悪党への手紙
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 18 C
参加人数:8人
サポート参加人数:6人
冒険期間:03月14日〜03月20日
リプレイ公開日:2007年03月23日
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●オープニング
「すみません、人を捜して欲しいのですが‥‥」
その日冒険者ギルドに現れたのは、都会には不慣れな様子の若い女性だった。
「はい、人捜しですね」
受付係は慣れた様子で応対する。
「相手の名前や特徴はわかりますか?」
「名前はコリン‥‥でも、今は別の名前を名乗っているかもしれないわ。冒険者さん達の話では、顔に大きな刀傷があって、だいぶ人相が悪くなってるらしいんだけど」
それを聞いて、受付係はポンと手を打った。
「この間の依頼の‥‥確か、イリアさんでしたか?」
「はい、その節は皆さんにお世話になりました」
盗賊に狙われた村で、ただひとり守って欲しいと頼まれた女性。
依頼は成功し、護衛対象であるイリアは無事に守られた。
しかし、肝心の依頼人は村にも、そしてこの冒険者ギルドにも姿を現してはいない。
「会って欲しいとは言いません。ただ、これを渡して欲しくて‥‥」
そう言うと、イリアは一通の手紙を差し出した。
「渡してくれるだけで良いの。返事を貰う必要はないから‥‥お願いね」
彼女が現れたその日の夜、訪れる者も途絶えたギルドに闇に紛れるようにして入ってきた男がひとり。
彼は掲示板に張り出してあった1枚の羊皮紙を剥がすと、帰り支度をしていた受付係に手渡した。
「こいつは必要ない。金はイリアに返してやってくれないか?」
男の顔には大きな刀傷。
「‥‥コリン、さん?」
受付係の問いに、男はニヤリと笑う。
その表情には僅かにあどけなさが残っていた。
「その名を聞くのも久しぶりだ。今は黒犬と呼ばれてるがな」
黒犬と言えば、近頃このキャメロット周辺を騒がせている盗賊団のひとつで、このところ急激に勢力を拡大している集団‥‥そのナンバー2ではなかったか?
「俺もなかなか有名になったもんだ。‥‥で、俺に何か渡すモンがあるんじゃないのか?」
そう言って手を出す男に、受付係は恐る恐るイリアから預かった手紙を渡した。
「そうビビるなよ、堅気に手出しはしねえさ」
悪党には悪党なりのポリシーがあるらしい。
男は店内に残された僅かな蝋燭の灯りを頼りに、手紙に目を走らせた。
この間はありがとう。私を守ってくれと頼んだのは、あなたでしょう?
でもその様子だと、どうやら堂々とお日様の下を歩けるような人生を歩んではいないようね。
だって、あなたの情報源が真っ当なものなら、私の一大事を知らない筈がないもの。
私、結婚するのよ。
ほら、知らなかったでしょう?
相手は金持ちの貴族で、何の間違いか知らないけど私を気に入ったみたい。
父さんはあの通りお金や財宝に目がない人だから、貴族と親戚になれるって大喜びで、私に何も聞かずに話を決めて来ちゃったのよ。
私も気乗りはしなかったけど、どうでも良いかなって思ってたわ。
あなたとはもう、二度と会えないと思ってたから。
それに貴族ってワガママだから、相手の面子を潰したら何をされるかわからないでしょう?
だから、断る事は出来ないわ。
でも‥‥結婚式の当日に花嫁が盗賊に浚われたりしたら、相手も諦めるしかないと思わない?
