【ボクらの未来】守りたい笑顔
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:04月13日〜04月16日
リプレイ公開日:2007年04月21日
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●オープニング
「じゃあ、君のお母さんはマンドラゴラがあれば治るんだね?」
「うん‥‥お医者様が、そう言ってた」
少年の問いに、少女はか細い声で答える。
「でも、とても高いお薬だって‥‥お父さんが、とてもそんなお金は出せないって、言ってた‥‥」
言いながら泣き出しそうになる少女の頭を撫でると、少年‥‥エストは言った。
「大丈夫、それなら僕が採ってきてあげるよ。一度、採りに行った事があるから場所もわかってるし」
「ほんと?」
「うん、約束する。だから、待ってて?」
数刻後、エストは冒険者ギルドの戸を叩いた。
「こんにちは」
「‥‥おや? 君は確か、カエルに襲われた‥‥」
受付係の言葉に、エストは苦笑を浮かべる。
「なんだか、一生言われそうだね、それ」
「ああ、ごめんごめん。初っ端がそれだったからね、どうにも印象が強くて‥‥それで、今日は何の用?」
言われて、エストは事情を簡単に説明した。
「近所に住んでる、まだ小さい子で‥‥それに、すごい甘えんぼなんだ。お母さんがいなくなったら、きっとすごく寂しがるだろうし‥‥それに、可哀想だ」
自身も母親と早くに死に別れているせいだろう、友達に同じ様な思いはさせたくないと思っているのだ。
「それはわかるけど‥‥この間マンドラゴラを採りに行って酷い目に遭ったばかりだろう?」
「だから、ひとりで行くなんて言ってないよ。僕だって同じ失敗を繰り返すほどバカじゃないんだから」
エストは怒った風もなくさらりと言うと、説明を続けた。
「この季節、あの辺は凶暴なモンスターも多いんだ‥‥オーガの類とか、冬眠から目覚めたばっかりの熊とか‥‥勿論、カエルもね。お金は見付けたマンドラゴラを売って払うから、誰か護衛を頼めないかな?」
なるほど、そういう事か。
「‥‥そう言えば、今日はあの元気なシフールの坊やは?」
「ああ、チャドの事? 危ないから置いてく事にしたんだ。あいつも少しは懲りたらしくて、大人しく言うこときいてくれたよ」
そして、エストは腰に下げた初心者用の剣に手をやった。
「僕は大丈夫、今度は邪魔しないし、足手まといにもならないから」
あれから少し、練習を始めたらしい。
まだ何になるかは決めていないようだが、どの道を選ぶにしてもまずは体力作りが肝心と、彼なりに頑張っているようだ。
「じゃあ、えと‥‥よろしくお願いします!」
最後だけは丁寧にそう言うと、エストはギルドを後にした。
「‥‥最初に会った時はどうにも頼りない感じだったけど‥‥いや、子供の成長は早いねえ」
などと年寄りくさい台詞を呟きながら、受付係は新たな依頼を掲示板に張り出した。
●リプレイ本文
「‥‥えぇ‥‥!?」
エストは自分の護衛として集まった一同の顔ぶれを遠巻きに見て、思わず頬を赤らめた。
そこにいるのは、見送りを含めて全てが女性‥‥見事なまでに華やかと言うか、艶やかと言うか、春爛漫?
