狼退治!

■ショートシナリオ


担当:水瀬すばる

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月19日〜03月24日

リプレイ公開日:2007年03月28日

●オープニング

●狼退治
「‥‥というわけで非常に困っている」
 単身ギルドにやって来た男は、言葉通りほとほと困り果てた顔で受付員に零した。見れば中年の働き盛り、人の良さそうな雰囲気に愛嬌のある顔をしている。
「山奥の村と、麓の村。それを繋ぐ山道に、狼の群れが出るようになってな。それだけならまだしも、通る人をも襲うようになっちまった」
 一つ一つ言葉を探し、癖のように頬を掻きながら男は続けた。
「もしかしたら今年は山の幸が少ないのかもしれないし、他に何か理由があるのかもしれない」
「そうですね。今は理由を調査するよりも早急に道を開くことが重要でしょう」
 村はほぼ自給自足の生活を送っているが、外部とも交流がないわけではない。商人を始め、人の出入りもある。
「一番心配してるのは、医者だ。急病人が出た場合は麓まで医者を呼びに行かなくちゃならない」
 出来るだけ急いで対処するべき依頼だろう。そう判じた受付員は深々と頷き、必要事項を書き留めていく。
「奴らが出るのは大抵、夕刻だ。ちょうど日没寸前から暗くなる頃。場所は‥‥」
 と言って男は、受付員の用意した地図のある一点を指差した。村と村を結ぶ中間地点だ。
「群れを統率しているのが一匹いる。灰色の大きな奴だ。こいつは特に身体も大きいらしいし‥‥」
 崖の近くで、少し離れた場所に小さな泉がある。木々の生い茂る地で水場の辺りだけ開けていると、地図は示す。野宿をするとしたら使えるだろう。
「それじゃ、宜しく頼むよ」
 そう言って男は、深々と頭を下げた。

●今回の参加者

 eb8882 椋木 亮祐(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec0997 志摩 千歳(36歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ec1852 高町 恭也(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec1855 朝倉 新八(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●出発
「皆、集まったようだな」
 初対面ではあるが依頼の為に集った四人は依頼人の村で顔合わせをすることにした。早速切り出したのは椋木亮祐(eb8882)だ。茶の瞳の奥に強い光を宿し、三人へ視線を巡らせる。
「まぁまぁ。もっと肩の力を抜いて参りましょう」
 志摩千歳(ec0997)が微笑む。ある程度の緊張感は大切だが、張り詰めた糸は切れやすい。ちょうど良く場の空気が和んだところで、一行は今回の依頼や作戦について改めて話し合い、水場や山道の場所を確認した。群れの大きさについては、依頼人本人の口から伝えられた。そう数は多くないらしい。
「それじゃ、‥‥本当にお気をつけて」
 依頼人や村人に見送られ、一行は山を目指して出発した。

●野宿
「この辺りにしましょうか」
 村から離れ、山道を行く一行は高町恭也(ec1852)の声に応え、水場の近くで野宿の準備を始めた。
 もう既に薄暗い。太陽が地平線の向こうへ沈み、昼から夜の時間へ移り変わろうとしている。
「ただ保存食を食べるだけでは味気ないですから、宜しければ一手間かけましょうか?」
 夜風に黒髪を揺らして千歳が声をかけた。もちろん皆賛成の様子で、朝倉新八(ec1855)も頷く。恭也から調理道具を受け取り、千歳は味噌や醤油を使って手際良く具材を調理していくと、良い匂いが辺りを包み込んだ。
「ふふ、一応、味噌と醤油で豚汁風に味付けしてみましたけど如何です? 温まりますよ」
 保存食だけでは恐らく味気ない食事に終わっていただろう。暖かい食事を終えた後、亮祐の提案を受け、男たち三人で火の番をすることになった。申し訳なさそうな顔をしながら千歳は一時テントの中に入って行く。

●接触
「‥‥?」
 火の番をしていた時だ。恭也は何かの気配にふと顔を上げた。墨を流したような漆黒の闇にじっと目を凝らし、風に騒ぐ木々の葉の音さえも聞き漏らさぬように耳を澄ませる。低い獣の唸り声を聞くと同時、恭也は腰を上げて三人を起こしに向かった。 
「‥‥これは。囲まれているようですね」
 新八が眉を寄せて言う。水場を背に、三人は千歳を中に入れる隊列を作る。戦闘時には彼女の支援が大きな力になるとの判断からだ。
 闇に目が慣れてくると、ぼんやりと獣の姿を判別できた。外見は犬に近い。ただ違うのは、物騒な殺気と野生動物独特の風格。
「待ってください。ここは私が」
 片手で制し、新八が進み出る。群れの頭らしい狼を見つけると、オーラテレパスを試みた。闇の中、精神の集中に伴い新八の身体が淡い薄紅色の光に包まれる。何故、人を襲うようになったのか。できるならぱ話し合いで解決したい。新八の想いで一瞬は言葉が通じたようにも思われたが、残念ながら結果は成功とはいえなかった。
「‥‥っ」
 話し合いが無理ならば力で解決するしかないだろう。だが一行が動くより先に、狼の鋭い牙が新八に襲いかかる。幸い大きな傷ではないが、腕にじわりと赤い血が滲む。空気を震わせ、鋭い刃が狼を捉える。獣の短い悲鳴。横合いから亮祐がソニックブームを放った。真空の刃は獣の身体を切り裂き、一撃で大きな傷を負わせた。並みの刀ではそうはいかないだろう。恭也も黙って見ているわけではない。狼との距離を詰め、右と左、両の手に得物を握り狼へ振るう。 
「やはり、穏便に解決‥という訳にはいかないみたいですね‥‥」
 コアギュレイトを群れの一匹に放ち、動きを止める。直接的な傷にはならないが、仲間への大きな助けになるはずだ。戦いを見守りながら、前衛から少し離れたところで悲しげに千歳が呟く。誰の耳にも届かぬ独り言は、慰めるように夜風が攫って行った。
 最初こそ不意打ちをかけた狼が優勢に見えたが、亮祐の攻撃を中心に徐々に狼たちを押し返しつつある。もちろん得物を振るう三人も無傷とはいかないが、後方支援専門にまわった千歳からの回復魔法が心強い。
「千歳さん‥‥!」
 しかし突然一匹の狼が千歳の方にぎらついた目を向け、吠え声を響かせ獣が走る。それとほぼ同時、黒い影が地面を蹴って動いた。
「ぐるる‥‥!!」
 感じるはずの痛みがない。恐る恐る千歳が目を開くと、庇うように立つ亮祐の姿があった。
「大丈夫か?」
 恐怖に染まりかけた黒い瞳が凛とした光を取り戻す。小さく頷き返す千歳に、亮祐もまた笑みを返した。
「これで‥‥!!」
 細く鈍い金属が月の光を反射する。
 恭也の持つ日本刀が、最後の狼を地に切り伏せた。

●帰還
「お疲れ様でした。ご無事で何よりです」
 傷を負いながらも五体満足で狼を倒し一行は山を降りることができた。山奥の村と麓の村、その二つを結ぶ山道も、これで安心して通ることができるだろう。依頼人の話によれば、つい最近医者を呼ぶような事態が発生したらしい。急のお産だ。あの山道が使えなければ、今頃どうなっていたかわからない。迅速な対応に依頼人も感謝していると伝えた。
 そしてギルドの受付員はそれぞれに正当な報酬を手渡しながら、四人の無事と依頼の成功を喜ぶのだった。