【ジューンブライド?】捨てられない女

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 31 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:06月21日〜06月24日

リプレイ公開日:2007年06月29日

●オープニング

「ごめんなさい、ちょっと頼まれてくれるかしら?」
 そう言ってギルドに入って来たのは、一見して冒険者とわかる出で立ちの女性‥‥だが、仕事を探しに来た訳ではなさそうだ。
「私、今度結婚する事になったの。それで冒険者街の家を引き払う事になったんだけど‥‥」
 片付けと引越を手伝って欲しいと言う。
「相手の家も同じ冒険者街だから、引越はそう大変じゃないと思うの。でも‥‥片付けが、ね」
 本人が言う所によると、彼女の家は近所でも有名な「ゴミ屋敷」らしい。
 冒険で手に入れた記念品やら、埃が積もった保存食(でもきっとまだ食べられる)、使わなくなって久しい装備品の数々など、どこの家にもありそうな物から、果ては5年前の彼氏のフンドーシ(使用済)なんてモノまで‥‥ありとあらゆる種類の「ゴミ」としか言い様のない物達で、その家は完全に占拠されていた。
 そこから必要な物だけを選り分け、ゴミは処分、そしてまだ使えそうな物は換金して手間賃の足しに‥‥まあ、余り高価な物は転がっていそうにないが。

「しかし世の中には色々な嗜好の持ち主がいるものですねぇ」
 依頼人が去った後、受付係は溜め息をついた。
「ゴミ屋敷の主を嫁に欲しがる男がいるとは‥‥まさに蓼食う虫もアレと言うか‥‥」
 なのに何故、自分には運命の相手は全くちっとも一向に現れないのか‥‥などとボヤキつつ、受付係はその依頼書を掲示板に貼り付けた。

●今回の参加者

 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0207 エンデール・ハディハディ(15歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 eb3450 デメトリオス・パライオロゴス(33歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 eb5832 イメル(28歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb8153 アルマ・シャルフィ(25歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb9531 星宮 綾葉(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb9547 篁 光夜(29歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec2558 ナミル・ハディード(27歳・♀・レンジャー・人間・インドゥーラ国)

