最後と最先 『いやはて』と『いやさき』
|
■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:5
参加人数:13人
サポート参加人数:6人
冒険期間:01月05日〜01月10日
リプレイ公開日:2006年01月16日
|
●オープニング
●最先(いやさき) 〜レリア〜
「世話になった」
「いいえ、こちらこそ‥‥ですが向こうに当てはあるのですか?」
何時もの様に素っ気無く、束ねた髪を風に靡かせては背後に居る円卓の騎士、ユーウェイン・ログレスへ別れを告げるのはレリア・ハイダルゼム。
「あぁ、ちょっとしたきっかけで知り合った友人が居る。寺子屋もやっていて丁度がいい‥‥彼の為にもな」
「‥‥‥」
その円卓の騎士の問いにレリアは頷き答えれば次いで、傍らに居るエドワード・ジルスの無言の視線に気付き微笑んだ。
ひょんな縁で知り合った二人、身寄りがないらしいエドが何時までもレリアに着いて来る為、また満更でもなかったのか彼女は彼を引き取る事に決めればジャパンへ旅立つ事に決めたと言うのが今まで、彼に語られた話。
「しかし、それならケンブリッジでも」
だがユーウェインはその事に思い至れば、気になってふとその事も尋ねたが
「そうなのだがな、エドには色々な世界を見せてやりたいし‥‥何より彼がこの地で生きて行くにはあれからまだ、時が経っていない。年端も行かないから‥‥だから一時、此処を離れる」
「そうですか‥‥彼も賛成しているのなら、止める道理はないですね」
相変わらず表情を変えずに彼女はその答えを円卓の騎士へ提示し次いでエドも頷き彼を納得させると、背を向けたままに彼女は歩き去る。
「まぁ、月道が開くまで暫くは辺りを見て回るが‥‥元気でやってくれ。獅子の騎士」
「えぇ、貴女も」
そして二人はそれだけ告げれば、視線を交わさないままに微笑んだ。
「‥‥と、そう言えばこの様なお誘いがあるのですが旅出の前にどうでしょうか?」
だがその次、円卓の騎士は友人として彼女に一つの誘いを持ち掛けるのだった。
●最後(いやはて) 〜ルルイエ〜
それはノッテンガムから決戦を終えキャメロットへの帰り道を歩いていた時の出来事だった。
「ほんとはアシュドさんと一緒に聴いて貰うつもりだったんだけどなー‥‥おっしゃー、帰ったらもう一曲いってみよっかー」
「‥‥ごめんなさい、どうやら私は‥‥聞けない様です」
騎士が笑い言う誘いに、ルルイエ・セルファードは苦悶の表情を浮かべそれを丁重に断り‥‥その場に膝を折る。
「やはり‥‥『狂気』の、いえ‥‥『マリア』の力は抗い難く」
「なら、早く魔本に封印を‥‥」
そして紡がれるルルイエの言葉に動揺が走る一行の中、誰かが彼女の抱える黒き魔本を見つめ言うも
「それでは、皆さんが嘘吐きになってしまいます‥‥ですから」
首を振ってそれもまた断る彼女は呻きながら、次にその場に居る皆へ『一時』の別れを告げる。
「ですから、私は‥‥今まで皆さんに助けられた分、私だけにしか出来ない戦いをしてきます」
「アシュドさんはどうするの!」
「‥‥すいません」
誰かが上げる慟哭へ、ルルイエは誰に対しての‥‥何に対しての謝罪かは分からないまま、遂には地に突っ伏す。
「でも‥‥私は死ぬ訳じゃありません、ただ『マリア』とお話をして来るだけです」
それを誰かが支え、ルルイエの上体だけ起こせば皆が引き止めるにも拘らず彼女は言葉だけ、紡ぎ続け
「何時、目を覚ますか分かりませんが‥‥宜しく、お願い‥‥します、ね」
やがて限界を迎えたのだろう、その目を伏せると力失い頭を垂らし‥‥近くにいた神聖騎士が慌て彼女に飛び付き脈を探ると、心臓は未だに脈を打っていた。
