自慢の肉体を衆目に晒したオヤジは叫んだ。
「魔法が使えなくても火を消す方法はある! 水をかける? いやいや、そんな生ぬるい方法で消えるような根性のない火に用はない!」
 いや、火事はなるべく根性なしの方が助かるんですが。
「魔法も水も使わずに火事を消す、その唯一の方法‥‥それは、破壊だ!」
 そう、確かに周囲の建物を破壊して、燃えるものをなくしてしまえば延焼は抑えられる。
 それは『破壊消火』と呼ばれる、れっきとした消火法だ。
 しかし、まだ燃えていない建物を破壊し尽くすその手法には、色々と問題がある事も確かなのだが‥‥。
「よーし! 腕に覚えのある者は俺に付いて来い!!」
 オヤジはそう吠えると、寒風吹きすさぶ戸外へと褌一丁の姿で飛び出して行った。
 果たして、彼に続く勇者は‥‥!?

●今回の参加者

 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3245 ギリアム・バルセイド(32歳・♂・ファイター・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea3415 李 斎(45歳・♀・武道家・ドワーフ・華仙教大国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb2628 アザート・イヲ・マズナ(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5656 シフ・ルフラン(33歳・♀・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

フローラ・タナー(ea1060)/ フリッツ・シーカー(eb1116)/ 斑淵 花子(eb5228

●リプレイ本文

 ある風の強い日、エチゴヤへと続く道を季節外れのサンタが歩いていた。
 いや、それは勿論サンタなどではなく‥‥巨大な袋を背負ったリ・ル(ea3888)の姿。
「どうするんだ、こんなに余らせちまって‥‥」
 袋の中身は大量の保存食だった。
 前の仕事で目論見が外れ持ち帰るハメになったそれを、多分ある筈の賞味期限が切れる前に売り捌こうと考えていたのだが。
「どけどけどけーっ!! 火ぁー事だぁーーーッ!!!」
 その声に振り向くと、背後から怒濤のように迫り来る褌一丁のオヤジの姿。
 巨大なハンマーを両手に持ったオヤジはあっという間にリルを追い抜き、走り去って行く。
「‥‥火事!?」
 顔を上げると、青い空を背景にもうもうと白い煙が立ち上っていた。

「野次馬は下がっておれ」
 オヤジの後に続いて現場に駆けつけた冒険者のひとり、尾花満(ea5322)が野次馬を掻き分け燃え盛る家々の前に立つ。
「ふむ‥‥当分風向きが変わる様子はない、か」
 そう判断すると、満は風下のまだ火が及んでいない地域へ走った。
「誰か、逃げ遅れた者はいないか!?」
 そう叫ぶ満に、被災者と思しき女性が取りすがる。
「お爺ちゃんとお婆ちゃんが!」
 女性が指差した家は、既に半分ほど炎に包まれていた。
「二人か‥‥」
 間に合うか?
 自分一人で助け出せるのか?
 不安を感じつつも、満は頭から水をかぶる。
「私も行こう」
 シフ・ルフラン(eb5656)が進み出た。
 豪快に水をかぶる頼もしい助っ人に、満は頷き返す。
 二人は燃え盛る炎の中に飛び込んで行った。
「どこだ!? 生きているなら返事をしろ!」
 ――ゴホン、ゲホッ!
 シフの叫びに、奥から返事代わりの咳が聞こえた。
 部屋の奥に、老人が二人。
「避難だ。自分で立てるか?」
 シフは炎と煙に包まれる中、不安を与えないようにニッコリと微笑む。
「い、いや、腰が抜けて‥‥ゴホッ」
 老人達が立てないと見るや、二人は背中を差し出し軽々と担ぎ上げる。
 もう大丈夫だ。
 だが、脱出しようとしたその瞬間、燃え盛る天井の梁が二人の頭上に崩れ落ちてきた!
 その時‥‥
「牙刀、剽狼!」
 掛け声と共に、巨大な石の棍棒が崩れ落ちる梁に向かって振り下ろされた。
 梁は粉々に砕け散り、火の粉と共に舞い落ちる。
「大丈夫ですか?」
 メグレズ・ファウンテン(eb5451)が微笑んだ。
「ああ、かたじけない」
「こういう時はバーストアタックの必要性を痛感するモンだな。助かったよ」
 彼等の無事な脱出を待っていたかのように、家は炎の中に崩れ落ちた。

