氷の美女
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 40 C
参加人数:7人
サポート参加人数:5人
冒険期間:05月28日〜06月03日
リプレイ公開日:2007年06月05日
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●オープニング
最初はただ、彼女を生き返らせたいだけだった。
教会に払う金もなく、気前よく蘇生術を施してくれるような高位の術者にコネもない。
だから彼は、自分に出来る限りの事をした‥‥水の術者としての能力を最大限に活かして。
彼女の屍を氷の棺に閉じ込め、時を止める。
そして待つのだ、その機会が訪れるのを‥‥。
だが、いつの間にか彼がアトリエと称するその場所には、氷の棺のコレクションが出来上がっていた。
棺の中には一糸纏わぬ美女達がズラリ‥‥どこでどう方向を間違えたのか、最愛の人の蘇生費用を稼ぐ為に地道に頑張っていた筈の彼は、今や立派な変態さんだった。
本人曰く、氷の棺に閉じ込められた物言わぬ彼女との日々を重ねるうちに、自分の中に眠っていた芸術家の魂が揺り起こされたのだ、という事だが‥‥。
その頃、近隣の町や村では近所でも評判の美女達が姿を消すという事件が散発していた。
年齢こそ十代後半から二十代と共通しているが、身代金の要求等もなく、被害者の家もそれなりの財産家からごく普通の庶民、本人の状況にしても花嫁修業中のお嬢様から夜に咲く花まで多種多様と、一貫性がない。
誘拐だと断定出来る証拠も目撃証言もなく、自主的な失踪とされてろくに調査も行われなかった一連の事件。
そこにに関連性を見出し、そのアジトを突き止めたのは、被害者の家族や友人、そして恋人達だった。
かくして、後に連続美女誘拐犯として世に知られる事となるこの男の討伐と被害者の救出が、冒険者達に託される事となった。
――依頼内容――
1.浚われた美女達の救出(棺に閉じ込められた美女達は血色が良く、死んではいない模様)
2.犯人の身柄確保(生死不問・判断は現場に一任)
※上記2点が揃って成功とする
注意事項1:犯人は水の魔法使い。他に数名、主に用心棒的な肉体労働を担当する同好の志が協力している模様。
注意事項2:場所は真夏でも氷が溶けないような洞窟の奥。入り口付近には常に濃い霧が漂っている。
注意事項3:美女達が捕らわれている場所の更に奥には幅3m程の一見不自然な滝があるが、その先は未確認。
●リプレイ本文
「それにしても世の中様々な趣味の輩がおるというものじゃのう」
件の洞窟に向かって歩きながら、架神ひじり(ea7278)は呟く。
「わしには到底理解出来そうに無いし理解しようとも思わんのじゃ」
「とりあえずその芸術家達‥‥もとい変態どもには被害者のご家族や恋人の分も含めておしおき決定‥‥ん?」
洞窟の入口に近付いた時、クァイ・エーフォメンス(eb7692)の目に付近をうろつく不審な男の姿が映る。
「あれは‥‥変態どもの一味!?」
それとも氷漬け美女の噂を聞いて鑑賞しに来た不埒者か。
いずれにしても女の敵といきり立つ女性陣を前に、唯一の男の味方、雀尾煉淡(ec0844)が恐る恐る口を開く。
「でも、少し様子がおかしくありませんか?」
言われてみれば、男は洞窟の前をあっちにウロウロこっちにウロウロ、そして時々何かを待ち望むように彼方を眺めやり‥‥
「‥‥!」
冒険者達の姿に気付いた男は急いで駆け寄って来た。
彼は依頼人のひとりで、居ても立ってもいられずにここまで様子を見に来たという事だった。
‥‥よかった、攻撃しなくて‥‥。
「ここは私達に任せて、あなたは町に戻って他の皆さんを呼んできて頂けませんか?」
