奪還屋募集!

■ショートシナリオ


担当:水瀬すばる

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月23日〜03月28日

リプレイ公開日:2007年03月31日

●オープニング

 鴉。
 この国ならば大抵の場所で見る事ができる、人間にとって身近な鳥だ。鷲や鷹よりは幾分小型ではあるが、そのクチバシで繰り出される攻撃を甘く見てはいけない。加えて高い知能を持ち、光るものに興味を持つ。
 今日ギルドの手代が受け付けたのは、そんな鴉絡みの依頼だ。
「そうなんですよー。あの山で昼飯食べてた時に、取り出して眺めてたら。ちょっと手放した隙に持って行かれてしまって」
 ああ困ったと頭を抱えているのは小柄な行商人の男。大きな身振り手振りを加え話し続けた。
「あの瑠璃玉(ガラス玉)は元々、ある仏像の台座に使われていたものでしてね。今じゃヒビが入ってしまって大した価値もないんですが‥‥」
 藍色をした小さな玉、彼にとっては大切な物らしい。ある寺の者に、品物の代価として貰った物だと話す。思い出話を口にしかけ、首を振って自ら遮ってしまった。昔の話だから、と。
「自分の大事なものが、よそ様にとっては石ころ同然。ってのは良くある話でしょうけど‥‥」
 ここなら腕利きの人が集まると聞き、彼は山を降りてギルドへ大急ぎやって来たというわけだ。
「山奥に鴉の巣があるのを見つけまして。えぇ、走って追いかけたんですよ。でも途中で見失ってしまって。きっと、その巣にあるに違いない」
 彼は山の地図を指で辿り、山道から少し外れた場所でその指を止めた。
「この辺りだと思うんですけどねぇ‥‥あれから何だか商売にも身が入らない。宜しくお願いしますよ」

●今回の参加者

 eb1872 瓜生 ひむか(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3402 西天 聖(30歳・♀・侍・ジャイアント・ジャパン)
 eb5009 マキリ(23歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb5228 斑淵 花子(24歳・♀・ファイター・河童・ジャパン)
 eb7343 マーヤ・ウィズ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ec1899 真 かっぱ(24歳・♂・忍者・河童・ジャパン)

●リプレイ本文

●いざ、出発
「それじゃ、いきましょうか」
 村に集まった一行は瓜生ひむか(eb1872)の声に頷くと、巣の探索に向け出発した。太陽はまだ頭の上、昼を過ぎたばかりだ。青い空に白い曇。春の風が心地良く肌を撫でては通り過ぎていく。朝は少しだけ霧雨が降っていたようだが、昼を過ぎると嘘のように綺麗な晴れ。探索より散歩に似合いそうな天気だ。
 村から山までは徒歩で少しかかる。その間にマーヤ・ウィズ(eb7343)は皆に鴉の習性や生態など、これまで身につけた知識を話すことにした。身近な動物でも意外と知らない事があったりと、聞く側は新しい発見に感心する場面が少なくなかった。
 さて。そうしている内に一行は依頼人が示した場所に辿り着いた。しかしこれが本当に件の巣とは限らない。少し離れて巣を見てみるが、やはりはっきりとはわからない。その時だ。
「‥‥恐らく、あれで間違いありませんわ」
「そうだな。俺にも見えた」
 太陽の光にきらりと小さく光った瑠璃玉が、マーヤとマキリ(eb5009)の目に映った。これで場所は確定した。次は奪還への作戦だ。
 巣の近くには数羽の鴉の姿も認められた。巣から強引に奪い取ろうとすれば、双方に多少の血が流れるのはほぼ間違いないだろう。しばらく話し合いを重ねた結果、鴉は追い払うだけで大きな攻撃は加えないことになった。依頼は瑠璃玉の奪還であり殲滅ではないとの意見からだ。マーヤと西天聖(eb3402)そしてマキリが光物や矢を使って鴉を遠ざけ、その隙に斑淵花子(eb5228)とひむかが巣に向かう。一人一人が重要な役割だ。成功を強く祈り、一行はそれぞれの持ち場へ急ぐ。
 雨上がりの青天を見上げ、楽しげにマキリが笑った。

