●リプレイ本文
「あの、僕、ヒュー・ディ(ec1244)って言います!」
モンスターと戦う仕事はこれが初めてだというヒューが、少々緊張した面持ちで集まった仲間に挨拶する。
「皆さんの足を引っ張らないよう頑張ります!!」
初々しくて可愛いが、何だかやけに荷物が重そうだ。
「私の馬にはまだ余裕がありますから、一緒に乗せて差し上げましょうか? それでは歩くのがやっとでしょう?」
マルティナ・フリートラント(eb9534)が声をかける。
「ありがとうございます! ちょっと勝手がわからなくて、荷物に詰め込みすぎてしまいました」
「ついでに乗って行きますか? 私はブーツがありますから‥‥」
至れり尽くせりだ。
「じゃあ、全員揃ったみたいだし、行くか」
同じく荷物の重さに往生していたアリア・ラグトニー(ec1250)のバックパックを自分の馬に乗せると、レット・バトラー(eb6621)は先に立って歩き出す。
歩くと言っても殆どの者は馬に乗ったり、ブーツや草履を装備している。
「さて、どうするかな。俺は馬もねぇし、特殊な移動方法もねぇ!」
ラディッシュ・ウォルキンス(ec1503)が吠えた。
ふと見ると、隣に馬の手綱を引く大男の姿。
「ん? アガルスも徒歩か」
「ふむ、どうやら俺を支えきる事はできぬらしいのでな。仕方がないので馬は荷物持ちだ」
アガルス・バロール(eb9482)は答え、大地を揺るがす大音声で笑った。
「よし、なら俺と現地まで勝負だなっ!」
「むう、ラディッシュ殿は走って行くとな? 面白い! どちらが先に着けるか、その勝負受けて立とう!」
――ぬおおおおおおおおおおおおお!?
――むぁけるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
それは、所謂ひとつの男の浪漫。
二人は咆哮を上げ地響きを立てながら、仲間に追い付き、追い抜いて行く。
「‥‥仕事を始める前に、疲れ果てないと良いわね‥‥」
遠ざかる後ろ姿を見つめながら、神楽絢(ea8406)が呆れたように呟いた。
――はあはあ、ぜえぜえ。
「‥‥や、やるな、アガルス‥‥」
「‥‥ラディッシュ殿も、なかなか‥‥」
全力疾走した二人は、道半ばで力尽きていた‥‥いや、体力の少ないラディッシュの方が先にバテてはいたが。
出がけに追い抜いた筈の仲間達は、とうに先を行っている。
「‥‥腹が減ったな」
「うむ、少し腹ごしらえをするか」
保存食は手を加えたりせず、そのまま食うのが漢のマナー。
二人はそれを豪快に口の中に放り込んだ。
「‥‥おや、休憩中ですか?」
手伝いに来た息子からの情報を受け取る為、皆より少し遅れて出発したガラハド・ルフェ(eb6954)が通りかかる。
「ああ、むぁあな」
口いっぱいに保存食を頬張ったまま、ラディッシュが返事を返す。
「ふぁて‥‥(ごっくん)腹が膨れたら食後の運動だぜぇ! 聖職者たるもの体は資本よ!」
叫びながらいきなり腕立て伏せを始めたラディッシュに、アガルスが対抗する。
「むう、負けるかぁっ!」
「‥‥まあ‥‥頑張って下さいね。私は先に行きますので」
ガラハドの声も、二人の筋肉ズの耳には入らなかったようだ。
一足遅れて村に着いたガラハドは、3Gの面々から預かってきた地図を広げ、頭のハッキリしていそうな村人に尋ねて回っていた。
「巣の場所をご存知なら、この地図を確認して頂きたいのですが」
「ああ、これ、あの爺さんが作ったヤツだろ?」
ガラハドとしては、なるべく爺様方の面子を潰さない方向で処理したかったのだが、時既に遅し。
その地図を頼りに出掛けた爺さんズが、道に迷って散々な目に遭った事は村の誰もが知っていた。
もっとも本人は「ワシの地図は完璧じゃ! あのボケジジイどもが悪いんじゃ!」などと言っているようだが。
「コボルトの巣について、何か知っている事はないですか?」
「見かけた場所と、それから時間帯についても何かわかる事があればお願いします」
