わんわん救助隊

■ショートシナリオ&プロモート


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:06月13日〜06月18日

リプレイ公開日:2006年06月20日

●オープニング

 カリカリカリ。
 何かがギルド入口の扉をひっかく音がする。
「クゥ〜ン、キュ〜ン」
 どうやら、どこかの犬が中に入りたがっているらしい。それに気付いた糸目の受付係が扉を開けると‥‥。
 ―――ドスンっ!!
 勢い良く飛び込んできた茶色いかたまりに体当たりされ、彼は思わず尻餅をついた。
「あいたたた‥‥。あれ? この犬は確か‥‥」
「ワンっ!!」
 目の前に、一頭の柴犬がきちんとオスワリしていた。あちこち泥に汚れ、毛がもつれてはいるが、確かこの犬はジャパンで知り合った自称天才絵師、連素太左右衛門(むらじ・すたざえもん)の愛犬‥‥。
「豆太郎?」
「ワン!」
 元気に吠えたはずみで、口にくわえていた何かがハラリと落ちる。
 それは、何色とも表現しがたい、ありとあらゆる染料をブチ込んで煮しめたような色合いの布きれだった。
「これは、素太左の着物ですか? 豆太郎、彼に何かあったんですか?」
「ワンっ!!」

 連素太左右衛門。本業は絵師だが、絵を描く事よりも絵の具の元となる顔料を探す事に情熱を燃やす男。故国ジャパンでも、本業そっちのけで新しい色を作り出すための材料を探して、あちらの洞窟こちらの森と危険な場所を歩き回っていた彼が、更なる飛躍を求めて新天地イギリスに渡ってきたのが、ほんの数週間前の事だ。
「早速、本領発揮ですか‥‥」
 故国でも、よく探検に夢中になりすぎて帰り道がわからなくなったり、モンスターに襲われて身動きがとれなくなったり、その度に豆太郎がギルドまでひと走りして、冒険者達に助けを求めていたのだそうだ。
「豆太郎、彼のところまで案内してもらえますか?」
「ワンワンっ!!」
 豆太郎が勢い良く駆けだしていくその後を追いながら、受付係は室内を振り返り、叫んだ。
「すみません、どなたか手を貸していただけないでしょうか!?」

●今回の参加者

 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6065 逢莉笛 鈴那(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb2435 ヴァレリア・ロスフィールド(31歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb3349 カメノフ・セーニン(62歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

リデト・ユリースト(ea5913)/ 沖鷹 又三郎(ea5928)/ 小 丹(eb2235

●リプレイ本文

 人通りもまばらな田舎道を、2頭の犬が一目散に駆けて行く。洞窟で遭難したらしい絵師の相棒、豆太郎と、逢莉笛鈴那(ea6065)の愛犬パウルだ。少し遅れて、数頭の犬と冒険者の一団がそれを追っていた。
「ワンコ、豆太郎を見失うなよ!」
 リ・ル(ea3888)が走りながら自分の愛犬に声をかける。
 その後ろからヴァレリア・ロスフィールド(eb2435)と愛犬サイ、駿馬に乗ったリアナ・レジーネス(eb1421)が続く。
 「お前、楽してるよな‥‥」
 閃我絶狼(ea3991)の愛犬‥‥いや、愛狼、絶っ太はまだ幼く大人達には追いつけない為、馬で駆ける飼い主の懐に収まって、そのスピード感を楽しんでいた。
「みんな速いのう」
 驢馬の背に揺られながら、カメノフ・セーニン(eb3349)がのんびりと呟く。
「まあ、そのうち追いつけるじゃろう、頼んだぞいマイロードさん」
「コケッ」
 驢馬の代わりに、その頭に乗った鶏のミウラーが律儀に返事をした。

 一行が目的の洞窟に辿り着いた頃には、既に陽は西に傾いていた。
「ここがその洞窟か‥‥」
 奥を覗き込みながら、リルが呟く。
「まだ、先は長そうだな。カメノフの爺さんもまだだし、入る前に少し休むか」
「そうだな、軽く食事も摂っておいた方がいいだろう。それから、俺はジャパン語で説明書きを書いておくんだったな」
 と、絶狼。
「私は馬たちと外で待機していますね。私の猫にはランタンの油を持たせてありますので、中で油が切れた時にお使い下さい」
 膝に乗せた猫のアクウィラを撫でながらリアナが言う。
「それから‥‥探索時間を決めておいた方が良くありませんか? その時間を過ぎても戻らなければ、皆さんに何かあったという事で‥‥」
「そうね、じゃあこの猫さんが持ってる油3つ分の時間でどう?」
 鈴那の提案に一同が頷く。中と外で同時に灯をつけ、リアナが使う分はリル、絶狼、鈴那の3人がひとつずつ提供する事になった。
「他にも必要なら、私の分を使って下さいね」
 犬たちに餌をやりながらヴァレリアが言う。
 そうこうしているうちに遅れていたカメノフも合流し、留守役のリアナを残して一同は洞窟の中に入っていった。

