【神の国探索】消耗戦
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:7〜11lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 6 C
参加人数:10人
サポート参加人数:4人
冒険期間:12月29日〜01月01日
リプレイ公開日:2006年01月09日
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●オープニング
●
「真逆、『聖杯』の安置されている『聖杯城マビノギオン』が、リーズ城だったとはな」
「リーズ城を知っているのかよ?」
アーサー・ペンドラゴンは自室のテラスで、日課の剣の素振りをしていた。傍らには美少女が居心地が悪そうにイスに座っている。けぶるよう長い黄金の髪に褐色の肌、健康美溢れるその身体を包むのは白いドレス。誰が彼女を、蛇の頭部、豹の胴体、ライオンの尻尾、鹿の足を持つ獣『クエスティングビースト』だと思うだろう。
かつてのイギリスの王ペリノアの居城に、彼女は四肢を分断されて封印されていた。しかも、聖杯によって人間の女性へ姿を変えられて。
これにはクエスティングビーストを狙っていたゴルロイス3姉妹の次女エレインも、流石に騙された。
彼女を無事保護したアーサー王は、キャメロット城へ住まわせていた。
「ここより南東に50km、メードストン地方のリーズという村を治めている城だ。城主は‥‥ブランシュフルールといったな。名うての女騎士だが、聖杯騎士とは」
「聖杯は然るべき時にならなきゃ姿を現さないんだろうぜ。でも、てめぇらが手に入れなきゃ、俺だって『アヴァロン』への門を開けられねぇんだからな」
クエスティングビーストが真の姿を取り戻さない限り、神の国アヴァロンへの扉を開ける事は出来ない。
「しかし、この格好、何とかなんねぇのかよ?」
「グィネヴィアの趣味だ。もう少し付き合ってやってくれ」
クエスティングビーストは王妃グィネヴィアに取っ替え引っ替えドレスを着せ替えられていた。アーサー王との間の子供のいないグィネヴィア王妃にとって、彼女は娘のように思えたのかも知れない。
「アーサー王、失礼します!」
そこへブランシュフルールへの書状を携えて斥候に向かった円卓の騎士の1人、ロビン・ロクスリーが息急き立てて駆け込んできた。
「どうした!?」
「マビノギオンから火の手が上がっており、オークニー兵とおぼしき者達とデビルに攻められています!!」
「何、オークニー兵だと!? ロット卿は動いてはいないはずだ‥‥モルゴースか! デビルがいるという事はエレインもいるようだな。ロビンよ、急ぎ円卓の騎士に招集を掛けろ! そしてギルドで冒険者を募るのだ!!」
ロビンはその事を報せるべく、急ぎ引き返してきたのだ。
そして、アーサー王より、最後となるであろう聖杯探索の号令が発せられるのだった。
●リーズ城、裏門
「‥‥倒しても倒しても、まだ沸くか」
湖を前に、それを飛び越えやってくる悪魔達の群れに対して呻く騎士が一人。
尤もそれが紡がれたのは絶望からではなく、憤怒から。
「相応に覚悟が出来ていると見たが、そう受け止めていいのだな‥‥」
既に十数匹を屠るが、それでも未だ飛来する黒い霧にいよいよ持って彼は眼光鋭くそれをねめつけ‥‥動きが変わらない事から彼は次いで、唇の端を吊り上げ咆えた。
「ならば滅せよ、我が意思の前には貴様らの企み等儚きもの! 此処より先を通りたくば我が前にて意思を、意地を見せよっ!」
そして振るわれる槍から衝撃波が放たれれば、次いでそれが散開すると
「それを見せぬ者は何人たりとも『聖杯』が袂へは行かせんっ!」
自身の得物が届く領域にまで迫った悪魔を捉え直後、槍を一閃しては三匹のグレムリンを同時に切り捨てるのだった。
「‥‥流石、聖杯騎士と言った所か」
湖を挟んだその対面、彼と同じく憤怒の表情を浮かべた獅子の顔を持つ悪魔‥‥黒い馬に跨り日々を片手にぶら下げるその異様な姿を森の梢に隠しつつ、遠目僅かに見える光景から呆れるが
