【ジューンブライド】うちの人がイチバン!
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月30日〜07月03日
リプレイ公開日:2007年07月08日
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●オープニング
「キミ、これを頼むよ。例によって‥‥そう、この店の一番目立つ場所に張り出してくれたまえ」
そう言って大きな羊皮紙を差し出したのは‥‥そう、あのコンテスト好きの貴族。
「いや、今回は競技ではないのだよ、キミ。世はジューンブライド花盛りだが、その恩恵に与れない者も多いようだ。そんな彼等の役に少しでも立ちたいと思ってね」
「恩恵に与れない‥‥と言うと」
相手イナイ歴○年の自分のような人達の事だろうか、と受付係は思案するが‥‥
「いやいや、そんなのはキミ、問題外だよ」
と、哀れむような目つきと共に一笑に付されてしまった。
「これはだね、キミ。教会に名前を刻めない事情のある者達や、既に名前は刻んであるが改めて新婚気分に浸ってみたい、そんなカップル達の為の‥‥そう、一大告白大会とでも言おうか」
普段は恥ずかしくて言えないような想いや、改まって言葉にするにはどうにも照れ臭い感謝の気持ち。
そんな思いの丈を込めた言葉の数々を、公衆の面前で臆面もなく吐き出して貰おうというのだ。
「勿論、観客の前では恥ずかしいという御仁もあるだろう。その場合は手紙にしたためて貰っても構わないよ‥‥どうせ報告書は公開されるのだから、それでも想いは充分に伝わる筈だ」
ペアで参加する場合はお互いに褒めちぎり合うのもまた良し。
空いた時間は庭を開放するので、そこで自由に楽しんで構わない。
「勿論、ひとりで参加する勇気ある方々にも何かしら用意しよう‥‥退屈しないようにね。何か要望があれば遠慮なく言って貰って構わないよ。そうそう、お土産も用意出来るかもしれないね。帰ってから、想い人に渡せるような何かを」
では、楽しみにしているよ。
諸君の熱い想いで我が家をピンク色に染め上げてくれたまえ‥‥。
そう言って、彼はギルドを後にした。
●リプレイ本文
「‥‥ふむ、3組か‥‥意外に少なかったようだね」
エントリー表を見て、主催者の暇人‥‥いや、有閑貴族は少し残念そうに小さく溜め息をついた。
「もっとこう、禁断の愛の告白やら奇想天外摩訶不思議なカップリングが見られるかと期待していたのだがね‥‥まあ良い、それは来年のお楽しみとしようじゃないか」
来年もやる気かいアンタ。
「それはそうと、これはこれで盛大なノロケが聞けそうな面子じゃないかね。さあ、思う存分に溢れる想いを吐き出すが良い!」
彼はそう言うと、最初の出場者達の名前を高らかに読み上げた。
●セイクリッド・フィルヴォルグ(ea3397)&藤村凪(eb3310)
「あー。こない催しに出るのは初めてやからドキドキものや」
そう言って胸を押さえつつ、凪は傍らのパートナーはどうだろうと、そっと見上げてみた。
だがセイクリッド‥‥セイちゃんはいつも通りのクールな表情を崩さない。
「あん‥‥な、名前呼ばれるまで世間話でもしよかー?」
凪は少しでも緊張を解そうと先日ジャパンに帰った時の事などをあれこれと話しかけるが、彼の反応は薄い。
一緒に出場する事にした理由は、言葉に詰まった時等に互いにフォローし合えるから、なのだが‥‥果たしてこの人はちゃんとフォローしてくれるのだろうか?
