掃除屋募集!
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■ショートシナリオ
担当:水瀬すばる
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月30日〜05月05日
リプレイ公開日:2007年05月12日
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●オープニング
●動く死者
「‥‥ったく。引き受けるんじゃなかったな」
静かな夜、辺りは闇一色。煌々と光る月は冷たい光を地に放つ。墓地に続く細い道を、一人の男が足早に歩いている。
「あの時あんなこと言わなけりゃ‥‥、今更言っても仕方ねぇか」
独り言は独り言、答える者はない。
男が仲間と別れたのは数時間前のことだ。仲間内で集まり酒を楽しんでいたのだが、誰が言い出したのか話題は語るも恐ろしい怪談。あそこの桜には死体が埋まっている、そこの井戸を夜覗くと見知らぬ女の顔が映る、などと場は大いに盛り上がってしまった。その中で皆が一番興味を引かれたのは、町外れにある古寺の化け物話だ。昔はそれなりだったらしいが、十年前に和尚が死んでからは世話をする者もなく、ただの化け物寺になってしまっていた。
その寺の裏手にある墓地を夜訪れ呼びかけると、墓の下から死体が答えるのだというのだ。それだけならまだしも、動く死体は生者の肉を求めて追いかけてくるとか。
(まさかこの時間から、あの化け物寺に行く者はいないだろ。もし‥‥、もしいたなら、そうだな。この金をやってもいい)
仲間の一人が高く掲げたのは金の入った袋。重さからして、中身は数日分の稼ぎだ。
(なに、それは本当だろうな。なら俺が行こう)
酒の勢いもあったのだろう。仲間が止めるのも聞かず、男は意気揚々と店を出て行くのだが‥‥。
「おーっと、見えてきた。あれか。薄気味悪いところだ」
間違いなく行ったという証拠に、墓の供物を持って来るのが条件になっている。男は墓場に入ると、墓に供えてある枯れた花を奪い取った。元は美しい花だったのだろうが、流れる時と共に色褪せそして今は水気もなく干乾びている。
「簡単簡単。これで大金が手に入るとなれば、深夜の墓場も極楽に見えてくるな。おーい。来るなら来てみろってんだ、化け物め」
豪快な笑い声が墓地の静寂を破る。男がもう少し冷静であったなら、男がもう少し聡明であったなら、そしてもう少しだけ酔いを醒ましていたならば、結末は違っていたかもしれない。身体にまわる酒は、確実に判断力や五感を鈍らせていた。
「‥‥え?」
小さな物音。腐肉の匂い。響く低い声は、人間のものではない。
振り向いた男が最後に見たのは、ゆらゆらと蠢く死者の群れだった。
●動く生者
「待っても待ってもあいつは帰って来なかった。‥‥朝を待って寺に行ってみたら、墓の前で死んでいたよ」
場所は変わってギルドの受付所。男の葬儀を終えた仲間は、話し合いギルドに依頼を出すことにした。
「身体はまるで獣に食い荒らされたようだった。酷いものだ。流れた血の海に枯花の花びらが散っていて‥‥」
そこまで話すと依頼人は片手で顔を覆う。男が帰って来たら、笑い話で終わるはずだった一夜の冗談。こんな形で終わろうとは誰が想像できただろうか。
「血で汚れた墓場を清めてもらいたい。せめて、死者が死者として眠ることができるように」
そう言って依頼人は、やりきれぬ思いを胸に頭を下げた。
●今回の参加者
ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
ea7662 焚 雅(24歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
ec1173 大神 萌黄(33歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
ec2130 ミズホ・ハクオウ(26歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
ec2422 緋村 朱雀(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
●サポート参加者
コトネ・アークライト(
ec0039)
●リプレイ本文
●真昼の月
月の支配する夜、そして太陽の輝く昼。同じ一日でも、両者が持つ雰囲気は対極といって良いだろう。生者と死者もまた然り。
母の胎から生まれ、太陽が沈むように老いては死ぬ。朽ちていく肉体が土に還り草木を育て、時間と共に巡り巡るのが世の理。
「さてと、やっと到着ね」
レティシア・シャンテヒルト(ea6215)は銀色の髪を風に揺らし小さく呟いた。ここは死者たちが眠る墓。真夜中とは違ってそう不気味ではないが、それでも物悲しい空気は変わらない。いくつかの墓には供え物として花が飾られている。
「夜に向けての準備、さっそく始めましょうか」
続いてレティシアの後ろから姿を現したのはミズホ・ハクオウ(ec2130)だ。腰に手を当て、場を見渡す。右から左、奥にまで視線を行き渡らせ墓場の地理を頭に入れていく。死者との戦闘が発生する可能性は極めて高い。