 漆黒の闇に沈んだ洞窟の中では先頭を行くリルが持つランタンの明かりだけが頼りだった。
 静寂の中に、時折パラパラと天井や壁の岩が剥がれ落ちるような音がする。
「相当、脆くなってるんじゃないか?」
 並んで歩く絶狼がさほど高くない天井を見上げて言う。
「救出を急ぎたい所ではありますが‥‥慎重に進んだ方が良さそうですね」
「そうじゃのう、豆太郎さん達にもゆっくり進んで貰った方が良さそうじゃ。でないとわしらも追いつけんからのう」
「大丈夫よカメノフさん、迷子にならないように私が後ろで見張っててあげるから」
「わしは女の子の後ろがええんじゃがのう‥‥」
 列の真ん中を歩くカメノフが溜め息をつく。どうやら今回もお楽しみはお預けのようだ。
 入口で一行を見送るリアナが掲げるランタンの灯りが見えなくなった頃、行く手に二股の分かれ道が現れた。
「さて、どっちだワンコ?」
 犬たちにはギルドで借りた、絵師の着物の切れ端の匂いを嗅がせてある。追跡に問題はない筈だ。
「ワン!」
 犬たちは一斉に左の道に向かって吠える。その途端、天井の岩がパラパラと剥がれ落ちた。
「わ‥‥わかったわ、わかったからあまり大声で吠えないで‥‥ね?」
 ヴァレリアが犬達をなだめるように‥‥と言うか、それを口実に一頭ずつその頭をなで、ついでにこっそり、ふわふわの耳をもにゅもにゅする。
 暫く行くと、犬達の歩みが止まった。奥の方に向けて困ったように鼻を鳴らしている。ランタンの明かりをかざすと、行く手を大小の岩がが塞いでいた。
「落盤‥‥? まさか、素太左右衛門はこの下‥‥なんて事だったらシャレにならねえぞ」
 リルが辺りの様子を調べながら言う。
「ふむ‥‥ブレスセンサーで調べた限りでは、生き埋めにはなっとらんようじゃ。もっとも、息をしておらなんだら、わからんがの」
「縁起でもない事言わないでよ」
 と、鈴那。
「大丈夫、ここに埋まってるなら豆太郎くんが掘り返そうとする筈でしょ?」
「豆太郎が通った後に崩れたのかもしれないな。とにかくこれをどかさないと先に進めん。さっさとやっちまおうぜ」
 リルが手近な岩に手をかけて、力をこめる。と、その途端に上にあった岩がグラリと動いた。
「や‥‥やべ‥‥っ」
 そ〜っと手を離し、ゆっくりと後ずさる。
「他の道を探したほうが良さそうですね」
 ヴァレリアの言葉に鈴那が頷く。
「この洞窟はとっても入り組んでるって言ってたし、きっとどこかで道が繋がってるわ」
 絶狼は荷物から筆記用具を取り出した。
「これは、きちんとマッピングしておいたほうが良さそうだな。おい絶っ太、お前帰りに閃助の匂いは辿れるよな?」
「きゅ?」
 子オオカミはわかっているのかいないのか、つぶらな瞳を主に向けて小首を傾げている。
「大丈夫だ、ワンコにマーキングさせてるし、俺もこうして‥‥」
 来た道を戻り、先程の分かれ道まで来たところで、リルが突然地面を転がりだした。
「‥‥何をしている?」
 絶狼がその姿に生暖かい視線を向ける。
「何って、匂い付けだよ。皆もどうだ、大勢でやれば効果も上がるぞ?」
「じゃあ、今度は右の道を行ってみましょう」
 リルの提案をさらりと流し、鈴那は目印用に小石を積み上げた。

 一方その頃。
 洞窟の外に残ったリアナは2本目の油の封を切っていた。
「‥‥暇ですね‥‥」
 時折ブレスセンサーで気配を調べるが、モンスターや夜盗の類はおろか、野生動物さえ出てこない。
「油、2本分にしておけば良かったでしょうか‥‥」