「何とかして湖まで引っ張り出せればいいのだが、さて‥‥まぁ一先ず、あそこに縛り付け疲弊させるか」
『聖杯』に辿り着く為、崩さなければならない障害をどうすべきか逡巡する悪魔だったがそれは一先ず無難な策で纏めると、手近にいる者達へ指示を出せば
「それよりもまず冒険者共と合流させない為‥‥」
所々で開かれている戦端を耳にしている悪魔は最悪の事態を防ぐべく、各個に潰す事を決めれば鬱蒼とした木々の群れに姿を消した。
●キャメロット城、自室
「‥‥ふむ、どうしたものでしょうかね」
それより時は遡り、アーサー王より命を受けてから暫く。
ユーウェインは今回の聖杯探索に当たりアーサー王より命じられたリーズ城、別名『マビノギオン』の防衛に付いてどうした物かと何時もの様に涼しげな笑みを浮かべながら、思案を巡らせていた。
「パーシ殿は正門と言っていましたね。ならば私は森を迂回して裏門にでも行きましょう‥‥とそう言えば、リーズ城には裏門はありましたか?」
「どうなんでしょう?」
先のやり取りから他の円卓の騎士達の動きを考えつつ、自身の動きを構築するがその途中でふとその事に思い至り、先日の件で恩義を感じ彼の部屋に居付いてはその整理をしていたイアン・ヴェルスターへ尋ねるも、彼は首を傾げるだけ。
「‥‥周囲を森と湖に囲まれ、堅牢であると言うリーズ城ですから入口が一つとは考え難いでしょう。まぁ行って直接、確認しますか」
「ユーウェイン様‥‥」
その答えに円卓の騎士は再び、先の話を思い出し‥‥本気か冗談か、そんな事を言えばイアンに呆れられると
「冗談ですよ、それでは斥候として一度見ているロビン殿に聞いてみる事にします。後は人を集めなければなりませんが」
「それなら、私が行って来ます」
「それでは、宜しくお願い出来ますか?」
表情を綻ばせ、外に降る雪と同じ色の白いマントを羽織ると続く冒険者達の招集をイアンに任せれば踵を返し、彼より先に自室を後に外の寒々しい光景を少し眺めて呟いた。
「‥‥今回もどうやら会いそうな予感がしますね、ローエングリン」
しかしそれとは別の、更なる試練が待ち受けている事に彼はまだ気付いてはいなかった。
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ミッション:リーズ城外に蔓延り城内へと侵入を試みるデビルを駆逐しつつ、『聖杯』へ至るだろう道の一つを切り開け!
達成条件:リーズ城裏口への到達、確保、防衛
失敗条件:達成条件が一つでも叶わなかった時
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)と防寒服一式は忘れずに。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(販売されていないアイテムに関して、使う場合はプレイングにて根拠の明示を忘れずに)
概要:聖杯に関する、最後のお触れがアーサー王より布告されリーズ城に安置されていると思しき『聖杯』の回収が今回の『聖杯探索』の主な目的となります。
この依頼では円卓の騎士、ユーウェインさんが務める事となったリーズ城裏口の確保をお手伝いして頂きます。
傾向等:純戦闘系
進行ルート:リーズ城外周の森へ突入し、正門とは真逆に確認されている船着場から船を用いて湖を渡り裏門を確保、防衛します。
NPC:ユーウェイン、???
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●リプレイ本文
●Fluctuation(揺らぎ)
『‥‥此処、は?』
目を開いた円卓の騎士の視界には、先程まで蒼かった湖の姿ではなく荒廃した火種燻る村が映し出される。
『これがお前の、円卓の騎士の、拭い切れない過去か』
その場に、何処からか響いてくる声に辺りを見回すも声の主は見付からず一先ず抜剣しては構えた直後。
『お前なら、今のお前なら救う事が出来るか?』
『‥‥出来るっ!』
問い掛けて来るその声に、顔を顰めながら僅かな間を置いてユーウェイン・ログレスはその声を振り払う様叫ぶ。
『ホントウ、ニ‥‥?』
