おばーちゃんに会いに

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 81 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月13日〜06月16日

リプレイ公開日:2007年06月21日

●オープニング

「あのね、おばーちゃんにあいたいの!」 
 母親と思しき女性に連れられた小さな女の子がカウンターの下から受付係を見上げて言った。
 離れて暮らしている祖母に親子で会いに行こうと思ったのだが、途中の森でモンスターに襲われそうになり慌てて逃げ戻って来たらしい。
「以前は子供ひとりでもお使いに出せるほど平和な森でしたのに、どうした事でしょう」
 見るからに良家のお嬢様といった雰囲気の母親は、頬に手を当てて溜め息をついた。
「母は森を抜けた先の小さな村で一人暮らしをしておりますの。ここ暫く会いに行っておりませんでしたもので、何かあったらと心配で‥‥」
「わかりました」
 と、受付係は糸のような目を更に細くして微笑んだ。
「道中の護衛は引き受けますよ」
 話を聞く限りでは、相手はゴブリン。
 数も5〜6体と、そう多くはない。
 護衛をしながらでも退治する事は難しくないだろう。
「そうして頂けると助かりますわ」
 母親は安心したように微笑んだ。
「無事、母の家に着いたらお茶でもご馳走させていただきますわ。母の煎れるお茶は、それは美味しいんですのよ」

●今回の参加者

 eb1284 斬煌 劉臥(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb8739 レイ・カナン(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb9760 華 月下(29歳・♂・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec1621 ルザリア・レイバーン(33歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ec2099 ミゲル・エウゼン(24歳・♂・神聖騎士・エルフ・ビザンチン帝国)
 ec2497 杜 狐冬(29歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)
 ec2813 サリ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec2880 ユイ・ユイ(23歳・♀・ジプシー・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

デフィル・ノチセフ(eb0072)/ シア・シーシア(eb7628

●リプレイ本文

 集合場所に決めたギルドの前で、今回の仕事を引き受けた冒険者達が依頼人の親子と気さくに挨拶を交わしていた。
「キャメロットからも近い場所だというのにゴブリンが出現するなんて。 困ったものね」
 レイ・カナン(eb8739)は依頼人の親子に水のウィザードだと自己紹介し、ついでに特技は迷子だと付け加える。
 それを聞いて不安そうな表情を浮かべた母親に、レイは慌てて首を振った。
「ああ、大丈夫! ちゃんと列の真ん中を歩くようにするから!」
 そんな様子に、彼女のお目付役(?)シア・シーシアが苦笑しながら見送りの言葉をかける。
「暫くは天気も良さそうだから、楽しんで来るといい」
「そうですね、ハイキングには絶好の日和です」
 と、ミゲル・エウゼン(ec2099)が柔らかく微笑んだ。
 勿論これはただのハイキングではないが、小さな女の子に不安を与えないようにという配慮だった。
「こんにちは、お嬢ちゃん。お名前は何ていうのかな?」
 少し膝をかがめて尋ねるサリ(ec2813)に、女の子は元気に答えた。
「サリーっていうの。なまえ、にてるね!」
 周りじゅうが大人だらけの中、名前が似ていて、パラである為に年も近そうに見えるサリに、少女はたちまち懐いたようだ。
 その様子を、ルザリア・レイバーン(ec1621)は何かを後ろ手に隠したまま、切り出すタイミングを計りかねているように見つめていた。
「あれ? 何を隠してるんですか?」
 それに気付いたユイ・ユイ(ec2880)に「いや、これは、その‥‥」と口ごもりつつ、ルザリアは意を決したように少女に向き直り、言った。
「その、道中は退屈だろうから‥‥ぬいぐるみを譲渡する」
 目の前に突き出されたくまのぬいぐるみと、ちょっと無愛想なお姉さんの顔を交互に見ながら、少女は首を傾げた。
「じょーと?」
「いや、ああ‥‥あげる、という事だ。無骨な私の傍よりも、サリー殿の腕に抱かれた方がぬいぐるみも喜ぶというものだろう‥‥貰ってくれるか?」
「うわあ、ありがとうお姉ちゃん!」
 少女は大喜びでぬいぐるみを抱きしめた。
 良かった、どうやら怖がられずに済んだようだ‥‥と、ルザリアは小さく溜め息をつく。
「優しいんですね、ルザリアさんって」
「べ、別に子供が好きなどと言う事ではないからな、私はっ! ‥‥嫌いでもないが」
 ユイの言葉に赤面するルザリアは、何だかとっても可愛かった。
「では、行きましょうか。早くおばあさんに元気な笑顔を見せてあげましょうね」
 華月下(eb9760)に促され、一行は親子のペースに合わせてゆっくりと歩き出した。