●サポート参加者

小 丹(eb2235)/ レア・クラウス(eb8226)/ マリーシャ・ディアヒメル(ec2107

●リプレイ本文

『‥‥うーわー‥‥‥‥』
 それは恐らく、その場にいた全員の心に浮かんだ第一印象。
 彼等の眼前には言葉にならないと言うか、敢えて言葉にはしたくないような光景が広がっていた。
 流石に家の外までは侵食していないようだが、それでも溢れるモノ達に圧迫されて玄関のドアは閉まらない。
「全部捨てちゃうデスぅー!」
 エンデール・ハディハディ(eb0207)がきっぱりと宣言する。
「うん、幸せになる為にも捨てるべきものは捨てちゃったほうがいいよね」
 それを受けて、猫でさえ足を踏み入れるのを躊躇う壮絶な散らかり様に唖然としながらも、デメトリオス・パライオロゴス(eb3450)が言った。
「結婚おめでとう」
「そうデスぅ、ケッコンおめでとうデスぅ、ええと‥‥お姉さん、なんて名前デスぅ?」
 エンデの問いに、依頼人はマリエルだと答えた。
 うむ、名前だけは可愛らしい‥‥それにまあ、見た目もなかなか、ゴミ屋敷の主とは思えないほど服装もこざっぱり、身だしなみもそれなりに整えている。
 なのに何故、こうも家の片付けが出来ないのか‥‥とルーウィン・ルクレール(ea1364)は疑問に思う。
「物を捨てるのが難しいと、その気持ちはわからないでもありませんが‥‥」
「でも、それにしたって‥‥コレは凄いデスぅ」
 そのスゴイ状態に、さて、一体どこから手を付ければ良いものか。
「これを使ってみるか‥‥」
 そう言ってナミル・ハディード(ec2558)が取り出したのはダウジングペンデュラム。
「家人にとって一番大切なアイテムの在処を探し出す‥‥とりあえずそれだけ選り分けておいて、後は全てゴミとして一気に処分するのも良かろう」
 だが、家の見取り図の上に垂らされた振り子は一向に動きを止めない。
「ああ、ダメダメ。ここにあるのは、ぜぇ〜んぶ大事な物だから!」
 依頼人マリエルが言った。
 いや、そりゃないだろう‥‥どう見てもゴミだし、ほら、そこで猛烈な匂いを放ってる元は食べ物だったらしき黒い物体とか。
「それも大事デスか? 食べられると思うデスか? だったら食べてみるデスぅ! そんなにもったいないなら、お姉さんが全部食べるデスぅ!」
「あ、あの、エンデさん、まあ、ほどほどに‥‥一応依頼人の方ですから」
 と、星宮綾葉(eb9531)が額に冷や汗を浮かべつつ、傍らに立つ恋人、篁光夜(eb9547)に何やら目くばせをする。
「でも、わかる気がするわ。だってほら‥‥」
 綾葉はわざとらしく感嘆の声を上げた。
「うわぁ‥‥これもったいないわね。 あ、これも。これも、これも‥‥! どうしよう、光夜、片付けられるものがないわ!」
 それを聞いて光夜はおもいっきり溜め息をつきながら答える。
「‥‥綾葉、言っておくが、片付け出来ない女は引くぞ?」
「だって〜〜」
「ゴミだらけの女を嫁に貰うのは考えるぞ、俺は。いや、考えると言うより‥‥遠慮する」
「ちょ、ちょっと! それはないわよ!!」
「だったらきちんと掃除だ」
「うぅぅ〜〜」
 ‥‥と、夫婦漫才を披露した綾葉はちらりと依頼人を見る。
 こうして悪い例を挙げれば彼女も問題点に気が付いて、考えを改めてくれるだろうと期待したのだが。
「あんた、懐が狭いわね」
 依頼人は光夜を指差して言った。
「私のダーリンは、ありのままの私を受け入れてくれたわ。何も変える必要はない、片付けは僕が全部やるからって」
 いや、それもどうよ?
「でも、このゴミの山は受け入れてくれなかったのよね?」
 アルマ・シャルフィ(eb8153)がツッコミを入れた。
「え、そりゃ、まあ‥‥だって、入りきらないし」
「この品は呪われているわ」
 依頼人の答えをすっぱり無視して、アルマは言った。
「これも呪われている。あ、これも、これも! 」
 アルマは芝居がかった調子で依頼人に迫る。
「どうしましょう? こんなのでは折角の御結婚も一年持たないわ。迅速な浄化が必要よ!!」
「浄化って‥‥捨てるって事よね?」
「いいえ、捨てるわけじゃないわ。貴女はこれらの品を『使って』『幸せ』を手に入れるの! 浄化の為にこれらの品を差し出す事、即ちそれが使うという事よ。浄化がなされれば‥‥それには長い年月がかかるけど、でも安心して。私の占いによれば、それで貴女は絶対に幸せになれるから」
 人間誰しも、気にしないと言いつつ占いの結果は気になるもの。
「わ‥‥わかったわ。でも、これ全部じゃないわよね?」
 全部ではないが‥‥まあ、殆ど大部分だろう。
 壊れた物や使い道のわからない物など、冒険者達は手分けをして片っ端から庭に積み上げて行く。
「本当はどこか一室借りられれば良かったんだが」
 イメル(eb5832)はそこを万が一未練が残った時の為に荷物を一時的に保管する場所として確保出来ればと考えていたようだが‥‥まあ、場所もないし、この際未練はすっぱり断ち切って貰おう。
「体力には自信がありますから、重い物は任せて下さい」
 ルーウィンが奥から石版のような物を運び出しながら言う。
「ああ、それ! 懐かしいわね、初めての冒険で廃墟の探検をした時に、記念に貰ってきたのよ‥‥廃墟の壁なんだけどね、その時の彼氏、とっても力持ちだったから」
 語り始めた依頼人にアルマが釘を刺した。
「それも呪われているわ‥‥しかも、強力に」
「しかしゴミ掃除とは‥‥本当に冒険者の依頼の種類とは多岐に渡ってあるのだな」
 感心しながら光夜が運び出した、真っ二つに割れたちゃぶ台を見て「ああ、それ‥‥!」と、またしても依頼人が語り始めるが。
「それも呪いが‥‥」
「‥‥わかってるわよ!」

