旅は道連れ
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 72 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月11日〜06月17日
リプレイ公開日:2007年06月20日
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●オープニング
私は旅人。
文字通り国じゅうの到る所、いや、手段があるなら地の果てまでも彷徨い、漂う、それが私の仕事だ。
幼い頃からひとつ所に留まるのが苦手で、いつもフラフラと遠くまで出歩いては親に叱られていたものだ。
家出をするつもりはなかったのだが、足元から伸びる道がどこまで続いているのか、それを確かめるまではどうにも足が止まらなかった。
その度に血眼になって探し回っていた両親には悪い事をしたと思うが、どうにも性分でね。
そしてその性分は、良い大人になった今でも全く変わらない‥‥それどころか、ますます想いは熱を帯びて‥‥その結果が、これだ。
職業・旅人‥‥それでどうやって日々の糧を得ているかって?
君達と同じだよ、立ち寄ったギルドで仕事を請け負うのさ、これでも一応、冒険者でもあるからね。
それに、時には意気投合した見ず知らずの誰かに世話になる事もある‥‥いや、その方が多いかもしれないな。
宿や食事を提供して貰ったり、時には一緒に旅をしたり、そうした出会いもまた楽しいものだ。
そうそう、この子達‥‥ロバのイチゴウ君、犬のニゴウ君、ネコのサンゴウさんも旅で出会った仲間達だ。
ところで、今日は仕事を探しに寄った訳じゃない。
頼みに来たのさ、次の目的地までの護衛をね。
近頃は街道も物騒だし、それに旅は道連れと言うだろう?
報酬は余り出せないが、その代わりに君達と共に旅した記録を、この紀行文に載せてあげよう。
大した文章ではないが、ちょっとした趣味でね。
道中の出来事や共に旅をした仲間の事などを、ここに綴っているのさ。
いずれ年を取ったら、その記録を纏めて本にするつもりだ。
もしかしたら、君達との旅の記録も歴史に残るかもしれないね。
ああ、そうそう、私は基本的にのんびり歩くのが好きなのでね、そのつもりで頼むよ。
‥‥さて、君達とはどんな物語が綴られる事になるのか‥‥楽しみにしているよ。
●リプレイ本文
シフールにパラ、そしてエルフが三人‥‥今回の護衛はなかなかバラエティに富んだ組み合わせだ。
道中の護衛を頼む時には、いつも必ずと言って良いほど同好の士が集まるものだが、今回も例外ではなかった。
中でもエルフのウィザード、ローガン・カーティス(eb3087)という者は自分も旅行家になるために、様々な国の言語や雑学、博物学について学んでいるそうだ。
彼は一見無愛想で表情も豊かではないが、そうした者はさほど珍しくはない‥‥特に旅を愛するような心の持ち主には。
恐らくその動かぬ表情の下に熱い想いを秘めているのだろう。
「紀行文を作りつつの旅暮らしとは、中々興味をそそります。今まで、どのような紀行文を書かれて来たのか、旅の楽しみにさせて貰いたいですね」
そう言ったのはロッド・エルメロイ(eb9943)‥‥彼もまた、旅の暮らしには興味があるらしい。
モンスターの生態の観察と、各地の伝承を集めるのが趣味だと言っていた。
私の話で何か参考になるなら、道中で色々と話してみるのも良いだろう。
旅に危険は付き物、モンスターに襲われた話ならそれだけで一冊の本が出来そうな程だ。
ただし、旅の付き物は危険ばかりではない‥‥尾鰭背鰭、脚色もまた旅の話には付き物、あまり鵜呑みにしないでくれよ?