「レイ、大天使なんでしょ?! 何とかならないの!」
「済まない‥‥これに関しては全くの予想外だ。皆の想いが『マリア』に届いたが故、まさかこうなるとは」
その突然の出来事にエルフが叫ぶ中で思案する大天使と呼ばれた男、レイ・ヴォルクスはやがて冷静に己が推測を言う。
「じゃあ、どうすれば」
「‥‥俺が知るよりも深く、シャーウッドの森に住まう長老達の方が魔本に付いて詳しい。彼らに任せる他、今はないだろう‥‥最早これは俺達がどうにか出来る範疇を越えている」
その答えにまた別の魔術師が言葉を詰まらせると彼も暫くの間、悩むが一つの結論を提示すれば納得の行かない皆を何とか宥めた後、魔本とルルイエを抱えシャーウッドの森に向け飛翔するのだった。
「全く、俺も詰めが甘いな。しかし『あれ』はどうしたものか‥‥今更取り止める訳にも」
一つ、宜しくない考えだとは思いつつも嘆息を漏らしながら。
「全く、あの子と来たら‥‥ルルイエが酷い様子でシャーウッドの方に居ると言うのに一体何処へ」
「好きにやらせろ」
それから時は今に戻り、フォレクシー家の広い居間にて姿を消したアシュドを心配してか嘆息を漏らす妻へ素っ気無く言うのはその父、アレス・フォレクシー。
「でも」
「もう、子供ではないのだ。だから‥‥留まる訳には行かなくなったのだろう」
しかし食い下がらずに尚も妻は迫るが、それをあしらい窘めるアレスはそう言ってふと、息子の部屋の様子を思い出す。
「いや‥‥それであればいいのだが」
アシュドの自室があれから手付かずのまま小奇麗である事から僅かに不安が過ぎりながらも冷静に呟いたが、その内心はやはり何処か落ち着かなかった。
●最先(いやさき) 〜小次郎〜
「すまんな、無理矢理付き合わせたみたいで」
「いえ、生まれ故郷をこの目で初めて見られるのですからそう気にしないで下さい」
キャメロットに降り立ち事暫く、十河小次郎とアリア・レスクードは共に暫く滞在する事となるキャメロットでの宿を探す為、街中を歩いていた。
「しかし一体、この時期になって戻るなんて‥‥どうしたんですか?」
「そう言えば話していなかったな」
その折、不意に尋ねる妹の問い掛けに小次郎は今更になってそんな事を言うのだった‥‥っておいおい。
「これに書いてある通りだが、親父が行方不明になったらしい」
「‥‥え?」
まぁそんな突っ込みは聞こえる筈もなく、彼は懐から一枚の羊皮紙を取り出しアリアへ渡し言えば、彼女はまたしても唐突な話に呆然とする。
未だ見ぬ父親に対してどう振舞えばいいのかすら分からず落ち着かない事に加え、その父親が行方不明と来ればそれは当然と言えば当然の反応だろう。
「詳しい事は戻ってみないと分からないが、何かの事件に巻き込まれた可能性は捨て切れない。それなりに腕の立つ冒険者だからな」
だがその妹の様子には今は気付かず、小次郎は続き自身の推測を紡ぐが
「‥‥けど、昼行灯な親父だからまぁその可能性は少ないと思うが‥‥ん、あれは何だ?」
今に至ってやっと妹の様子に気付いた小次郎は慌てフォローを入れたその時、視界に一つの垂れ幕が飛び込んで来れば彼は一つ、首を傾げた。
『去る年へ別れを、そして来る年を迎えよう! そんなパーティ会場はこちら、飛び込み歓迎』
「どんなパーティだよ‥‥まぁ、面白そうだから行ってみるか」
「‥‥言うと思いました」
踊るその文章は果たして誰が書いたものか分からないが、次には小次郎が笑い言えばアリアは一先ず父親の事は道中で考える事に決め、苦笑を浮かべながら先行く小次郎の後を追って、その建物へ向けて歩き出すのだった。
