花咲けるブシドー?

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:7人

サポート参加人数:3人

冒険期間:06月25日〜06月30日

リプレイ公開日:2007年07月03日

●オープニング

「ブシドーとは、死ぬ事と見付けたりっ!」
 その男、ルイスは武士道精神にカブレていた。
 騎士道なんて生温い、武士道こそが男の生きる道だと彼は日頃から豪語していた‥‥武士道など、ほんの数日この村に滞在した浪人から聞きかじった程度にしか知らないのに。
 彼が騎士道を否定するのは、自身がどうやっても騎士にはなれない身分‥‥金も権力も社会的地位もないただの農民だから、かもしれない。
 高嶺の花をただ見ているだけなんて、そんな「高貴な」振る舞いは彼には出来なかった。
 触れる事さえ許されないものを、ただ想い続けるなんて‥‥。
 欲しいものは欲しい。
 でも、手は届かない。
 ならばそれを守って美しく散るのが本望だ――。

 だから彼は、その想い人が何者かに浚われたと知った時、こう叫んで家を飛び出したのだ。
「ブシドーとは、死ぬ事と見付けたりっ!」


 一方その頃。
 冒険者ギルドに血相を変えて飛び込んで来た執事風の男が、カウンターに両手をついて深々と頭を下げていた。
「お願いします、どうかお嬢様をお助け下さいっ!」
 その話によれば、彼が仕える家の一人娘が近くの森に散歩に出掛けたまま帰らないのだという。
「付近には人間のものとは思えない大きな足跡が沢山残されておりました。それは薄暗い森の奥へと続いて‥‥」
 森の奥は凶暴なモンスターが巣食っていると言われる危険地帯。
 地元の猟師でも足を踏み入れる事のない場所だった。
「話を聞いた地元の若者がひとり、お嬢様を助けると言って飛び出して行きましたが、恐らく何の役にも立たんでしょう。下手をすれば余計にお嬢様を危険に晒しかねません。それにもし、そやつが無事にお嬢様を助けたとしましても‥‥」
 お嬢様‥‥テセラが「無事に」戻るかどうかは非常に怪しいと、執事は踏んでいた。
 若者の彼女への想いは近隣でも噂になっている程だったし、それに何より、表には出さないが彼女の方もまんざらではないらしい事は、幼い頃から見守ってきた執事にはわかる。
 それに、若者の戦い方は完全に自己流ではあったが、相応の身分さえあれば騎士として取りたてられてもおかしくない程の腕を持っている。
 単身、彼女を救い出せる可能性はゼロではない。
 そしてもしそれが叶えば‥‥その後に何事もないとは考えにくい。
 いや、寧ろあって当然。
「どうか、大事なお嬢様をお守り下さい!」
 彼女を浚った者からも、それを助けようとしている若者からも。
 それが、今回の依頼だった。

●今回の参加者

 ea7278 架神 ひじり(36歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1023 クラウ・レイウイング(36歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb1915 御門 魔諭羅(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3450 デメトリオス・パライオロゴス(33歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 eb7721 カイト・マクミラン(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 eb9943 ロッド・エルメロイ(23歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ギリアム・バルセイド(ea3245)/ ウェンディ・ナイツ(eb1133)/ リーシャ・フォッケルブルク(eb1227

●リプレイ本文

「皆さん、どうかお嬢様をよろしくお願い致します」
 ギルドの前に集合した冒険者達に向かって、依頼人の執事が深々と頭を下げる。
 その彼に向かって、空木怜(ec1783)が有無を言わせぬ口調で告げた。
「時間がない。必要な情報は全部貰うぞ。攫われた日時や青年については特に。そのお嬢様を助ける確率を一厘でも上げるなら躊躇無しに頼む」
「あ、はい、それは勿論‥‥」
「ねえ、ちょっと待って」
 その場で長々と語り出しそうな執事の話を遮って、カイト・マクミラン(eb7721)が言った。
「お話は歩きながら聞いた方が良くないかしら? とにかく時間が惜しいわ」
「それもそうだな‥‥依頼人、あんた馬には乗れるか?」
「あ、はい。こちらまでも馬で参りましたので」
「なら、現場まで案内してくれ。迷っている暇はないんでな‥‥一分一秒も惜しい。奴らには人一人潰すのに十分な時間なんだから」
「あの‥‥皆さん急いで行かれるのでしょうか?」
 その会話を聞いていた御門魔諭羅(eb1915)が申し訳なさそうに言った。
「私、2体のゴーレムを連れていますので、魔法で強化された移動速度に付いて行けるか不安なのですが‥‥」
「お聞きの通り、一刻も早い到着が望まれる以上、申し訳ありませんが遅れる方を待っている余裕はありません」
 と、ロッド・エルメロイ(eb9943)。
「今回の任務は救出が最大の目的です。敵を倒すより救出を優先しますので、多少戦力は落ちても急いで頂いた方が良いかと」
 ゴーレム達は家に置いてきてはどうかと提案したロッドに、魔諭羅は首を振った。
 彼女の家はジャパンにあるのだ。
 ギルドでも荷物やペットを預かる事は出来ない。
「後から追い付いて来るように命令すればどうでしょうか?」
 魔諭羅はそう言うが、主人のいないゴーレムが往来を歩いているのを一般の者が見たら、果たしてどう思うか‥‥。
「‥‥では、私の家で預かりましょう」
 ロッドの対応はあくまで紳士的だった。
「ゴーレム達を置いたらグリフォンで追いかけます。森の場所を教えて頂けますか?」
「ふむ、貴殿は気が利くのう」
 慌てて食糧を忘れ、ロッドに分けて貰った架神ひじり(ea7278)が感心したように言った。
「何はともあれ、急いで娘を助けに行かなければなるまい。 そうで無ければ娘の命、あるいは貞操の危機じゃからのう」