「‥‥範囲が広いな‥‥」
 1、2軒の規模ならすぐにでも消火を手伝おうと考えていたアザート・イヲ・マズナ(eb2628)だったが、現場を見てまずは救助が先だと考え直す。
 アザートは口と鼻を覆うように手拭いを巻き、火の回りそうな建物の中や狭い通りなどを見て歩いた。
「おいおい、こういう時は大声で叫ぶモンだぜ」
 駆けつけたギリアム・バルセイド(ea3245)が手本を示す。
「うぉお〜〜〜いっ! だぁーれかいないかぁーーーっ!!!」
 その声が放つ衝撃波だけでも建物を壊せそうな大音声が響く。
「‥‥助けて‥‥誰か、熱い‥‥!」
 微かに声が聞こえた。
 殆どが木造住宅の中にまばらに建っている石造りの家、そのひとつから聞こえてくるようだ。
 周りの住宅に火が燃え広がる中でそこだけは延焼を免れているが、一歩外に出ればそこは火の海。
 逃げ遅れ、身動きが取れなくなったらしい。
 ギリアムは不気味な斧を振りかざすと、水もかぶらずに炎の中に突っ込んで行った。
 心頭滅却すれば火もまた涼し!
 ――ドッカァーン!!
「助けに来たぞ!」
 石造りの壁をぶち破り、屋内に突入する。
 赤ん坊を抱えた女性が、部屋の真ん中で蹲っていた。
 その時、熱のせいで脆くなったのか、はたまた不用意にぶち破ったせいでバランスが崩れたのか、周囲の壁がバラバラと崩れ落ちて来た!
「邪魔だあぁッ!!」
 ギリアムは親子を背中に庇い、雄叫びの衝撃波‥‥いや、バーストアタックでそれを粉砕する。
「無事か?」
 キラリ。
 振り返ったギリアムの笑顔は何故かとても眩しかった。
「‥‥家屋の破壊は自身を巻き込みかねない‥‥オヤジに指南して貰った方が良さそうだな‥‥」
 どこから助け出したのか、いつの間にか犬や猫に囲まれ、鳥篭を手にしたアザートが呟いた。

 要救助者の確保を一通り終えた冒険者達は、本格的な破壊‥‥いや、消火活動に入った。
「ギルドの者だ! 被害の拡大を喰いとめる為にこれよりこの近辺の破壊を開始する!!」
 ギリアムが例の大声で叫ぶ。
「今は燃え広がらないように壊すしかないの。壊されたくなければ運んで!」
 ゴネる住民を李斎(ea3415)が説得し、ついでに野次馬達に家財道具の運び出しを手伝わせる。
「そこ、何してるの!?」
 勿論、火事場泥棒でもしようものなら華麗な足技が炸裂だ。
「破壊のコツなどがあれば伝授を願いたいのだが」
 訊ねる満に、オヤジは豪快に笑った。
「コツはただひとつ! とにかくブッ壊せ!!」
 ‥‥ダメだこりゃ、アテにならん。
「‥‥あー、では、近くの家屋の屋根に登って、消火の指揮をとって貰えますか?」
「そうだな、これだけの古兵に的確な指示を出せるのは爺さん以外に居ないぜ」
 オヤジもおだてりゃ屋根に登る。
 メグレズとリルに持ち上げられ、折からの強風に褌をはためかせたオヤジは屋根の上で仁王立ちした。
「よーし、まずはそこの一列をブッ壊せー!」
 あってもなくても良いような指示に従い、冒険者達は一斉に建物の取り壊しにかかった。

