あの灯台に灯をともせ!
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:6 G 42 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月01日〜06月07日
リプレイ公開日:2007年06月09日
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●オープニング
キャメロットから2日程の海岸にある、とある灯台。
切り立った崖の上に建つそれは、海を行く船にとっては航海の道標であり、命綱でもある。
そこを守る灯台守は二人。
一週間交代で灯台に泊まり込み、朝の光が射し込むまで篝火を絶やさないように見張り、世話を続ける。
決して楽ではないが、二人とも自分の仕事に誇りを持っていた。
そして、灯台守は今夜も揺らめく炎を見つめながら、明日からの休暇の事を考えていた。
地上へ降りたら何をしようか。
まずはいつものように、酒だ。
これで、待っていてくれる女でもいれば最高なのだが‥‥
しかしその翌日、一週間分の食糧と薪、燃料その他必要な物を持って上がってくる筈の交代要員は来なかった。
その翌日も、誰かが上がって来る気配はない。
「‥‥拙いな‥‥」
物資には多少の余裕があるが、それでも持ってあと2〜3日。
自分で降りても良いが、片道だけでゆうに半日はかかる。
少しでも手間取れば、陽が暮れてしまうだろう。
「待つしかない‥‥か」
その頃、冒険者ギルドでは‥‥
「‥‥すまねえ、俺は生まれてこのかた、風邪なんぞひいた事はなかったんだが‥‥げほっ!」
ひとりの頑強そうな男が苦しげに喘ぎながら、申し訳なさそうに小さな金袋をカウンターに置いた。
「‥‥相棒が待ってるんだ‥‥少ないが、こいつで何とか‥‥ごほげほっ、お、俺達は‥‥ゼエゼエ、宵越しの銭は持たない主義でな‥‥ぐほっ!」
必要な物は下の小屋に揃っている。
後はそれを崖の上の灯台まで運ぶだけ‥‥話を聞く限りでは、簡単そうな仕事だった。
「‥‥ただし‥‥」
と、男は言った。
「道は険しい。急な斜面で‥‥げほっ、足元も悪い」
途中に素人ではとても登れないような崖もあるが、良からぬ連中が灯台に近付くのを防止する為に梯子などはかけていなかった。
「おまけに、でっかいハチの巣まであるんでな‥‥じっとしてりゃ、やり過ごす事も出来るが‥‥」
登攀路のすぐ近くにあるそれは、出来れば排除してほしい‥‥今後の為にも。
「ああ、それから‥‥」
「まだ、何かあるんですか?」
「空から近付くのはやめた方がいい‥‥げほっ、灯台のすぐ下に、ドラゴンの巣があるんでな‥‥空からの侵入者には、容赦なく襲いかかる‥‥ゼエゼエ、げほっ!」
空だけではない。
気分次第では地上から近付く者にも襲いかかってくるらしい‥‥崖の下のほうには森が生い茂り、身を隠す事も出来るが、頂上付近は剥き出しの岩山だった。
「‥‥俺達は、まあ、慣れてるからな‥‥奴のお陰で助かってる部分もあるし、灯台の守り神でもある‥‥」
手荒な事は控えてほしい。
「‥‥危害を加えないって事がわかりゃ、無闇に襲って来る事は‥‥げほっ、ない、と‥‥良いんだが‥‥げほげほっ!」
――簡単そうに思えたこの仕事、よく聞けば、それは結構な難事業だった‥‥。
●リプレイ本文
「焦らずとも良さそうだが‥‥待っている者の心情を考えれば、なるべく早くは行ってやりたいものだ」
ルシフェル・クライム(ea0673)の言葉に、リデト・ユリースト(ea5913)を肩に乗せたセオフィラス・ディラック(ea7528)が答える。
「ああ、早く着けば、余裕もできるだろう」
稼いだ分の時間は、崖下の小屋での荷物準備や自分たちの装備の調整に使えそうだ。
ライディングホースに戦闘馬、ブーツに草履に果てはケルピーまで、種々雑多な移動手段を駆使した一団が街道を急ぐ。
「蜂退治は日のあるうちに済ませたいな」
「そうですね、罠を張る時間も要るだろうし、今日中が無理なら下の小屋の辺りで一泊かな?」
リ・ル(ea3888)とグラン・ルフェ(eb6596)は既に蜂退治の打ち合わせを始めていた。
「巣の場所は私が探すであるよ」
モンスター知識の豊富なリデトは、セオの頭を演台代わりに身振り手振りを交えて蜂やドラゴンの習性や対処法などについて熱弁を振るう。
「‥‥肩はいいが、頭を踏むな」
という演台の文句は聞こえないフリで。
前日まだ明るいうちにリデトが見付けておいた蜂の巣へのアタックは、日の出と共に開始された。
