老兵は死せず
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 40 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月09日〜05月15日
リプレイ公開日:2007年05月17日
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●オープニング
老兵?
おい、やめてくれよ。俺はまだ、老人と呼ばれる歳じゃねえ。
‥‥いや、歳、なのかもしれねえな。あんな腕っ節だけの若造に、あっさり負けちまうんだから‥‥。
俺の名はガルム‥‥まあ、本名じゃねえ。通り名ってヤツさ。
ちっぽけな貧乏傭兵団「地獄の番犬」の頭‥‥だった。昨日までは、な。
俺自身に衰えた自覚はなかった。
だが、若いモンにははっきり見えたんだろうな、この俺の「老い」が。
勝負に負けたら、頭の座を若いモンに譲って、引退する‥‥そう宣言したのが昨日の事だった。
そして俺は今日、真っ昼間からこうして、場末の酒場で安酒をかっ食らってる‥‥まあ、そういう訳だ。
「‥‥暇だな‥‥」
ボヤきつつ喉に酒を流し込む俺の肩を、誰かが叩いた。
「そんなに暇なら、一度帰ってみちゃどうだね、故郷って奴に、ん?」
酒場のマスターだ。
駆け出しの頃からこの安酒場に入り浸ってる俺にとっては、まあ、何かと世話になってる親父さん、みたいなもんだな。
「‥‥そうだな‥‥」
若い頃には色々あって、帰り辛かったあの村‥‥今ならもう、見知った顔も殆ど残っちゃいないだろう。
他人のフリをして、ふらりと立ち寄ってみるのも悪くない、か。
‥‥しかし、里心か。
やっぱり歳かね、俺も。
だが、そこにある筈の風景は‥‥一変していた。
いや、基本的には何も変わらない。
田舎の小さな村だ、例え100年経っても風景など大して変わりはしないだろう。
しかし‥‥
「‥‥何が、起きた‥‥?」
それはある意味、俺にとっては見慣れた光景だった。
家々から火の手が上がり、あちこちに死体が転がっている‥‥戦場。
俺の職場、だった。
「どうやら、引退はまだ早すぎるらしいな」
俺は生存者を探し、助かる見込みのある者に手当を施すと事情を聞いた。
「‥‥わからない‥‥何故、襲われたのか‥‥」
背中をバッサリやられたその若い男は言った。
昨日の夜、賊が現れ‥‥好き放題に暴れた挙げ句、この有様だ。
何故この村が狙われたのか、理由はわからない。
まあ、奴等に動機など聞いた所で無駄な事は俺も承知している。
やりたい時にやりたい事を、やりたいようにやる‥‥それが奴等の流儀だ。そんなものを流儀と呼べるなら、だが。
「奴等、女と子供‥‥浚って行きやがった‥‥!」
恐らく、自分達で楽しんだ後はどこかに売り飛ばすつもりだろう。
「そいつらのアジトは? わかるか?」
俺の問いかけに、男は首を振った。
仕方ねえ、自力で探すか。
人質を連れているなら、そう遠くまでは行けない筈だ。
昨日の夜‥‥俺が一日早く着いていれば、何とか出来たかもしれない。
だが、今からでも出来る事はあるさ。
丁度良い、ひとつ死に花ってヤツを咲かせてみるかね。
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「頼む、あいつを助けてやってくれ!」
ギルドに飛び込んできたその初老の男は近くの酒場のマスターだと名乗り、握り締めていた手紙を受付係に見せた。
「あいつ、一人で賊のアジトに乗り込むつもりらしい‥‥いや、腕が立つのはわかっとるが、あいつも歳だ。相手も何人いるか、どれ程の腕か、何もわからんのに‥‥無茶だ!」
