デビル以下の野郎ども

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:04月01日〜04月04日

リプレイ公開日:2007年04月09日

●オープニング

「まったく、デビル以下の連中だな‥‥」
 盗賊に荒らされた屋敷を調べながら、王宮騎士は吐き捨てるように言った。
 今、王国の主立った騎士達はその殆どが戦に駆り出されている。
 無論、王都の守りに手勢は残してあるが、それは主に外からの脅威に対するもので、既にその内にある脅威については対応し切れていないのが現状だった。
「盗むなら真っ昼間警備の厳しい時にでも、正々堂々とやれと言うのだ。それでも成功したら俺は褒めてやるぞ!」
 泥棒に正々堂々もないものだとは思うが、警備の手薄な時を狙って来る、いわば火事場泥棒のような連中に比べたら遙かにマシだ。
 しかも、その家の主は国民――恐らくはその泥棒も含めた――を守る為に、命がけで敵と戦っているというのに。
 騎士は腕組みをすると、忙しく立ち働いている部下達を見て呟いた。
「‥‥しかし、どうにも手が足りんな‥‥」

「そういう訳でな、情けない話だが我々だけでは対処しきれんのだ。誰か頼める者はいないだろうか?」
 数刻後、その血気盛んではあるが、見た目だいぶくたびれた中年騎士の姿は冒険者ギルドにあった。
「狙われているのは主に騎士達の留守宅‥‥普段は警備が厳しくて手が出せないのだろうが、今は最小限の守りしか置いていない家が殆どなのでな。既にあちこちで被害が出ている」
「酷い連中もいたものですね」
 受付係が、横皺のように見えなくもない両目の間に縦皺を一本刻みながら答える。
「ああ‥‥だが我々も留守を任された以上は、そのような賊の横行を許す訳にはいかん。断じてイカンのだっ!」
 ――ドンッ!
 騎士はカウンターを思い切り叩いた。
「とは言え‥‥」
 いかんせん、手が足りない。
 めいっぱい頑張ってはいるのだが、見回りも充分に行えず、賊達はその死角を突いて来る。
「わかりました、まだ手の空いている者はいると思いますので、手配しましょう」
「頼んだぞ。狙われそうな場所は、この地図に記しておいた。死体でさえなければどんな状態でも構わん、捕らえたら我々に引き渡してほしい」
 そう言うと騎士は踵を返し、少々重たげな足取りでギルドを後にした。

●今回の参加者

 ea0071 シエラ・クライン(28歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0714 クオン・レイウイング(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1322 とれすいくす 虎真(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb1293 山本 修一郎(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

本多 桂(ea5840)/ 水琴亭 花音(ea8311)/ デゴーズ・ノーフィン(eb0073

●リプレイ本文

●見回り組・東
「すみません、近頃この辺りで怪しい人物を見かけませんでしたか?」
 ユリアル・カートライト(ea1249)が、ケイン・クロード(eb0062)の提案で王宮騎士に書いて貰った紹介状を見せながら、応対に出た屋敷の者に訊ねる。
 賊が下見に来ている可能性もある‥‥的確な目撃情報があれば、戦力を分散させず待ち伏せも可能かと思ったのだが。
 どうやら彼等が担当する地区では、賊達に目立った動きはないようだ。
 いや、目立たないように上手く立ち回っているのかもしれないが。
「まぁ、見回るだけで見つかったら苦労しないけど」
 昼寝から目覚めたばかりのとれすいくす虎真(ea1322)が欠伸をしながら呟いた。
「一応、これを使ってみますか‥‥」
 虎真は懐からダウジングペンデュラムを取り出すと、王宮騎士から渡された地図の上に振り子を垂らす。
「盗賊達の居所を探すのですか?」
 ユリアルが振り子の動きに注目する。
 が、目的のものがある場所を指し示すと言われるその道具はピクリとも動かなかった。
「この範囲にはいないという事でしょうか」
「さあ、どうでしょうねぇ。ま、どうせ期待はしてませんでしたし‥‥判らなくても別に良いんですけどね」

●見回り組・西
「この町も随分久しぶりだな‥‥」
 ケインは紹介状と地図を片手に町を回りながら、久しぶりに味わうこの町の空気を楽しんでいた。
 彼がここで暮らしていた頃と風景そのものは変わらない筈だが、異国暮らしが長かったせいか、なかなか土地勘が戻らないようだ。
「昼間はまだいいけど、夜になったら迷子になりそうですよ」
 と、隣を歩くシエラ・クライン(ea0071)に声をかける。
 だが彼女は、友人からもたらされた情報の整理に集中していた。
「あ、ここです。この不用心そうなお屋敷‥‥」
 もう少し警戒を厳しく出来ないか、家の人に訊いてみましょう‥‥と、シエラは開けっ放しの門から中へと足を踏み入れた。