「暗いうちなら蜂の活動がまだ始まっていない筈ですよね」
と、蜂対策に白装束で身を固めた陰守森写歩朗(eb7208)は希望的観測を述べるが、たかが大きな蜂とは言え、そこはやはりモンスター。
「あれは‥‥見張りでしょうか?」
同じく蜂対策に白い布で黒髪を隠した李雷龍(ea2756)が言うように、巣の周囲では蜂達が既に活動を始めていた。
「早起きな蜂ですね」
蜂の世界にも早起きは得という概念があるのか、などと思いつつ森写歩朗が呟く。
「使えるなら、煙で燻して大人しくさせたいのですが」
「いや、それは拙かろう‥‥」
ルシフェルが頭上の木々を透かして空を仰ぎ見る。
まさにその時、黒い影が上空を横切って行った。
「ドラゴンも早起きらしいですねい‥‥土地柄かな?」
グランが乾いた笑いを漏す。
彼とリル、そしてセオの三人は蜂に気付かれないように狩猟用の網を張り巡らせた。
素早く飛び回る蜂の移動コースを制限し、少しでも対処をしやすくしようという作戦だった。
リデトはそこに、自分が材料を探し猟師の技を持つセオに作って貰ったトリモチのようなベタベタするものを塗りつけていく‥‥風でも吹いて飛ばされたら、自分がその餌食になりそうだったが。
「準備は良いですか? 行きますよっ!」
最後尾で弓を構えるグランが仲間に声をかける。
彼の放った矢は狙い違わず蜂の巣に突き刺さった。
たちまち、数匹の蜂が巣から飛び出してくる。
「気のせいかもしれないが、羽音が怒ったように聞こえるな」
苦笑いを漏らしながらルシフェルがフェイントアタックで蜂に斬りかかる。
ダメージは落ちるが、確実に当てて仲間への被害を防ぐのが狙いだ。
「さくさくと駆除しましょう、さくさくと」
雷龍は蜂が攻撃してきた所を盾で防御し、カウンターアタックを叩き込む。
しかし彼が装備した武器の性質上、その右腕は敵の返り血ならぬ体液だらけに‥‥。
「水‥‥どこか近くに川はなかったでしょうか?」
‥‥海ならありますが、すぐ近くに。
「これでまず一匹目ですね」
ルーウィン・ルクレール(ea1364)が落ち着き払って言う。
「ああ、数はきちんと数えておかないとな」
それにリルが応えるが、依頼人の言う6匹という数は果たして本当に合っているのか‥‥?
「何匹いようと、叩き斬るまで!」
セオは何やら熱い台詞を吐きながら野太刀を振るうが、手元に引き寄せてスマッシュという戦法が少しばかり仇になったようだ。
ぷすり。
「痛ッ!!」
腕を毒針に刺された彼は、思わず大声を上げる。
その途端、仲間達から非難の声があがった。
「しーーーっ!」
上空には大きな影。
全員が息を潜め、影が無事に通り過ぎるのを待った。
木々に覆われている為、そう容易くは発見されない筈だが‥‥念には念を。
「私の出番であるな!」
ドラゴンが去ったのを確認してから、リデトは嬉々としてセオの元へ飛んで行った。
その傍らで森写歩朗は怪我人を守るべく蜂除けの蜂比礼を振る。
それを振っている間は虫が寄りつかなくなるというスグレモノだが、MPが切れればただの布。
「ごめん、切れた」
森写歩朗は巣に残った蜂を叩き出すべく攻撃を続けていた射手の傍に戻って、素直に謝る。
「いいよ、どうせこっちまで来ないし‥‥前衛さんがスゴイ人ばっかりだからね」
それでも彼は友人を守るべく軍配を取り出して防御に徹した。
良い人だなあ、忍者陰守くん。
「‥‥いち、にい‥‥」
リルが蜂の残骸を数える‥‥確かに6匹分あるようだ。
「これで全部だな?」
依頼人の情報が正しければ。
「もう、残っていないな?」
先程刺された痛みが忘れられないセオが、巨大な巣に網を被せるべく恐る恐る近付く。
その時。
巣が動いた‥‥ように見えた。
「と、とにかく被せろ、早く被せろ、叩け、壊せ、そして埋めろッ!」
土の中に埋めておけば、例え蜂が生き残っていたとしても帰りに掘り出す頃には何とかなっていてくれるだろう。
後は安全な所で燃やしてしまえば良い。
「‥‥蜂蜜は取れるのでしょうか?」
んー、巨大ミツバチならまだしも、巨大スズメバチですからねえ。
そして崖下まで続く森の際で一夜を明かし疲れをとった一行は、翌朝再びアタックを開始した‥‥今度は目の前にそびえる切り立った崖に向かって。
「高さは15メートル程度か‥‥」
リルとグラン、森写歩朗の三人が崖の品定めをする。
殆ど垂直に切り立ってはいるが、足がかりは適度にありそうだ。
達人ならさほど苦もなく登れそうだが、依頼人は登攀には3〜4時間はかかるだろうと言っていた。
