【ご近所の勇者様】フンドーシ泥棒を追え!

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:04月09日〜04月12日

リプレイ公開日:2007年04月17日

●オープニング

 春の暖かな陽射しが降り注ぐキャメロットの昼下がり。
「うん、今日は絶好の洗濯日和だな」
 男は朝から干していた洗濯物の乾き具合を確かめ、もう少し乾かしたら取り込もうと、遅い昼食をとりに部屋の中へ戻ろうとした。
 その時。
 背後から近付く黒い影。
 男がその気配に気付いて振り向くと、そこには――
「ご‥‥ゴブリン!?」
 それも、1匹や2匹ではない。ぞろぞろ、いっぱい。
 ゴブリンは男の大事な洗濯物に手をかけると、にんまりと笑い‥‥それを奪い去った!
「ドロボーーーっ!!」
 のんびりと平和な午後の下町に、男の悲痛な叫びが響き渡った。
 だがゴブリンは、泥棒を捕まえようと奮闘する男をあざ笑うかのように素早く逃げ回る。
 そして、男が一匹を追いかけるうちに、他のゴブリンが忍び寄り、洗濯物を奪って行く。
 ‥‥数分後、男の大事な洗濯物は、全てがゴブリンの手に奪われていた。

「頼む、俺の大事な洗濯物を取り戻してくれっ!!!」
 泥棒達にまんまと逃げられた男は、息を切らしてギルドに駆け込んだ。
「洗濯物‥‥何を盗まれたのですか?」
 受付係の問いに、男はそれが大層な貴重品であるかのように声をひそめて答えた。
「‥‥フンドーシ、だ」
「‥‥‥‥‥‥はあ」
 受付係の気の抜けたような返事に、男は、ドン、とカウンターを叩く。
「俺の大事なフンドーシコレクションが盗まれたんだぞ! 何だその、そんなもんどーでもいいじゃないか、みたいなヤル気のない目つきはっ!?」
「いや、この目つきは生まれつきですが‥‥」
「とにかく、俺のコレクションは海外から取り寄せた貴重品が殆どなんだ! 1本たりとも失ってはならない、大事なものばかりなんだっ!」
「‥‥はあ」
「取り戻せ。良いか、絶対だぞ? 約束だからな? 破ったら針千本飲ますんだからなーっ!!」
 そうまくしたてると、男は泣きながらギルドを飛び出して行った。
「‥‥そう言や、さっき‥‥」
 毎度お馴染みギルドで暇を持て余す、見た目だけはベテランの新米オヤジが呟いた。
「町なかをゴブリンがえらい勢いで走ってくのを見たぜ。首になんか長いモンを巻いてたようだったが‥‥」
 あれは、フンドーシだったのか。
 首に巻いたそれを風になびかせて走るその姿は、どことなく得意気に見えた。
 奴等はあれを、マントか何かだと思っているのだろうか。
「‥‥どっかの戦場で、マントをたなびかせて颯爽と駆ける騎士様の姿でも見たのかねえ」
「騎士様ごっこでもしているつもりなのでしょうか?」
「そうなると、馬も要るな。流石に馬にゃ乗れねえだろうから‥‥代わりになりそうなのはブタやヒツジあたりか?」
 大事なコレクションを盗まれた当人にとっては笑い事ではないのだが、どうにも笑わずにはいられない。
 ともあれ、仕事は仕事。
 こうして、新たな依頼がギルドの掲示板に張り出された。

●今回の参加者

 ea0448 レイジュ・カザミ(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea2207 レイヴァント・シロウ(23歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea5683 葉霧 幻蔵(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5180 エムシ(37歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb7741 リオ・オレアリス(33歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec0843 雀尾 嵐淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec2089 ガルツォーク・バインシュタッツ(59歳・♂・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