大丈夫、やる時はちゃんとやってくれる。
そう信じて、名前を呼ばれた凪はステージに立った。
「どうも♪ 面白そうなんで旦那と一緒に出場しました。よろしゅーお願いします」
ぺこり。
凪は隣の旦那の分まで精一杯の笑顔を振りまきながら、観客に向かって頭を下げた。
本音は自分の事をどう思ってくれとるのか確認したいから、らしいが‥‥。
「えっと。ウチが好きになった部分はぎょーさんあるんやけど、一番は安心する所やろかな。傍に居るだけで何も怖い物無くなるゆーか、護られてるゆーんが判るんよ〜♪ ホンマはウチも心の支えにならんとあかんのやけども、どーしてもセイちゃんには敵わへん」
一気にまくしたてた凪はそこで一息つくと、深々と深呼吸をして、意を決したように拳を握り締めて叫んだ。
「そんなウチが目指す目標は、セイちゃんをしっかりと支えられる様なええ女になる事や!!」
会場から「おお〜」というどよめきと拍手が巻き起こる。
それを聞いて我に返った凪は顔を真っ赤にして俯いた。
だが、肝心のパートナーはその言葉をどう受け取ったのか‥‥
「そない、かしこまらんではっきりゆーてや。ウチと居ると和むとかなー♪」
「‥‥ふむ、自慢‥‥凪の自慢、か」
暫く考え込み、漸く口にしたその言葉は‥‥
「‥‥天然で物忘れが酷くてひとよりニテンポおくれて‥‥すまん自慢しづらい」
その正直な告白に、会場には笑いの渦が起きる。
だが例え自慢しづらい相手だろうと、大切な人である事に変わりはない。
「少なくとも‥‥私にとっては命を賭けても守るべき人だ」
それだけ言ってさっさとステージを下りようとするセイちゃんを凪が引き止め、その耳元で何事かを囁いた。
「‥‥して、な?」
「やるのはいい‥‥しかし見られているが」
言いつつ、セイちゃんは凪を軽々と抱き上げた‥‥所謂お姫様抱っこというヤツだ。
「ふむ‥‥更に恥ずかしくなら」
と、そのままの格好、しかもステージ上でお子様にはとても見せられないような熱くて濃〜い口づけを交わす。
「あー、キミ達。続きは向こうでやってくれたまえ」
主催者に言われて、二人は「それ」専用に用意された客間、通称「ピンクの間」へと消えていった‥‥。
●尾花満(ea5322)&フレイア・ヴォルフ(ea6557)
「なぁ満‥‥何であたしまでエントリーされてるんだ?」
極上の微笑みを浮かべて迫る奥方の迫力に気圧されながらも、満は色々と理由を並べ立てる。
「まぁ、折角の機会であるし、その、なんだ、あー‥‥」
「‥‥解った。後で色々宜しくな?」
微笑と邪笑と溜息と、それに諦めと期待が入り交じった表情のフレイアに背中を押され、満はステージに立った。
「‥‥聖夜祭の折に酒場で出会い、ほぼ拙者の一目惚れだったが‥‥色々あって今こうして、傍に居てくれる拙者の最愛の妻フレイアに、改めて告げたい。この世の他の誰よりも、何よりも愛していると」
それを聞いて、下で見守るフレイアの顔が見る見る真っ赤に染まる。
そんな妻の熱暴走を知ってか知らずか、ステージ上では怒った顔も可愛いだの、仕事中の張りつめた表情もまた良いだの、延々と惚気が続く。
「う‥‥ダメだ、素面でなんか聞いてられるかっ」
フレイアは緊張を解す為にと置いてあった酒を一気に煽り、その顔はますます赤くなる。
「‥‥互いに冒険者という職業をしている以上、危機に陥ったことも少なくないしこれからも身の危険はあるだろう。そんな時に『命に代えても守ってみせる』と言うのが正しい男の在り方やも知れぬが‥‥拙者はそうは言わぬ。フレイアを守り、そして自分も生き延びる。無論、容易い事ではないが‥‥それを可能とすべく今後も修練に励みたい。それが拙者の覚悟だ」
言い終わり、満足げな表情でステージを下りる夫とは対照的に、妻は頬を真っ赤に染めたままおぼつかない足取りでステージに上がる。
「‥‥え、えっと‥‥うん。初めての出会いは聖夜祭の大広間。ジャパンの人間珍しかったし、何より良い体してたから印象深かった。大広間でいきなり告白されて吃驚したが嬉しかったが‥‥」
フレイアさん、なんか目が座ってますが‥‥大丈夫ですか?