ただし、本物の盗賊に私を浚う資格はないわ。
私が欲しければ、きちんと足を洗っていらっしゃい。最後の泥棒だけは大目に見てあげるから。
もしあなたが来なければ、私は金と権力を笠に着たつまらない男の元で朽ち果てて行くことでしょうね。
コリン、あなたとはもう何年も会ってないけど‥‥でも、私はあなたを信じてるわ。
昔と同じように、そしてこれからも、ずっと。
「‥‥狡いぞ、ちくしょう‥‥」
手紙を読み終えた男は、そう呟いた。
「昔からそうだ、あいつは俺が絶対に断れないような条件を付けて、是が非でも首を縦に振らせようとしやがる」
だが憎々しげな言葉とは裏腹に、その表情は楽しそうでもあり、そして嬉しそうにも見えた。
暫く時間をくれ‥‥そう言ってギルドを後にした彼が再び現れたのは、それから数日後の事だった。
頭からすっぽりとフードを被り、片足を引きずっている。
「‥‥あのお節介どもに、頼みがある‥‥」
男はカウンターにもたれかかると、懐から金袋を取り出した。
「‥‥調べたんだが‥‥奴の取り巻きは、俺一人じゃ無理だ‥‥お節介ついでに‥‥頼むぜ‥‥」
それだけ言うと、彼はその場に崩れ落ちた。
「ちょ‥‥っ、コリンさん!? 大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄る受付係に、彼は苦しげな息の下から呟くように言った。
「‥‥足抜けも、楽じゃねえな‥‥まあ、自業自得ってヤツか‥‥」
「しかし、この依頼‥‥拙いんじゃねえか?」
とりあえず奥の部屋に寝かされたコリンの様子を見てきた、先日晴れて冒険デビュー(?)を果たした口だけは達者な新米オヤジが例によって口を挟んだ。
「事情はどうあれ、人浚いは犯罪だよなあ?」
依頼の内容は、恐らく妨害して来るであろう、相手の貴族が所有する騎士団を退け、花嫁を浚ったコリンの退路を確保する事。
だが、それは立派な犯罪だ。
「まあ、このまま受ける訳にはいきませんよねぇ」
受付係も、どうしたものかと腕を組んで考え込んでいる。
手助けはしてやりたいが、犯罪に加担する訳にはいかない。
「でもこの手の依頼は、依頼人さえ納得してくれれば、柔軟な対応も可能ですし‥‥」
「そうだな、根性ありそうなヤツだし、ここはもうひと踏ん張りして貰って‥‥」
彼も故郷の者に恨まれ、悪党の烙印を押されたままでは、今後も何かと生き辛いだろう。
「花嫁の為にも、何とかこう、スッキリ解決してやりてよえな‥‥合法的に」
‥‥まあ、俺は当分冒険は遠慮しとくが、と、眉の焦げた新米オヤジは付け加えた。
●リプレイ本文
「‥‥説得?」
コリンは大きな傷のある顔で、酒場の隅に顔を揃えた一同を睨み付けた。
いや、睨んだのではないのかもしれないが‥‥傷のお陰でそんな風に見えるのか。
「俺が頼んだのは、イリアをかっ浚う為の手助けだ。説得でも和解でもない」
「コリン、あんたはそれで良いかもしれないが‥‥」
シア・シーシア(eb7628)が、不満そうなコリンの様子など気にした風もなく言う。
「それを実行すれば、相手の貴族から追われる身となる‥‥多分、一生。イリアを危険に曝す事になっても良いのか?」
そう言われて答えに詰まったコリンに、ラーイ・カナン(eb7636)が問いかけた。
「お前は本気なのか? いや、足抜けまでしようとしたのだから本気だとは思うが‥‥彼女を本気で愛しているなら、問答無用の略奪は止めることだ」
愛しているかとズバリ問われて、コリンは顔を赤らめる。
そんな所は年相応に‥‥何と言うか、可愛らしい。
「‥‥俺はイリアに幸せになってほしいだけだ。それが俺に出来るとは思えないが‥‥」