 森の入口で執事と別れた一行は、恐ろしいモンスターが出ると言われる森の奥に向かって歩を進めていた。
「村の人の話だと、そのブシドーさん‥‥名前はルイスっていうんだけど、浚われたお嬢さんにぞっこんなんだって」
 一足先に村へ寄って情報を仕入れてきたデメトリオス・パライオロゴス(eb3450)が仲間にその成果を伝える。
「その、お嬢さんのほうも悪い気はしてないみたいだって」
「ふうん、身分違いの恋、ね。アタシも歌の題材にすること無いわけじゃないけどさ、実際やるとなると大変よアレって。金銭感覚のズレとか意外と埋まらないこと多いし」
 カイトがシビアな感想を漏らす。
「うん、だから二人とも諦めてるみたいなんだけど‥‥でもブシドーさん、剣の腕も立つって言ってたから‥‥」
「なるほど、貞操が危ういというのは、そういう事か」
 と、クラウ・レイウイング(eb1023)。
「相手がミノタウロスでなくとも、その武士道とやらにかぶれた間抜けが彼女を助け出したら、それはそれで危険だな」
「‥‥なんとも迷惑な殿方ですわね」
 魔諭羅が溜め息をついた。
「まあ、そう言うてはちと可哀想かのう。その男も一応命を掛けて助けようとしている訳じゃしな」
 ひじりが苦笑混じりに言う。
「じゃが、ロクに武士道について知らぬ者が武士道を語るとは失笑ものじゃのう。ましてや騎士道に対抗して武士道とは短絡的で愚かな話じゃ。お馬鹿なそやつには後で武士道についてじっくりと指導してやるぞ」
 やがて一行は誘拐現場に辿り着いた。
「何種類かのモンスターが関わっているようですね」
 足跡を調べたロッドが言った。
「さて、相手の行く先は‥‥こいつで大まかな位置だけでも絞れないもんかな?」
 怜が懐からダウジングペンデュラムを取り出すが、肝心の地図がない。
「カイトの魔法が頼りか」
 周囲の期待にプレッシャーを感じつつ、カイトが現場の過去を見るべくバーストを唱えた。
 時刻をずらして何度か試みた結果に見えたものは‥‥
「ものすごく大きなオーガ‥‥頭に角が二本生えてるわね。それに、取り巻きみたいなブタさんが4、5匹‥‥」
「オーグラと‥‥オークですね」
 オーグラはオークなどを手下に連れている事もある‥‥下に「戦士」や「ロード」の付かないただのオークなら楽なのだが、と思いつつロッドが答える。
「でもこれだけ派手に足跡が残っていれば、探すのは楽そうだね」
 デメトリオスの言う通り、足跡はくっきりと森の奥に向かって続いていた。
 そして足跡を辿ること暫し‥‥
 ――ぐあぁぁッ!
 叫び声が森の静寂を貫いた。
 一瞬立ち止まり、顔を見合わせた冒険者達は次の瞬間に弾かれたように走り出した。
 男の悲鳴。
 あまり救助意欲をそそるようなものではないが、そんな事を言っている場合ではない。
 やがて彼等の前に現れたのは、片腕を押さえて蹲る男とその背後に倒れた女性、そして男に向かって棍棒を振りかざす巨体‥‥
 その場になだれ込んだ冒険者達の気配に気付いたオーグラの動きが止まった。
「今のうちに二人を!」
 魔諭羅がシャドウバインディングで動きを止めたのだ。
 取り巻き達にはカイトがスリープを使い、とりあえず眠らせようと試みる。
 その隙にクラウとひじりが女性をかっさらい、男は自力でその場を逃れて冒険者達が待ち受ける中に転がり込んできた。
 その二人を敵から守るように、デメトリオスがバキュームフィールドを展開する。
「あ、あんた達は‥‥!?」
「話は後だ。まずは奴等を排除する。ブシドーも協力しろ」
 女性が気を失っているだけだという事を確かめ、ペガサスのブリジットに男へのリカバーを頼むと、怜は武器を手に立ち上がった。
「多少は剣が立つそうだから、囮位にはなるだろう。お前の惚れたお嬢様の為、 命を張って良いところを見せろ」
 とは言っても肝心のお嬢様は気絶したままだが、と口の中で呟いてクラウが前に出る。
 オーグラの動きを封じている間に前衛陣にフレイムエリベイションをかけたロッドは自らにもそれを付与し、オーク達が固まっている場所を目掛けてファイヤーボムを放った。
 続いて空中に舞い上がったデメトリオスがライトニングサンダーボルトを見舞う。
「よし、今のうちに雑魚を片付けるぞ!」
 前衛陣は弱ったオークを一匹ずつ取り囲み、確実に止めを刺していく。
 だが‥‥
 ――グオアァァッ!!
 取り巻きを片付けきらないうちに、オーグラの呪縛が解けてしまった。
 魔諭羅が魔法をかけ直そうとするが、不意打ちだった最初とは違い、今度は効かない。
「オレがやるッ!」
 その目の前に、ブシドーが飛び出した。
「バカ、やめろ! 本当に死にたいのか!?」
 だが、最初から彼を囮にする気満々だったクラウにとっては都合が良い。
 彼女はブシドーに気を取られたオーグラの背後に忍び寄り、ポイントアタックを見舞った。
 その傷みに、背中の敵を叩きつぶそうとオーグラは振り返る。
 が、今度はその背にひじりが回り込み、炎を纏った刀を振るった。
「佐々木流奥義【火炎燕返し】その身で受けるが良い!」
 だが流石はオーグラ、この程度では倒れてくれない。
 前に回った者は防御に徹し、背後を取った者が攻撃する‥‥そのサイクルを何度か繰り返し、漸く巨体は踏みしだかれた草の中に沈んだ。
 その間に後衛が残ったオーク達を魔法で片付け、森には再び静けさが戻った。