「人間思い切る時は思い切らないと何も成らないって事で、取り敢えず言えることはあれだ、初恋は実らないってのは例外があるわけでっ! 料理は出来て優しくて、仕事中は背中預けられて、いい体してて良い筋肉してて、温かい手してて触られると‥‥」
「こ、こら待て‥‥っ! それ以上はここで言うでないっ!」
恍惚の表情でその感触を思い出しているらしい妻が、それ以上何か公衆の面前に晒すのは憚られるような「あんな事」や「こんな事」を口走らないうちに、満が慌ててその口を塞ぐ‥‥勿論、自分の唇で。
「な、何で止めるんだ満っっ!」
盛んに抗議する妻を抱き上げると、満はその耳元に何事か囁いた。
「‥‥え? ‥‥ん、解った‥‥」
続きは家で、とでも言われたらしい。
フレイアは赤く染めた頬をますます赤して可愛らしく頷くと、満の首に両腕を回し、素直に何処か‥‥「ピンクの間」へと運ばれて行く。
「あー、キミ、愛しの奥方の落とし物だ」
そう言って満に渡された小さな羊皮紙には、こんな言葉が書かれていた。
『満はあたしにとって全てを預けられる人で、帰るべき場所。ずっと一緒にいて下さい、あたしと』
これはもう、奉仕するしかないでしょ。
はい、頑張って〜♪
●ケイン・クロード(eb0062)&エスナ・ウォルター(eb0752)
極度の緊張と恥ずかしさで今にも倒れそうになりながらステージに上がったエスナは、下で見守るケインと視線を交わすと、ペンダントをぎゅっと握り締め、語り出した。
「‥‥私は、ご覧のとおりハーフエルフです‥‥。そして、彼は人間だから‥‥教会に名前を刻む事も出来ません‥‥。でも‥‥神様を恨んだりはしません‥‥。だって‥‥彼が、私を受け入れてくれる‥‥それだけで、十分幸せだからです‥‥」
微笑むエスナに、会場はしんと静まり返った。
「彼は‥‥お人よしで‥‥時々、空回りもするんですけど‥‥困った人を見ると、放っておけない性格で‥‥。 料理が好きで‥‥いつも、どんな時でも美味しいものを作ろうとして‥‥剣の修行に行ったはずなのに、料理の腕ばかり上がってるような人で‥‥」
その言葉にケインは苦笑しつつも、人前でこんな事が言えるようになった彼女を誇らしげに見つめている。
「いつも笑顔で‥‥私が、どんなに迷惑をかけても‥‥笑って許してくれて‥‥私だけに優しいわけじゃないです‥‥『誰かの笑顔を護る』‥‥そのために戦ってる人だから‥‥だから、私は彼の支えになりたい‥‥。彼の夢を叶えるお手伝いをしてあげたい‥‥。彼の事が、す‥‥す‥‥」
興奮のあまり気を失って倒れたエスナの体を、駆け寄ったケインが抱き止めた。
「まったく‥‥エスナは何でも重く考えすぎだよ。‥‥こんなに小さくて、軽いのに、ね‥‥」
その体を両腕で抱き上げたまま、ケインは呟くように言った。
「だいたいね、支えられてるのは私のほうだよ。エスナがいつも微笑んでくれてたから、私もいつも笑顔で居られたんだよ。エスナが帰りを待ってくれてると信じてたから、異国の地でも変わらずに居られたんだよ。エスナが居てくれたから‥‥人を愛する気持ちに気づけたんだよ」
ケインは久しぶりに再会した時の彼女の様子を思い返す。
「正直、エスナが『彼ら』と楽しそうにしているのを見て、君の人見知りが無くなったと嬉しく思う半分、すごく悔しかった‥‥。円卓の騎士に比べると、身分も剣の腕も、何もかも適うものなんて無い‥‥だから止める事は出来なかった。でも、自分勝手かもしれないけど‥‥君を離したくない。誰にも渡したくない。ずっと傍に居て欲しい。 ずっと、ずっと‥‥!」
「‥‥私が大好きなのはね‥‥ケインだけだよ」
いつの間にか目を覚ましていたエスナが言った。
「‥‥エスナに苦労をかけるかもしれない‥‥それでもいいの?」
「‥‥ケインと一緒なら大丈夫‥‥。だって、私が好きになった人だもん‥‥」
「‥‥じゃあ、誓ってくれる? ずっと、二人一緒に居るって」
「‥‥うん‥‥誓うよ。‥‥大好き、だよ‥‥」
その返事に、ケインは口づけで答えた。
「キミ達、その続きはあちらだ」
と、屋敷を指差す主催者の言葉と、衆人環視のド真ん前だった事に気付いて二人は慌てふためく。
「え、いや、あの、わた‥‥私達はあのっ、そこまではまだ‥‥っ!」
「いやいや、遠慮は無用だ。こういうのはね、キミ‥‥やったもん勝ちだよ」
かくして、主催者の陰謀(?)によってピンクの間に閉じ込められた初々しいお二人さん。
「‥‥これ、参加賞‥‥かな」
エスナが枕元に置かれたピンクの羽根飾りが付いたブローチに目を留める。
「ああ、そ、そうだね‥‥」
上の空で答えるケイン。
彼等がその後どうしたのか、或いはどうもしなかったのか‥‥そこらへんは記録係の与り知る所ではございませんので悪しからず。
‥‥さて、来年は皆さん子連れ参加かな〜?