●奪還・瑠璃玉!
 一番手はマキリだ。巣に向かい早足で近づくと、弓の為に矢を一本用意する。鴉に直接当たらぬように気をつけながら、弱く矢を放つ。空の青色を背景に、緩い半円を描いて矢が飛んでいく。見事な腕前だ。それに気づいた鴉が何事かと高く一鳴き。続いたのは聖。マキリの近くまで移動すると、手に持った銅鏡で光を反射させる。光物に興味を示す鴉だが、その一方で光物を恐れることもある。しかし興味を引かれた様子で、鏡の反射する光を見ている様子。聖は根気良く二度三度とそれを繰り返す。マーヤの放ったグラビティーキャノンにはさすがに鴉も驚いたようで、光物を一瞥すると大きな黒い翼を広げてマーヤたちの方へ飛んで来た。
 当初の作戦通り、その隙に花子が木の幹へ向かう。共に木へと辿り着いた二人。だが飛んで行った鴉たちに気づき、ひむかはファンタズムの詠唱を始める。詠唱と共に身体が銀色の光に包まれ、マーヤの近くに銀色の美しい置物を作ることに成功した。幻影は幻影、触れてしまえば気づくものだが、少なくとも鴉は興味津々の様子、マーヤたちよりも置物のまわりを飛び回っている。
 陽動作戦成功だ。
 焦げ茶色をした幹に緑色の葉。木は大きく、登るのはそう難しくはないようだ。そう判断したひむかは深呼吸を一つすると、幹に足を掛けて登っていく。片手には予めマーヤから受け取った巾着。ヒビの入っている瑠璃玉を割らぬようにとの配慮だ。入れてしまえば割れずに済む。
「大事な玉は一個しかないだけでなくデリケートなので優しく扱うのでぃすよ」
 木の下から花子が声をかける。指先で探ってみると巣の底に小さな瑠璃玉を発見、ひむかは巾着の中へするりと滑り込ませた。
 鴉はしばらく銀色の置物の近くを飛んでいたが、黒い嘴で突付いてみると実体がない。何度か突付くも結果は同じ。そうしていると花子とひむかが宝物を奪ったのだと思い込み、颯爽と鴉が空を飛んで来る。青い空に黒き大鴉。威嚇を兼ねてマキリが矢を放つが、鴉は去る様子を見せない。
「彼らの習性の様じゃし、あまりいじめるのも可哀想な気もするのじゃ」
 陽動作戦を終えた聖は銅鏡を片付け、羽ばたく鴉を見つめる。冒険者の気質から一度は剣に手をかけるが、情から手を離してしまう。
「大切な物を返して貰いたいんです。駄目ですか?」
 ひむかがチャームを発動させると、あれほど暴れていた鴉が嘘のように大人しくなる。木の枝に止まり、苛々した様子で鳴くのも止めてしまった。マーヤたちはそんな様子を見守っている。
 テレパシーを使い鴉との交渉を試みてみるが、鴉を相手に細かな交渉は難しいようだ。何か言うように一鳴きすると、何処かへと飛び去って行ってしまった。

●帰還
「よくご無事で」
 町に戻った一行は報告の為にギルドへと戻った。ちょうど他の用事で来ていた依頼人本人も居合わせ、心から無事を喜んだ。
「いや、すまなかったね。ただの石ころに手間をかけてしまって」
「見た目では無いですわ」
 気恥ずかしそうに頭を掻く依頼人にマーヤは首を振る。
「‥‥それでは鴉を傷付けなかったと?」
 聖たちの話に依頼人は驚いた様子で、マキリの持つ弓を横目に言う。
 矢は何にも当たることがなかったので、マキリは鴉たちがいなくなってから運良く回収することができた。
「貴方たちは冒険者として立派な技と心をお持ちなようだ。瑠璃玉も無事に戻ってきて嬉しい。何より‥‥無益な殺生を好まないとは、実に気持ちの良い人たちだ」
 思い出の瑠璃玉を受け取った依頼人は、そう言って笑うのだった。