 洞窟の中では試行錯誤の末、ようやく落盤の向こう側に出る事に成功していた。
 暫く行くと道が途切れ、行く手を川が流れていた。幅も狭く、流れもさほど速くない。水かさも踝程度の小川のようなものだが、水に入れば匂いを辿る事は出来ない。
 だが、豆太郎に迷いはなかった。川を上流に向かって進んで行く。
「滑るぞ、気を付けろよ」
 水の苦手な猫を抱え上げたリルが注意を促す。
 やがて川岸に再び道が現れた。土手の土に犬の爪痕が残っている。側にあるのは素太左右衛門が登った跡だろう。
「ここで川から上がったらしいな」
 絶狼が絶っ太をひょいと土手の上に上げて溜息をつく。
「しかし、まだ奥に行くのか? 芸術家という奴は‥‥まあ、わかる気はするが」
 目的地が近いのか、犬達の足取りも早まる。それを追う冒険者達も自然に歩を早めたが、幸いこの辺りは地盤が安定しているようだった。
「ワンワン、ワンッ」
 広間のような場所に出た時、豆太郎が嬉しそうに走り出した。
「ここか?」
 石筍のひとつにロープが結び付けられている。それは崖の下へ垂れ下がっていたが、途中でぷっつりと切れていた。
 カメノフがブレスセンサーで周囲を探る。
「おお、息がある。この真下におるぞい。じゃが‥‥だ〜いぶ下じゃのう」
「おお〜い、無事かーーーっ!?」
 リルが叫ぶが、返事はない。
「キュ〜ンキュ〜ン」
 豆太郎が崖の上で右往左往している。流石にこの崖を下るのは無理なようだ。
「俺のワンコにも無理そうだな‥‥折角ポーション類に説明を書いて貰ったんだが」
 リルは愛犬の荷物を自分のバックパックに入れ、崖を降り始めた。
 一人では危ないと鈴那が続く。
「それに、通訳が必要でしょ?」

「連さん、迎えにきました! お怪我はありませんか?」
 崖の下、ちょうど踊り場のようにせり出した部分にぐったりと横たわる男に、鈴那が駆け寄り声をかける。その呼びかけに、男は僅かに手を動かし、かすれた声で何かを言った。
「‥‥‥‥った‥‥」
「え?」
「‥‥腹‥‥め、飯‥‥っ」

「いやあ〜、かたじけない!」
 リルが差し出した食料をぺろりと平らげ、自称天才絵師は腹を撫でながら満足そうに笑った。
 歳の頃は30代半ばだろうか。怪我はなさそうだが、髪はボサボサ髭はボウボウ着物はボロボロ。その汚れには歴史が染み込んでいた。
「さあ、町に帰りましょう。私の友達がお家にお邪魔してご飯を用意してくれてる筈よ」
「いや、重ね重ねかたじけない。しかし、わしはこのまま戻るわけにはいかんのじゃ」
 やっぱりそう来たか‥‥。リルは心の中で溜め息をつく。
「ここに降りる途中、大事な籠を下に落としてしまったのじゃ。せっかく材料を山ほど集めたのに‥‥」
 鈴那は下に続く崖に小石を落としてみる。カランコロンとどこまでも落ちて行き、最後に微かに水音をたてた。
「‥‥無理ね。残念だけど諦めてもらうしかないわ」
「俺達の指示に従うなら、帰りがけに協力してやるよ。さあ、上がろうぜ」

 一行は来た道を引き返し始めた。絵師の腰には2本のロープが結ばれ、片方を鈴那が、反対側を絶狼が握っている。
「ロープがこんな所で役に立つとはな‥‥いや、そんな予感はしていたが」
 その時、子供のように目を輝かせて、絵師が突然走り出した。
「うわっ」
「きゃあっ」
「おお、あれじゃ、あんな所にも! 来る時には気付かなんだぞ!」
 細い体に似合わず、ものすごい力でロープを引っ張る。
「だから、俺達の指示に従えって‥‥」
「ワンワン!」
「キャンキャン!」
「フシャーッ!」
 阿鼻叫喚の中、ヴァレリアが冷静にコアギュレイトを唱える。絵師の体が一瞬にして固まった。
「皆さん、残念ながらあまり時間がないようです」
 ランタンの油は、3本目の残り半分を切っていた。
「時間までに戻らなければ、リアナさんがライトニングサンダーボルトで合図を送るとおっしゃいましたよね?」
 その言葉に一同が青ざめる。
「あんな地盤が脆いところでそんなものぶっ放されたら‥‥」
「い、急げっ!」
「慌てずゆっくり、慎重に急ぐのじゃっ」

 だがその頃、真夜中の静寂に包まれた洞窟の外ではリアナが安らかな寝息をたてていた‥‥。