ピンクの光に包まれて

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:06月09日〜06月14日

リプレイ公開日:2007年06月17日

●オープニング

 とある地方貴族の領地内に、今では打ち捨てられた大昔の闘技場の跡があった。
 既に外壁も殆ど崩れ、ただの空き地と変わらないように見える廃墟。
 だがそこに立つと、かつて行われたという華々しい、しかし野蛮とも言える競技の数々や、そこで戦った戦士達の夢の残り香などが感じられるという。
 そんな失われたものへの郷愁、そして程良い寂れ具合。
 それが騎士達の男の浪漫をくすぐるのだと言う‥‥。

 そんな訳で、ここは騎士達の秘かな人気スポットのひとつだった。
 領主のお抱え騎士団が訓練の為に使う事もあったし、休暇中の王宮騎士が訪れ、鍛錬と称してここで汗を流す事も多い。
 そして他に大した娯楽もないこの地方では、そんな騎士達の姿を見に来る見物客も多かった。
 現実には騎士にもピンからキリまで多種多様なのだが、武勇伝などを聞くだけで余り実物を見た事のない庶民にとっては、そして恐らく夢見るヲトメにとっても彼等は憧れの的なのだ。多分。
 しかし近頃、そんな庶民のささやかな楽しみに異変が起きていた。
 騎士達が鍛錬を始める前に、彼等は魔法の恩恵をその身に付与する。
 廃墟は一面ピンク色の光に包まれるが、彼等の魔法、オーラの特性上それは仕方がないと言うか、まあ、その妖しげな色には我慢して頂くしかないのだが。
 問題はその後だ。
 ピンクの光に包まれたその騎士達は、おもむろに腰の剣を抜き払った。
 一見して明らかにフツーではない、ピンク色に妖しく輝く刀身を持つその剣‥‥エロスカリバーを。
「見よ、我が肉体っ! これぞ究極の芸術作品っ!」
「何を言うか、貴殿のようにただボコボコとスジを膨らませれば良いというものではないっ! 真の美しさとは、このように均整の取れた肉体の事を言うのだっ!」
「いやいや、如何に美しかろうが、戦いは勝利こそ全て! 勝利者の持つ肉体こそが賛美されて然るべきっ!」
 ‥‥等々。
 一糸纏わぬ、だが大事な所だけは謎の靄に包まれた騎士達の姿が公衆の面前に晒される。
 早い話が、筋肉自慢大会だ。
 そしてピンク色の刀身が打ち合わされ、魔法が使われる度にピンク色の光がポワ〜ンと広がる。
 見ているほうが妖しい気分になりそうだった。
 ギャラリーの中には素直に喜ぶ者もいれば、黄色い悲鳴を上げて両手で顔を覆いつつ、指の隙間からしっかり品定めをしている女性達もいる。
 だが、大方の善良な市民には、そのパフォーマンスは不評のようだった。

 そして、その苦情は何故かギルドに舞い込んできた。
 その依頼を持ち込んだのは、例の廃墟がある土地の持ち主だという、とある貴族。
 自分の領地内でそのような素敵に楽しい‥‥いや、不埒かつ破廉恥な振舞いが行われている事がお上の耳に入れば、管理不行き届きという事で自分も罰せられるかもしれない。
 それに彼等もわざわざ王のお膝元から離れたこんな場所まで来るという事は、それなりに拙いことをしている自覚があるのだろう。
 それならば、内々に処理してやるのが世の情けというものだ。
 ‥‥まあ、ただキャメロットには彼等の浪漫心をくすぐるこんな場所はないから、というだけかもしれないが。
「頭の固い田舎者どもが即刻やめさせろ、叩き出せとうるさいのでね‥‥」
 領主を名乗る男は小声で言った。
 彼自身はやめさせたいとも叩き出したいとも思っていないような口ぶりだ。
「やめてくれるように言うのは容易いが、私にも彼等の浪漫を愛する心は理解出来るのでね」
 出来れば彼等が納得する形で、自ら引いてくれるように仕向けて貰えれば有り難いのだが。
「では、頼むよ。彼等はまた数日後に来るそうだからね」
 男は少し残念そうにそう言うと、ギルドを後にした‥‥。