「そなたが依頼人か。よろしく頼むぞ、ヨンゴウ殿」
と、初っ端から妙な事を言ったのは朱鈴麗(eb5463)というエルフの女性だ。
彼女は私の連れ達を順に指差しながら
「イチゴウ殿、ニゴウ殿、サンゴウ嬢、とくれば当然そなたがヨンゴウ殿であろう?」
と、屈託のない笑みを浮かべた。
私も随分と長いこと旅をして、様々な出会いを経験し、様々な名前で呼ばれてきた。
だがヨンゴウと呼ばれたのは初めてだった。
「ふむ、その順番から行くとイチゴウが私の主人という事になるな」
そういう事だから、今からはお前が先に立って好きな所へ連れて行ってくれとロバの耳に囁いてみたが、彼はうるさそうに耳を振るだけで一歩も動こうとはしない。
‥‥まあ、それはそうだろうな。
「ところで、目的地はどこ? ここから3日の町って言うと‥‥」
学者をしているというデメトリオス・パライオロゴス(eb3450)が、いくつかの候補を上げたが、実はまだ、どこへ行くかは決まっていなかった。
「君達の好きな所に連れて行って貰えないかな?」
「ふむ、それならここはどうじゃ?」
例の変わったエルフ、鈴麗が地図を指差し、その町の名物を次々に上げていく。
朝食の美味しい宿屋、季節のジャムとスコーンがおすすめの店、パイが絶品の酒場‥‥
「食べ物の話ばかりだな」
「ん? 紀行文といえば旅先の風景と食べ物が中心ではないのか?」
それはそうだが‥‥両腕に抱えたパンの山と言い、風景の方には余り興味はなさそうだ。
女を釣るには甘い言葉と食べ物とはよく聞くが、それはエルフの場合にも当てはまるらしい。
「そこへ行くつもりなら、途中にいくつか村があるな。その近くには確か遺跡があった筈だ‥‥この道を行けば崖の上から一帯を見渡せるだろう」
ローガンが地図を見ながら言った。
やはりこういう話は男性のほうが通じるようだ‥‥そうそう、そういうものに出会いたいんだよ、私は。
まあ、食べ物も良いけれど、ね。
「では、そこに行ってみようか‥‥案内を頼むよ」
「いいお天気ですね‥‥。旅をするには良い日和です」
戦闘馬の頭に腰掛けたシフールのリノルディア・カインハーツ(eb0862)が晴れ渡った空を仰ぎ見ながら言った。
「私もジャパンやキエフ等、色んな所に行きましたが、ゆっくり見て回る機会はあまり多くはありませんでした」
「それは勿体ない事をしたね」
「旅人さんは、行った事ありますか?」
「いや、まだだ。北の方はこれから回ろうと思ってね。ロシアから大陸を東へ行ってみようと思っている‥‥とりあえず行ける所まで、ね」
「ずっと歩いて‥‥?」
「ああ、やはり自分の足で歩くのが旅の醍醐味だろう?」
「ねえ、おいらはトラキアの出身なんだけど、南の方から来たなら行った事あるかな?」
「トラキアか‥‥懐かしいな」
私の出身もその近くだ。
もっとも、民族的にははるか昔にこの島から渡った人々が私の祖先になる‥‥言わば、現在里帰り中という所だな。
「そう言えば、エチゴヤはやはりどの国にもあるのでしょうか?」
ロッドが訊ねた。
エチゴヤか‥‥どこへ行っても必ず目にするあの屋号。
「旅先であれを目にすると懐かしさと同時に‥‥失望も禁じ得ないな。どこへ行っても奴等に先を越されている、そんな気がしてね」
いつかはエチゴヤさえも存在しない、前人未踏の大地に足を踏み入れてみたいものだ‥‥。
「最近はそのエチゴヤでモンスターの卵が売られている事はご存知ですか?」
ロッドは自宅で飼っているというペット‥‥グリフォンやスモールシェルドラゴン、一反木綿といったモンスター達の観察記録を見せてくれた。
詳細なスケッチも付いたその記録は、なかなか見応えがある。
「近頃はこんなものまで‥‥」
「そう、ペットとして飼われているのですよ」
モンスター達の生態や冒険者街の摩訶不思議さなど、ロッドは語り出したら止まらない様子だった。
夕刻近く、野営に最適な場所を見付けてテントを張る事にした。
「ヨンゴウ殿、暇そうじゃのう?」
