護り屋募集!
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■ショートシナリオ
担当:水瀬すばる
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:04月09日〜04月14日
リプレイ公開日:2007年04月11日
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●オープニング
●袖にされる男の巻
「男が頭を下げているのですぞ。それでも‥‥!」
「何度言われようとも同じこと。私には心に決めた人がおります」
白い雲が空を流れ、高く輝いていた太陽が西へと沈み始める。此処はある小さな道場。子供たちや若者に剣を教える場だ。中では若い男と女が向き合い何やら話し込んでいる様子。聞いていれば時折荒げた声が外にまで洩れ、穏やかではない。
女は道場主の一人娘。つい先日父を肺の病で亡くし、その葬儀を済ませたばかり。気丈に振舞っていても顔には疲労の色が濃く現れている。
一方向き合う男、年頃は娘より五つ程上だろうか。浪人風の身なりだ。
目を血走らせ、欲望と苛立ちに濁った目をぎらつかせて娘にずいと迫る。元はこの道場に通う身であったのだが、酒に酔い乱暴を働いたと破門されていた。
娘が紙屋のせがれと一緒になるのだと聞き付け、何日も前からこうして「実は心惹かれていた」と押しかけて来る始末。長い間姿を見せなかったのにと溜息をつく。最初はやんわりと断った娘も、今ではうんざりとした顔を隠しもしない。
「しかし! よりによってあのような‥‥もやしのような優男を選ぶとはッ」
「あの方と一生添い遂げると決めたのは私。その暴言、私に対する辱めと受け取って宜しいでしょうか」
う、と男が詰まる。
「‥‥お引取りください。お会いするのもこれが最後です」
迷いはない。凛とした声で娘が言い放つ。
このまま言い合っても無駄とやっと悟ったのか、男は悔しそうに腰を上げる。そして最後にこんな事を言い残し、その場は去って行った。
「諦めはしませんぞ。例の日の夜、必ずお迎えに参ります」
●袖にする女の巻
生命と貞操の危機を感じた娘は、考えた末にギルドへと足を向けた。
「はい。私の家では代々変わったしきたりがございます」
ギルドは今日も依頼を出す人々や、それを受ける人々で混み合っている。慣れぬ場所で娘は緊張してはいたが、そこは専門の受付員。穏やかな笑みで依頼人の緊張を解き解し、世間話なども交えながら必要な情報を聞き出していく。
「嫁ぐ前日の夜、小屋に一人篭り家宝の護り刀を抱いて過ごすのです。古くは云われがあったようですが、その意味を聞く前に母が亡くなってしまって」
結局云われは知らぬままだという。俯き黒い瞳を伏せた。
「あの男はしきたりを知っている様子でした。性質の悪い浪人を金で雇い、夜にやって来るに違いありません。一晩、私を護衛して欲しいのです」
●リプレイ本文
●それぞれの一日
「同じ女性として、こんな困ってる娘さんを無視なんてできないわ。 こういう女性に無理強いをするような男は思いっきり懲らしめてやりましょ」
事前準備の為、一旦茶屋に集まった六人の護り屋。十六夜りく(eb9708)が力強く切り出すと、一同は深く頷いた。人を恋い慕う想いはその人だけのものだ。欲望の黄金や荒々しい暴力で容易く変えられるものではない。その心を汲み取り、娘を助けたいと思うのは集まった冒険者が皆思うところなのだろう。
しばらく相談した結果、しきたりに使われる小屋の調査へ向かう班、そして情報収集の班に分かれて動くことになった。
「酒場で情報を集めておこう。例の紙屋にも寄ってみるつもりだ」
「ありがとうございましたー」