灯り用に焚き火をしようと考えていたミズホは、その為の道具も持参していた。
「そなえあれば憂い無しって言うし、どーせ後でしなきゃならないんだしね」
古来より人間は闇を削って生きてきた。夜でも昼間のように活動できるように、火という灯りを使う。だが人間が暗闇を恐れるのは、真っ黒なその中に得体の知れぬ何かが潜んでいるような気がするからだろう。
ミズホは道具を使い、手際良く草の込みを始める。墓参りに来ている者が手入れでもしているのか、伸び放題という程でもない。
「ミズホちゃんも大変だね」
コトネ・アークライトはミズホを手伝い、邪魔になりそうな物を退けていく。
「こんなに荒れてたら、きっと死んだ人も寂しいよね」
散らばっている大きめの石や小枝を両腕に抱え呟いた。生まれ落ちた者は遅かれ早かれいつか死ぬ。呟いた独り言は風に流され消えていったが、酷く悲しくそして優しいものだった。
「これなら使えそうね」
少し離れたところではレティシアが魔法を試している。太陽の幻影を作ってみると成功、光源として使えそうだと判断した。
「いつ頃からこういう事件が起きていたのじゃ?」
一方、焚雅(ea7662)は偶然墓参りに来ていた老婆に声をかけ、話を聞いてみることにした。
「夜は物騒だから近付かないようにしているんだよ」
白い花束、小さな手桶には透明で冷たい水が入っている。聞けばほとんど毎日墓参りに訪れているという。墓とは死者ではなく、生者の為にある。亡くなった者が死後安らかに眠ると思うことで、残された者が救いや安堵を得る。
でも、いつからというのは‥‥はっきりとわからないねぇ」
申し訳なさそうに頭を下げる老婆と別れ、四人は墓場を後にした。
●月下の狂気
「気を引き締めて参りましょう。数が少なければよいのですが‥‥」
微かに水気を含んだ夜風に大神萌黄(ec1173)が眉を寄せる。ねっとりと肌に絡む生暖かい風など、不快以外の何物でもない。もしかしたら明日辺り雨が降るのかもしれないと、そんなことを考えつつ、唇を閉じる。黒色の髪は闇と同色、ともすれば溶けてしまいそうだ。心を落ち着かせデティクトアンデットの魔法を使用する。それと同時、萌黄の身体が薄らと白の光に包まれた。
「‥‥三。いえ、四ですね」
冒険者たちの声を聞いてか、使者たちが集まってきた。破れかけた衣服を纏い、虚ろな目をしてゆっくりと近付いてくる。口元にまだ新しい血がこびり付いている者もいるようだ。「食事」をした後なのかもしれない。萌黄は魔法で得られた情報を仲間へと伝える。人数で割ればちょうど一人一体か。
レティシアはファンタズムで太陽の幻影を作り出す。暗闇に突如現れた光に気付いた死者たちは、緩慢な動きで光の方へ歩いて行く。誘導作戦はひとまず成功だ。敵の動きを確認すると、なるべく音をさせないようにしながら仲間の後方へ下がる。
墓場のある地点から突然火が上がる。ミズホが昼間用意した葉に火を放ったのだ。レティシアの幻影と合わせ、これならば夜でも戦いに必要な光源に足りるだろう。
「一番手はもらうのじゃ!」
雅が竜巻の術を発動させると地面の塵が舞い上がり、傍にいた死者二人を空中に飛ばす。ぐしゃりと落下する瞬間に重ねるように、萌黄のピュアリファイ。浄化の光に傷を負った死者が低く呻き声を響かせた。
言葉にならぬ声を発しつつ、腐乱した身体を引きずり死者たちが雅とミズホに襲い掛かる。一度目、雅は紙一重で回避したが、爪での攻撃を一度受けてしまった。腕の皮膚をすっと裂かれ、血が滲む。
「‥‥ッ」
ミズホも爪での一撃を受け、唇を噛む。だがまだ傷は浅い。大丈夫だ。もう一撃は純白の翼を持ったペガサスのミューゼルに向かう。当たる、そう思われた爪攻撃。だがミューゼルは地面を蹴ってひらりと回避してしまった。
「ここで使うしか‥‥」
夜の墓場に似合わぬ音が響く。弓で援護する為にも、ある程度距離が欲しい。ミズホが鳴弦の弓を鳴らすと、その厳かな音で死者たちの動きが鈍る。
(今です!)
攻撃するなら今が好機だ。テレパシーを使い、レティシアが雅へと戦況を伝える。
雅が深呼吸を一つ、そして腰を低く落とす。忍者刀が月光を受けて煌き、死者の身体を薙いだ。萌黄が放つ浄化の光、そしてミズキが後方より弓で援護。一度、二度では倒れなかった使者たちも冒険者たちの攻撃に次第に傷を深くし、一人そしてまた一人と地に伏せていった。
「よーし、これで最後じゃ‥ッ!」
傷を負いながらも雅が振るった忍者刀が、言葉通り最後の死者を切り伏せた。
●死者へと捧ぐ鎮魂歌
「安らかにお眠り下さい」
戦いを終えた翌日のこと。冒険者たちと依頼人はそろって墓地を訪れていた。摘んできた花を供えた後、萌黄が厳かに手を合わせると揃って他の四人も冥福を祈り黙祷を捧げた。
「これで安らかに眠ってくれるといいんだけど」
ミズホが言うと、依頼人も深く頷く。
「忘れ去られし者達にせめて鎮魂を‥‥貴方達を知る者はここにいるわ」
高く低く歌い上げられる鎮魂歌。風に乗り、空に昇り、浄化された魂にも届くはずだ。
思うところがあったのだろう。レティシアの提案もあり、依頼人は寺を任せられる僧侶を探し、自分もまた墓地の管理を手伝うようになったという。後悔の先に、償いの日々を誓って。