だがその時に響いた聞き覚えのある声に彼は愕然とし、その身を震わせその名を呼んだ。
『っ‥‥アリーシャ!』
『ホントウニ、デキル‥‥ノ? アノトキ、ワタシヲミステテニゲタ‥‥ヨワムシノクセニ』
アリーシャと呼ばれた少女はユーウェインに対し一歩踏み出し、血に濡れた体から嫌な音を立て抜け落ちる右の腕を、舞い散る髪をそのままに一歩ずつ円卓の騎士へ近付けば囁かれる言の葉は毒の如く、彼の精神を蝕む。
『イマサラ、オソイヨ‥‥ワタシハヒトリダケ、イマサラダレヲスクッテモソノツミダケ、キエナイヨ?』
そして響くアリーシャの間延びした声の次、唐突に一閃が閃けばゴトリと落ちる‥‥彼女の頭部。
『ギゼンシャ‥‥ダカラ、ワタシハアナタヲ‥‥ユルサナイ。ワタシヲタスケテクレナカッタ‥‥ダイジナ、アナタヲ』
その、頭だけとなったアリーシャの後ろで彼女の体が崩れ落ちると転がる頭部から紡がれた最後の言葉に、彼は堪え切れず叫んだ。
「っ‥‥ぅあぁあっ!」
「ユーウェイン卿?!」
湖上で唐突に、叫ぶ円卓の騎士の様子に余程の事と察し珍しく狼狽するリースフィア・エルスリード(eb2745)の声はしかし、彼に届かず‥‥やがて円卓の騎士は苦悶の表情を浮かべると遂に膝を折る。
「人間であればどんな奴でも、後ろ暗い過去や拭い去れない後悔の一つ‥‥あるものさ。それが例え、円卓の騎士でもな」
「あれは‥‥ヴィヌか」
その時、唐突に響く声の主にそれが根源と踏んだアルヴィン・アトウッド(ea5541)が周囲を探り、見慣れぬ悪魔を見付ければ持ち得る知識からそれが何か見当をつけると
「持つ能力は確か、人の過去を垣間見ては付け入り揺さぶる事が出来た筈」
「‥‥それで、か」
「まぁまぁ、ユーウェイン卿も人の子ですから」
持ち合わせているヴィヌの力を見抜き言えば、レインフォルス・フォルナード(ea7641)が別段気にも留めず、円卓の騎士を見下すがその彼をトリア・サテッレウス(ea1716)が笑顔で宥め、円卓の騎士を庇った次だった。
「悪いが、そればかりじゃあないっ!」
「‥‥っ、皆気を付けて!」
そのヴィヌと、水を司る魔法の使い手であるディーネ・ノート(ea1542)が視界の片隅に蒼き光を捉え、叫ぶと同時‥‥一行が乗る船を中心に湖の水位が周囲30m程の範囲で下がる。
「参り‥‥ましたね、私達の力を‥‥確実に殺いだ上、足止めまで‥‥されるなんて」
「うーん‥‥結構これ、洒落になってない?」
その突如そそり立った水の壁を前にして尚、慌てた風もなく‥‥だが表情だけは厳しくして長寿院文淳(eb0711)が言葉に、皆が乗る船を一行の中で唯一持つ操船技術で手繰るピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ea7050)が苦笑を浮かべながら頭を掻き、誰かしらへ尋ねると
「敵の分布を見る限り、打破出来なくはないですが‥‥場所が何よりまずいですね。長期の戦闘をここで行うのは避けるべきなのですが」
「その様ですねぇ‥‥困りました」
上空をグルリと見回し、答えを返すフィーナ・ウィンスレット(ea5556)の判断は果たして正しく、お嬢様然としたロレッタ・カーヴィンス(ea2155)がのんびりした口調で呟くも、その様子と言葉から緊張感はどうにも感じられない。
だが足場がおぼつかない湖上に揺らめく、限られたスペースしかない船上で相対するのは翼持つ悪魔、例えその力量が一行より明らかに劣っていても地の利に数は相手が有利となれば、非常に厳しい戦いとなる事はこの場にいる誰の目から見ても明らか。
「それじゃあ‥‥始めようか!」
「くっ」
その一行の様子に表情は変えず、怒りを湛えたままヴィヌが鼻で笑うと次には配下の悪魔達へ号令を下せばグラディ・アトール(ea0640)は舌打ちをしつつ、それでも対悪魔用の聖剣を抜き払つと揺れる船上で黒き霧を迎え撃つのだった。
円卓の騎士が未だ、膝を着き呻くその中で。
●War of Attrition(消耗戦)
円卓の騎士、ユーウェイン・ログレスと一行が湖で窮地に陥るより時を遡り、リーズ城を前にする場面まで戻る事にしよう。