服も必要だろうし、町に戻るには足も要るだろう。
煉淡の言葉に頷くと、男は歩き出した‥‥心配そうに洞窟の方を振り返りながら。
「‥‥これは、魔法の霧のようです‥‥」
洞窟の入口を覆う霧に向かってリヴィールマジックを使ったエスナ・ウォルター(eb0752)が言う。
この霧が常に漂っているとしたら、術者は相当にマメな人物だろう。何しろ効果時間は1時間しかないのだから。
そして恐らく、術者は‥‥そして仲間達も、今この中に居る筈だ。
「洞窟の構造はわかりませんが‥‥」
前置きしてから、煉淡がバイブレーションセンサーで捉えた情報を仲間に伝える。
「この奥、40〜50m先に5個の振動。恐らくこれが敵の動きです‥‥一番奥にいるのが、術者ですね」
魔法の霧に踏み込んだ彼は、パッシブセンサーでその発生源も捉えていた。
「じゃ、行こうか!」
猫小雪(eb8896)の元気な掛け声と共に、一行は猛烈な冷気の漂う洞窟の中へ足を踏み入れた。
霧の空間を抜け、先を行く犬達の足音に導かれて真っ暗な洞窟を手探りで進んでいた一行の行く手に、ぼんやりと明かりが見えてきた。
陽の光ではない‥‥恐らくは焚き火か松明か。
一行は相手に気取られないように、静かに歩を進め、陣形を整える。
だが、その瞬間‥‥
「はうはうぁ!」
リーラル・ラーン(ea9412)が転んだ。
今回は細心の注意を払って行動していた彼女だったが、そこはドジ天然ボケエルフ。
こんな美味しい場面で転ばずに、いつ転べと言うのか。
という訳で、リーラルはカチカチに凍った洞窟の床に頭から突っ込み、勢い良く滑って行った‥‥驚き、目を丸くする変態どもの目の前まで。
「な、何だ、こいつは‥‥!?」
「ほう、獲物が自分から飛び込んで来るとはな‥‥しかも、なかなかの上物じゃねえか」
「そう言や、エルフは初めてだな‥‥剥いて飾るか」
などと、品定めを始めた変態どもにウォーターボムをぶちかまし、リーラルは氷の上を滑って逃げる。
そこへ‥‥
「っ!? ‥‥こんな、酷い‥‥許せません!!」
氷の棺を目にし、怒り心頭に発したエスナが問答無用でアイスブリザードを見舞った。
「あなた達は女性を‥‥なんだと思ってるんですか!」
それを合図に、それぞれの得物を手にした「女の敵殲滅部隊」がなだれ込む。
ブリザードの直撃を受けて震えているその他大勢はとりあえず放置、まずは諸悪の根元を叩かねば!
「く‥‥ッ、俺の芸術に文句を付ける奴は許さん!」
最初の攻撃から立ち直った自称芸術家は魔法で迎撃しようとするが、背後からひじりの忍犬、洸牙に襲われて再び倒れ込む。
そこへ煉淡がアグラベイションをかければ、もう彼はただの的。
「この女の敵がー! 天誅ーっ!!」
小雪が特攻し、クァイがスマッシュを叩き込む。
「女性にこんな事をする変態はボコボコにされても文句は言えないと、親に教わりませんでしたか?」
「女性を裸で閉じ込めて鑑賞とは‥‥いい趣味してますね」
サクラ・キドウ(ea6159)が無表情に言いつつ剣を構える。
「そんな変態男は一生何も出来ない体にしなければ‥‥」
剣の切っ先が大事な所へ狙いを定める。
‥‥後の展開は‥‥推して知るべし。
「わしは殺傷は好まぬが、抵抗するならば容赦はせぬぞ?」
バーニングソードで刀に炎を纏わせたひじりが、残りの敵にブレイクアウトを食らわせ、動けなくなった所を峰打ちでボコる。
それでも抵抗を続ける者には奥義が炸裂した。
「佐々木流奥義火炎燕返し、如何であったかのう?」
「女の子を捕まえて裸で監禁だなんて‥‥そんな女の敵はぜ〜ったいに許さないんだから!」
敵の背後に回って股間を蹴り飛ばした小雪が叫ぶ。
「変態ゆるすまじ!」