そして、役者は集った。
「私は‥‥これから、どうすれば‥‥いい?」
‥‥ただ一人を除いては。
●リプレイ本文
●
(一応)レイ・ヴォルクス主催(とは言え、その資金の出所は別の所だが)のパーティが始まるより前、とある屋敷。
「参加する皆の為、パーティドレスを貸して頂きたい」
パーティが始まるより早く、ノース・ウィル(ea2269)はその屋敷の主であるセルアン・シェザースの元を訪れ、頼み事をしていた。
「私も招かれている身だし、少しばかり出資しているからその程度は今更構わないんだけどねー」
急な来訪にも拘らず、快くノースを招き入れた彼女だったがその依頼には何処か浮かない表情を浮かべるも
「何、セルアン殿が望む‥‥は必ず誰かしらに施そう」
「‥‥久し振りに会う割、良く分かっていらっしゃる事‥‥ロディ」
一つのある条件を耳打ちし提示するとセルアン、間近に佇む執事を呼び付け今度はセルアンからロディへ耳打ち一つ。
「と言う事で、準備を宜しくね」
「はぁ‥‥」
何事か言い終え、その肩を叩けばロディは生返事‥‥そして暫しの逡巡が後、準備に取り掛かろうとするが主人を振り返ると
「その代わり、自分はやりませんよ」
「えぇ、折角沢山のお客がいる事だしたまには別の人で楽しむ事にするわ」
一つの確認を取れば、帰って来る了承に安堵し急ぎ駆け出せば部屋に残された二人。
「それでは宜しく頼んだ、セルアン殿」
「私とした事が迂闊だったわ、ありがとうノース。楽しませて貰うわ」
「私こそ、楽しみにしている」
やがて言葉を交わせばどちらからか、静かに喉を振るわせ笑い出すのだった‥‥何を目論んでいるかはお察し出来る訳で、勘弁して下さい。
そして同じ頃、人の出入りこそあるがその会場はまだ二人の目論見など知る由もなく静かで平穏だったがその中、円卓の騎士であるユーウェイン・ログレスは慌しく駆け回っていた。
先日の依頼からキャメロットへ帰還すればすぐ、レイ・ヴォルクスの仰せがままにパーティ会場の準備に追われている為で彼も人がいいと言うか、何と言うか。
「お初目に掛かります、ユーウェイン様。ケンブリッジから参りました茉莉花緋雨と申します。キャメロットからジャパンへ旅立つ友人の見送りにきたのですが、円卓の騎士様が主催のパーティと言う話を聞いて足を運びました。宜しくお願い致します」
「あぁ‥‥正確には違いますが、ようこそ緋雨殿。まだ開始までもう暫く時間がありますので暫く、その辺りでお待ちになって頂けますか?」
そんな折、呼びかけられた円卓の騎士が振り返ればそこには茉莉花緋雨(eb3226)の姿。
彼女とは初見だがユーウェイン、些細な事は気にせず礼儀正しい挨拶の後に一礼を返し準備が出来ている会場の一角を指差すも
「それなのに準備を‥‥もし宜しければ、私にもユーウェイン様のお手伝いをさせて頂けませんか?」
続く彼女の申し出に感謝すれば緋雨の真意を知らないままに協力を受ける事に決め、頷くのだった。
(「わる〜いお兄様には意地悪をしないとね」)
●At Party
「誰だ、こんなのを仕込んだのはぁっ!」
と開始直後に轟く叫び声、いつの間にか紛れ込んだ十河小次郎が『これに着替えて出席されたし』と記された羊皮紙張り付くドレスを片手に会場内を闊歩してはその犯人を捜す。
「まさか本当にキャメロットにまで『女装先生』だとか言う根も葉もない噂が流れているんじゃないだろうな‥‥出て来い、今なら峰打ちだけで許すっ!」
「まぁ小次郎さん、折角のパーティですしお茶目な悪戯と言う事で許してあげては」
「そうですよー、意外に器が小さいですね」