と、本人は言うが、思ってもいないのに足抜けなど出来るものではないだろう。
「大丈夫、コリンさんになら。いえ、コリンさんだからこそ出来ることだと思います」
ディアナ・シャンティーネ(eb3412)が微笑んだ。
「イリアさんを泣かせることがあったら承知しませんから。幸せにしてあげて下さいね」
「‥‥泣き顔か。拝んでみたい気もするが‥‥」
イリアは人に泣き顔を見せた事はないらしい。
苦笑するコリンだったが、ディアナに睨まれて冗談だと返す。
「でも、イリアは浚えって‥‥」
「それは多分、あなたの覚悟を見る為に、そう書かれたのではないでしょうか?」
フィリッパ・オーギュスト(eb1004)の印象では、イリアは知的で行動力もあり、意思の強そうな女性だった。
安易に自分を浚えなどと犯罪をそそのかすような事を書くとは思えない。
「ならば尚更、新しい人生を歩み始めるのに、犯罪で始めてはいけない。 堂々とお日様の下を歩けるような人生を歩んでいくべきだ」
「この顔じゃ、それも難しそうだが‥‥まあ、何とかしてみるさ」
フィリッパとラーイに言われ、コリンは略奪を諦めたようだ。
「だが、奴の説得は無理だろうぜ」
「相手の貴族さんの事、何か知ってるのかしら?」
そう問うカイト・マクミラン(eb7721)に、コリンは自分で調べた事を伝えた。
それによると、どうやら相手は冒険者達が秘かに期待するような、話のわかる人物ではなさそうだった。
「‥‥話のわかる方なら、最初から強引に約束を取りつけたりはせず、イリアさんの意見もきちんと聞いて下さる‥‥という事でしょうか」
フィリッパは、コリンに見せて貰ったイリアの手紙の内容に、何か不自然なものを感じていた。
その事から、相手側にも何か‥‥本当は破談を望んでいるような、そんな事情があるのではないかと考えていたのだが。
「とにかく一度、自分達でも調べてみましょう。噂などではわからない事もあるでしょうから」
陰守森写歩朗(eb7208)は貴族の屋敷へ直接出向き、何とか接触を試みるつもりだった。
「そうね、もしかしたら弱味になりそうなネタなんかを拾えるかもしれないから、アタシも近くの酒場で調べてみるわ」
翌日の夜、村外れの平原を野営地に定めた冒険者達のもとへ、貴族の屋敷を偵察に行った森写歩朗が合流した。
「で、どうだった?」
「‥‥どうも、噂通りの‥‥いや、それ以上の人物のようです。この結婚も、親族の反対を押し切って強引に進めたようで、式が取りやめになったり、花嫁に逃げられたりしたら‥‥」
「‥‥何をするかわからないわね」
「カイトさん、そちらは?」
「ダメ、ネタは腐る程出てきたけど、いっぱいありすぎて、かえって使い物にならないわ。それがどうしたって開き直られるのがオチね」
つまり、強請も効かない程のワル、という事か。
説得どころではなさそうだ。
「やっぱり、死んだフリ作戦か」
「‥‥死んだフリ?」
と、相談に加わっていたイリアがシアに問う。
その隣には少し居心地が悪そうなコリンの姿があった。
「ああ、それなら相手の貴族は結婚式直前に愛する者を失った悲劇の人として、周りから同情される事はあっても、面子が潰れる事はないだろうと思うが」
「でも‥‥どうやって? それに、信じて貰えるかしら?」
「事故を装って芝居をしてみるのはどうでしょうか? 盗賊団を抜けようとしたコリンさんを追って、この村に賊が侵入した、とか」
と、森写歩朗。
「そうね、村を抗争の場にして、そこにイリアさんが巻き込まれる。勿論、追いかける盗賊役はアタシ達で、本当に怪我をさせたりはしないけど‥‥そうね、村長さんが間違って刺されそうになるのを、イリアさんが庇うっていうのはどうかしら? 後はどうにかして『死体』を見せない工夫をすれば、何とか誤魔化せると思うんだけど」