だが、エストはまだ12歳。
女性に囲まれているからといって、大人の男のようにだらしなく舞い上がったりはしない。
「‥‥それってつまり、僕がまだ赤ん坊同然だって事だよね」
そう呟いて、エストは自分を待つ者達の元へ駆けて行った。
「よろしくお願いします!」
現場まではそれほど遠くない。
晴れて穏やかな春の一日、森に入るまでの道中、一行はのんびりとおしゃべりを楽しみながら歩いていた。
「そういえばエストくん、以前と比べて少し大人びたかな?」
ディアナ・シャンティーネ(eb3412)の言葉にエストは首を傾げる。
「そうかな‥‥でも、あの時はカッコ悪すぎたから」
何の考えも、覚悟も、そして腕もなく、漠然とした憧れだけで突っ走り、皆に迷惑をかけたあの時。
もう、あんな失敗はしない。
「エスト君は冒険者になりたいのですか?」
柊静夜(eb8942)が訊ねた。
「うん‥‥前は、そう思ってた。でも今は、ちょっと違うかな」
「ほう、では何になりたいのであろうか?」
と、荷物を積んだ戦闘馬クリウスに腰掛けた、メアリー・ペドリング(eb3630)が問う。
「まだわかんないけど‥‥人の役に立ったり、守ったり出来る人‥‥かな。その為に出来る事とか、向いてる事とか‥‥今、探してるとこ」
「冒険を続けていれば、いろんな人のいろんな考えと接する機会があると思います。そこで自らが得た経験の中に、探し求める答えがあるのかもしれませんね」
「ふむ‥‥そうだな。自分が得意と思えることを伸ばし、がんばられよ」
「うん、ありがと」
ディアナとメアリーに言われ、エストは素直に頷く。
「でも、今のとこは‥‥やっぱり僕は前衛かな。チャドが‥‥僕の相棒だけど、あいつ、ああ見えても結構頭良いし、ウィザードとかに向いてると思うんだ」
「ああ、確か彼はシフールであったな。彼にも会ってみたかった気がしなくもないが‥‥」
「メアリーさんもウィザードだよね?」
「ああ、まあな」
生業は怪しい‥いや、研究熱心な錬金術師だが。
「しかし、きちんと仲間の事も考えているとは感心だな。そうして仲間を信頼することも大事だ。自分が得意なことを伸ばし、苦手なことを補い合えるように協調する‥‥さすれば、思わぬ力を発揮する事も出来よう」
「‥‥今は急がずに慌てずに、自分の進むべき道を見出せるとよいと思いますよ。まずは色々やってみる事です」
と、静夜が微笑んだ。
やがて一行は、目的の森にさしかかった。
目指すはその奥、マンドラゴラの群落がある場所なのだが‥‥
「‥‥街から半日かそこら歩いただけの割には、結構不穏な空気を感じる場所ですね」
マイ・グリン(ea5380)が周囲を警戒しながら言う。
「‥‥何かあった時に街に影響が出なければいいのですけど‥‥」
「ここのモンスターが外に出て来る事は滅多にないよ」
と、エスト。
「その代わり、侵入者には結構厳しいんだけど‥‥」
今の彼には、ここがどんなに危険な場所なのかがわかる。
最初の冒険‥‥チャドと二人でマンドラゴラを取りに来た、あれがいかに危険な行為だったのかも。
カエルに襲われた位で済んだのは、まさに怖いもの知らずのビギナーズラックと言うべきか。
「現地までは何もなければいいですが‥‥」
先頭に立ったサクラ・キドウ(ea6159)が、頭に付けた獣耳ヘアバンドを手でピクピクと動かしながら言った。
それで周囲の音を集め‥‥るのは無理だが、まあ、彼女なりの精神集中法、といったところか。
「確かに、余所者を寄せ付けないような、そんな雰囲気がありますね‥‥」
レイピアを構えたまま最後尾を歩くディアナが言う。
「私たちが森の住人からして部外者なのは明らかですから、襲われても手荒な真似はあまりしたくないですけど‥‥」
と、言っているそばから‥‥
――ガサガサッ!
近くの藪から大きな熊が飛び出した!
