悪党からの手紙

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 71 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月25日〜03月02日

リプレイ公開日:2007年03月04日

●オープニング

 いつもそうだ。
 ガキの頃から、いつだって俺が悪者だった。
 妹が泣けば俺が叩かれ、弟の悪戯は俺のせいにされる。
 子供のケンカも、近所のちょっとしたトラブルも、全部俺のせい。
 村に泥棒が入った時も、真っ先に俺が疑われた。

 奴等は、俺の何がそんなに気に入らないんだ?
 確かに俺は、いつも不機嫌そうな顔をしているらしい。
 目つきが悪いとも、よく言われる。
 だが、そうさせたのは‥‥俺の事を全く信じようとしない両親と、村の連中だ。
 俺は何もしていないのに、俺の言葉はいつも悪意を持って受け取られる。
 何か良い事をしたい、誰かに喜んで貰いたいと思ってした事も、素直に受け取っては貰えない。
「似合わない事をするな」
「何か下心があるんだろう?」
「何が欲しいんだ?」
 ‥‥冗談じゃない。
 俺は何も欲しくない。
 こんなクソみてえな村に、俺の欲しいものなど何もない。

 どうやら、俺は悪党である事が求められているようだ。
 それなら、お望み通り正真正銘の悪党になってやる。

 そう考えて家を出てから、もう随分になる。
 今じゃ誰が見たって‥‥自分から見てさえ、立派な悪党だ。
 だが、そんな俺にも‥‥たったひとり、理解者がいた。
 それは村長の娘で、名をイリアという。
 そいつだけは、守りたい‥‥。



 ――とある午後、冒険者ギルド。
 ひとりの冒険者が、手紙と金の包みをカウンターに置いた。
「これ、外で若い男から預かったんだけど‥‥なんか、いかにも悪党って感じの、人相悪いヤツでさ」
 顔の真ん中に、大きな刀傷があったと言う。
 だが、見た目とは裏腹に話しぶりは穏やかで、彼も思わずその頼みを引き受けてしまったらしい。
「まあ、ヤバイ依頼じゃなさそうだったし‥‥ああ、内容は手紙に書いてあるって言ってたぜ」
 言われて、受付係は手紙を読み上げる。
 そこには、こう書いてあった。

 ここからそう遠くない村の村長が、倉に財宝を溜め込んでるらしい。
 ある盗賊団がそれを嗅ぎつけ、2〜3日のうちに襲撃を予定している。
 財宝や、村の連中はどうなっても構わないが、村長の娘だけは、危害を加えられないように守ってやってほしい。
 娘の名はイリア、歳は今年で20歳になる筈だ。
 盗賊団の規模は10人程度、個々の能力はそれほど高くはないが、残忍で容赦のない連中だ。
 もし村が全滅して、彼女の居場所がなくなるようなら、どこか宿でも世話してやってくれ。
 当面の費用は用意してある。
 必要なければ、礼とでも思って山分けすればいい。

「‥‥だ、そうです。ご丁寧に、地図まで添えてありますよ‥‥村までの道と、中の様子まで‥‥」
 村長の家は村の中心、広場に面している。
 倉はその裏手だ。
 村の周囲は簡単な柵で囲ってあるが、盗賊の襲撃を防げるような物ではない。
 村には自警団もあるが、恐らく役には立たないだろう。
 そして、手紙の最後にはこう記されていた。

 追伸:イリアには俺の事は話さないでくれ。俺に、あいつに会う資格はない。

●今回の参加者

 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2572 ガルガス・レイナルド(32歳・♂・ナイト・ドワーフ・イギリス王国)
 eb3412 ディアナ・シャンティーネ(29歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb5549 イレクトラ・マグニフィセント(46歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb7226 セティア・ルナリード(26歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb7721 カイト・マクミラン(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 そこは、いかにものんびりとした、犯罪や揉め事には縁がなさそうな村だった。
「こんにちは、匿名の方からの依頼でギルドから派遣されてきました」
 カイト・マクミラン(eb7721)が、この小さな村には不似合いな程に立派な家の玄関先で、にこやかに挨拶する。
 だが、応対に出た村長は怪訝そうな表情で一行を眺め回した。
「ここはご覧の通り、ギルドの世話になるような厄介事とは無縁な村だ。何かの間違いだろう」
「ただ今、私共冒険者ギルドでは盗賊撲滅キャンペーンを行っておりますの。その一環で、たまたま情報を得た方がいらっしゃったものですから」
 と、適当に話を作ったフィリッパ・オーギュスト(eb1004)にカイトも口裏を合わせる。
「なんでも、盗賊団が村長さんがお持ちの財宝を狙って襲ってくるらしいんです。財宝にお心あたりはおあり?」
 財宝、という言葉に村長の太い眉がぴくりと動く。
「何の事だ? ここにはそんな物‥‥」
 と、赤ら顔を更に赤くした村長の前に、背後で様子を窺っていた若い女性が進み出た。
「確かに、財宝はあります。父はそういった物に目がないので」
 年の頃は20歳前後、恐らくこの女性が今回の護衛対象、イリアだろう。
「でも、それは全て正当な手段で手に入れた物です。あなた方がもし、何か父の事を疑っていらっしゃるなら‥‥」
「ごめんなさい、そんなつもりはなかったんだけど‥‥そう聞こえちゃったかしら?」
 素直に謝るカイトに、イリアは安心したように微笑んだ。
「こちらこそ、ごめんなさい。近頃、村の中にも父の事を悪く言う人がいるものだから、つい」
 やっかみ、という奴か。
「それで、狙われているというのは‥‥詳しく聞かせて頂けますか?」
 どうも実質的な村のリーダーは、この娘の方らしい。
 父親は、お前に任せると言って奥に引っ込んでしまった。