「ちょっと待って、私が庇うならコリンの方が自然じゃない?」
確かにコリンがイリアの為に追われているなら、その方が自然に見えるかもしれない。
「それに、父さんにも私の気持ちをわかってほしいから‥‥出来ればお芝居なんかじゃなく、ちゃんと話しておきたいけど‥‥聞いてくれそうもないわね」
諦め顔のイリアに、ディアナが言った。
「でも、どんなに困難なことだとしても、対話の努力は続けるべきだと思いませんか?」
「それは、そうだけど‥‥でも、時間もないし‥‥それに、諦めてしまっていた私も悪いのよ」
と、イリアはコリンの方を見る。
「戻って来るって、ちゃんと信じていれば‥‥」
「‥‥そうだな。自分の人生を『どうでも良いか』なんて、口に出すべきではない。だが今はとにかく、二人でどこか遠くへ逃げる事だ」
ラーイは姉のレイにも手伝って貰い、適当な新居の目星を付けておいたようだ。
「そうね、まずは既成事実を作っちゃう事よ。騙した事については、後でこっそり謝りに来れば良いわ」
カイトが二人に向かって片目を瞑って見せた。
「父親なんて、孫の顔見せたらイチコロよ♪」
そして翌日の夕刻、騒ぎは起きた。
「この、裏切り者!」
逃げるコリンを、そう叫びながら追いかけるのは覆面で顔を隠し、いかにも悪党っぽい雰囲気を漂わせた森写歩朗だ。
その反対側から、やはり悪党っぽく演出したラーイとシアが挟み撃ちにしようと飛び出した。
更には、またしても情報を得て助けに来ました、という触れ込みの冒険者達がそれを止めようと追いかける。
見た目なんとなくわざとらしいドタバタ劇だが、ついこの間実際に襲撃を受けたこの村では、その時の記憶が蘇ったのか、その芝居は実際以上にそれらしく見えたようだ。
その騒ぎに、村人達が何事かと家から顔を覗かせ、村長も慌てて飛び出して来た。
その姿を確認して、木陰からイリアがコリンの前に走り出す。
「‥‥やめて!」
――グサッ!
イリアの胸に赤い花が咲く。
その血は芝居に使う小道具の類で、凶器も芝居用のオモチャなのだが、遠目にそれがわかる筈もない。
「イリア!?」
コリンの腕の中に崩れ落ちるイリアのもとに、父親が血相を変えて走ってきた。
それを見て「賊」達はあっという間に姿を消す。
「いけません、近付いては!」
娘に走り寄ろうとする父親の前に、フィリッパが割って入った。
「どけ! 娘が‥‥俺の娘がっ!」
「あの武器には猛毒が塗ってあったのです。感染者に知識もなく触れるのは危険です、あなたまで犠牲に‥‥」
「構うものか、どけ!」
必死の形相で迫る父親を止める力は‥‥そして言葉の説得力も、彼女にはなかった。
だが、フィリッパの妨害を乗り越えた彼の前に、今度は純白のペガサスが舞い降りた。
その脇で、クレリックのインデックス・ラディエル(ea4910)が十字を切る。
「これは、主の御使いです」
インデックスが言うと、ペガサスはその耳元で何事かを囁くような仕草をした。
ペガサスはエンジェルであり、人の言葉を理解する知性もあるが、自ら言葉を発する事は出来ない。
「彼女は、母なる主の御許へ旅立った‥‥御使いは、そう申しております」
通訳をしたインデックスの言葉に、ペガサスのライデンくんは「誰がそんな事を言った」と言うような目つきで彼女を見たが‥‥勿論、それは他人にはわからない。
ライデンくんには後でしっかり謝っておく事にして、インデックスは続けた。
「残念ながら、毒の回りがとても早かったようです。願わくば、イリアさんに安らかな眠りが訪れますように‥‥」
「‥‥ふ‥‥ざけるなあっ!!」
‥‥確かに。
