●リプレイ本文
「つーか妹さん、本当にヘナチョコ男に気があるのか? 」
「シスコン兄貴をどうにかしたいと‥‥ま、5日で強くなるのは無理だわな」
「手っ取り早く強くなりたいねぇ‥‥。まぁアレだよな、ぶっちゃけ無理だよな」
皆さん、最初から微妙に投げやりです。
投げやりながらも、とりあえず何とか、どうにかしてやろうと、リ・ル(ea3888)、閃我絶狼(ea3991)、セティア・ルナリード(eb7226)、そしてクロック・ランベリー(eb3776)の4人はヘナ男の鍛錬を買って出る。
「‥‥で、おぬし、名前は? あるのか?」
「そりゃ、ありますよ、名前くらい‥‥レオンって言います」
リルの問いに、ヘナ男‥‥いや、レオンが答えた。
「‥‥名前だけは強そうだな‥‥」
と、絶狼。
「ま、無理だけどさ、そんな方法あるなら世界中が超人で溢れ返ってるだろうし。だけど別に悲観することはないぜ。なんとしてでも交際は認めさせてやるから、安心しな!」
セティアはそう言って、レオンの肩をぽむ‥‥じゃなくて、スパーンと、ハリセンでひっぱたいた。
「まずは、気合いだーっ!」
彼女には、これといって具体的な策はないらしい‥‥。
「さて、どうするかね。無理なんだが無理なりに稽古はつけてやるが‥‥じっくりやるんなら基本的な剣の握り方とかから教えるべきなんだろうが、たった5日‥‥いや、4日だしな」
「基本的にまともにやって勝てるわけないしな。カウンター中心でいかせるか‥‥楯を持たせて」
絶狼とクロックの提案に、リルがそれなら‥‥と、自分の馬に積んであった重装備一式を下ろし、レオンの前にどさりと置いた。
「決戦当日まで、それを着けて日常生活を送るんだな」
「‥‥って、これ、ものすごく重いんですけど‥‥?」
「当然だ、重くなけりゃ意味がない。この重さに慣れれば、当日は随分身軽に動けるだろう‥‥後は攻撃を避けまくって、相手が苛立って大振りした所をカウンターだな」
「わ‥‥わかりました。それで勝てるなら‥‥っで、でも、重い‥‥っ」
ナイトアーマー、ヘビーシールド、ヘビーヘルムの3点セットで、もはや行動不能。
「大丈夫なのだわ、そんなもの羽根のようだと思えば軽くなるのだわ」
上空を飛びながら、ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)がレオンを褒め称え、持ち上げる。
「あなたは強いのだわ。やれば出来る、為せばなる!」
題して、イメトレ作戦。
乗せられやすいタイプには効果的かもしれない‥‥そして、レオンはそんなタイプ、つまりはお調子者だった。
「よし、俺は強い! これはただの皮鎧、そしてこれは布の盾、ヘルムには羽根が生えて、俺は空も飛べる‥‥っ」
わけがない。
「‥‥まあ、とりあえず地道に行こうか?」
絶狼が天を仰いで溜め息をついた。
一方その頃。
セレナ・ザーン(ea9951)とメグレズ・ファウンテン(eb5451)は、依頼人レオンの思い人、ダイナの元を訪ねていた。
話を聞いた範囲では、二人ともどうも視点が男性側に偏りすぎているようだと感じていた。
ここはまず、渦中の本人に会って、その意思を確認しなければ。
「依頼の主旨とは少しずれているかもしれませんが、肝心なのはご本人達の意思でしょうからね」
「ええ、まだどなたも確かめてらっしゃらないようですし‥‥でも、少し極端な気もいたしますけれど、彼女のお兄様は妹を大切になさっているのですね。ほんのすこし羨ましく思いますわ」
そんな二人の前に姿を現したダイナは、突然の訪問に驚きながらも、丁寧に彼等を迎え入れた。
「はじめまして。わたくしセレナと申します」
まずはセレナが用件を切り出す。
「ところでレオン様が最近、貴女のお兄様と剣の修行をなさっている事、ご存知ですか?」
「‥‥はい、兄は彼を鍛えてやるのだと言って、それはそれは嬉しそうに、楽しそうに‥‥」
ダイナは困ったように溜め息をつき、二人に尋ねた。
「あの、彼は‥‥怪我などしてはいないでしょうか? 兄は自分が認めるまでは彼に会ってはいけないと‥‥」
これはどうも、かなり脈アリな感じだが‥‥メグレズは念のために確認してみる。
「彼は、貴方のお兄様に勝てれば貴方と結婚できる、と思っているようです」
その言葉に、ダイナは嬉しそうに頬を赤らめた。
「ですが、貴方のお兄様は、自分に勝てなければ妹はやらん、と。私は、恋愛ごとはご本人達の御意志が一番重要だと思ってますので、貴方の意思を確認しておきたいのですが‥‥」
最早訊くまでもないような気もするが、とりあえず。
「単刀直入にお伺いしますけど、貴方ご自身は、彼が求婚したら、申し出を受けるご予定なのですか?」
「‥‥はい」
‥‥あ、そう。やっぱり? 春だねえ、どこもかしこも。
「でも、その‥‥兄に勝てたら、というのは、どういう事なのでしょうか?」
――スパーンっ!