「だからさ、盗賊団が来るまで村人には出歩かないように説得してほしいんだ」
 セティア・ルナリード(eb7226)が、とりあえず本当の事は伏せて事情を説明する。
「奴等、残忍で狡猾だって言うからな。財宝を奪うだけじゃ足りずに、めちゃくちゃしやがるかもしれねーだろ?」
「わかりました、それはお任せ下さい。でも‥‥」
 と、イリアは首を傾げる。
「あなた方が村を守って下さるのはとても嬉しいし、ありがたい事だと思うのですが‥‥でも、何故?」
 小さな村が盗賊に襲われるなど、そう珍しい事でもないだろう。
 いくらキャンペーン中(?)とは言え、見知らぬ人間が護衛を差し向けてくれるとは考えにくい。
「‥‥イリアさん、あなたには本当の事をお話しします」
 ディアナ・シャンティーネ(eb3412)が、ギルドで聞いた話を伝える。
 それを、イリアは黙って聞いていた。
「ここだけの話、依頼主はおぬしだけを護りたくて依頼を出したんじゃよ‥‥どこの誰かは知らんがの」
 ガルガス・レイナルド(eb2572)が立派な顎髭をしごきながら、呟くように言う。
「まあ、その彼はおぬしに合わせる顔が無いと言っておるらしいが‥‥」
「誰か、お心当たりは?」
 ディアナの問いに、イリアは少し困ったように顔を伏せた。
「‥‥あの子ね」
 この村の問題児、箸にも棒にもかからないと言われていた、あの子。
 5年程前に村を飛び出して行ったきり、何の音沙汰もなかったが‥‥。
「元気なのね。今、何をしてるの?」
「それはアタシ達も知らないのよ。でも‥‥ごめんなさい、失礼だけど、あの子っていう事はあなたの方が年上なのかしら?」
 カイトの問いに、イリアは微笑む。
「ええ、2つ違いよ」
 という事は、彼は今18かそこらか‥‥まだ充分にやり直しのきく年齢だ。
 と、その時。
 開け放された窓から何かが投げ入れられた。
 小石を包んだ羊皮紙‥‥拾い上げたイレクトラ・マグニフィセント(eb5549)が、そこに書かれた文字を読み上げる。
「‥‥決行は明日夜」
 依頼人からの追加情報だ。
「この場に来ているらしいね。‥‥会ってみるかい?」
 イレクトラの問いにイリアは首を振る。
「あの子が会えないと言っているなら、今はまだそっとしておきましょう」
 この村にいるなら、居場所はわかる。
 彼のお気に入りだった、村外れにある大きな木‥‥きっとそこに登って、今もこちらの様子を窺っているのだろう。
「でも、大金払ってギルドに依頼するなんて、よっぽど大切に思ってるんだろうな」
 彼がイリアに会えない事情‥‥詳しい事はわからないが、何とかしてやりたいとセティアは思う。
「とにかく、あたしらは仕事をきっちり片付ける。後は二人の問題だな」
 その言葉に、イリアは窓の外に見える大きな木を見つめ、微かに頷いた。

 その夜、村長の家に泊まる事になった冒険者達に、イリアは依頼人の事を話して聞かせた。
「‥‥多分、味方は私一人だと感じていたのだと思います」
 そして恐らく、その認識は正しかった。
「唯一、偏見を持たずに接してくれた人を護りたいのか‥‥あぁ、なんとなく気持ちは分かるさね」
 それなら、こちらも守り甲斐があるというものだ。
 夜中近くまで様々な事を語り合い、漸く仲間達が寝静まった頃‥‥ガルガスはひとり起きだし、夜の散歩に出掛けた。
 彼は村外れにある大きな木の下で立ち止まると、独り言にしては大きすぎる声で話し始める。
「‥‥その男も、あちらの世界の情報を流してしまうと後が色々と大変なのではないじゃろか?」
 返事はないが、それで構わない。
「もしよければ、盗賊どもを撃退した後、国外脱出の護衛などを請け負っても構わんと思っとるんじゃがのぅ。本当の悪党ならば好きな娘を護りたいなどという気持ちは残っておらん。その男は充分『戻れる』じゃろうて」
 木の葉が揺れたのは、風のせいではないようだ。