「ああ、見てはいけません! その毒はとても痛ましい外見に‥‥って、無理だよねぇ、見るなって言っても」
最後の方は独り言。
そして、止めに入る冒険者達を振り払って娘の元に辿り着いた父親が見たものは‥‥。
「‥‥そうよね、やっぱり」
死んだ筈の娘が口をきいた。
「ごめんなさい、でもやっぱり騙しきれる筈がないし‥‥騙したくないの」
イリアは服に血糊を付けた姿で父親の前に立った。
「父さん、これが私の本当の気持ちよ」
と、傍らのコリンに寄り添う。
「‥‥あ〜あ、バレちゃしょうがないわね」
諦めたように、カイトが溜め息をつく。
「村長さん、ごめんなさい。これは全部、アタシ達の芝居。でも、イリアさんの気持ちだけは本当よ」
言われて、村長は自分の娘をまじまじと見つめ、そして隣の青年に目をやった。
「き‥‥貴様は‥‥‥‥コリン!?」
コリンはイリアを守るように、しっかりとその肩を抱いている。
「貴様、娘から離れろ! 貴様のような悪党に娘は渡さんぞ!」
コリンに掴みかかろうとする村長をラーイが止めた。
「‥‥村長、あんたを騙そうとしたのは悪かった。だが‥‥」
「イリア! お前は明日にも嫁に行く身だぞ! お前も、それで構わんと‥‥!」
「それが本心だと、本当にそう思われますか?」
ディアナが訊ねた。
「貴方はイリアさんの事をちゃんと見ていましたか? それに、コリンさんの事も」
「こいつは生まれつきの悪党だぞ! 確かに娘は昔からこいつには甘かったが‥‥」
絶対に認めない。
父親は全身でそう叫んでいた。
「財は多いからといって幸せになるとは限りません。他人の評判が悪い人が、本当に悪党であるとも‥‥」
「しかし、こいつは!」
「‥‥貴方へ向けたイリアさんの心からの笑顔‥‥ちょうど今、コリンさんに向けられているような、あんな笑顔を最後に見たのは、いつですか?」
そう言えば、暫く見ていない気がする。
「とにかく、そういう訳だ。後は父親のあんたさえ協力してくれるなら、全てを丸く収めて見せるんだがね」
シアの言葉に、森写歩朗が頷いた。
「イリアさんは事故で死んだ‥‥墓でも建てれば、まさか相手もそれを暴いてまで確かめようとはしないでしょうし、怒りの矛先は犯人である盗賊団に向けられるでしょう。お二人が追われる事はないと思います‥‥貴族からも、盗賊団からも」
「そうだね、もし必要なら私がお墓の前でお祈りしてあげるよ」
と、インデックス。
「‥‥父さん‥‥」
イリアの声に、村長は顔を背けた。
「コリンは確かに‥‥一度は間違った道に進んでしまったわ。でも、私の為に戻って来てくれたのよ?」
「‥‥そうですわね、わたくしが最初にギルドでお見かけした時は、それは酷い怪我をなさっていらっしゃいましたわ。そこまでして戻って来られたコリンさんのお気持ち、わかってあげては頂けないでしょうか?」
フィリッパの言葉に、今度はくるりと背を向ける。
そしてそのまま、村長は重い足取りで歩き出した。
「‥‥冒険者とやら、明日は娘の葬式だ。準備を手伝ってくれ。‥‥盛大な葬式を、上げんとな‥‥」
「‥‥父さん?」
「死人が口をきくな。どこへでも、勝手に行くがいい」
村長は振り返りもせずに、遠巻きに見守る村人達の輪を抜け、すっかり暗くなった家の中に姿を消した。
その様子を見た村人達は、イリアが本当に死んだものと思ったことだろう。
「‥‥どうも、後味が悪いな。今日の酒は不味くなりそうだ」
肩をすくめるシアにコリンが言う。
「だが、俺に堂々と陽の当たる場所を歩けと言ったのは、あんたらだぜ?」
「‥‥そうだったな。嘘から始めるのも、門出には相応しくなかったか」
と、ラーイ。
「後はほら、やっぱり孫の顔作戦で、ね?」
カイトが陽気に笑った。