葱と踊れ! 華麗に気高く!
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:04月17日〜04月22日
リプレイ公開日:2007年04月25日
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●オープニング
葱、それは気高く。
葱、それは美しく。
葱、葱、葱‥‥ああ、葱よ!
フライング葱。
誰もが一度は乗ってみたいと秘かに憧れながら、大抵は最後の一歩を踏み出せずに涙を呑む。
そして、その最後の一線を踏み越えた勇者を、人は畏敬の念を込めてこう呼ぶのだ――ネギリスト、と。
「‥‥ふむ‥‥意外に少ないのだねキミ、このネギリストという者は」
暇と金を持て余したコンテスト好きの貴族は、腑に落ちない様子で目の前の少女に問うた。
「キミ達は、このフライング葱という素晴らしい道具について、世間一般に広める努力を怠っているのではないかね?」
彼は今、フライング葱開発者、通称「巨匠」の孫娘で自らもその制作に携わるワンダから、葱の歴史や勇者達の戦いの記録についてのレクチャーを受けている最中だった。
「そんな事はないと思うけど‥‥この国だって、一部ではネギリスなんて呼ばれてる位だし、認知度は高いと思うのよね」
そう、確かに認知度は高い。海外にまで知れ渡るほどに。
しかし、その割には実際の乗り手が少ないのも事実だった。
「キミ、私はね、美しいものが大好きなのだよ」
「‥‥はい」
「高みを目指して競う姿も、勝者にはなれずとも最善を尽くそうとする姿も、いずれも美しい。そして私は、ネギリストの中にも美を見たのだよ」
有閑貴族は陶酔したように言った。
「夢を壊すような事を言ってしまえば、あれはただ普通のフライングブルームを葱の形に削って彩色しただけのもの‥‥箒と同様に乗れぬ筈がないのだ。しかし、彼等はあえて、ひとつの乗り方に拘る! そう、自らの肉体と魂を削るような乗り方に拘るその姿こそ、究極の美だ! そうは思わんかね、キミ!?」
「ええ‥‥まあ、確かに私もそれに拘ってるけど。お爺ちゃんに教わった、それが正統派だと思ってるし」
「そこでだ、キミ。ダンスは得意かね?」
「‥‥はあ?」
ワンダは頓狂な声を上げた。
何故そこでダンスが出てくるのか、繋がりがさっぱりわからない。
「葱を使って、華麗に踊って見せるのだよ。気高く美しく舞うその姿に、きっと観客は魅了され、葱の魅力に気付く事だろう」
有閑貴族は既に自己陶酔モードにどっぷり浸っている。
「そう、葱は愛のためにあると言いながら、これまでの活動は荒っぽい事が多すぎたのだよ。会場と諸費用は勿論私が提供する、君達は出場者と観客の確保を頼むよ」
キャメロットからここまでは約半日。
練習期間を含めた計5日間の食事と寝室も用意してくれるらしい。
‥‥かくして、葱に魅了されながらも自らは決して乗ろうとはしない有閑貴族の主催による葱ダンスコンテストが開催されるハメ‥‥いや、運びとなったのである。
●リプレイ本文
「私は待っていた、葱の不正を正しながら、人々の目がこちらを向いてくれる日を!」
レイヴァント・シロウ(ea2207)は、会場に集まった善良なる‥‥そして葱に関しては何も知らない人々を前に、初っ端からヒートアップしていた。
「私達ネギリストは、あらゆる人種、歴史、主義を受けいれる広さと、強者が弱者を虐げない、矜持を持つ熱い魂の持ち主だ。私達は今ここに集い、人々は今私達を見ている‥‥」
そして、大きくひとつ息をつくと、高らかに、誇らしげに、その美声を会場に轟かせる。
「――私は今日ここに、『葱を街の人々に広めるためのネギリストの団』略して『葱ま団』の設立を宣言したい!」
葱ま団‥‥「葱」を「ま」ちの人々に広めるためのネギリストの「団」である。
たぶん団長はレイジュ・カザミ(ea0448)、超監督は、このシロウ。