「‥‥どうしますか?」
パラのマントをエストに手渡しつつ、マイが訊ねる。
熊は冬眠から覚めたばかりで機嫌が悪いようだ。
それに、よく見れば‥‥
「待って。子供がいる」
彼等の前に仁王立ちになった熊の後ろには、小さな熊が2頭。
「ならば‥‥」
問答無用とばかりに襲いかかってきた母熊に、メアリーがグラビティーキャノンを軽く当てて転ばせる。
「月影の調べよ、彼の者を眠りへと誘え」
そこへ御門魔諭羅(eb1915)がスリープを唱え‥‥熊は、あっさりと眠ってしまった。
「今のうちに、参りましょう」
魔諭羅の言葉に促され、一行は折角眠った熊を起こさないように、静かにその場を離れる。
その姿を2頭のあどけない子熊が首を傾げて見送っていた。
その後は何事もなく、やがて辿り着いたマンドラゴラの群落。
そこに頭を出している深緑色の土饅頭が、件の草だった。
近寄ってみると、地上に頭を出した瘤状の茎から尖った細い葉が何本も出ているのがわかる。
「さて、エスト君はどのような準備をしているのでしょうか?」
静夜の問いに、エストは懐から耳栓を取り出して言った。
「これで耳を塞いで‥‥後は、気合い、かな」
「気合いというのは‥‥志気を高める魔法か何かでしょうか?」
「ううん、魔法なんて使えないし‥‥ただ、やるぞって」
エストは拳を握り、ガッツポーズをして見せる。
それを聞いて、誰もが不安になったようだ。
「‥‥あの、この方が少しはマシなのではないでしょうか‥‥?」
マイが水で湿らせた柔らかい布をエストに手渡す。
「あ、この方が良いかな‥‥じゃ、使わせて貰うね」
「この草をロープで縛って、私の木人に命令してそれを引っ張らせるのは如何でしょうか?」
魔諭羅の提案に、エストはどうかな、と、首を傾げた。
「遠くから引っ張るのは良い考えだと思うけど、でも、ロープを結ぶ時に少しでも根っこが動いたりしたら、危ないと思うんだ」
確かめた訳ではないが、マンドラゴラは引き抜く所まで行かなくても‥‥根に刺激を与えるだけで叫び出しそうな気がする。
あくまで、気がするだけだが‥‥。
「気持ちは嬉しいけど、大丈夫だよ。それに、これは僕の仕事だから」
「うむ‥‥そうだな、あくまで私たちは護衛ゆえ、エスト殿がやるべきことはやる‥‥それが良かろう」
メアリーがそんなエストをちょっと頼もしそうに見ながら言った。
「今後の自信にもなるであろうしな」
「では、お任せしますが‥‥石橋を叩いて渡る、との諺もありますのでくれぐれも油断してはいけませんよ」
と、静夜。
「じゃあ‥‥頑張ってね」
ディアナは心配そうにグットラックを付与し、水晶のダイスと幸福の銀のスプーンを手渡す。
本当は自分が代わってやりたいのだが、どうしても踏ん切りが付かないようだ。
「ありがと。大丈夫だから、下がってて。そうだな‥‥少なくとも15メートル以上」
エストの言葉に、一同は周囲の安全を確かめてから、安全圏まで下がる。
「この耳を押さえてても狼の耳で周りの音が聞こえ‥‥たらいいのに‥‥」
サクラはそう言いつつ、目をしっかり開いて周囲を確認する。
「マンドラゴラが叫んだ後は特に注意、と‥‥でも、なんというか‥‥楽しいものではない気がします‥‥マンドラゴラの採取って」
一同が固唾を飲んで見守る中、エストはその楽しくなさそうな作業を始める。
「‥‥報酬を払う分も含めて‥‥3本で良いかな。あんまり欲張っても良い事ないし」
エストは手を上げて合図をすると、マンドラゴラの瘤に手をかけた。
『セーラ様、どうかお願いです。エストくんをお守り下さい‥‥!』
ディアナは目を閉じ、心の中で祈る。