●見回り組・南
「‥‥それにしても屑ですね、こんな重大な時にこのような事を‥‥」
 山本修一郎(eb1293)はクオン・レイウイング(ea0714)と組んで見回りながら、小さく溜め息をついた。
「まあ、屑には屑に相応しい対処法があるってもんさ。こっちは騎士殿と違って、正々堂々っていうのは無縁な話だからな」
 犯罪者というのは盗みに慣れてくると、その動きが概ねパターン化されていく傾向にある‥‥という持論の下に、クオンは相手の行動パターンを探り、動きの予測を立てようとしていた。
「‥‥ここが、昨日被害にあった家か‥‥。ちょっと、どんな具合だったか聞いてみるかな」

●見回り組・北
 キャメロットの町なかで、ごつい戦闘馬に跨り鋭い目つきで周囲に睨みをきかせるジャイアントの姿は嫌でも目につく。
 こんなに目立つ形で見回りをされれば、盗賊達もこの周辺を狙おうとは考えないだろう。
 この周辺とはつまり、地図に示された以外の場所の事だ。
 そこが駄目なら、盗賊達は別の場所で盗みを働こうとする筈‥‥そう、仲間や騎士達が重点的に警戒しているその場所で。
 それがメグレズ・ファウンテン(eb5451)の狙いだった。
「お帰りー、お疲れさんやったなぁ」
 一通り見回りを終えて見張り用のテントに戻ったメグレズを、藤村凪(eb3310)が出迎える。
「お茶でもどないや? お茶菓子もあるよって、夜までゆっくり休むとええわ♪」

●そして夜
 大凧で空に舞い上がり、地上の動きを見張っていたケインが怪しい動きに気付いた。
 夜中だというのに、数人の人影が小走りに路地から路地へと走っている‥‥
「シエラさん、あれは‥‥もしかしたら?」
 フライングブルームで近くを飛んでいたシエラに確認を取ると、ケインは合図の法螺貝を吹き鳴らそうとした‥‥が、大凧での飛行中は四肢を凧の四隅に固定してある。
 このままでは何かをしようにも、文字通り手も足も出ない。
 それを見て、シエラが代わりに呼子笛を鳴らした。
 ――ピイィーーーッ!
「‥‥あの音は‥‥!」
 馬に乗ったまま見張りを続けていたメグレズがその音に気付き、そのまま現場へ駆けつける。
 少し遅れて、テントの中で待機していた凪も息を切らせて走ってきた。
「すみません、こっちに気付かれたようで‥‥」
 大凧から降りたケインが二人に詫びた。
「逃げられたのですか?」
「いいえ、上空からシエラさんが追っています。ほら、あそこ」
 ケインが指差した方角には、ちらちらと揺れるランタンの明かりが見える。
「ならば、私はこのまま地上から追います。袋小路にでも追い詰められれば良いのですが‥‥」
 そう言うと、メグレズは馬首を明かりの方へ向けて走り去った。
「ほら、うちらも追うで?」
 凪がその後を追い、ケインも続いて走った。

●一方その頃
「‥‥合図です!」
 とある屋敷の中庭で待機していたユリアルが、呼子笛の音に気付いて傍らの虎真に声をかける。
 だが、虎真はじっと暗闇に目を凝らしていた。
「いや‥‥なんか、こっちにも出たようですよ?」
 言われて同じ方向に目をやると、暗闇の中で何かが動いていた。
「‥‥猫、ではないようですね」
 ユリアルの言葉に虎真は頷き、ケインから借りた呼子笛を吹き鳴らす。
 その音に驚いたのか、怪しい人影は動きを止めた。
「だ‥‥誰だ!? 誰かいるのか!?」
「それはこちらの台詞ですよ‥‥」
 賊の誰何に虎真が答える。
 そして、賊が慌てて火を付けたランタンのぼんやりとした明かりに照らされたもの、それは‥‥
「ひょっとこ仮面参上!!!」
 変態の都キャメロットに久々に現れた正義のヒーローの勇姿だった!
「たとえ相手が変態でなくとも容赦はしません!」
 ひょっとこ仮面は腰の刀を抜き放ち、賊に迫る。
 だが、相手は一人ではなかった。
「ふん、たった二人で俺達を止めようってのか?」
 周囲の藪から現れたのは、仲間と思しき男が10人ほど。
「おや、これは随分と大所帯で」
 だが、こちらも数でこそ劣るが戦闘力では負けていない‥‥って言うか、思いっきりやっちゃって良いんですか?
 という事で、賊達の背後でうねうねと動き出した植物が足に絡みつく。
「動くと転びますよ?」
 ユリアルがにこやかに微笑みながら、続いてアグラベイションをかける。
「う、な、何だ!?」
 植物に絡まれ、見えない何かにも絡まれた賊達はしかし、気力でその呪縛を振りほどく。
「折角の稼ぎ時に邪魔しやがって‥‥やっちまえ!」
「あ、そう。やっちゃって良いんですね?」
「そうらしいな」
 嬉々として言うひょっとこ仮面に、暗闇の中から誰かが答える。
 同時に、二本の矢が飛んできて賊達の足に突き刺さった。
「ど、どこから‥‥!? 汚ぇぞ、姿を現しやがれ!」
「姿を現しちゃ意味ないだろ? それに、汚いは失礼だ。お前達の流儀に、わざわざ合わせてやってるんだからな」
 そして、更に追撃。
 その隙に背後に回り込んだ修一郎がバーストアタックを仕掛けた。
「お仕置きの時間です。覚悟はいいですか?」
「では私も遠慮なく‥‥生憎と手加減する術を知らないので、やりすぎてしまうかもしれませんが‥‥良いですね?」
 ひょっとこ仮面が人を馬鹿にしたような顔で微笑みながら、賊達に次々とフェイントアタックを食らわす。
 逃げる賊にはユリアルがグラビティーキャノンを見舞い、転んだ所にバーストアタックが飛んだ。
「なんだ、手応えのない連中だな」
 暗闇から姿を現したクオンが物足りなさそうに言った。
「いや、もう一ヶ所‥‥あちらでは苦戦しているかもしれませんね」
 ユリアルが、先にもうひとつ合図が聞こえていた事を思い出す。
 冒険者達は庭の植物で縛られた賊達を起きてきた家の者に託し、騎士達に通報して貰えるように頼むと、最初に聞こえた合図の方角へ走った。