「‥‥別に咎めるつもりとかじゃなくて純粋な興味で聞いてみたいんだけど」
 目を覚まさないテセラお嬢様を腕に抱き抱え、心配そうに顔を覗き込むブシドー、ルイスにカイトが訊ねた。
「あんたにとってどっちが大切なことなの? 死ねればオッケー? お嬢さんを助けたい?」
「‥‥それは‥‥死にたくはないけど、でも」
 彼女の為に死ねるなら本望だ。
「どうせ望んだって叶わないんだ。だったら、いつまでも未練たらしく生きてるより、守って死んだ方がカッコイイじゃないか」
 そんな投げやりな言葉にデメトリオスが異を唱えた。
「武士道が死ぬことと見つけたりって、本当は怠け者が、どうせ死ぬんだからって怠ける口実にしていたと聞いたことあるよ。全然格好良くなんかないと思うな」
「そうじゃ。武士道を間違った形で覚えているのは武士として許せぬ」
 本職の武士、ひじりが腰の刀に手を当てて言う。
「きっちりと一人前の武士として生きていける様に、体に武士道を刻んでやるから覚悟するのじゃ」
「‥‥え? か、体に刻むって‥‥」
「どうした? 死ぬのは怖くないのであろう?」
「そ、それは‥‥テセラの為なら‥‥でも、ただ死ぬのは嫌だ!」
 その様子にカイトがクスクスと笑う。
「レディを助けるために命を張る、それって‥‥騎士道の典型よね」
「まあ、二人がどうなろうが知ったことでは無いが、剣で名を上げてしかるべき身分を手に入れたければ冒険者にでもなるのだな」
「そうだな。騎士になるチャンスがないとも限らないぞ」
 クラウと怜の言葉に、ルイスはほんの少し希望を抱いた様子だったが、すぐに再び自信がなさそうに顔を伏せた。
「でも、それを待っていて欲しいなんて、そんな事‥‥待てるわけ、ないし」
「それはブシドーさんが決める事じゃないよね?」
「そうね、目を覚ましたらお嬢さんに直接聞いてみなさい。あんた、もしかしてちゃんと告白した事もないんじゃない?」
 カイトのツッコミはどうやら図星のようだ。
「勿論、このまま連れて逃げる事も出来るけど‥‥それはお互いの家族や村の人達、みんなを裏切る事になる。それはわかってるよね?」
 デメトリオスの言葉にルイスは黙って頷いた。
「とにかく、ちゃんと気持ちを伝えるのが先よ‥‥お互いにね」
 カイトは相変わらずクスクスと楽しそうに笑っている。
「まあ、なんだ。とりあえず眠れるお嬢様にはキスでもしてやったらどうだ? 目を覚まさないことには、運ぶ手段がないもんでね」
 今回の仕事は診療所っぽくはなかったが、これもありだろう‥‥そう思いながら、怜はブシドーの背中を思い切りどつく。
「時間がかかってもいいから、みんな幸せになれるといいね」
 渦中の二人にそっと背を向け、デメトリオスが呟いた。