男は骨張った拳でカウンターを叩く。
「俺が、里帰りなんぞ勧めなければ‥‥!」
手紙には、こう書かれていた。
『‥‥近くの町で奴等の手掛かりを掴んだ。どうも、町のどこかに潜伏しているらしい。そう大きくはない町だ、いずれアジトは突き止められるだろう。今の俺にどこまで出来るかわからないが、これも何かの縁だ。せめて、浚われた者達だけでも助け出せればと思う。今まで世話になった。生きていたら、また会おう』
つまりこの手紙の主は、一人で賊のアジトに忍び込み、人質を救出するつもりらしい。
「‥‥確かにあいつは、そんな仕事に向いてはいるさ。だが、相手は一夜で村をひとつ全滅させるような連中だ。一人で敵う訳がない‥‥」
男は最初の台詞をもう一度繰り返した。
「頼む、あいつを助けてやってくれ!」
●リプレイ本文
「‥‥そう言われてもねえ‥‥」
馬車を貸してほしいと言う見知らぬ女性に、店の主人は渋い顔で応じた。
「あんた、身許の保証はあるのかい? いやいや、駄目だよ。紹介状でもあるなら考えないでもないがね」
乗り逃げでもされては堪らん、という事のようだ。
仕方なく他を当たってみるが、どこも反応は似たようなものだった。
中には貸し賃100Gなどと途方もない大金をふっかけて来る者もいたが、それを躊躇いもなく支払おうとすると、かえって怪しまれてしまった。
「‥‥仕方ないね。恐らく盗賊連中も持ってるだろうし、奪えるならそれを奪って使うさ。それも駄目なら‥‥」
イレクトラ・マグニフィセント(eb5549)は、頼むよ、と言うように愛馬グレンヴィルの首筋を軽く叩いた。
「‥‥傭兵時代に世話になった知人を探しに来たんだが、何しろこの町は初めてなんでね」
来生十四郎(ea5386)は周囲を警戒しつつ、町の広場に並ぶいくつかの露店で聞き込みを行っていた。
「白髪混じりの黒髪で、無精髭が伸び放題、歳の割には良いガタイをした爺さんなんだが‥‥」
いや、爺さんなどと言うと怒るらしいが。
「そういう、傭兵崩れみたいな連中が集まるような場所ってのは、どこかないかね?」
同じ頃、メアリー・ペドリング(eb3630)も依頼人から聞いた人相風体を元に、彼と接触のあったシフール便の配達員を探していた。
「ガルム殿がどこから手紙を出したのかがわかれば、捜索範囲を狭めることが出来るかも知れぬからな」
盗賊の情報も一緒に得たいが、そちらは既にガルムが相当量を集めている可能性もある。
「まずはガルム殿を見つける事が第一となるな‥‥」
「教会の場所はここ、と‥‥自警団は‥‥ここ、ですね。後は賊の住処がどこか、か‥‥」
サクラ・キドウ(ea6159)は町の様子を地図に写し取りながら歩く。
「‥‥盗賊団をのさばらせておくようなユルい自警団をアテに出来るとは思えませんけど」
辛辣な感想を述べつつ、地図をあらかた完成させたサクラは、ガルムの情報を得るべく手近の酒場に入っていった。
一方、別の‥‥あまり流行っていそうもない寂れた酒場では、少々値の張る酒を注文したカイト・マクミラン(eb7721)が気を良くした主人と世間話に花を咲かせていた。
勿論、ただおしゃべりをする為に高い金を払った訳ではない。
主人の気が弛み、口が軽くなった頃を見計らってカイトは小声で本題を切り出した。
「ねえ、なんでも盗賊団に浚われた女子供が大勢、この町のどこかに閉じ込められてるらしいんだけど‥‥アタシ、その気の毒な人達を助け出しに来たのよね。ガラの悪そうなよそ者が出入りしている建物って、聞いたことな〜い?」
その言葉に主人は目を丸くした。
それはそうだろう、目の前のおネエ言葉のお兄さんは、とても盗賊相手に立ち回りが出来るようには見えないのだから。