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0448 レイジュ・カザミ(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0547 野村 小鳥(27歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0639 菊川 響(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2207 レイヴァント・シロウ(23歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea4910 イタ妊奪?后Ε薀妊?┘? expires(20歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ガッテンフェルト・リッツショーチフ(ea3656)/ サクラ・キドウ(ea6159)/ リスティ・ニシムラ(eb0908)/ 木下 茜(eb5817)/ 陰守 清十郎(eb7708

●リプレイ本文

 廃墟に、今日もピンクの光が溢れる。
 冒険者達はその光景を崩れた外壁の影から観察していた。
「春先ならまだしも、もう初夏なのに‥‥」
 懐かしい風物詩を目の当たりにして、沖田光(ea0029)はイギリスに帰って来たという実感をしみじみと噛みしめていた。
「イギリスは変態の本場と聞くが、ジャパンから来た早々出会うとは」
 菊川響(ea0639)も、ピンクに光る怪しげな剣を今にも抜き放たんとする彼等を生暖かく見守りつつ感想を述べる。
「でも、いくら名物だろうと風物詩だろうと、女性や子供達の教育上よくありませんし‥‥それに何より、僕が見たくありませんから」
 光はこれから眼前で展開されるであろう光景を想像して顔を赤くした。
「そうだな。それに、拙いと自覚してるらしいってことは 、騎士の方々もなんらかのストレスでも抱えておられるのかな」
 響は幾分、騎士達に同情的に考えてみる。
「体鍛えるのは悪いことじゃないし、完全に取り締まられるよりは説得して浪漫の方向性を譲ってもらった方が本人達も幸せだろうな。‥‥しかし、浪漫というよりはやっぱり変態だよなぁ」
 何だか一緒に混ざってる人もいるし‥‥と、響はひとり仲間の元を離れていく男の姿に溜め息をつく。
「美という言霊に導かれ、俺、参上」
 何と男の浪漫魂をそわそわとさせる場所なのかと、場の作り出す一種独特の空気を肌で感じつつ、レイヴァント・シロウ(ea2207)は騎士達に歩み寄った。
「伊達、数寄、見栄、闘う男の輝きを更なる高いステージへと導いてくれるものたちだ。そしてここにいる君達もその輝きに磨きをかけんとしている。うむ、素晴らしい。実に素敵に無敵だ」
 拍手と共に現れたシロウに、5人の騎士達はエロスカリバーを抜こうとした手を止めて、そちらを見た。
「何だ、貴殿は?」
「我等に何か用か?」
「いや、用という程のものでもないが‥‥」
 と、シロウは自らもオーラパワーでピンクの光を纏う。
「ところでこいつを見てくれ、どう想う?」
 いや、どうって言われてもね‥‥
 だが騎士達はシロウを「好敵手(とも)」と認めたようだ。
 一人の騎士が自分の剣‥‥エロスカリバーを腰から外して差し出す。
「貴殿、見た所その肉体の錬度では我等に遠く及ばない様だが‥‥魂の欲する所は同じと見た。どうだ、共に夢の世界を旅してみないか?」
「男は体じゃない。心だ!」
 シロウの返事を待たずに、に空木怜(ec1783)が異を唱えた。
「筋肉隆々だろうと‥‥ちょっと(?)女顔で、少し(?)童顔で、背があんまり(?)高くなく、29歳の男だって言っても普通に信じてもらえないような外見であろうとも‥‥心が男気に溢れていれば、それは等しく男なんだ。男ったら男なんだ!」
 なにげに涙目になりながら必死に訴える怜に対して、騎士達は冷ややかな視線を投げる。
「ふ。負け犬の遠吠えだな。男は誰が何と言おうと見た目が重要なのだ! 見よ、この輝く肉体美! 美しさこそ、強さの証なのだっ!!」
 言うが早いか「う、羨ましくなんかないぞ? ないからなっ! 本当だぞ!」という怜の叫びを完璧に無視して、騎士達はピンク色に怪しく光る剣を抜き放った!