マナウス・ドラッケン(ea0021)/ デゴーズ・ノーフィン(eb0073)/ リアナ・レジーネス(eb1421)/ クレス・ウィリアム(ec0763

●リプレイ本文

「ゴブーーーーーッ!」
 褌ゴブリンの走行ルートを調べていた藤村凪(eb3310)の目の前を、真っ赤な褌をたなびかせたソレが走り去って行った。
「‥‥あー‥‥、あれやな‥‥」
 何しろ相手はゴブリン、走行ルートに規則性があるとは余り考えられないが、彼等には彼等なりのルールがあるかもしれない。
 何かしら規則性があるなら、それをチェックしておけば追いかけっこも楽になるかもしれないと考えたのだが‥‥
「あー、あっちからも来るわ。あやや、こっちもやー」
 ゴブリン達は実に楽しそうに、町のあちこちを駆け回る。
 そして‥‥
「あや? なんか変なもんが来るわー」
 どう見てもゴブリンではないもの。
 だが、ゴブリン同様にフンドーシを風にはためかせて颯爽と走るモノ‥‥
「‥‥見なかった事にしよ。そや、それがええわ」
 そういう事にされた。

「ゴブリンを捕まえるのよね?」
 鐘楼の上からテレスコープの巻物を使ってゴブリン達の行方を追うリオ・オレアリス(eb7741)は、褌ゴブの姿を視界に捉えながら、何故か溜め息をついた。
「でも、何か嫌な予感がするわ。ええとっても‥‥」
 その「嫌な予感」はその時、リオが居る鐘楼の真下を通り過ぎたのだが‥‥遠くを見ていた彼女がそれに気付く事はなかった。

「‥‥この辺りで、フンドーシを首に巻いたゴブリンを見なかったか?」
 雀尾嵐淡(ec0843)は褌ゴブの目撃情報を集めていた。
 いや、集めるまでもなく、その彼の目の前を、それは走り回っていたりするのだが‥‥
「何? 変な着ぐるみが町を走り回ってる、ですと? いやいや、まさかそんなことは」
 そう言って首を振る嵐淡の背後を、それは風のように吹き過ぎて行った。
 気配に振り返ったその視界に映った去り行く姿。
「‥‥まさか、あれは‥‥っ」

 そう、その「まさか」だった。
 エチゴヤマントを翻し、何故かその上から更にレースの褌をはためかせた、まるごとなまはげ。
 それは、飛ぶが如く! 疾風の如く! 颯爽とマントを翻し、キャメロットの町をひたすら前へ、前へと駆け抜けていく。
 誰だ! 誰だ! 褌ゴブさえ羨み、尊敬の眼で見つめるそれは‥‥葉霧幻蔵(ea5683)、ゲンちゃんだっ!
 そしてゲンちゃんは走るだけではない!
 空をも飛べ‥‥る、わけがない。
 けど、飛んでる。
 地面すれすれの所を、頭から突っ込むように、それは飛び‥‥
 ――ずしゃーっゴロゴロどんガッシャンっ!
「へぶるぁっっっ!!!」
 ‥‥それはつまり、地面に張ってあったロープに足を引っかけて転んだという事ですね、ゲンちゃん。
「かかった‥‥か」
 道端に積んであった樽の山に頭から突っ込んだゲンちゃんの頭上から、このような状況とモノを目にしたとは思えないほど冷静かつ冷ややかな声が降って来た。
 エムシ(eb5180)は目の前のアウトな人がとりあえず無事だとわかると、助け起こそうともせずに何事かを考え込む。
「ふむ‥‥奪還すべきものに血がついてはいけないのが厄介だが、これなら行けそうだな」
 つまり、ゲンちゃん実験台?
「しかし、妙な小鬼もいるものだな‥‥いや待てよ。街中に小鬼の集団が紛れ込んで走り回っているという時点で、この街の警備体制に不安があるということになるのではないだろうか‥‥」
 戦後の一時的な混乱、ならば良いのだが。
 樽に埋もれたゲンちゃんをその場に残し、エムシは本格的に罠を張るべく、何処へかと立ち去った‥‥。