「‥‥お前達の顔に免じて許す」
尚も叫ぶ小次郎をその犯人である緋雨が宥めればそこへ彼女同様、彼と顔見知りで元生徒だったカンタータ・ドレッドノート(ea9455)も加わり、容赦ない一言を小次郎へ浴びせれば仏頂面を浮かべながらも引っ込まざるを得ない小次郎だった‥‥元から威厳はないが、もう少し何とかならないのだろうかと思わずにはいられない。
「開始早々、賑やかだな」
その光景を視界の片隅に留めつつ、苦笑を浮かべるのはノッテンガム領主のオーウェン・シュドゥルク。
「まぁこれだけのパーティは早々催される事はないだろうから、当然と言えば当然だ。それと気持ちは分かるが、せめてこの場では楽しめ。メリハリは大事だ」
「‥‥分かっている」
ノッテンガムでの一連の騒動は一応の決着がついたが、未だ成されていない一つの封印が再構築とそれまでの間のレギオン掃討、ノッテンガム城の修復に市街に住む人々の慰安等やるべき事は未だ残されていたが、それでもこれから嫌でも疲弊する彼の事を考え無理に引っ張って来たレイ・ヴォルクスが宥めれば、僅かな時間だけでも楽しもうと考え直してか、手近にある椅子へ腰を掛け‥‥直後に大仰な音が自身、腰を掛けた椅子から鳴り響けば目の前の卓に突っ伏す領主。
「これが毒針だったら死んでいる所だ、この調子なら復帰はまだ当分無理そうだな」
次いで背後から響く声に振り返れば、何故か柱の影に佇むアンドリュー・カールセン(ea5936)と目が合い、沈黙だけ返すも
「ブラボーだ、アンドリュー」
「は、ありがとうございます」
レイは普段通り、彼を褒め称えれば次いでオーウェンを見て笑うのだった。
「力の限り、演奏するよー!」
「何もそこまでー」
そんな、前触れもなく唐突に始まったパーティ。
特に楽団は呼んでいないので有志が集えばその中、ハンナ・プラトー(ea0606)の元気な雄叫びに彼女とは初見のカンタータは僅かにたじろぐが
「大袈裟かな? でも私はいっつもこの調子だったからねっ! 余り細かい事は気にしなーい!」
「‥‥はいー、分かりました」
至って普通に赤毛の騎士が笑い自身の在り方をそう断言すると、リボンで上手く髪を結いハーフエルフの特徴である耳を隠す今日の相方が納得すればまずハンナはクレセントリュートを、カンタータは普通のリュートを構えれば
「考えるんじゃなく、感じるのさ。それだけ、宜しくね」
「分かりましたのですよー」
ハーフエルフの彼女へそれだけ告げれば次いで、有志達による演奏が始まった。
「それじゃ、行ってみよー!」
「素晴らしい曲が奏でられているので、踊って貰えないだろうか?」
まず奏でられる、優しい音色が連ねられ響く曲の中でノースは一礼をした後に己が右手を円卓の騎士へと差し伸べる。
「困りましたね‥‥余り経験がないのですが」
だが彼女の誘いにユーウェイン、事実なのだろうが戦場に立っている時とは裏腹に一歩後ずさる。
「それは意外だな、何‥‥苦手であるなら私が教えよう。この機会に覚えるのもいいのではないか?」
「ふ‥‥む」
だが引かないノースが次に笑うと彼の呻きより早くその手を逆に取り、程よく開けたスペースへ彼を導く様に歩き出す。
「最近、鎧を着てばかりだったから踊ってみたいです〜」
とノースが円卓の騎士を引き摺っていくその傍ら、先程アンドリューの不意打ちから未だ立ち直れずうな垂れているノッテンガム領主へ声を掛けたのは自慢の銀髪を靡かせるクラリッサ・シュフィール(ea1180)、やはりノース同様に踊りにお誘いの様子。
「私で良ければ構わないが、貴方程の方であればお相手がいるのでは?」