「聖杯がこうして世に出、デビルに狙われている以上、放っては置けません。それが何なのか確かめ、今後の対策を立てる必要があります‥‥この世界を守る為に」
「余り肩肘を張らずに普段通り行きましょう‥‥リースフィア殿もそうですが、皆さんも」
周囲を湖と森に囲まれ、堅牢に聳えるリーズ城を右手に見ながらその裏口を目指して森を駆け抜ける一行の中で静かに決意するリースフィアだったが、先を行くユーウェインに明るい声音で宥められると少しだけ肩の力を抜いて、背を向けている彼には見えないだろうが頷き返すが
「でもこれが聖杯に関しての最終決戦、ですよね。それならば円卓の騎士、ユーウェイン様と共に戦えるのもこれで最後でしょうから、頑張りましょう」
それでも一行の中衛辺りに位置するロレッタが普段とは裏腹、気を吐いて言ったその時だった。
「‥‥前方に何かいるな」
森のざわめきを感じ取ってアルヴィンの厳かな声が響けばしかし、皆足は止めず一斉に緊張感だけ張り巡らせると静かにそれぞれの得物に手を掛ける。
「さて、始めるか」
「‥‥信頼してるぜ、ディーネ。お前と一緒に戦える事は、俺にとってすっげー心強いよ」
「えぇ、宜しくね」
そしてレインフォルスの呼び掛けに皆が頷く中でグラディはその傍ら、姉の様に慕うディーネへ笑顔で心の内をそのまま言葉にするも、その彼女は既に場の雰囲気を取り込んでか素っ気無い返事だけ返すと
「ま、しょうがないか。とりあえずはやるべき事を‥‥やりますかっ!」
それに彼は頭を掻きつつも止むを得ないと割り切れば、動き出した一行に遅れじと更に前へと駆けるのだった。
一先ずは湖を渡る為、早く船着場へ至る為に。
「エルスリードが末子、リースフィア‥‥参りますっ!」
煌く聖剣を抜き放ち行く先を塞ぐ悪魔だけ打ち払おうとするリースフィアとグラディ、レインフォルスに文淳が先陣を務める中でそれを補佐する魔術師が三人とそれを警護する四人。
バランスの取れた布陣で、ピアレーチェが維持するディテクトアンデットから得られる情報も最大限に生かして警戒を厳に、極力少ない戦闘だけこなす一行は着実に船着場を目指し、進んでいた。
幸いな事に敵が悪魔とは言え、一行にとっては取るに足らない相手ばかりで同時に対する敵の数さえ少なくすれば、そう苦慮する相手でもなかった。
「‥‥そう言えばユーウェイン様が騎士になろうとしたきっかけとは一体、何だったのですか?」
その中でロレッタ、傍らを駆ける円卓の騎士の横顔を見て不意に問いを投げ掛ける‥‥さっきの言葉が普段と違うだけでどの様な状況に置かれても変わらず、自身のペースを崩さないのが彼女。
「そうですね‥‥以前にも少し話しましたが、無用な戦いを終わらせる為でしょうか」
それに円卓の騎士、彼女の問いに答えれば先まで普段と変わらず浮かんでいた微笑の質が僅かに変わると
「幼い頃、私が住んでいた村が夜盗の襲撃に遭いましてね‥‥それからですよ、自身を鍛え、護る為の力を手にしてから騎士に志願したのは。あの時、幼かったとは言え大事な人を守る事が出来なかった‥‥その時の後悔だけ拭う為に、此処まで来たのかも知れませんけどね」
「‥‥それでも誰かを、何かを守りたいと言う気持ちには偽りないのでしょう?」
どこか、影をその表情に走らせて言う円卓の騎士だったがその後に続いた黒き魔術師の問い掛けには、暫しの間を置いてから頷くと
「でしたら、何も問題はないと思います」
その彼にあえて難しい事は言わず‥‥もしかすれば言えなかったのかも知れないがそれだけロレッタが微笑を浮かべるとその逆に渋面を浮かべるユーウェインだったが
「まぁ余り、難しく考え過ぎない方が良いわよ」
油断なく周囲に視線を走らせながらもディーネが笑えば、どう返せばいいか円卓の騎士は一瞬戸惑うも‥‥皆の気持ちに感謝してだろう、笑顔で応えるのだった。
尤も、この後で彼の語った話が相当に根深い事を一行は知る事になるのだが‥‥今はまだ誰もその事に思い至る訳なく、ただ船着場を目指して駆けるのだった。
「う、ん‥‥?」
そして辿り着いた船着場、ある船全ては綺麗なままでそこにあった。