それが通じたのか‥‥目を開けた時、エストは3本の収穫物を手に、元気な様子でこちらに向かって来る所だった。
「お待たせ!」
帰り道‥‥先程の熊はもう、眠りから覚めて森の奥へと逃げて行ったようだ。
他に襲って来るものもなく、一行は無事に‥‥とは行かないのが世の常というもの。
彼等の行く手に、人相のよろしくない集団が立ちはだかった。
どうやら、エストがマンドラゴラを引き抜いた所をどこかで見ていたようだ。
護衛の冒険者達も警戒はしていたのだが、それでもこういう連中の目を盗むのは容易ではない。
「そいつを置いて行きな、坊や」
賊のひとりが、明らかにナメた態度で言う。
「あ〜あ、戦闘がないとよかったのですけど‥‥やっぱりあるんですね‥‥」
そうボヤきながらサクラが自らの剣にオーラパワーを付与し、そのナメた男にダーツを投げ付けた。
「痛ェっ! 何しやがる! 女子供だと思って優しく言ってやってんのがわからねえようだな‥‥痛ェ目見てえのか、ああ!?」
「それはこちらの台詞ですわ」
静夜がスラリと剣を抜き、後ろに下がったエストに声をかける。
「見るのも修行の内ともうします。私の剣さばきが参考になるかどうかは判りませんけど‥‥」
「うん、わかってる。邪魔はしないから‥‥気を付けてね!」
エストはそう言うと、小石をいくつかポケットに突っ込み、手近の木の上に避難した。
自分が足手まといである事は充分に承知しているようだ。
「‥‥では、遠慮なく排除させて貰うとするか」
メアリーは上空に舞い上がり、賊の一団に向けてグラビティーキャノンを放つ。
ナメてかかっていた賊達は、ふいの攻撃に面食らい、抵抗する間もなく無様にひっくり返る。
そこにサクラ、ディアナ、静夜の3人が斬りかかり、後ろからはマイの放つ矢が、そして‥‥
「光の欠片よ、鏃となりて彼の敵を撃て」
魔諭羅のムーンアローが襲いかかった。
エストも木の上から小石を投げ付けて援護しようとする‥‥が、ひとつも当たらない。
「‥‥やっぱりレンジャーは向いてない‥‥かな」
そして、戦闘はあっという間に片が付いた。
「‥‥殺してしまうのも可哀想ですから、縄で縛って木に逆さに吊るすだけにしてあげましょうか」
と、サクラが冷たく言い放つ。
いや、それも充分に可哀想‥‥って言うか死にますから。
「纏めて木に縛り付けて、後で官憲にでも引き取って貰いましょう」
誰かが苦笑混じりにそう言った。
そして、危険な森を抜けた所で一行はキャンプを張った。
その日のうちに戻れない事もなかったが、昼間は安全な道も夜には危険が多くなる。
それに、エストも疲れている様子だった。
「‥‥誰かの為に何かしてあげたいという気持ちは尊いものです」
テントの中で食事も摂らずに眠り込んでしまったエストの寝顔を見ながら、静夜が微笑んだ。
「子供達のその気持ち、我々大人は大切にしてあげたいですね‥‥」
「‥‥ええ、これからの成長が楽しみです。お友達のお母さんも、無事に良くなると良いですね」
と、ディアナ。
「せっかくエスト殿が薬を調達するからには、無事快復されるに違いない」
メアリーが微笑む。
エストのあどけない寝顔に母性本能をくすぐられたのか、女性達は彼を囲んで静かに談笑していた。
そんな中、彼のカバンから顔を覗かせるマンドラゴラの根を見て、マイが呟く。
「‥‥マンドラゴラ‥‥、実物を目にするのは初めてですけど‥‥」
変わってはいるが、これも根菜の一種‥‥?
「‥‥薬としては重宝されているみたいですけど、料理材料としてはどうなのでしょう‥‥?」
マイは、夕食の準備の為にと火にかけた鍋と、その不思議な根っこを交互に見ている。
‥‥夕食に入れてみようか、なんて‥‥思わないで下さい‥‥ね?