 次の夜、情報通りに賊達が現れた。
 見張りを買って出た自警団からの知らせで侵入ルートを絞り、待ち伏せる。
 賊は冒険者達が待ち構えているとも知らずに、殆ど無防備な状態で倉に忍び寄ってきた。
 セティアはリトルフライで空中に舞い上がると、村長宅の屋根に降り、スクロールを広げる。
 ここからなら家の周りで待機している仲間に魔法が当たる事もないだろう。
 辺りは真っ暗だが、目の良い彼女には僅かな星明かりがあれば充分だった。
 ――バリバリッ!
 セティアの手から一直線に走った雷光が、賊の一人を直撃した。
 その光に照らされた残像が消えぬ間にと、イレクトラが馬上から続けざまに矢を放つ。
 賊達の悲鳴が闇にこだました。
 先制攻撃が功を奏したと見るや、周囲を囲む自警団の面々が一斉に松明に火を付ける。
 炎に浮かび上がったのは、倒れた賊が4、5人程‥‥だが、まだ同数以上が無傷で残っていた。
 急襲を受けた衝撃から立ち直った賊達は、武器を手に襲いかかる。
 だが、向かった先は場慣れして見える冒険者達ではなく、松明を掲げた自警団の若者達。
「く、来るなァ!」
 若者は松明を振り回すが、そんなもので攻撃を防げる筈もない。
 逃げる背中に偃月刀が振り下ろされようとしたその時。
「背中を狙うなんて、卑怯とは思いませんか?」
 剣を振りかざした腕にフィリッパの鞭が巻き付く。
 若者が逃げおおせたと見るや、フィリッパはそれを解き、今度は顔面を思い切り打ち付けた。
 バラのトゲがびっしりと付いたその鞭で叩かれたら、さぞかし痛い事だろう。
「卑怯な事しか出来ないから、賊なんてやってるんでしょうけどね」
 悶絶した賊にカイトが念の為にスリープをかけ、ロープでふん縛った。
 傍らではガルガスが賊と若者の間に割って入る。
「コナンの奥義、その身に刻むがよいッ!!」
 賊は渾身の力を込めたその一撃で、あっさり沈んだ。
「さあ、次はどいつじゃ!?」
 一方ディアナは裏手に回って倉の扉を壊そうとしていた一団に向かって馬を走らせ、剣を振るう。
 財宝が奪われるのは構わないが、放火でもされたら厄介だ。
 倉に続く母屋にはイリアがいる。
 彼女だけは何としても守らなければ。
 手持ちの矢を射尽くしたイレクトラもそれを追い、弓から持ち替えた破邪の剣で賊を薙ぎ払った。
「く、くそ‥‥ッ! 誰かチクリやがったか!?」
 作戦失敗と見て逃げ出す賊に、上空から稲妻が放たれる。
「逃がさないぜ」
 逃がせば奴等は依頼人の存在を嗅ぎつけ、彼を狙う事だろう。
 今後の為にもそれは拙い。

「‥‥これで、全部か?」
 松明の炎に照らされた広場に転がる、簀巻きの盗賊が1ダース。
「ええ、他にはいないようです」
 愛犬を伴い、馬で周囲を見回ってきたディアナが答える。
 イレクトラの答えも同様だった。
「まさか、この中に依頼人がいたり‥‥しないわよね?」
 カイトが賊達の顔を覗き込む。
 だが、ギルドで聞いた顔に大きな傷のある若者は見当たらなかった。
 賊達の身柄は然るべき機関に引き渡されるだろう。
「さて、どうするかね。結局財宝も守りきった訳だが」
「このままでは、また財宝を狙う盗賊が現れないとも限りませんが‥‥」
 ディアナは案ずるが、正当な手段で集めた物である以上、それをどうしようと冒険者達がとやかく言う事ではないだろう。
 ‥‥例え、それが村人達からの羨望の的になっているとしても。
「ところで、キャンペーンの特別報奨はどうしましょうか?」
 フィリッパが訊ねる。
 依頼人が用意していた万一の為の金‥‥必要なければ冒険者達で山分けしても良いとは言われていたが。
「まあ、この先何かと入用かもしれんしのぅ」
「そうだな、例えば人捜し‥‥とか」
 結局、その金はイリアに渡される事になった。

 後刻、村外れに佇む大きな木。
 その枝のひとつに、手紙と共にマスカレードが結ばれていた。
 手紙にはフィリッパの手でこう書かれていた。
『今の時分、腕と覚悟があれば熟練の傭兵や成り上がりの騎士など適当な人生を買うこともできるでしょう。後はやるかやらないかを決断しうるか、ではないでしょうか』