ヘバってヘタリ込んだレオンの頭に、セティアのハリセンアタックが飛ぶ。
「立てっ! 立つんだレオン! 明日の為にそのいちっ! 気合いだ、気合いだ、気合いだーっ!」
「‥‥はいっ!」
楽して手っ取り早く、などと調子の良い事を言っていたレオンではあったが、どうやら強くなりたいという気持ちは本物らしい。
そして、アニキを打ち負かして彼女をゲットしたい、という気持ちも。
レオンはリル、絶狼、クロックの3人に打ちかかっては、その度にあっけなく打ちのめされ、それでもしつこく立ち上がって来る。
絶狼はその度に悪い所を教え、何処をどうすれば今よりマシになるのかを言い含めるが‥‥まあ、そう簡単に直れば苦労はない。
「しかし、最後の最後に物を言うのは絶対に負けないって言う強い意思だからね」
この根性があれば、例え負けても‥‥いや、確実に負けるだろうが‥‥肝心な目的は無事に達成出来るか。
「ま、要はシスコン兄貴の見苦しい嫉妬なんだろうけどね、うん」
それなら決闘場所に妹を連れてくるだけで解決するかもしれない‥‥と言うか、それしか解決法はなさそうな気もする。
そして、そのシスコン兄貴は‥‥筋肉仲間のリルに勝負を挑まれていた。
「なかなか良い筋肉をしてるじゃないか。どうだ、ひとつ‥‥語り合ってみないか?」
筋肉で。
そして、互いの筋肉を認めた者同士、勝負を挑まれたら決して断らない‥‥それが漢のマナーだ。
二人の筋肉自慢は町の広場で火花を散らす‥‥互いに褌一丁の姿で。
たちまち周囲に人だかりが出来るのは、流石キャメロットと言うべきか。
やがて町が夕陽に染まる頃、二人の筋肉野郎の間には、何かが出来上がっていた‥‥と言うか芽生えていた?
「‥‥一杯、やるか」
「‥‥うむ、良いな」
二人の筋肉野郎はがっしりと肩を組む。
そして筋肉仲間の集う酒場で、夜を徹して飲み明かした。
‥‥それがリルの「アニキ弱体化作戦」とも知らずに‥‥。
――決戦の時は来た。
ムージョさんが歌うヘナチョコ応援歌と共に。
「ヘナチョコ 上等 かかって来い ♪」
「ヘナチョコ 舐めたら 痛い目みるぜ♪」
「ヘナチョコ 俺はヘナチョコ 未来の星さ♪」
「今日から 俺を ヘナチョコなんて よばせねぇ!!!!!!!!!」
「お‥‥俺はもう、ヘナチョコじゃない!」
レオンが胸を張って叫ぶ。
どうやらまだ、イメージトレーニングを続けているようだ。
「‥‥結局、大して成果はなかったようだが‥‥」
クロックが溜め息混じりに言うが、まあ元々そんなに成果があるとは誰も考えていなかった事だ。
後は‥‥アニキの出方次第、という所か。
そのアニキはと言うと‥‥来た。
足元もしっかりと、表情も晴れ晴れと清々しく。
「‥‥ちっ、今朝まであれだけ飲ませたのに、効果なしか‥‥」
リルがこっそりと舌打ちする。
奢り損、か?