「我々は葱ま団。勇気ある者達よ、私達の隣に立て。力なき者達よ、私達を求めよ。そして葱の暗黒面に堕ちた者達よ、私達を恐れよ。葱は、私達と共にある!」
両手を広げ、天を仰ぎ、陶酔しきった表情で語るシロウは‥‥まるで怪しい団体の胡散臭い指導者のようだ。
そしてシロウはそのままのノリで最初の出場者、オルテンシア・ロペス(ea0729)を紹介する。
「まずは葱の聖母にしてイスパニアの踊り手、オルテンシアの華麗なる舞をその目に焼き付けるが良いッ!」
いつもなら解説は主催者である有閑貴族が担当するのだが、シロウは彼に口を挟む隙を与えなかった。
そして、特設ステージに真っ赤なドレスを身に纏ったオルテンシアが姿を現す。
彼女はまず葱をステージの上に横たえ、ゆっくりとしたリズムで舞い始めた。
衣装につけた鈴や装身具が、その動きに合わせてシャラン、と音を立てる。
その音とリズムが観客を引き込み、客席から手拍子が沸き上がる。
彼女の動きに合わせて手拍子は次第にスピードを増し、それが最高潮に達した時‥‥
ふわり、と、舞姫は空へ羽ばたいた。
葱に跨り、空中を自在に舞う。
何故、葱なのか。
どうして普通のフライングブルームではいけないのか‥‥。
そんな事を考える余裕は、観客にはない。
ただひたすら、その激しく熱い舞姿に魅せられていた。
オルテンシアは、これまで自分が葱での戦いを見て感じたことや思いを込めて宙を舞う。
戦いを通じて伝わってきた葱リスト達の葱への思い、同じように葱に魅せられながら敵として戦った人達との間に生まれた友情‥‥戦いや乗り方は決して優雅ではないけれど、一つのことにかける彼等の情熱は美しく気高い。
それが少しでも見ている人達に伝わるように、それだけを願って‥‥!
やがて、怒濤のような拍手と共に情熱の踊り手は地上に舞い降りる。
彼女は乱れた息を整え、観客と主催者に一礼すると舞台を降り、控え席へ向かった。
「軽食や飲み物、汗を拭く布の支度をしておこうかしら」
踊り終わって戻ってきた仲間が疲れを癒せるようにとの気配りも忘れない、それはまさしく葱の聖母‥‥。
続いて舞台に立ったのは、可愛い二人組‥‥チップ・エイオータ(ea0061)とパラーリア・ゲラー(eb2257)だ。
二人はお揃いの葱色のマフラーを首に巻き、服装も一緒。
彼等が舞台に立っただけで、まだ何もしていないのに客席からは拍手と「カワイイー!」という歓声が上がる。
「きちんと踊ったことはないけど、大好きな葱のために精一杯頑張るね」
「にゃっす! あたしパラーリアだよ〜♪ みんな幸せ、あたし幸せ。よろしく、よろしくなのっ♪ 」
二人は予め‥‥刺していた。
しかし、それは余程近くで見なければ、そうとはわからないように上手く工夫され‥‥よって、観客には上手く足の間に挟んでいるようにしか見えなかった‥‥筈だ。
そして、二人はぴったりと息を合わせ、空へと舞い上がる。
「葱で飛ぶのも踊りのうちなら、これも一つの踊りだよね?」
二人は並んで飛びながら、急上昇、きりもみ落下、そして地上すれすれでの上昇など、スリルとスピード感に溢れる演技で観客を魅了する。
そして観客がそれに酔いしれる中、今度は用意した狼煙を手に、二人は再び宙に舞う。
白い煙の尾を引きながら、二人は息を合わせて、併走したり、対称になるように空中回転を併せてエレガントに美しく空のキャンパスに軌跡を描く。
やがて‥‥観客は気付いた。
その白い煙が、メッセージになっている事に。
最初は円やハート型などの簡単な図形‥‥そして。
「L・O・V・E」
青い空に浮かび上がる真っ白な文字。
上空からは色とりどりの花びらの雨が降り注ぐ‥‥。
「みんなが幸せな気持ちになれたら嬉しいにゃ〜♪」
さてさて、この演出効果に乗せられて、この会場で告白した人は何人いただろうか。
「チップせんぱぁい、んとんとありがと〜」
演技を終えたパラーリアは、チップの頬に‥‥ちゅっ♪
ここでも、カップル成立?