「目的は護衛だが一匹でも逃がすとまた同じようなことが起こりかねない。 ゴブリンは全て倒しておかねばな」
 列の先頭を歩きながら、斬煌劉臥(eb1284)は周囲を警戒する。
 上空では鷹の訃焔が地上の動きに目を光らせていた。
「そうですね、今後の通行人の為にも全て退治しないと」
 レイが依頼人親子に聞こえないよう、小声で相槌を打った。
「できれば、遠方にいるうちから存在に気づいて先手を打ちたいですね」
 森の中はそう見通しが悪い訳でもなく、サリのテレスコープも充分に役立つ状況ではあったが、それでも道端には藪や茂みなど視界を遮る物は多い。
 冒険者達は互いに自分の能力を活かし、協力し合いながら護衛の任に当たった。
「ゴブリンってそんなに強くないみたいだけど、依頼人さん達には細心の注意を払わないとね」
 おばーちゃんのお家に着くまでなにも怖がらせずに行きたいと、ユイは気を配る。
「おばあさんはどんな人なんですか?」
 親子のすぐ傍を歩きながら、杜狐冬(ec2497)は少女に話しかけた。
「んーとね、しわしわ!」
 ミもフタもない。
「でもね、おかしつくるのがとってもじょーずなの!」
 子供にとっては美味しいお茶よりも甘いお菓子の方が魅力的らしい。
 少女は最初こそ見知らぬ大人達を少し警戒していたようだが、今は構って貰えるのが嬉しいのか、楽しそうに冒険者達の間を走り回っていた。
「そんなにはしゃぐと、すぐに疲れてしまいますよ?」
 狐冬が心配して休憩を取ろうかと提案するが、少女は元気いっぱいだ。
 だが子供の体力がそれほど長続きする筈もなく‥‥
「おやおや、お嬢さんはおねむかな?」
 急に足取りの重くなった少女に、月下が自分の背中を差し出した。
「すみません、いつもは私がおぶって行くんですのに‥‥」
 恐縮する母親に微笑みを返す月下の背中で、少女は安らかに寝息を立てていた。
 その時、上空で鷹の鋭い鳴き声が響く。
 同時に何人かの冒険者が藪の中に何か人影のようなものを見付けた。
「‥‥出たようですね」
 狐冬は月下と目を合わせ、頷き合う。
 二人は母親を連れ、戦闘に巻き込まれない位置まで後退した。
「眠ってくれたのは、都合が良かったですね」
 これで、少女に血なまぐさい場面を見せずに済む。眠ってしまえば悲鳴も聞こえないだろう。
 月下は念の為にホーリーフィールドを張り、万一の襲撃に備えた。
 一方、依頼人達の避難が完了したと見た仲間達は、まだ藪から姿を現さないゴブリンと思しき一団に向けて攻撃の火蓋を切った。
 依頼人達の所へ突破させないようにと陣形を組み、まずはレイが藪に向かってアイスブリザードを放つ。
 人間達に逆襲を食らうとは考えていなかったのか、突然の吹雪に見舞われたゴブリン達はそれだけで総崩れになった。
 だが、そんな彼等の逃げ道を塞ぐように冒険者達が取り囲む。
「さぁ、覚悟なさい。私達の前に現れたからには、1匹たりとも逃しません‥‥」
 ミゲルは先程までとは別人のような冷徹な笑みを浮かべながらゴブリン達を見下ろし、逃げ惑う彼等にビカムワースを見舞う。
 そこにユイがサンレーザーで追い打ちをかけ、弱った所に劉臥、ルザリア、サリが直接攻撃で止めを刺していった。
「こいつらには、特にボスのようなものがいる訳でもないようだな」
 劉臥はヤケになって突っ込んでくるゴブリンをオフシフトでかわしながら、確実に攻撃を当てていく。
「可哀想だが、後々の為に完全に殲滅させて貰うぞ」
「ええ、残酷なことになってもお嬢ちゃんには見ずに済みましょうし‥‥」
 やがて、見える範囲の敵は全て片付いた。
「まだ、どこかに潜んでいるかもしれんが‥‥」
「深追いは禁物だな」
 劉臥の言葉にルザリアが返す。
「ああ、とにかく気を抜かずに警戒しておこう」
「帰りにも護衛は続けますしね」
 残った者がいても、これに懲りて人を襲う事もなくなるかもしれないと、狐冬は考えていた。
 念の為に、後で地元の人に尋ねてみよう‥‥彼等がいつ頃からこの森に住み着いているのか、もし昔から住んでいるなら最近になって急に人を襲うようになったのは何故か‥‥。
「ただの気紛れなら良いのですが」
「‥‥さてと、一働きしたらお腹が空いたわね。早く、おばあさんの家に行きましょ」
 地面に流れた血の痕をウォーターボムで豪快に洗い流し、レイが晴れやかな笑顔で言った。