「誰かいるか、ニャー!」
 リルは念の為、破壊前に一声かけてみるが、返事はない。
 猫の為なら例え火の中水の中と思っていたのだが、いないなら仕方ない‥‥いや、いなくて幸い、うん。
「よーし、壊すぞ!」
 炊き出しの為に中身を全て提供して空になった大きな袋に瓦礫を詰め込み、口をロープで縛ると即席ハンマーの出来上がり。
 そこらに転がっていた鍋を頭に被り、リルはそれを思い切り振り回す。
「うおぉぉりゃあぁぁぁッッッ!!!」
 ――ドオォォン!
 家全体が揺れた。
 遠心力に袋の重さ、そこに気合いや妄想パワーその他諸々が加わり、薄い壁など一撃で粉砕される。
 丈夫な柱は台所から失敬した鉈で切り付け、ある程度ダメージを与えた所で梁にロープを巻き付けると、リルはそれを持って外へ出た。
 家と一緒に自分が潰されては堪らない。
 周囲の安全を確認し、ロープを思い切り引っ張ると、家は積み木細工のように崩れた。
「よーし、次!」
 潰れた家と意味不明の笑い声を後に残し、リルは次なる目標に走る。
 残った可燃物の撤去は野次馬任せだ。

「消火の為とは言え、まだ燃えていない家を壊すのも何だか忍びないですね」
 両手にハンマーを握り締めたルーウィン・ルクレール(ea1364)が呟く。
 だが、なるべく被害を少なくする為には仕方がない。
 火の手はすぐそこまで迫っているし、壊さなければ燃えるだけだ。
「‥‥バーストアタックを覚えていないのが、きついかも」
 そんなルーウィンにシフが笑い返し、偃月刀を振りかざす。
「なに、スマッシュEXで振り回せば、それなりに壊せるさ」
 ドカン、バキン!
 うん、確かに手応え充分。
「飛び散った破片は、あたしに任せて!」
 両手に盾を装備した斎が進み出る。
「李流両盾旋風脚!」
 瓦礫を盾で受け止め、見事な足技で捌くその姿に歓声が飛ぶ。
「何? あたしを闘技場で見た事あるの? 嬉しいじゃない」
 斎はその声に答えて観客にウインクして見せた。
 これで仕事の後で酒の一杯でも差し入れてくれたら最高なのだが。
「でも、野次馬はどいて! ほらほら危ないよ!」

「流石にいつもの戦闘とは勝手が違うな」
 隣の家でハンマーを振るう満が額の汗を拭って呟いた。
 傍らではアザートがオヤジから借りた巨大なハンマーを振り回している。
 ‥‥と、崩れた瓦礫の下から声が聞こえた。
「‥‥た、助けて‥‥っ」
 要救助者は全て助け出したと思っていたのだが‥‥二人は急いで声のする場所へ駆けつけた。
「た、助けてくれ、足が挟まって‥‥っ!」
 懐に何やら沢山詰め込んだ男が瓦礫の下敷きになっていた。
 よく見れば、それは財布や金袋、それに僅かではあるが貴金属も。
「‥‥泥棒‥‥」
「ふむ、自業自得であるな」
 だが、放っておく訳にもいかない。
 アザートは短剣を取り出し、男の足元にしゃがみ込んだ。
「な、何を‥‥っ!?」
「‥‥支障となる部分を切断する。足首を切れば抜けるだろう‥‥」
 アザートは本気だ。
 しかし、すんでの所で駆けつけたギリアムのバーストアタックによって、男の足は辛くも切断を免れた。
「た、助か‥‥っ」
 慌てて逃げようとする男に、手伝いに来ていた冒険者がスタンアタックをかます。
「自分の行いを恥じろ」

「タゴサクハー♪」
 ドッカーン!
「家コーワスー♪」
 ドッカーン!
 隣の現場からは、メグレズの何やら間の抜けた掛け声が聞こえてくる。
 それは彼女がジャパンの友達から教わった、家屋破壊による消火の掛け声‥‥らしい。
 何だかガセっぽい気がしないでもないが、本人は気に入っているようだ。

 かくして、冒険者達の活躍と応援に駆けつけた者達の働きで、火災は無事に鎮圧された。
「力自慢が揃ったお陰でしょうか」
 と、ルーウィン。
 燃えた‥‥そして壊された範囲は広いが、人的被害は出なかったようだ。
 彼等が提供した薬や救護の者の魔法のお陰で、怪我をした者も大事には至らなかった。
 炊き出しの為の保存食は充分にあったが、今後の事も考えてメグレズも手持ちを提供する。
「では、拙者はこれでスープでも作って進ぜよう」
「私にも手伝わせてくれ」
 シフが巨大な鍋に水を汲んで来る。
 後の事は国が何とかしてくれるだろう‥‥ここはキャメロット、天下のアーサー王のお膝元なのだから。