「原因は、アレか」
上空を横切る黒い影。
「あ〜、今日も朝っぱらから元気ですねい」
三人は慌てて近くの茂みに身を隠す。
「飛ぶ姿を見るのは好きなんだがな‥‥」
その隣でセオが呟いた。
依頼人はドラゴンに見付かったらとにかくじっとしてやり過ごせと言っていた。
敵意を示さず、動きを止め、岩でも木でも何でも良いからなりきれ、と。
ドラゴンの姿が見えなくなった所で、三人はロープや縄梯子を背負い、崖に取り付いた。
「何とかドラゴンが次の見回りに来るまでに登れると良いであるな」
リルが背負うロープの端に体をくくりつけたリデトが言う。
彼の小さな体は風に吹き流され、今にも羽根が千切れそうだ。
人間サイズでも、マントなど羽織っていようものなら素敵な飛行体験が出来そうだった‥‥もっとも、結末はドラゴンにパクリか地上に激突か、だが。
三人は慎重に足場を選び、ゆっくりと崖を登って行く。
残りの仲間はそんな彼等の姿を固唾を呑んで見守っていた。
命綱も、下にクッションもない。
落ちたらアウトの一発勝負。
その時、一瞬朝日が何かに遮られたような気がした。
振り仰ぐと‥‥
『出たっ!』
全員が心の中で叫ぶ。
『障らぬドラゴンに祟りなし! こんな時は専守防衛、もとい専守逃亡‥‥っ』
しかし、逃げ場はない。
三人は崖に張り付き、風に吹き晒されたまま、ひたすらじっと耐えていた。
『俺は岩だ、俺は岩だ‥‥』
『枯れ木だ、枯れ木になるんだっ』
『何かのまるごとでも着て来ればカモフラージュになったかな‥‥』
等々、考えているうちに、脅威は去った。
ドラゴンは彼等には気付かなかったようだ。
「なるほど、やはり慣れた者の意見は聞くもんだな‥‥」
そんな事を何度か繰り返し、三人はようやく崖の上に辿り着いた。
最初に上がったリルが、続くグランに手を差しのべる。
「ふぁいとーっ」
と、小声で叫びながら。
しかしその時、またしてもドラゴンがっ!
野郎同士、手を握りあい、見つめあったまま過ごすこと数分。
それは色々な意味で試練と忍耐の時だった。
「しかし、ロープがあるとは言っても難しそうですね」
上から垂らされた頼りなげなロープを見上げつつ、荷物の分け前を背負ったクライミング初体験のルーウィンが呟く。
「体力は多少自信あるほうですが‥‥」
おまけに風に煽られたそれは、掴もうと伸ばした彼の手が届かない所で揺れていた。
「‥‥ほれ」
その時、後ろから何かがみにょ〜〜〜んと伸びてロープを掴む‥‥それはミミクリーで伸ばしたセオの手だった。
「あ‥‥ありがとうございます」
野郎には厳しくが信条だが、仲間内では助け合わねばなるまい‥‥それに悲しいかな、ここには男しかいない訳だし‥‥。
そしてルーウィンは再び下に降りてきたリルのアドバイスを受け、崖を登って行った。
グランと森写歩朗は上に繋いだロープが弛んだりしないか見張りつつ、空にも気を配る。
続いてルシフェルがロープを掴んだ。
「登攀中に襲われたらたまったものではないな」
しかし、出て欲しくないと思う時に限って律儀に出て来るものなのだ‥‥こういう輩は。
『私は木の葉だ‥‥風に揺れる木の葉だっ』
しがみついたロープと共に風の中で踊りながら、ルシフェルは頭の中で呪文のようにそう繰り返す。
お陰で相手も彼をただの木の葉だと思って‥‥くれたのかどうか。
とにかく、ドラゴンは去った。
そして三人目、雷龍が頂上に向かって手を伸ばした時、それを掴んだのは崖の上に取り残された灯台守の男だった。
「よう、ご苦労さん」
先触れとして連絡に行ったリデトが連れてきてくれたのだ。
やがてミミクリーを駆使したセオも無事に登り切り、ベテランの手も借りて物資を全て運び終えた頃には、太陽は既に天頂近くにあった。
崖の上に立ったセオは、ここから見る朝の景色は美しいのだろうな、と思いを巡らす。
特に、隣に‥‥‥‥‥‥いや、だからここには男しか以下同文。
「いやあ、助かったよ。ここんとこちょっと暑かっただろ、日干しになるかと思ってさ‥‥」
事情を聞いた灯台守は冒険者達を小屋に招き入れ、森写歩朗が持ってきた差し入れのワインを一気に飲み干した。
「相棒がおわびに上手い酒をご馳走してくれるとさ」
と、リルが灯台守の肩を叩く。
本当は女性も紹介してやれと頼んだのだが‥‥それならまず自分に紹介してくれと、依頼人に涙目で迫られた事は秘密だった。
「とにかくもう少しであるからして、頑張るである!」
補給物資の中にお菓子がなかった事を残念に思いながら、リデトが笑顔で言った。