「おばーちゃーん!」
 道中の殆どを月下の背中で寝て過ごした少女は、祖母の元へ元気に駆け寄って行った。
「あらあらまあまあ、こんなに大勢のお客様がいらっしゃるなんて!」
 冒険者達の姿を見て、品の良さそうな老婦人は嬉しそうに微笑んだ。
「でも困ったわ、これではお菓子が足りないわね。待ってて頂戴、急いで何か作るわ」
 そう言って厨房に下がろうとした老婦人に月下が声をかける。
「よろしかったら、僕にもお手伝いさせて頂けませんか?」
「私も、ただ食べるだけでは心苦しいな。邪魔でなかったら何か手伝わせて貰おう‥‥そうだな、片付けでも」
「私も宜しければ作り方を教えて頂けないでしょうか‥‥お孫さんから、おばあさまのお菓子はとても美味しいと伺いましたので」
「まあまあ、嬉しいわ。じゃあ、ちょっといらっしゃい」
 老婦人は満面の笑顔で彼等に手招きをする。
「じゃあ、その間に私はお嬢ちゃんと遊んでいようかな?」
 サリの申し出に少女は飛び上がって喜んだ。
「うん、なにしてあそぶ!?」

「‥‥美味しいな。これは心がこもっている所為だろうか。中々できる味ではない」
 お茶とお菓子は期待に違わず絶品だった。
「ええ、私も教わった通りにしていますのに、どうしても同じ味が出ないんですのよ」
 娘が母親に、同居してくれればいつでもこの味が楽しめるのにとぼやくが、老婦人はとりあわなかった。
「たま〜に味わうから良いものなのよ、お茶も、それに人もね」
「そうかもしれませんね」
 と、ユイ。
「会いたくなったら、こうして遊びに来れば良いし‥‥」
「その時はまた、喜んでお供させていただくわ」
 サリが微笑む。
 親子はその晩は祖母の家に泊めて貰い、翌日の昼頃に帰途に就いた‥‥勿論、冒険者達と一緒に。
 昨日の襲撃で懲りたのか、それとも全滅したのか、ゴブリン達が襲ってくる気配もなく、一行は無事に帰り着いた。
「お嬢ちゃん、旅はどうだった? 楽しかったかな。 またおばーちゃんに会いに行くときは声をかけてね」
「うん、ありがと。またねー!」
 手を繋いで帰って行く親子の姿を、冒険者達はいつまでも見送っていた。