 一方その頃。
 町外れの空き地には、色とりどりのフンドーシが波のように風にはためいていた。
 それはレイジュ・カザミ(ea0448)自慢のコレクションの数々‥‥同好の志なら涎を垂らして喜びそうな、逸品の数々だった。
「例えゴブリンだって、このコレクションには目を光らせるはずさ!」
 レイジュは物陰に隠れ、じっと待つ。
 英国では高価な褌を盗むなど、言語道断。
「それに本当の騎士とはどんなものなのか、この葉っぱ男が教えてあげるさ! 」
 いや、葉っぱ男に教わる騎士道というのも‥‥どうなんでしょう‥‥ねえ?
 そして案の定現れた褌ゴブ‥‥既に一枚首に巻いているのに、まだ欲しがるのか!
「ちょっと待った!」
「ゴブッ!?」
「人の物を盗んでおいて、この英国の騎士を名乗れると思うかい!? 騎士ってのは決して人の物を盗んだりはしない。いつでも誇り高き心を持っていてこそ、真の騎士ってもんさ。そう、この僕にようにね!」
 褌ゴブの前に立ちはだかる葉っぱ男!
 その出で立ちと自信に満ちたポーズ、そして有無を言わさぬ口調に、言葉は通じないものの何か感じるものが‥‥と言うか、相手が友好的とは言い難い事くらいは察したらしい。
 新たな褌の獲得を諦めたゴブリンは、首に巻いた七色に光る褌を引きずるようにして走り去った。
「逃げても無駄だよ! この町で生まれ育って20年、街の地形なんて知り尽くしているさ! 」
 レイジュはそう叫ぶと、七色の褌を追って行った。
 そして、見張る者もいなくなった褌コレクション。
 そこへ近付く新たな影!
 しかし、更にもう一つの影が、その背後から近付きつつある事に、褌ゴブは気付いていなかった。
「ふふ、あの戦場を愛馬と共に駆け抜けた私の勇姿がこのような事件を起こしてしまうとは‥‥私も罪な男だね?」
 それは愛馬に跨ったレイヴァント・シロウ(ea2207)の勇姿。
「ただの褌には興味はない、レースだったり漢の魂の如き純白、イケてる傾奇モノがいたら私の前に現れなさい。なーんてね」
 淡々と語るその姿に‥‥褌ゴブは得も言われぬ恐怖を感じたらしい。
 褌コレクションに手を伸ばす間もなく、ゴブリンは逃げ出した!
 しかし、恐怖はまだまだ続く。
「はっはっは、私の騎乗テクは泣けるよ?」
 シロウは見事な手綱捌きでゴブリンを追う‥‥そう、付かず離れず、圧倒的な威圧感をもって‥‥。
 果たして、褌ゴブの運命はいかに!?

 そしてここにも、自らの運命と対峙している褌ゴブが一匹。
「あぁ‥‥そっち行ったらあかんよー。大人しゅーつかまりー♪」
 その運命は随分とおっとりのんびりしているようだが、しかし狙いは的確だった。
 予め調べた‥‥ただし余りアテにならない走行ルートに沿って、凪は楽しそうに、時折笑い声さえ漏らしながらゴブリンを追う。
「ほら、捕まえたで。もぉ、逃げるの止めときや」
 凪は褌ゴブのお世辞にも清潔とは言い難い‥‥いや、はっきり言って臭くて汚いその体を抱き締めた。
「ゴブっ!?」
 ‥‥勇者だ、凪さん。

「個人的には、誰に憧れてそのような真似をしたのか、聞いてみたい気もするが‥‥。まさか、円卓の騎士さまとか?」
 呟きながら、空からゴブ達の動きを観察する大きな鳥が一羽。
「‥‥よし、あれにするか」
 その鳥‥‥嵐淡は狙いを定めると路地の一角に急降下した。
 体の大部分を建物の影に隠し、そこから伸ばした腕を平べったく変化させる。
 それは‥‥オイデオイデをするようにユラユラとうごめく、あからさまに怪しいフンドーシの姿。
 しかし、悲しい事にこんなものにもゴブリンは引っかかってしまうのだ。
 褌ゴブは紐で手招き(?)する怪しいフンドーシに引き寄せられ‥‥そして、捕まった。
 フンドーシでグルグル巻きにされて‥‥。

 一方、どんな時にも冷静沈着、慌てず騒がず動じないエムシは、人通りのない場所を選んで罠を張っていた。
「小鬼といえど魔物は魔物。戦うすべのない者と鉢合わせて、何かが起きてはいけないからな‥‥」
 そして発見した褌ゴブを着実に追い詰め、罠にかける。
 褌ゴブは飛んだ‥‥ゲンちゃんと同じように。