●袋小路の攻防
「ここは通しませんよ」
 勝手のわかった路地裏を縦横無尽に逃げ回る賊達の行く手を死神が塞ぐ。
 それがシエラの作り出した炎の造形とは知らない賊達は、慌てふためいて反対方向へ逃げる‥‥が、そこには戦闘馬に乗った鬼が大きな口を開けて待ち構えていた。
「で、出たーっ!」
 それは鬼面頬を付けたメグレズなのだが、賊達はそんな事を知る由もない。
 そして、逃げた先は‥‥袋小路。
「しまった! 町の隅々まで知り尽くした俺達がこんな所に追い詰められるとはっ!」
 などと説明的な台詞を吐きながら、賊達は一斉に得物を抜き払った。
 そこへ、メグレズが馬に乗ったままソードボンバーを放つ。
「破刃、天昇!」
 賊達はあっけなく吹っ飛ばされるが、またすぐに起き上がり、袋小路から逃げ出そうと冒険者達に向かって来た。
「あまり手荒な真似はしたくないんだけど‥‥多少の怪我は覚悟して貰うよ」
 出来れば素手で戦い、なるべく傷を負わせないようにと考えていたケインだったが、相手が武装しているなら話は別だ。
「折角帰って来たのに、こんな所でやられる訳にはいかないからね!」
 刀より包丁を握っている事が多いと言うケインは、短い片刃の‥‥包丁のような刀を自在に操る。
「‥‥よいしょ」
 凪は手近の塀の上に上って視界を確保し、手にした弓の弦を引き絞った。
「うん、ここなら前衛さんの邪魔はせえへんやろ」
 余り酷い怪我はさせないように狙いを絞りながら、凪は次々と矢を放つ。
「ごめんなー、後で応急手当くらいはしてあげるさかい、堪忍なー」
 そしてシエラは、隙を見て逃げようとしていた賊の一人に炎のロープを巻き付かせた。
「動かない方が良いと思いますよ?」
 いや、動けないから。
 何しろ少しでも体を動かせば触れる程ギリギリの所に、炎が巻き付いているのだから。
「嬲るような真似はあまり好まないのですけど‥‥。火事場泥棒なんて最低の行為ですし、暫くそれに取り憑かれて反省して下さいね」
 残りの敵‥‥向かって来る者はバーストアタックで吹っ飛ばし、逃げる者はコアギュレイトで拘束し‥‥仲間が駆けつける頃には、こちらの現場もあらかた片付いていた。

●お仕事完了
「‥‥なんだ、もう終わりかよ」
 折角急いで駆けつけて来たのに、と、クオンが残念そうに言う。
「仕方ない、代わりにアジトの場所でも吐かせてやるか」
 と、クオンは頭目らしき男を物陰に引きずって行く。
「あんまり手荒な事はせんといてなー?」
「そうですね、最低限の治療にもお金はかかりますし、それに使われるのは公金でしょうから‥‥」
 シエラが心配しているのは賊達の身よりも、そこに使われる金の出所のようだ。
 確かに、こんな連中に血税が使われるのでは、たまったものではない。
「‥‥残念です、しかるべき場所へ引き渡されるまでの間に『お説教』をして差し上げたかったのですが‥‥」
 メグレズが拳を鳴らしながらニコヤカに微笑む。
 いやもう、それだけで充分お説教きいてますから。

 かくして、一晩のうちに二つの盗賊団が、ほぼ壊滅に追い込まれた。
 これで暫くは、住民達も安眠が出来るだろう。
 ――恐らく、ほんの暫くの間、ではあろうが――。