「おかしいですね‥‥私達が来る事を察知しているならある船は全て破壊するか、間に合わずとも抑えられていると思ったのですが」
「‥‥もし、船が破壊されていたらユーウェイン卿はどの様にして湖を渡るつもりだったのですか?」
その光景にユーウェインは珍しく難しい表情を浮かべ言えば、卿の言い様に首を傾げ尋ねるリースフィアへ
「対岸にも船はあるでしょう、ここで暫く戦闘をして敵の数を減らした後に向こうにいるだろう聖杯騎士殿に船を出して貰う様、お願いしようかと。志が一緒だと分かれば連絡を取らずとも、彼ならきっとその光景を見て分かってくれると思いまして」
その表情は変えず、根拠がないながらも円卓の騎士がそう断言すれば一行は誰しも苦笑を浮かべる他なく、それぞれに様々な反応を見せる。
「でも確かに‥‥此処に手付かずで船が残されていると言う事は」
がその中で話の最初に戻って思案めいた表情を浮かべるフィーナの呟きはその途中
「罠、だろうな。十中八九」
「どうした‥‥もの、でしょうね‥‥」
アルヴィンに引き継がれると、文淳を初め一行は悩む‥‥確かに今まで船着場に至るまでの経緯を考えればユーウェインの言う通りの結果になっていて当然なのだが、そうなっていない以上‥‥。
「時間が惜しいです、こうしている間にも対岸へ雑兵ながら悪魔が渡り攻撃を仕掛けている様子が伺えます。ならばやる事は」
「一つ、ですね」
だがそれでもユーウェインは一つ、決意をすればその後を継いで言うトリアへ頷き笑えば、皆を見回して賛同を得ると
「えぇ、察して頂けて光栄です‥‥それでは行きましょうか。船を操れる方はいましたよね?」
「はーい、あたしがやりますっ!」
最後の問いに対し、ピアレーチェが元気良く挙手すればそれを確認した後に円卓の騎士は早く、全員が乗れそうな船の間近にまで駆けるのだった。
●Eddying(渦巻)
「んー、結構な数が裏門に向かっているわね」
額に手を翳し、揺れる船上から周囲を今日も冴える視界で見回すディーネが言葉の通り、相当数の悪魔が裏門目指し、飛翔していた。
尤も半数近くは聖杯騎士が従えている、幾人かの部下が放つ魔法や矢によって湖上へと叩き落されていたが‥‥それよりも飛来する数が多い為、見た時のある聖杯騎士を筆頭に剣に槍等携える騎士達が上陸する悪魔達を打ち払っている。
「なら、急がないとね!」
「そうですね〜」
そのディーネの報告からピアレーチェ、櫂から片手を僅かに離して握り拳を突き立てれば、トリアが頷き詠唱の準備をすると上空を舞う黒い霧の一端が一行の船目掛け、方向を変えて来た。
「後、どれ位で裏門側の岸に辿り着く」
「まだもうちょっとだけ‥‥!」
その光景からレインフォルスが舟の漕ぎ手へ問うも、彼女から返って来る答えに止むを得ず剣を抜いたその時だった、不意にユーウェインが叫び膝を突いたのは‥‥。
「‥‥あれがこの辺りの悪魔を統率する頭か」
「恐らく」
リーズ城、裏門にて。
陥没した湖上を目にして、その直線上にいる他とは違う悪魔を辛うじて視認した聖杯騎士が一人、ローエングリンは槍を振るいながら側近の部下に問えば返って来るのは肯定の答え。
「状況は‥‥宜しくない様だが、何か手はあるか?」
巻物を手にする彼女へ、沈んだ先は見えないながらも敵の動きを察しての更なる問いに
「珍しいですね、そんなに気になりますか?」
「‥‥決着をつけていない、ただそれだけだ。それに敵は数だけだが多い、使えるものは使う」
微笑んで言う側近へ聖杯騎士は仏頂面で詰まりながら言うと
「まぁそう言う事にしておきましょうか、それでは三人程お借りします。多少時間を頂く事になりますが、何とかなると思いますのでご安心を」
「‥‥‥」
その彼へ意地悪げな笑みを浮かべ言えば、手近な部下達を呼び彼の沈黙を背に湖上へ少しの間を置いてから飛び出していった。
「進退窮まる、か。向こうからの支援も期待出来ない以上‥‥」
「まだ‥‥この程度で諦めるかよっ!」
その湖の陥没した区域の中心‥‥一行の船が揺らめく中で冷静に自身らが置かれている状況を言うアルヴィンへ抗うかの様、グラディは僅かずつだが数を増し迫る悪魔の群れ目掛け自身の闘気を掌へ集め放つも