大蔵南洋(ec0244)は茶を飲み終えると、腰を上げて人込みの中へと紛れて行った。茶屋の主は立ち去る様子に気付き声をかける。ごろつきの浪人かとも一瞬思ってしまったが、そこは商売人。数え切れぬ程の人間を見てきたその目は節穴ではない。性質の悪い輩とは違うようだと、柔らかい笑顔を浮かべ、またどうぞと南洋を送り出した。
残された五人は良い情報が集まるようにと願いつつ背中を見送り、予め依頼人から聞いた場所へと向かう。
「好いた惚れたほど、事を拗らせるものは無いもんだ。そんでも相手を思いやる気の無いものは、どんだけ想いが強かろうとタダの独り善がりだからな」
辿り着いたのは、郊外にある廃屋だ。今は誰も住んでいないが、中はある程度手入れがされている様子。御簾丸月桂(eb3383)はまず小屋のまわりをぐるりと歩き、それを終えると今度は戸を開けて中へ入る。肉眼でさらりと見た後にエックスレイビジョンを使ってみると、不審な場所があるのに気付いた。
「そっちはどうだ?」
「いや、特におかしなところはないようだ」
外側から窓を調べているのはアクティオン・ニアス(ec0777)と石動流水(ec1073)だ。明り取りの窓に触れたり覗いたりと丹念に調べてみるが、異常はない。
「強なれば之を避けよとも言う。抜け道がないとも限らない。‥‥りく殿、どう思われる?」
藤嵐誠之進(ec2056)が零したのは兵法の書の一部だ。人間、頭に入れたものしか取り出せない。常日頃から書を読む誠之進の言葉らしい。りくも抜け道の可能性を考え、小屋にあったロープを身体に結び、井戸へ下りてみることにした。慎重に井戸の縦壁を下りて行く。途中するりと足を滑らせ体勢を崩してしまうが、深呼吸を一度、そうして無事に底まで足を付けることができた。水はない。枯れ井戸のようだ。薄暗い空間に良く目を凝らしてみると、端に人一人やっと通れるような穴を見つけた。
一方その頃。紙屋の息子に注意を促した後、情報収集に南洋が向かった先は酒場だ。といっても中身はそば屋で、多少の酒を出すというくらい。しかし人の集まる場所、聞き込みをするにはちょうど良い所だろう。
「あの壮大な計画を実行する日が、ついにやってきたというわけだ。明日は頼みますよ、先生!」
探すまでもなかったようだ。昼間から安酒を煽り、まわりの客の顰蹙を買いながらも馬鹿騒ぎする男が一人、隣には浪人風の身なりをした男が座っている。
「ま、一杯どうだ」
「ほう。これは話の分かる。何、気の強い女でな‥‥」
依頼人から聞いていた人相を思い出し、南洋は気安い風で近付く。一杯奢ってやり、適当に話を合わせては情報を聞き出そうとする。娘に対する侮辱の言葉には腹の中で思うところがあるものの、自らの目的の為にじっと耐え、襲撃人数を聞きだすことに成功した。
●護り屋参上!!
「それでは、宜しくお願いします。‥‥それからこれ、とても可愛らしいものですね」
「あぁ。キミも気をつけて」
アクティオンが手渡した小さなベルを掌に乗せ、娘は微笑んだ。何かあれば鳴らすと約束した上で、一人小屋の中に入って行った。夕刻、太陽が地平線の向こうへと沈む頃だ。夜には少し早いが、遅過ぎるよりは良い。遠くで鴉が鳴くのを聞きながら、六人は定位置へと散って行った。月桂は小屋の裏手にまわると、自分にインビジブルをかける。
「嫁ぐの前の夜に護り刀を抱いて一人で過ごすなんて、どういう云われなのかしら」
りくが一人呟くと、独り言は冷えた夜気に溶ける。枯れ井戸は昼間の内に、木の板を使って塞いでおいた。それだけでは不十分との声もあったが、りくは逆にそれを囮として使おうとの提案を出す。危険がないわけではないが、それに見合うだけの効果は期待できる。その案でいくことになった。
娘が入ってから、どのくらいの時が過ぎただろう。太陽が沈み、冷たい月が空に輝く。じっと息を殺し、南洋の持って来た情報を頭に留めながら六人の護り屋は待った。
「こっちです、先生」
浪人数人を引き連れた男が現れたのは、猫の爪のような月が随分と高く昇った頃だった。人影に気付いた流水は小声で仲間へ知らせる。