「さあ、あなた達に許しを請う時間は上げません‥‥。時間があっても聞く耳持ちませんが‥‥」
蹴られたその場所に追い打ちをかけるサクラのポイントアタック。
そして怒りの赴くままに剣を振るうクァイ‥‥。
男性の皆様、女性を怒らせるとこのようにそれはそれは恐ろしい事になるのです。
くれぐれもご注意を‥‥。
「芸術とは人の命も厭わない物なのですか? そうとは思いません」
すっかり大人しくなった‥‥いや、大人しくさせられた変態どもを前に、リーラルが悲しげに呟く。
「あなた方には被害者の方の気持ちを解って頂きましょうか」
リーラルとエスナは男達を氷漬けにしていった。
そして、その芸術とはお世辞にも言えない作品を、煉淡はひとり黙々と洞窟の外へ運び出す。
「俺は別に一緒に解凍作業をやっても構わ‥‥いや何でもアリマセン」
女性達の解凍を手伝おうとした彼だったが、仲間の冷たい視線と、大事な所への殺気を感じてクルリと背を向ける。
「もしも覗いたら‥‥容赦なく攻撃しますからね‥‥? 急所に」
「覗きませんっ!」
煉淡は慌てて洞窟の外へ避難した。
変態どもが残した焚き火や松明の炎を使って解凍作業は順調に進められ、やがて女性達は何事もなかったように目を覚ました。
自分の身に起きた事が理解出来ずに戸惑う彼女達に簡単に事情を説明し、サクラが持参した防寒着を手渡す。
「こんな服しかなくてもうしわけないですけど‥‥街につくまで我慢してください‥‥」
こんな服というのは先着一名様に手渡された丸ごと猫かぶりの事だろうか。
「皆さんのご家族には迎えに来て頂くように頼んでありますから、もう暫く辛抱して下さい」
と、クァイ。
「寒いですし、どうぞこれで少しでも温まってください」
残されていた調理器具を使って入れた温かいハーブティーを、リーラルが被害者達に配る。
「皆さんも如何で‥‥うひゃあ! 熱いですぅ!」
仲間達にも配ろうと器具に手を伸ばした彼女だったが、器に注ごうとしたお茶は何故かその手を直撃したようだ‥‥。
皆が暫しの休息をとっている間、エスナは念の為に奥にある怪しげな滝を調べていた。
「あからさまに怪しいですね‥‥」
後ろからサクラが覗き込む。
それはやはり、ウォーターフォールの魔法で出来た幻の滝だった。
二人はその裏に回り込み、そこでもうひとつの棺を見付ける。
「この人、は‥‥?」
エスナが傍らに置かれていた羊皮紙の束に目を落とす。
そこには自称芸術家が芸術に目覚める前、恋人の復活を願うただの男だった頃の出来事や心情が綴られていた。
「‥‥はじめはこの人を助けたいだけだったんだ‥‥複雑だな」
「しかし奴は恋人を蘇らす事も出来ず、その上にこのような事をして名誉までも汚したのじゃ。本来なら斬捨てる所じゃが‥‥一生をかけて罪を償って貰わねばならんのう」
いつの間にか集まってきた仲間達の言葉にサクラは頷く。
「この人には罪はないですし‥‥街にいって丁重に葬りましょうか‥‥」
「ねえ、もしかして生きてるって事ないかな?」
小雪が一縷の望みをかけて氷の棺から出された遺体を調べてみるが、やはり命の気配はどこにもなかった。
「きっと安らかに‥‥」
リーラルが祈りを捧げる中、クァイが遺体を丁寧に毛布で包む。
「‥‥時の流れには逆らえない‥‥だから、同じ時間を過ごせる間を‥‥大切にしたいね」
エスナはここにはいない誰かに、心の中でそう語りかけた。
‥‥一方その頃。
氷漬けの変態どもと共に、煉淡はひとり寂しく、ただひたすら待っていた。
「誰も‥‥来ないな‥‥」
自分の背後にある洞窟の中からも、そして目の前に広がる丘の向こうからも。
女性の皆さん、彼にも温かいお茶を分けてあげて下さい。
出来れば温かい心も添えて‥‥。