「無駄足掻きするだけだと言うのが分からないのかよ!」
「っ‥‥疾く奔れ!」
対岸で雷鳴が如くヴィヌの咆哮が轟くと同時、僅かな時間差から水の礫が一行目掛け迫り‥‥だが直撃を前にフィーナとアルヴィンの高速詠唱を以て放たれた風の刃が寸での所でそれを叩き落す。
「参ったわね、マジカルエブタイドの効果って最短でも一時間は切れない筈よ。それに早く術者を倒しても効果は消えないから、当分ここは完全に隔離されたまま」
その間、改めて置かれている状況を観察するディーネだったが前向きな彼女でも至極冷静にそう言う辺り、またヴィヌと同じ水の精霊を手繰る術者としての判断に戦場の士気に僅かながら影が差す。
「‥‥ふん、面倒臭くなった。後の始末は任せる、俺はその間に向こうの聖杯騎士を‥‥」
そんな一行の雰囲気を遠目ながら察してか‥‥それとも言う通りに飽きただけか、蛇持つ悪魔が呟けば部下へ下す指示を詠唱の代わりに呪文を展開し、次いで水の上へ歩を進める。
その時、ヴィヌは気付いた‥‥自身とは別に向こうから湖上を歩いてくる人間が四人、一行と接触しようとしている事に。
「抜かりはない、か。流石は聖杯騎士‥‥だがやらせんっ!」
言うと同時、即座に組む印からやがて放たれるのは。
ばしゃり、水の跳ねる音が直上から聞こえて一行は頭上を仰ぎ見る。
「申し訳ありませんが風を一つ、貴方方が渡ってきた岸の方向にある、その段差へ放って貰えませんか? 出来るだけ大きなものを」
「どなた‥‥です、か?」
次いで数匹の悪魔が湖上へ落ちたのか、大きな水音が幾つか辺りに響く中で声の主の表情は太陽の逆光で見えなかったが突如振って来た声に慌てもせず、文淳は尋ねるも
「答えは後程、それよりも早くして貰わないと打つ手がなくなってしまいますよ」
女性の声だろうそれは時間がないと言う割、落ち着き払った調子で響くと即座に動いたのはアルヴィンだった。
「‥‥必要な時、必要な事をする。今自分がすべき事は、分かった。正直神の国だとかそんなものはどうでもいい‥‥」
印を組み、彼が紡いだ言の葉は果たして自身に対しての決意‥‥それだけは曲げる事叶わず静かに言えば
「俺はただ森の中で静かに暮らしたいだけだ、そして自分とその周りの平穏を崩す者がいるならそれは‥‥倒すだけ」
声の主に言われた通り湖の段差へ生み出したのは、荒れ狂う竜巻。
それと同時にヴィヌが放った氷の嵐は間一髪の所、聖杯騎士の部下達に届く前‥‥散り散りに霧散する。
「ちっ‥‥」
その散った氷の刃に塞がれる視界から舌打ちをする蛇持つ悪魔だったが、それが最後の言葉だった事には気付かないまま‥‥一塊の氷柱となって湖の底へ水没した。
「もう少し、出来るかと思っていたのですが‥‥残念です」
ヴィヌを封じた氷柱の呪文が印を華麗に解き払った後、先と変わらず涼やかな声で一行へ皮肉めいた言葉を掛ける聖杯騎士の側近へ誰しも返す言葉はなかったが
「ここで争っていては、悪魔にリーズ城を落とされます。それは望むべき処ではない筈‥‥此処は互いに背中を預けてはみませんか?」
「えぇ、ローエングリン様もそのつもりで今は貴方方と戦う気は毛頭ありません。むしろ貴方方の窮地を救ったその分だけ、働いて返して貰う様にと仰っていました」
それでもフィーナは動じる事無く強気に、一つの提案を持ちかけると段差の上から覗き込む彼女は微笑み頷いた‥‥何処となく意地悪げな微笑だったのは言うまでもないが。
「それで、どうすればいいのでしょうか?」
「この場でマジカルエブタイドの効果が切れるまで留まり、敵を可能なだけ惹き付けて下さい。指揮する者がいなくなったとは言え、相手からすれば我々の合流は好ましくないでしょう。無論その間、私達が皆さんの支援を行いますので」
その意地悪な問いへ別段気にする事無くトリアも微笑み聞くと、悪びれた風もなく返って来る彼女の答えに文淳。
「‥‥人使いの、荒い‥‥方なんです、ね‥‥ローエングリンと言う、方は‥‥」
「まぁ‥‥言う事は事実ですし、この状況では他にどうしようもありません。一先ずは指示通りに動く事としましょう」
率直な感想を言うも、先程の悪夢から逃れたユーウェインが頭を振りつつ窘めれば一行は止むを得ず、暫し船上の狂乱へ臨む事に決める。