「何だ、お前たちは?! 邪魔だ。そこを退け!」
娘が冒険者を雇うと思っていたか否か、とにかく男は大声で騒ぎ立てる。物陰に身を隠していた流水はさっと立ち上がり、月光の下に姿を現す。
「あんたの娘さんに対する強い気持ちはよ〜く解かる。一途なんだね、きっと。 だが、娘さんにはあんたの気持ちを受け入れる事はどうしてもできないんだ」
娘の言葉を代弁し、ここは何とか引くようにと説得を試みる流水。
「ここであんたが黙って引き下がってくれたら、男の株も上がるってもんなんだがねぇ」
男は苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、やはりここまで来て引ける程大人にはなれなかったようだ。声を荒げ、当初の計画通り娘を浚うようにと浪人たちに命じる。
説得が上手くいかなかったのだと悟ったりくは、片手で印を結び春花の術を発動させる。固まっていた浪人の内、二人がふらりと倒れて眠ってしまった。残るは三人。アクティオンがそれに続き、ダブルシューティングで二本の矢を放つ。浪人の一人に見事命中し、傷を負わせた。
「お前達こんな馬鹿の為に命を捨てるつもりか?」
男を鋭く一瞥し、南洋が言い放つ。純白の刀身を振り下ろすと、浪人の着物が赤い血で染められた。もう動けぬ様子で地面に蹲ってしまう。流水は得物を握り締め、浪人の一人に振り下ろす。手段は褒められたものではないが、娘を想えばこその行動だ。男に同情的な意を持つ流水は、木刀を使うことにしたのだった。誠之進は灯り取りの窓から、そっと中の様子を窺う。娘が短剣を抱き、中でじっとしているのが見えた。
「何と?! これでは使えぬではないか!」
流水の一撃を受けながらも、一人の浪人が井戸へと駆け寄る。中の抜け道を使うつもりだったようだが、木の板で塞がれており入ることができない。小屋の正面だけでなく、どうやら小屋の上からも援護の人間がいるようだと男はようやく悟る。
「しかし、これだけでは終わらせん!」
男の後ろから体格の良い浪人が姿を現す。小太刀が揺らめいたかと思うと、浪人は南洋に向かって斬り付けてきた。
「……ッ」
傷は負ってしまったが、まだ動けるようだ。南洋は刀を握る手に力を込める。
「しつこい男は万国共通、好かれるモンじゃないぞ〜? あんたもいっぱしの矜持があるなら、ゴロツキ雇って力づく…なんて格好悪い真似はしなさんな」
裏手から走り寄って来た月桂が諭すように言うも、欲望に濁った男は聞き入れようとしない。
「本気で彼女を好きだというなら、彼女願う幸せくらい理解してやることだな」
閉じた傘で突き刺そうとするが浪人は紙一重で回避。その後、りくが小屋の上から大ガマの術を使い援護にまわる。浪人の上に大ガマを落とし、動きを封じようという作戦だ。幸運にも策は成り、浪人は地面に倒れ込んでしまう。
「男なら女を困らせるようなことはするなよ」
アクティオンは静かに唇を動かし、矢を射ることに集中する。放った矢は狙った通り、腕に命中した。
●暴走男の末路
「こんなはずでは‥‥!!」
りくの大ガマのせいで浪人は上手く動けず、そこを集中的に刀や弓で狙われてはさすがに耐えられない。所詮は金で雇われただけの人間、血を流し過ぎると雇い主を見捨てて逃げ去ってしまった。
「横恋慕浪人には決して渡さない」
「いや〜、やっぱり無理やりってのは良くないだろ。無理やりは。 同じ男として情けないよな。男なら振られたらきっぱり諦めるべきだろ」
六人に囲まれ、男はぎりぎりと歯軋りをする。
「‥‥もはや、これまでか」
事態が力や金で解決できないと知ると、がっくりと膝をついた。
娘がいる小屋の方をじっと見た後、二度と娘に近付かぬことを約束し、一人寂しく夜の闇へと消えて行った。その後、男の姿を見た者はない。遠くの町へ流れた、寺に入ったなどと噂が流れたが、その本当のところは誰にもわからなかった。