 暫く後、庭に現れたゴミの山を見てルーウィンが溜め息をついた。
「装備品や何かは手入れをすれば中古で売れるかもしれないと思いましたが‥‥」
 どれもこれも、折れたり欠けたり曲がったり、後は例え新品でも二束三文にしかならないような安物ばかり。
 これはどこかに穴でも掘って埋めるしかなさそうだ。
「とりあえず、明らかにゴミってわかる物は片付いたかな?」
 デメトリオスが室内を見渡して言う。
 家の中は最初に比べれば格段にスッキリしていたが、まだまだ足の踏み場もない程に物が散乱している。
「どうする? だんなさんと同居する際にその家に置く事が可能かつ、だんなさんに知られても大丈夫な物しかもっていけないのはわかっているよね? だんなさんが間違って使って怪我をしてしまうような道具も持っていかないほうがいいと思うよ。そういった物を処分した方がいい事までは理解して貰える?」
 その言葉に、依頼人は渋々頷いた。
「じゃあ、持っていけない物はおいら達に預けて処遇を任せてくれないかな?」
「‥‥預ける‥‥って事は、後でちゃんと返して貰えるのよね?」
「ええ、大丈夫。捨てたりしませんわ」
 綾葉が絶対に取りに来る筈がないと思いつつニッコリと微笑む。
 取りに来るならこんなに散らかしてない‥‥とは心の声。
「エンデは同じ物を集めてくるデスぅ。同じ物がいっぱいあってもしょうがないデスぅ‥‥って、なんでこんなに同じ物ばっかりあるデスか?」
 それは、ゴミの山に埋もれて見つからない物は探しもせずに新しく買い直すから。
「手元になかったら、また買うデスか? じゃ、いらないデスぅ」
 ひとつは手許に残すという発想はないらしい‥‥エンデはその全てを大きな袋の中にぶちまけた。
 そして始まるアイテム生き残りトーナメント。
「さあ、どちらかを選べ‥‥モタモタしていると両方捨てるぞ?」
 ナミルが鋭い視線で睨みをきかせながら容赦なく選択を迫る‥‥一度捨てると決めた物の敗者復活も、待ったもナシ。
「厳しくいかねば捨てられんだろう?」
 そして漸く絞り出されたアイテムの量は、それでも荷車に二台分。
「‥‥まあ、家に収まりきれずにはみ出していたと思えば上等か」
 苦笑いをしながら、ナミルは依頼人の案内でそれらの荷を新居に運ぶ者達を見送る。
「じゃあ、おいらはお掃除がんばろうっと」
「掃除が終わったら、これを使ってみるかな」
 ナミルが取り出した香草を見て、デメトリオスの目が輝く。
 植物学者の彼は、嬉々としてその効能や使い方などの蘊蓄を披露しながら、床から天井まで綺麗に雑巾をかけていった。

「木は冬になると木の葉を落とす。 そのワケを知っているだろうか?」
 ルーウィン、光夜と交代で荷車を引きながら、イメルは依頼人に話しかけた。
「木の葉を落とさねば、葉に養分をとられ、冬を越せないからだと聞く。だから木の葉を落とし、蓄えた力で冬を越し、春を迎える‥‥ここにある物もそうだと思うがな。良き物、良き運を招きたくば、少しでも片付けたほうがいい」
「でも、木の葉は幹の周りに積もって養分になるわ。あれはゴミじゃないのよ? 何でも捨てれば良いってもんじゃないと思うけど?」
「いや、それは‥‥そうかもしれないが‥‥」
 思わぬ反論にたじろぐイメル。だが彼も負けてはいない。
「今ある物を失っても、また新たに得る物があり、それは今よりもきっと素晴らしいものになるかと思う。小さき者の為に‥‥捨てる事はまだしずらいかもしれないが」
「小さき者?」
「あ、いや‥‥今の事じゃなく‥‥まぁ‥‥未来の話だ!」
 見かけによらず照れ屋な彼は顔を真っ赤にしている。
 その様子を見て依頼人は可笑しそうに笑い、イメルの頭に何かをぼふっと被せた。
「な‥‥!?」
「それ、あげる。宴会好きの彼氏に貰ったヤツなんだけどね」
 駿馬の被り物‥‥宴会芸に最適なパーティーグッズ。
「あんた、もうちょっと柔らかくなった方が女の子にモテるわよ? はい、そこのクールなお兄さんもね」
 と、ルーウィンに投げて寄越したのは海賊の眼帯。
「たまにはハメを外してみたら?」
 余計なお世話、という気がしないでもないが。
「彼女持ちのお兄さんにはコレね、片方は彼女に♪」
 光夜にはコマドリのペンダント‥‥ただし、去年の彼氏に片割れを渡そうとしたら断られ、そのまま破局を迎えたといういわく付きの代物だったが。
「他の皆にも何か見繕ってお礼しなきゃね」
 一昨年の彼氏に貰ったアレとか、3年前の彼氏に貰ったソレとか、4年前の彼氏に‥‥
「‥‥長続きするといいな、結婚生活‥‥」
 切実に願う冒険者達でありました。