「ああ、勿論アタシひとりじゃないわ。仲間がいるのよ。現地で合流する手はずになってるんだけど‥‥姿を見せないのよね」
カイトは、さも誰かを探しているように薄暗い店内を見渡すと、主人に尋ねた。
「アタシとおんなじようなこと聞きにきたオジサンっている?」
後刻。それぞれに情報を集めた冒険者達は、一軒の安宿を取り囲み、人の出入りを伺っていた。
賊のアジトに関する情報を集めるのは専門家ではない彼等には難しかったが、ガルムの居場所については何とか特定する事が出来た‥‥それが、ここだ。
雀尾煉淡(ec0844)がバイブレーションセンサーで周囲を警戒し、残る全員が宿の玄関と裏口に注意を集中していた。
「‥‥既に出掛けた後でなければ良いのだが」
雀尾嵐淡(ec0843)が小声で言ったその時、宿の裏口から黒っぽい人影が夜の町に滑り出てきた。
「ガルム殿‥‥であるか?」
頭上から降ってきた声に、人影は驚いて足を止める。
「驚かせてすまぬ。少し、話を聞いて貰えぬだろうか?」
屋根の上で待機していたメアリーが、ガルムの目の前に舞い降りた。
同時に、暗がりの中から冒険者達が姿を現す。
「‥‥何だ、お前達は‥‥?」
「貴方を手助けして欲しいという依頼があったから来たの」
クァイ・エーフォメンス(eb7692)の言葉に、ガルムは低い唸り声を上げた。
「依頼‥‥冒険者、か?」
クァイは黙って頷き、話を続ける。
「悪いけど、アジトへ踏み込むのは少し待っては貰えないかしら?」
「依頼人は、酒場のマスターだ‥‥あんたも知ってる、あの爺さんだよ」
十四郎はギルドで聞いた依頼の内容を話して聞かせた。
「あの人には色々と世話になってるそうじゃないか。その人があんたを助けたいと言ってるんだ。一人で無理をすれば恩人が一生罪の意識に苦しむ事になるとは思わんか?」
「だが‥‥見たところ、悪いがお前達には荷が重いだろう」
「まあ、そうかもしれないわね」
渋るガルムに、カイトがしれっと言ってのけた。
「盗賊団を壊滅させるつもりなら、だけど」
「どういう事だ?」
「人質を助け出す位なら、アタシ達でも出来るって事よ。本当は壊滅させるべきだと思うけど、浚われた人達を人質に取られた時どうするの?」
先に人質を救出したとしても、その人達を放置して戦っては再び危険に晒す事になりかねない。
「だが、ここで潰しとかねえと‥‥」
「逃がしたとしても、追討をギルドに依頼する事は可能であると思われるが」
と、メアリー。
「ガルム殿、少しは人に頼る事を覚えては如何かと思うが‥‥とにかく無駄死にはやめて頂きたい」
「言ってくれるぜ」
ガルムは鼻を鳴らす。
だが、どうやら協力する気にはなったようだ。
「そこまで言うからには、何か策はあるんだろうな、ヒヨッコども?」
ガルムに案内されて辿り着いた賊のアジト‥‥それは町のど真ん中にあった。
一見、ごく普通の民家。
じっくり見ても、やっぱりごく普通の民家。
「爺さん、本当にここで間違いないんだろうな?」
十四郎の問いに、ガルムは間違いないと頷いた。どうやら、きちんと裏は取ってあるようだ。
「灯台もと暗し、という所かね」
イレクトラが呆れたように乾いた笑いを漏らす。
サクラが作った地図によれば、自警団の本拠は目と鼻の先だった。
「とりあえず馬車は必要ないかね」
救出した人達は自警団に匿って貰えば良い。
村への移動手段は、落ち着いてから考えても遅くはないだろう。
「‥‥しかし、これでは火を付ける訳にはいかないな」
嵐淡は言いつつ、ミミクリーで鳥に姿を変え、上空から見える範囲で周囲を偵察する。
その間に煉淡が魔法で内部の様子を調べ、見取り図に記しつつ、それをジャパン語の出来る仲間に伝えた。
「恐らく、人質は地下に居るものと思われます」