鈴麗に薪拾いを命じられてしまった‥‥まあ、確かに暇ではあるが。
「あ、森に入るならおいらも!」
デメトリオスは学者と言うだけあって、植物の知識が豊富だった。
森の中に踏み込むんだ彼の両手は、たちまち薬草で一杯になる。
「旅人さんも、ある程度は知ってると思うけど」
と、彼は私の知らない薬草やその使い方、知っている薬草にも意外な効能がある事などを色々と教えてくれた。
メモはしておいたので、効能の方は大丈夫だろう。
だが、薬草の方は果たして私に同じ物が見付けられるか、余り自信はない。
後でロッドにスケッチを添えて貰うか‥‥。
「やっぱり旅の最中でも食事は美味しい方が良いですよね。それに、疲れも癒せると思いますよ」
野営地に戻ると、何やら良い匂いが漂っていた。
リノルディアが保存食を使った料理を作っていた‥‥薪は予め馬に積んでいたらしい。
なんだ、取りに行く事もなかったじゃないかと鈴麗を見たが、彼女は何食わぬ顔でニゴウ君と戯れていた。
「おお、ご苦労であったな、ヨンゴウ殿」
まあ、薪など多くあって困る物でもなし‥‥何となく遊ばれているような気もするが、それも人と関わる事の楽しみのひとつだろう。
「旅の最中でも食事は美味しく。私の持論です」
普段は移動しながら保存食をそのまま囓る事が多いが、やはり同行者の中に女性がいると違うものだ。
女性の食べ物に対する執着は、こういう点では有難い‥‥などと言っては失礼か。
「じゃあ、おいらは木の上で見張ってるね。皆から見える場所にいるから!」
食後、デメトリオスはそう言って手近な巨木の枝に飛び乗った。
「旅人さん、話が盛り上がるかもしれないって、何か見つけたのに言わないのは無しね?」
成程、そういう手もあるか‥‥いやいや、安全第一、ちゃんと報告するよ。
「彼らもまた、時間の旅人なのだろう‥‥」
その巨木の幹に手を当て、ローガンはひとりそれが経て来た時間に想いを馳せる。
私から見れば寿命が三倍もある彼等こそ時間の旅人のように思えるのだが‥‥それに、それだけの時間があればもしかしたら全世界を見て回る事も可能かもしれない。
正直、羨ましいが‥‥まあ、無い物ねだりをしても仕方がない、か。
夜も更けた頃、漸く昇ってきた月明かりの下で鈴麗がサンゴウさんを膝に乗せてくつろいでいた。
「紅一点ではいつも大変であろう、たまには女同士も良いものじゃ」
周囲にはムーンフィールドの結界が張ってあるようだ。
「月が出ている間しか使えぬのが難点ではあるが、わらわはこれが好きじゃ。月光を受けてほのかに輝く結界‥‥なんとも幻想的ではないか、ん?」
「にゃ〜ん」
ふむ、食欲だけではないのか‥‥いや、失礼。
夜の間には何事もなく、翌日も、その翌日も旅は順調に進んだ。
途中、食事の匂いに誘われたらしい狼の群れに囲まれる事もあったが、後衛職ばかりとは言えこれだけの使い手が揃えばそうそう窮地に陥る事もない。
リノルディアが作ったストーンウォールの影からロッドがファイアーボムを放ち、ローガンが焚き火の炎を操る。
リトルフライで上空に舞い上がったデメトリオスがライトニングサンダーボルトで薙ぎ払い‥‥私の錆び付いた剣の腕など、全く出る幕がなかった。
‥‥どこか遠くで鐘の音が聞こえる。
「今は6月‥‥ジューンブライドの季節だな」
ローガンが言った。
「旅も魅力的だが、旅人殿は場所にしても人にしても、安息の地を求める気持ちは起こらないのだろうか?」
「‥‥そうだね、今の所は‥‥こうして漂っている事、それ自体が私の安息かな」
いずれ年をとれば、それを求める事もあるだろう。
だが、今はただ、漂い続けたい。
「‥‥そういえば今日は誕生日だ」
そう言って、ローガンは楽しい旅をありがとう、と付け加えた。
こちらこそ、良い思い出を作らせて貰ったよ。
そして、誕生日おめでとう。
町に着いたら少し豪華な夕食でも摂るとしようか‥‥勿論、私のおごりでね。
‥‥では、縁があったらまた会おう。
いつか、どこかで。