「‥‥やり直しを要求するわ」
 その光景を目の当たりにしたクァイ・エーフォメンス(eb7692)は、軽く頭を振って、気を取り直す。
「うん。何かおぞましいものを見た気もするけど、きっとやっぱり気のせいよ。だって記憶に残ってないもん。まったくないもん」
 そう言いつつ、クァイはひとり醜態を晒す男共に背を向け、廃墟を後にした。
「まあ、刃傷沙汰にするのは拙いだろうし、とりあえずこの人達の身許を調べて‥‥」
 彼等の家族、特に女性達にこの状況を知らせ、然るべき対応をして貰おう。
 出来ればハリセン‥‥しかも血まみれのそれを人数分揃えておきたかったのだが。

「‥‥私、帰っていい?」
 両手を顔の前で組み、慈愛に満ち満ちた眼差しを湛えつつ、インデックス・ラディエル(ea4910)は仲間達を見る。
 だが、一度受けた依頼はそう簡単に断れない!
「‥‥しゅ、主よぉぉぉ‥‥」
 インデックスは涙ながらに訴えかけ、ペガサスのライデンくんも嫌々をするかの様に天に向かって嘶くが、そこからは生暖かく見守る眼差しが降り注ぐ‥‥ような気がするのみで、帰って良いよという返事は降って来なかった。

「より美しさを追求したい、鍛え上げた成果を発揮したい、その気持ちは良くわかります、でも貴方達は甚だしい勘違いをしています!」
 光は恥ずかしさに顔を真っ赤にしながらピンクな騎士達‥‥いや、なんかもう、騎士とは呼びたくないような人達に語りかける。
「‥‥戦とか、王宮にはせ参じる時って、皆さん衣服や鎧をつけますよね? つまり、それらを身に纏った上で躍動感ある動きが出来る肉体こそ、人として真に賞賛されるべきものであり、何も付けていない貴方達は、その辺の怪物達と何ら変わりありません! ほら、もう一度、自らを鍛えようと思った初心を思い出して下さい!」
「お嬢さん、貴女の言う事にも一理はある。しかし!」
 と、素っ裸の男はその厚い胸板を誇らしげに見せながら叫んだ。
「いや、僕、男ですから!」
 と言う光の抗議も耳に入らない。
「戦場では心ならずも虜囚となる事もあろう。身ぐるみ剥がれてさらし者にされた時、残るはこの肉体のみ!」
「左様! 男の真価とは全てを失った時こそ試されるものなのだっ!」
「‥‥いや、それはまあ、わからないでもないが」
 と、オーラテレパスをかけて自らもピンクに染まった響が割って入った。
「王都でも郊外でも、江戸でもイギリスでも超えちゃいけない線ってのはあるもんだ。で、既に自覚してると思うが、思いっきり踏み越えてるから」
 しかし自覚はあっても止められない、それが変態の哀しい性。
「まずは‥‥股間のモノは物理的に隠しなさい。モロ出しは衛生上でも、よろしくない。そのままで激しい運動を行うと色々と弊害が出るぞ」
 怜が医者として恐らくは的確なアドバイスをしてみるが、わかっちゃいるけどヤメラレナイのが以下同文。
「命をかける戦場において、己を輝かせるのは至極当然。次の瞬間には地に伏せているかもしれないのだからね。だがしかし、それに拘りすぎていては本末転倒。まさに、そうまさに今の君達だ‥‥」
 漢には熱いハートにクールな頭脳!
 しかし、そんなシロウの説得もやっぱり以下同文。