 そして、そのゲンちゃんはと言うと‥‥走っていた。
 相変わらず、めげずに、懲りずに、褌ゴブと競うようにして‥‥いや、実際競っていた。
 キャメロットの大通りを、褌ゴブと着ぐるみ男が後になり先になり駆け抜けて行く!
 どこまで続くこの勝負!
 そして行き着く先は‥‥
「ここよ」
 その呆れたような声と共に行く手の路面に現れた大きな穴!
 それはリオが作り出したウォールホール‥‥
「うごあっ」
「ごぶぁっ」
 種族を超えた好敵手(とも)は、仲良く穴にハマり込んだ。

「‥‥なかなかやるね!」
 町の中を縦横無尽に逃げ回る褌ゴブを追いかけるレイジュの額に、うっすらと汗が滲む。
 彼の走りと土地勘をもってしてもなかなか捕まらないレインボーゴブに対し、レイジュは遂に最終兵器を発動した。
「あー、あんなところに国王様の褌が!」
 ‥‥勿論、そんなものは落ちていないし、国王陛下が褌を愛用しているかどうかもわからない。第一、ゴブリンには人間の言葉は通じないのだ。
 それでも、その叫びに何かイイモノがありそうな響きを感じたゴブリンは、その場に立ち止まった。
「捕まえたっ!」

「こらこらミドガルズ。そんなのをパクッとしちゃ駄目だよ。お腹を壊してしまうからね」
 町外れの空き地では、シロウが巨大蛇のミドガルズ君に、追い詰めた褌ゴブのお仕置きをお願いしていた。
「ああ、だからって呑んでもいけないよ? 締めるだけ締めるだけ」
 その空き地には、他の仲間が捕まえたゴブ達も集められていた。
 ゴブ達は彼等を代表してシメられている哀れなゴブリンの姿を震えながら見つめていた。
 シメられたゴブは、フラフラになりながら仲間の元へ戻って行く。
 そんな彼等に、凪とレイジュは身振り手振りで「泥棒は悪い事だ」と伝えようとしていた。
 果たしてそれが通じたのかどうか‥‥とりあえずゴブリン達は、おとなしく神妙にしている。
 そんな様子が凪の琴線に触れたらしい。
「こうして見ると、ゴブリンもなかなか‥‥」
 可愛い、とか言いそうだ‥‥。
 そして凪は、ゴブリン達に用意したマントを手渡した。
「‥‥えーと。あんな、褌はあかんけど、これなら上げるわー。つこーて?」
「ゴブッ!?」
 フンドーシで代用するなんちゃってマントではない、本物のマント。
 ゴブリン達はその粋な計らいに猛烈に感動している‥‥らしい。
「それで‥‥どうする、こいつらは?」
 いつも冷静なエムシが相変わらず冷静に問う。
「反省してるみたいだし‥‥良いんじゃないかな、このまま逃がしても」
 と、レイジュが言い、仲間達を見渡す。
 特に反対意見はないようだった。
「これも立派な魔物なのだが‥‥まあ、良かろう」

 かくして、盗まれたフンドーシは無事に回収され‥‥あちこち擦り切れ、汚れたその姿がコレクター的に「無事」と言えるかどうかは別として‥‥とにかく、約束は果たされた。
「はっはっは、ミドガルズよ。冒険者仲間にも、じゃれるのはいいがパクッはいかんよ?」
 空き地では使命を果たした冒険者達が、巨大蛇に遊んで貰っていた。
「特にお嬢さん方にはソフトタッチで、優しく撫でる様な気持ちを忘れないように。男連中には好きに遊んでもらいなさい。ほら、そこの葉っぱ男くんとか頑丈だよ? というわけでレイジュよ、全力で遊んでくれたまえ。あっはっは」
 そう言えばゲンちゃんの姿が見えないようだが‥‥まさか‥‥?
 いや、ないない。
 蛇にパクッとなんかされて‥‥ないよね、きっと。うん。多分。‥‥かな?