巣を探し当ててももぬけの殻では困る。
ヒューとマルティナは出来るだけ多くの情報を集めようと、村じゅうを回って聞き込みに励んでいた。
その結果わかったのは、コボルト達は大抵夜に襲って来る事と、この村だけでなく他の村も襲われている事。
そして、被害は川沿いに集中している事。
「この時期には水は流れてないのか‥‥」
仲間からの情報を元に巣の在処を探しに来たレットが川底を覗く。
春になれば雪解け水で溢れるのだろうが、今はカラカラに乾いている。
「被害は川沿いに集中してるって言うし、この川を道の代わりにしてるのかもしれないわね」
川底に降りた絢が足元を調べて言った。
「足跡でも残ってれば良いんだけど」
爺さんの地図でも、途中までは確かにこの川に沿ったルートが描かれている。
「問題はどこで川から上がるか、だな。ハサウェイに匂いが辿れれば良いんだが」
と、レットは愛犬のふさふさな毛並みを撫でる。
彼自身も森林の土地勘はあるが、少々心許ないレベルだった。
「大丈夫、私が先行するわ。土地勘には少し自信があるの」
絢が先に立って歩き出した。
「じゃあ、私は巣を見付けたら周りに罠でも作っておこうかね」
と、アリア。
「時間もないし、そう多くは仕掛けられないと思うが、多少の効果はあるだろう」
罠の材料になりそうな物は村でいくらか調達して、川沿いを歩くレットの馬に積んである。
三人は暗くなる前に仕事を済ませようと、森の奥へと入って行った。
一方その頃。
「俺はキャメロットが騎士、アガルス・バロール! 2、3聞きたい事があるがよろしいか!?」
「俺はラディッシュ・ウォルキンスだ! コボルトの巣について、何か知らないか!?」
遅れて到着した二人は大声(実はそれが地声なのだが)で村人に尋ね歩いていた。
「おぉおぉ、元気がええのう。近頃の若いモンは声が小さくてイカンわい」
いや、爺さん、それはあなたの耳が遠いだけ。
聞き込みはあらかた終わっているのだが、仲間達は誰も止めない。
「‥‥面白い‥‥良いコンビですねえ」
とは、ガラハドの弁だった。
さて翌日。
先行した三人を追って、冒険者達は村を出た。
途中にアリアが残した目印のお陰で、まだ陽のあるうちに迷う事もなく全員が合流した。
「ほら、あそこよ」
絢が指差したその先には、枯草に覆われた洞窟と思しき穴が口を開けていた。
「奴等が夜に村を襲うなら、そろそろ動き出す頃だ」
レットの言葉に、マルティナが問う。
「コボルト達はあの中にいるのでしょうか?」
「ああ、正確な数はわからないが‥‥時々何匹か出てきて辺りの様子を窺ってた。まず、いると思って間違いない」
「出入り口の前にロープを張っておいたんだが、誰か合図と同時に引っ張ってくれないか?」
アリアの要請にガラハドとアガルスが応える。
「では、皆さんお気をつけて。頑張って下さい」
マルティナが前衛の攻撃陣にグットラックを付与した。
それを受けて、二人は土を被せて隠してあったロープの両端を握り、合図を待つ。
「それじゃ、行くわよ?」
絢が洞窟の中に照準を合わせ、弓を引いた。
中は真っ暗なので当たるとは思えないが、それでも矢が飛んでくれば何事かと飛び出して来るだろう。
――パシュッ!
洞窟の中にざわめきが広がる。
それが収まらないうちに、何匹かの犬のような顔をした人影が、武器を手に飛び出してきた。
「それっ!」
アリアの合図で、地面に隠されたロープがピンと張られる。
そこに足を取られ、2匹が無様にひっくり返った。
ガラハドとアガルスは互いに目で合図をすると、ロープを持ったまま走り出る。
二人はそのまま倒れたコボルト達の周りをグルグルと回り‥‥コボルト巻きの出来上がり。
「打ち合わせもなしに、なかなかの呼吸でしたね」
見上げるガラハドに、アガルスは豪快に笑って答えた。
「戦士の考える事は同じと見える!」
そして、おもむろに剣を抜き放ち、吠える!