そして、そのアニキの元へ静かに歩み寄る美女ひとり。
フィーネ・オレアリス(eb3529)はアニキの手を取り、真っ直ぐにその瞳を見つめて言った。
「お兄さん、何故、レオンさんと妹さんとのお付き合いが認められないのでしょうか? 何故、勝負でどうこうしなければならないのでしょう? 強さというものが、それほど大切だとお考えなのでしょうか?」
アニキはその碧の瞳に見つめられ、少なからず動揺した。
「お、男とは、欲しいものは全て、戦って勝ち取るものだっ!」
「でも、ご自分の得意な分野で勝負なさるのは卑怯な気がしますし‥‥それに、あまつさえ妹さんの気持ちを無視して殿方だけで決めるのは『愛』を馬鹿にしている事にはなりませんか?」
しかし自分のゴツイ手を握り締めた相手の華奢な手を振り払う訳にもいかず、真っ赤になって額に大汗を浮かべながらも、アニキは持論を曲げなかった。
「お、俺が大事に守ってきた妹を、ヘナチョコ野郎に渡す訳にはいかんのだっ! 俺より強くなければ妹は守れんっ! 守れんような奴に、妹は渡せんっ!」
まあ、それも一理はあると思うが‥‥ここはやはり、筋肉だけが男の強さではない事を思い知らせてやるしかなさそうだ。
今のレオンにそれが出来るかは‥‥まあ、とりあえず置いといて。
「良いか、武器以外の周りのモノも、利用出来る物は何でも利用するんだ。なに、卑怯と罵られても、全ては正当な兵法だ。相手をおだてつつ同意を得るのも立派な戦術だぜ? 口は達者そうじゃないか」
リルはレオンの背中をポンと叩く。
「こいつを貸してやる。木剣は木剣だろ?」
ニヤリと笑って手渡したのは、月桂樹の木剣+1。
そして、決闘が始まった‥‥と思ったら、あっという間に勝負アリ。
レオンは5日前と同じ様に、アニキに一太刀も与えられずに吹っ飛ばされる。
「‥‥やっぱダメかね、たった4日じゃ‥‥」
絶狼が溜め息をつくが、レオンはこの程度では諦めない。
「まだまだっ!」
立ち上がり、アニキに向かって行く。
「よし、そこだ! 行けっ!」
野次馬‥‥いや、セティアから檄が飛ぶ。
「っしゃあ、決まったーっ!」
‥‥アニキの攻撃が。
「ほら立てっ! 立ち上がれっ! 彼女が見てるぞっ!」
その通り、戦う彼の姿をダイナが見ていた‥‥両手を合わせ、祈るような面持ちで。
そして何度目かのレオンの攻撃があっさりと受け流された‥‥かに見えたその時。
アニキは急に、その場に崩れるように倒れ込んだ。
レオンの攻撃に合わせてこっそりと撃ち込んでいた、ムージョさんのスリープが漸く効いたのだ。
「さあ、今がチャンスなのだわ」
その言葉に、息も絶え絶えのレオンは木剣を振りかざし‥‥
「‥‥ダメだ」
そのまま、腕を下ろした。
そして、眠っているアニキを軽く蹴飛ばし、起こす。
「これじゃ、俺が勝った事にはならない」
彼女が見ている前で、卑怯な真似は出来なかった。
目を覚ましたアニキが飛び起き、吠える。
「キサマ、神聖なる決闘に他人の手を借りるなど卑怯‥‥っ」
――スパァーーーンっ!!!
その時、アニキの後頭部にハリセンアタックが炸裂した。
驚いて振り向くアニキの目に映ったものは‥‥
「ダイナ!?」
二人の男が同時に叫んだ。
「お兄ちゃん、いいかげんにしてっ!!」
そこには、セティアに借りたハリセンを手に仁王立ちするダイナ‥‥そして、彼女は事態が飲み込めずにいる兄に背を向けると、レオンの前に進み出た。
「大丈夫、あなたはお兄ちゃんよりずっと強くて‥‥格好良いわ」
「ダ、ダイナ、待て! まだ勝負はっ」
往生際の悪いアニキの前に、セレナが立ちはだかる。
「‥‥お兄様の妹を大切になさる気持ち、感じ入りましたわ。ただ‥‥」
と、セレナは微笑んだ。
「大切に守るという事と幸せにするという事は違うと思いますの。たとえ円卓の騎士の様に強く優しい方が守ってくださったとしても、それだけでは幸せにはなれませんのよ」
「ま、そういう事だな」
ダイナからハリセンを返されたセティアが、それを軽く鳴らしながらアニキに迫る。
「こんなにボロボロになるまで戦って、それだけ彼女のことを想っているんだ。こいつなら絶対に、彼女を幸せにしてやる事が出来る‥‥それとも、兄であるお前は、こいつ以上に彼女を幸せにしてやれるって言うのか?」
「妹さんの表情をご覧になってあげてくださいませ」
セレナが背後の二人を振り返って言った。
「幸せは笑顔に現れますもの。妹さんを幸せにできる男性とは、妹さんを一番笑顔にしてあげられる男性の事ですのよ?」
「大事なのはその妹様ご自身のお気持ちだと思いますが‥‥」
と、メグレズ。
「筋肉では女の子にもてないのだわっ」
ムージョさんまでが、ぼそっと、しかし確実に聞こえるように呟く。
やはり、こういう事には女性は強い‥‥アニキは次々と迫る女性陣の攻撃に、最早抵抗する術を失っていた。
そして仕上げはフィーネの微笑攻撃。
しっかりとアニキの手を握り締め、先程よりも近くでその目をじっと見つめる。
「勿論、強さの中に優しさの見える男性はとても素敵ですよ」
ニッコリ♪
――ぼんっ!
アニキが、頭から湯気を噴いた‥‥。