「‥‥しかし歯痒いですね、まだまだ自身を鍛える必要がありそうです」
「そんな事ないよっ、誰だって消せない傷はあるから‥‥どんな事で苦しんでいたか分からないけど、悪魔の術中に嵌ってうんうん呻いていたユーウェイン様だってユーウェイン様だから、これからこれから!」
「‥‥えぇ、ありがとうございます」
その中で自身の至らなさから歯噛みするユーウェインへ、余計な一言を織り交ぜつつもピアレーチェが明るく笑って励ませば、彼女の言葉から緩む船上の雰囲気に苦笑を浮かべる円卓の騎士はやがて立ち上がり礼を言うと天空へ剣を掲げ、再び皆と『己』の戦いを始めるのだった。
●Fierce Battle(激戦)
「さて、どうやら一息の様ですね」
闘気の宿る剣を払って、ユーウェインが嘆息を漏らすも先刻までリーズ城裏門を覆うまでにあった黒い霧はほぼ消えていた。
あれからヴィヌが遺したマジカルエブタイドの効果が切れるまで船上で敵を誘い戦い続ければ一行、休む暇もなく裏門側の岸へと導かれてローエングリンらと共に迫る悪魔をひたすらに屠っていた。
クルードが放つ霧の息等から搦め手を用いては雪崩れ込んで来る時も何度かあったが、体勢を立て直した一行の前に雑兵はもはや雑兵でしかなく、ただ散るのみ。
「‥‥その様だな」
そしてユーウェインに応えるのはローエングリン、肩で荒く息をしながらも陽光に煌く槍の穂先を地へ穿ち部下達に指示を下せば次いでその視界に捉えるのは一行。
「協力に感謝する、だがそれも一先ずは此処まで‥‥貴殿らはこれから、どうする」
「私達は此処の防衛に徹するだけですよ、尤もこれから来るでしょう人達は此処も通って城内に至る筈ですが」
相変わらず厳しい面立ちで一行を睨み問うも、それに動じず円卓の騎士が微笑むと次の瞬間、場に膨れ上がる怒気。
「なっ‥‥」
「ならば覚悟せよ! 相手が誰であれ聖杯を守る騎士が一人、ローエングリンはそれを奪しようとする者には決して手を抜かぬっ!」
途端ざわめく草木から彼が放つ重圧をグラディはその身で感じ呻くと、僅かにたじろぐ一行を気にも留めず聖杯騎士は再び槍を抜き放ち、構えた。
「‥‥戦うしか、道はないのですか?」
「我が前に貴殿らが提示すべきはその意思、意思とは力、力とは意思‥‥全てがそうだとは言わん。だが確固たる意思なき者に、振るう先が分からぬ力なき者に聖杯を手にする資格はないっ!」
だがその姿に笑顔を崩す事無く、尋ねるトリアだったがローエングリンは尚も吼えると彼は緩む目尻を僅かに細め上げれば次いで、剣を抜き放ち天上へ声高らかに言い放つ。
「僕が今までこの国で見てきたもの。人の想い、願い‥‥願わくば僕は、それらの護り手でありたい。故に光の女神よ、照覧あれ! 我らがイギリスに、神の国を顕現せしめる為に‥‥この戦いの行先をっ!!」
その彼の叫びが戦いの合図となった。
「舞えよ、闇穿つ光の翼‥‥!」
悠然と構える聖杯騎士とその部下を前にグラディは、聖杯騎士の重圧を振り払おうと己の中に眠る闘気を迸らせて周囲の草木をざわめかせれば闘気を纏った彼は地を蹴り、猛然とローエングリン目掛け駆け出す。
「ローエングリンさん‥‥貴方が言わんとする事は分かりました、でも‥‥だからこそ俺はもっと、貴方を越えて『前』に進むんだぁっ!」
自身でも何を、何処まで至ろうとしているのか分からないがそれだけは決して曲げたくないと想い、叫ぶとただ彼へ一閃を打ち込もうとする。
だが彼のその気迫を持ってしてもローエングリンは揺るがず、己が槍を両の手で回転させ決意の一閃を弾けば即座に泳いだ彼の体、その肩へ容赦なく槍を突き立てるが
「近接戦は、得意分野でな」
僅かに揺らぎ出来た隙を見逃さず、レインフォルスが早く戻されては次は自身を打ち貫こうとする槍の穂先を掠めながらも避け、ローエングリンの懐へ飛び込み笑うが聖杯騎士とてそのままでは終わらない。
「それは‥‥奇遇だなっ!」
「‥‥ちっ」
そこで更に一歩、ローエングリンが踏み込んで同じ槍を持つ彼の間合をも即座に殺すと躊躇う事無くレインフォルスの顔面目掛けて膝蹴りを放ち、舌打ちする彼はそれを済んでの所で受け流し一時退く。