敵は野獣と変わらぬ、大声で威嚇し、濁った目を睨み返し、威圧するのだ!
「どっちが野獣だ、オイ」
ラディッシュのツッコミを受け流し、アガルスは敵の前に仁王立つ。
「いや、頼もしいですね」
一方のガラハドも後衛の盾役を買って出たものの‥‥
「私はほぼ特攻ですよ」
左手に持った鉄扇を盾代わりに広げ、のっそりと洞窟から出てきたコボルト戦士に向かって行く。
毒攻撃は脅威だが、相手を倒せば毒消しが手に入る‥‥多分。
ガラハドは相手の攻撃を受けても構わず、相手を討ち取る事だけに専念する。
「おじさん、カッコイイです!」
その傍らでヒューが歓声を上げながらハルバードを振り回している。
ただのコボルトなら駆け出しの冒険者でも充分通用する相手だった。
「おら、足元がお留守だぜ!」
湧いて来るコボルトの足を鞭で絡め取り、地面に転がすのはレットの役目だ。
「しっかし、次から次に湧いて来やがるな‥‥5〜6匹じゃなかったのかよ!?」
村を襲うのがその程度の数、という事だったのだろう。
ここが本拠地ならゾロゾロと湧いて来ても不思議はない。
その一匹が生意気にもレットの背後に回り込んだ。
だが、左手の小太刀でそれを一閃する。
「甘いな、しっかり見えてるぜ」
「やるじゃないか、レット」
そう言いながら、アリアが戦士クラスと思しき敵に狙いを定めてダーツを投げ付けた。
それは相手の目の中に吸い込まれるように突き刺さる。
「私も負けてられないわ!」
手近の木に登った絢も、狙いをすまして矢を放つ。
眼下では傷を受けたアガルスに、ラディッシュがリカバーをかけていた。
「俺の癒しを‥‥喰ぅらえぇぇ!!」
‥‥癒された気がしないんですけど。
「私はマルティナさんにお願いしましょうか」
毒を食らっても構わず戦い、倒したコボルトが持つ毒消しを利用というサイクルを繰り返していたガラハドだったが、コボルト全部が毒消しを持っている訳ではない。
「対症療法にすぎませんけど‥‥」
とは言え、やっぱりリカバーは優しい女性にかけて貰った方が‥‥ね。
かくして、戦いは終わった。
倒したコボルトは全部で20匹以上になっただろうか。
「いや、よくやって下さいました」
戦果を聞いて喜ぶ村人達に別れを告げ、冒険者達は帰途に就く。
「今度、機会があったら私が打った武器でも進呈するよ!」
小さな鍛冶師はそう言って村人達に手を振った。
「ほうほう! 何と、そんなに沢山おったのか!」
「それで、ふむ、ほほう!」
「おお、奴等の巣も徹底的に掃除したとな!?」
冒険者達のちょっと脚色の入った報告に、3Gのジ様達は大喜びだった。
「しかし、なさけないのう。やっぱりトシはとりたくないもんじゃ」
ジ様達、失敗を気にしているらしい。
「いや、あの森は何しろ複雑怪奇でしたからね。私達も犬の助けがなければどうなっていたか」
落ち込んだジ様達を励ます為なら、少々の作り話もやむなし。
ガラハドの言葉に、ジ様達はたちまち舞い上がった。
「そうじゃろ? そうじゃろ?」
「そうじゃ、わしらはまだまだ現役バリバリじゃ!」
「若いモンには負けやせーん!」
爺さん達、調子乗りすぎ。
でも、楽しんでくれているなら良いか。
「爺さん、酒は好きかい?」
レットが差し出したノルマン土産の酒に、ジ様達はますます喜び、盛り上がる。
冒険者達は時間の許す限り、ジ様達に冒険談を話して聞かせ、ジ様達もかつての栄光の日々を語って聞かせた。
帰りにはお茶とお菓子のお土産も貰って‥‥酒を振る舞ったレットにはオマケ付きで。
「また遊びに来るとええ」
「いつでも歓迎じゃ」
「勿論、稽古をつけてやってもええぞ!」
3Gは、止まらない。