そこには、通常の大きさの反応に混じって、小さな‥‥子供の反応が確認された。
「救出は建物の側面に穴を開けるとして‥‥襲撃は人質の位置から離れた、こちら側からの方が良いわね」
クァイが見取り図に記された情報を見て計画を立てる。
「ちょっと近所迷惑かもしれないけど‥‥我慢して貰いましょう」
その声を合図に、ガルムが巨大なハンマーを振り回して入口のドアをぶち破った。
真夜中に突如響き渡った轟音に、建物の中はおろか近所じゅうで人々が起きだし、ざわめく気配が感じられる。
やがて、寝ぼけ眼をこすりながら賊達が飛び出してきた。
ハンマーから剣に得物を持ち替えたガルムが、それを手当たり次第に薙ぎ払う。
「なんだ、まだまだやれるじゃないか爺さん。だが、無理はするなよ?」
「人をジジイ呼ばわりするんじゃねえ、小僧!」
「俺も小僧と呼ばれる歳じゃないがね、爺さん」
十四郎と軽口を叩き合いつつ、楽しげに剣を振り回す。
「色々と出来ないように‥‥男の急所は潰させて貰います」
サクラの目がキラリと光り、名剣クルテインの切っ先が「ある部分」に狙いを定めた。
「そこっ!」
その瞬間、得も言われぬ悲痛な叫びが夜の闇を切り裂き、響き渡った。
「生きて死ぬよりも辛い目にあって、その罪を償って貰わないと‥‥」
二人の攻撃を逃れ、外に溢れた賊達を待っていたのは愛馬グレンヴィルに跨ったイレクトラだった。
イレクトラは馬の蹄で敵を蹴散らしつつ、三人を援護するように矢を射かける。
「さあ、今のうちに!」
その声に、メアリーが建物の側面に開けたウォールホールの穴から救出班が静かに潜入する。
彼等は煉淡の魔法で人の動きを読み、なるべく敵との遭遇が少なくなるように動きながら人質の救出を目指した。
まだ残っている見張りはカイトがスリープで眠らせ、こちらの動きに気付いて襲ってくる敵には、何故かそこにある酒樽からナイフを持った手が伸びる。
「村に帰るわよ。音を立てないように子供から順に外へ」
突如始まった外の喧噪に何事かと怯えていた人質達も、カイトに声をかけられ安心したようだ。
すぐに事態を理解し、静かに冒険者達の指図に従う。
「もう大丈夫だ。これ以上酷い目に遭うことはない。今までよく頑張られた」
メアリーも労るように一人一人に声をかける。
人質が逃げた事に気付いて追ってくる者もいたが、煉淡のアグラベイションの支援を受けたクァイのスマッシュや、人間サイズの壺や何故か室内にある大岩の攻撃の前に、あえなく撃沈。
――ピイィーーーッ!
「あの音は‥‥救出はうまく行ったという事でしょうかね」
本日何個目かのピーを潰したサクラが、合図の笛の音にほっと一息つく。
「さて‥‥どうしましょうか」
自警団がなければ、近くの町から応援が来るまで逆さ吊りにでもしておこうかと思っていたのだが、生憎(?)自警団は目と鼻の先。
既に騒ぎを聞きつけて、勢揃いしていた。
彼等もまさか自分達の足元に盗賊団の拠点があるとは思わなかったのだろう。
最初は冒険者達が賊と間違われそうになったりもしたのだが‥‥まあ、一部の現場の悲惨な状況を見れば、誤解するのも無理はないかもしれない‥‥。
だが、救出された人々の話を聞いて、彼等も納得してくれたようだ。
「‥‥何人か、裏から逃げやがったか」
ガルムが悔しそうに舌打ちするが、今はそれを追う余力はない。
だがこれで、賊の大半は潰した筈だ。逃げた者も暫くは何も出来ないだろう。
「奴等、やっぱり荷馬車を隠し持っていたようだね」
イレクトラが言った。
「後は、ガルム殿に頼んださね」
「ああ、世話になった」
ガルムは少し暴れすぎたのか、腰のあたりをトントンと叩きながら言った。
「‥‥俺も、冒険者でもやってみるかね」