 そんな彼等のやりとりを意識の隅で聞きながら、野村小鳥(ea0547)は悩んでいた。
「むぅー‥‥私はわざわざロシアからなんでこんな依頼を受けに来たのでしょうかぁ‥‥こんな剣まで渡されてしまいましたしぃ‥‥」
 こんな剣とは、友人のサクラから生暖かい励ましの言葉と共に渡されたピンク色に妖しく光るモノ。
「って、サクラちゃん‥‥これで何をどう頑張れっていうんですかぁ!?」
 しかし、説得に聞く耳を持たないならば残るは実力行使のみ‥‥彼等の弱点を指摘、もとい‥‥蹴り飛ばすしかない!
 意を決した小鳥は一人の全裸騎士の前に立ちはだかると、全身全霊を込めてその剣を抜き放った!!
「はぅぅ‥‥は、恥ずかしいですぅ」
 しかし、エロスカリバーを手にしたからには本人の意思とは無関係に、全裸衝動は止まらない!
「で、でも女だらかって甘く見ないでくださいねぇー! ‥‥あんまりじっくりは見て欲しくないですけどぉ」
 でもそこは大丈夫。きちんと安全装置が働いて、上も下も、じっくり見たい部分は全て靄で隠されているので残念無念‥‥いや、ご安心を。
 そして、その姿にだらしなく見とれていた男の‥‥靄でモヤモヤな部分に強烈な蹴りを見舞った!
 ――むにょ。
「はぅぅ‥‥足に変な感触がぁ‥‥」
 素足に触れたそのみょ〜な感触に落ち込みつつ、そこを押さえてのたうち回る男に小鳥は言った。
「と、とにかくぅ‥‥そ、そんな格好では何かあったときに困ってしまいますしぃー‥‥大事なところも守れないのでやめたほうがいいと思いますぅ」
「ほら、言わんこっちゃない」
 怜が勝ち誇ったように、そんな姿を上から見下ろして言う。
「だから言っただろう、色々と弊害が出ると。まあ、肉体美が悪いと言ってるんじゃない。それが卑猥に見えないようにしなさい‥‥と」
 そこで‥‥と、怜はバックパックから何やら長〜い布きれを取り出した。
「このフンドーシがあればぴったり固定できて良い、オススメだ」
「そうそう、俺もそいつを勧めようと思ってたんだ」
 と、響。
「ピンクな雰囲気の方は多少抑えて、純粋に筋肉に集中して頂いたらどうだろう? 隠す意思表示ができたらちょっと違わないかなーと思うんだが」
 そこの部分を隠すのにエロスカリバーの靄に頼る事を止めれば、パフォーマンスが妙な方向に行くのを多少は抑えられるかもしれない。
「よし、俺が締め方を教えてやる‥‥越中はともかく六尺は締め方知らないとただの布だもんなぁ」
 響は褌初体験の騎士達に手取りナニ取り締め方を教えつつ、褌談義に花を咲かせる‥‥途中で再度ピンクに光りながら。
 そんな中、これではイカンと思ったのかインデックスは聖書を開き、説法で彼等を改心させようと試みた‥‥筈なのだが。
 読み始めたのは何故か「禁断の愛の書」‥‥禁断の愛の言葉で書かれているため常人には読めない筈のそれを、彼女はスラスラと読み上げていた‥‥。


 そして翌日。その日もまた、騎士達は廃墟に集う。
 しかし彼等は昨日までの彼等ではなかった。
 そう、生まれ変わったのだ‥‥ジャパンの伝統衣装、六尺褌をキリリと締めた姿も眩しい、正当な筋肉パフォーマンス集団としてっ!
 ‥‥まあ、見た目殆ど変わってないと言うか、何も解決してないというツッコミは置いといて。
「要は、エロスカリバーとオーラの発光によるピンクが問題なんだ。オーラは自身の内から生まれる力。な・ら・ば‥‥だ」
 と、怜は褌騎士達に自説を説く。
「ピンク以外の色だって努力次第で出せる筈! もっと心を燃え滾らせれば色が濃くなって真っ赤になるかもしれない。心を清く保てば白く輝くかもしれない。さあ、新たなオーラの歴史を切り開け!」
 でもやっぱり、オーラはピンク。
 どう頑張ってもピンク。
 そして彼等はそのピンクの光の中、おもむろに腰の剣を‥‥
 ――スパァーーーンっ!!
「だからそこでエロスカリバーを抜いてどうするんですかっ!?」
 一人の褌騎士の後頭部を、クァイが小鳥に借りた簗染めのハリセンで思い切りシバく。
 その背後には、彼等の母、妻や恋人、姉や妹など‥‥彼等のパフォーマンスに難アリと判断したらしい女性達が立っていた。
「うぅ‥‥恥ずかしい依頼でしたぁ‥‥。いろんな意味でぇ‥‥ネギリス‥‥もといイギリスはやっぱり変態さんの国なんですねぇ‥‥」
 昨日の事を思い出して顔を赤らめる小鳥の傍らで、インデックスは都合よく前後の記憶を喪失していた。
「あれ? ここは何処? 何してたんだっけ?」
 仰ぎ見る天からは、相変わらず生暖かい視線が注がれているような気がした‥‥。