「その程度‥‥気迫がまだ足りんわぁっ!」
その戦士の行動に対し、聖杯騎士が一喝すれば次は彼の手番。
先のグラディとは違う、恐るべき速度を持って円卓の騎士の懐に飛び込めばローエングリンは嘲笑だけ浮かべ見せ付けると彼の突き押し、体勢を崩した後に一行の更に奥へと突き進む。
「もう誰も、失う訳には行きませんっ!」
「後悔だけはしたくない‥‥それが私の、小さいけれど確かな信念です」
「悪いけどまだやりたい事は沢山あるから、此処で止まる訳には行かないのよね!」
だがその眼前、何とか踵を返して再び立ちはだかるのはユーウェイン‥‥珍しく咆え、聖杯騎士を威圧し抑えればその僅かな間に鋭い眼差しを湛えたフィーナとディーネが次の一手の為、彼の体勢を崩そうとそれぞれに風の刃と水の礫をその足元へ放つ。
「‥‥ふん」
魔術師達の目論見通り、円卓の騎士に気圧され足元を穿たれ体勢を崩す聖杯の騎士は鼻を鳴らすが次に響くのは聖杯騎士とも、一行の誰とも違う涼やかな声。
「多勢に無勢‥‥幾らローエングリン様でも一人で皆さんを相手にする訳には行かないでしょう。無礼をお許し下さい」
ギクリとして先ず一行の後衛を護るロレッタが背後を振り返るその視線の先には、先に一行と接触した身軽な装備に身を包む女性騎士‥‥の筈だったが、彼女の口から紡がれているのは間違いなく何らかの呪文を発動する為の詠唱。
その彼女が纏う、蒼い光から嫌な予感だけ止まらないが
「それでも‥‥前へ進む事に私は惑わないっ!」
猛烈な勢いをつけ聖杯騎士へ突撃するリースフィアが叫ぶ通りに一行は止まれない、聖杯騎士達もそうだろうが先の戦闘で皆少なからず疲弊しており、またもう暫くあるかも知れない敵の攻撃を考えるとこれ以上、戦闘を長引かせる訳には行かない。
「人々の幸せを守る為に‥‥と言う事だけ、誓えます‥‥その為なら、私は」
「いっけぇー!」
そして聖杯騎士へ向け文淳とピアレーチェも彼女に続くと三人、掲げた武器が輝けば同時、寒き氷嵐の刃も舞って辺りに激しく陽光が乱れ飛び‥‥次いで皆の視界を白が覆った。
「どうして、聖杯騎士になろうと?」
戦い終わり、膝を突く一堂の中でやはり疲労感から座り込んだまま、衣服に纏わり付く氷を払いながらも凛とした声を響かせ聖杯騎士へ尋ねるフィーナの問いに、ローエングリンはリーズ城の壁を背凭れに寄りかかったまま、視線を伏せ呟く。
「聖杯騎士は、聖杯騎士の子として生を受けた瞬間から聖杯騎士となる事が決められていた‥‥ただ、それだけだ」
その吐かれた言葉は彼の過去を示唆するものだったが、聖杯騎士はそれ以上自身が過去の事については何も語らず‥‥話をフィーナが問いへの答えに近付けるべく、再び開く。
「だが、聖杯騎士の力に溺れている自身を戒め律する為に、改めて聖杯騎士を目指した、何かを‥‥誰かを倒すのに何も考えず力を振るうのではなく、確かな意思を持って何かを守る為に力を振るうべき事に気付いてな」
そして言の葉が途切れたのは一瞬、伏せていた視線を今になって上げると一行を見回し見据え
「確かに貴殿らは強い‥‥だがそれは上辺だけではないか? 決して皆がそうだとは言わないが一度、考えてみるがいい。過去の自身に対して今の生き方を、胸を張って言えるかどうかを」
ローエングリンは問い掛ける様に言うと一息ついて、壁から離れ立ち上がる。
「‥‥無駄話が過ぎたな、一先ず敵は追い払ったがこれからもまだ暫くは来るだろう。その間に貴殿らは」
「言えるさ! 誰よりも今の自分に誓って言えるっ! それは絶対に‥‥絶対だ!」
話を変え、対岸にまた少しずつ増えて来た悪魔を睨み据え言うもそれを途中でグラディが遮り断言すると、聖杯騎士は彼を見て僅かにだけ微笑めば飛来する悪魔をねめつけ輝く槍を振るおうとするが
「‥‥悪ぃな、守る戦いっつうのは苦手じゃねーんだよ!!」
しかしローエングリンの行動より早く、闘気を上空舞う悪魔へ放てば一行もやがて立ち上がると再び迫る悪魔の群れへそれぞれ、得物を掲げるのだった。
「よく言ったわ、その決意‥‥見せて貰うからね」
ディーネがグラディを笑顔で褒め称える、その中で。