「‥‥さて、そろそろ私の出番のようだね?」
ビシッと礼服で決めたシロウが進み出た。
勿論、その尻にはあたかもバベルの塔の如く、葱が聳え刺さっているが‥‥やはり、演出効果で刺さっているようには見えない‥‥らしい。
そしてシロウはワルツの調べに合わせて優雅に舞い始める。
形式に則りながらも大胆なアレンジを施し、ステップは高らかに、腕の振りは大胆に、スマイルはヒロイックに。
興に乗ってきた所でオーラソードを作りだし、華麗に剣舞を舞う。
「人は葱を正しく使うことが出来るのか。出来る、出来るのだ!」
自ら解説を交え、シロウは舞い‥‥そして、盛大な拍手と共に舞台を降りた。
「こ、こんにちは葱さん初めまして宜しくお願いしますね?」
リーラル・ラーン(ea9412)はその細い指でしっかりと葱を握り締め、丁寧に挨拶をした‥‥葱に向かって。
「それなるは、葱の門を叩きし若人‥‥リーラル嬢、どうぞこれへ!」
シロウの声に、舞台に上がる‥‥者は、いない。
出演者はその頃、初めて乗る葱に恐る恐る跨り、ふらふらと浮上‥‥そして、操作しようとしたその瞬間。
葱は、何故か暴れ出した。
いや、葱が暴れている訳ではなく、使用者がそのように操作しているのだが‥‥とにかく、葱は操縦不能に陥っていた。
「んきょぇあああああ!!?」
暴れ回る葱に必死にしがみつき、振り落とされまいと抵抗するが、その努力も虚しく葱は彼女をぶら下げたまま何処へか飛んでいく。
若人よ、汝の行く手には如何なる試練が待ち受けているのか‥‥。
そして最後に、満を持して登場したのは‥‥勿論この人、葱の勇者にして伝道者、レイジュ・カザミ!
黒い礼服で現れた彼は、葱を手に観客に向けて語り始めた。
「葱が争いの種ばかりになるのは、悪しき心を持った者がそれを利用したからさ。しかし、僕達は違う。数々の戦いを経験し、こうして多くの仲間も出来た。僕達の踊りを見るがいいさ。これは葱を愛する者達による愛のメッセージ!」
レイジュは手にした葱を高々とかざし、そのまま、それに寄り添うように空へと、静かに上がっていく。
そして、空の高みで彼は葱に腰を掛けた。
「さあ、いくよ! これは今、ここにいる人達に見せるだけではない。次の世代に葱が正しく伝わる様に、僕が新たな葱伝説を作る!」
そのまま、彼はこれまでの葱を巡る戦いや出来事を思い浮かべながら、社交ダンス風のスタイルであでやかにステップを踏む。
そのステップは次第に熱く、速く、そして激しさを増し‥‥
「さて、そろそろ本番だね?」
レイジュは纏った礼服に手をかけ、ニヤリと微笑んだ。
「そう、人々が待ち望んでいるのは英雄‥‥葱の勇者にして伝道者、そして世界の葉っぱ男、この僕、レイジュ・カザミだっ!」
――ばばっ!!
例によってどんな仕組みになっているのかはよくわからないが、とにかくレイジュは一瞬にして葉っぱ男に変身した!
それと同時に音楽も激しいリズムに切り替わる。
「僕の愛を受け取ってー! さあ、皆で踊るよ!」
そして勿論、葱もいつの間にか定位置に収まって‥‥
「にゃーっ!!!」
しかしその時、鋭い叫びと共に一陣の黒い風が吹き過ぎた。
それはきっと、ベテラン故の落とし穴。
いつものバトルならば、その激しい動きと、空中高く人目につかない場所で行われるその戦いの性質ともあいまって、それを目にする人は少ない。
それ故に、いくら戦いを重ねても葱の知名度はなかなか上がらないのだが、もしも目にしても、それがどこにどう刺さっているか‥‥そんな所までは見えないものだ。
しかし今回は違う。これは、葱の魅力を一般の人々に魅せ、そして、見せるもの。
だが、見えては困るものもあるのだ。
かくして、葱の勇者にして伝道者は謎の黒猫集団によって何処へかと連れ去られて行った。
「‥‥これが真のネギリストなのですね?」
いつの間にか戻ってきたリーラルが、何故か傷だらけの上に全身ずぶ濡れの状態で呟いた。
そして、戦い‥‥いや、コンテストは終わった。
カーテンコールではパラーリアが、連れ去られたレイジュの代わりに会場にハート形の葉っぱをバラまきながら、クルクルと超絶ダンスを披露する。
「みんなの踊りを見て、乗ってみたいって思う人が一人でも増えたらうれしーな」
チップはそれぞれの演技に満足したらしい観客達が帰途に就く様子を見ながらそう呟く。
そして。
「最後にもう1回だけ葱に乗らせてもらってもいい?」
誰もいなくなった会場の空に、大きなハートが描かれた。
それはパラーリアへの、一緒に飛んでくれたお礼と、良かったらこれからもずっと仲良くしてね、というメッセージ。
いや〜、春ですねぃ。