「エスコートしてくれる方はいるのですが、最近ちっともお会い出来ないのです」
「なるほど‥‥こちらこそ宜しくお願い致します」
普段と少し調子を変えて尋ねる領主、返って来る彼女の答えに納得すれば円卓の騎士とは違う手馴れた対応で差し伸べられた手へ軽く口付けするとその手を引いて、先を行く二人の後に続く。
「ルルイエさんを助ける方法は何か、見付かりませんでしたか〜」
「シャーウッドの森が長老達に調査をお願いしているが、今の所は‥‥」
その際、彼女の口から紡がれた疑問はルルイエの容態に付いてだったが返って来た答えは余り宜しくなく、しかしそれでもクラリッサは微笑み崩さず。
「うーん、今度オーラテレパスでも覚えてマリアさんとお話をしに行こうかな〜?」
「あぁ、是非。ノッテンガムへは何時でも来るといい」
そして小首を傾げ天井を仰ぎながら呟けば再び視線をオーウェンへ戻すと、オーウェンも努めて明るい声音でクラリッサへ返せばやがて二人、静かに舞い始めた。
座しては静かに一人、賑やかなその光景を何もせずに見つめるのはやはり半ば無理矢理に此処まで引っ張って来られたナシュト。
先程までは傍らに彼を引っ張って来たヴィーがいて、回復こそ順調だが未だに癒えぬ傷から五月蝿いまでに世話を焼いていたが、今は誰かしらに呼ばれ人の輪の中にいる。
そんな、周囲とは明らかに雰囲気の違う会場の一角には誰も足を踏み入れようとはしなかったが
「これから一体、どうするつもりだ?」
小さく足音の後に次いで響いた声の主はガイエル・サンドゥーラ(ea8088)の物で、その問い掛けに彼は何も返す事無くただ黙するだけ。
「これからどうするのかは貴殿次第だが、最早過去に縛られる事は無かろう。ノッテンガムにいるのも良し、旅に出るのも良し、その身は自由だ。詫びる必要があるとすれば、貴殿を想う者らを裏切った事位だろう。セルナ殿やレイ殿、ヴィー。心配してくれる者が居ると言うのは幸せな事だぞ?」
「彼女の言う通りだ、死に逃げるな。死を乗り越えて、また大切な人を守れ‥‥ナシュトを必要としている者はこの世界に必ず、いる」
その反応に彼女は嘆息を漏らすも先日と変わらない彼の様子から内心安堵しつつも釘を刺す様に改めてそれだけ言えば、何処からかフラリとやって来ては彼らの領域に入り込むアンドリューも一言、言い放つとやはり沈黙を重ねるナシュトだったが、しかし。
「‥‥肝に銘じておく、済まない‥‥いや。ありがとう、か」
あの戦いから殆ど開かれる事のなかった口から言葉が紡ぎ出されれば、それに驚き視線を合わせる二人を傍目に蒼き騎士は口の端を僅かにだけ、緩めた。
そして再び、場に沈黙が満ちる‥‥尤も此処はそれでいいのかも知れないとガイエルは思い至るのだった。
今は緩やかにハンナにカンタータが奏でる曲が流れる中、ノースとの踊りから解放されたユーウェインは適当な席に腰を掛けようとするも休む暇は与えられず、呼び止められる。
「おや、藍那殿でしたね。わざわざご足労して頂いたみたいで」
「ジャパンに帰る前、是非挨拶をと思って」
その主は夜枝月藍那(ea6237)、何度かの聖杯探索を切掛けに知り合った二人は久々に顔を合わせると、挨拶の後に出る話はやはり聖杯に付いて。
「アーサー様が聖杯をどの様に使用するかは判りませんが、民が望まぬ方へと使用をする事になった時、ユーウェイン様‥‥きっと声に耳を傾けるのは円卓の騎士の人達だけだと思います、真に民の事を思い間違った道に歩む国にならない様にして下さいね、この国に僅かでも住んでいた者の望みです」
手に入れた聖杯の話から彼女は真摯に、確かな意思を持ってイギリスの未来を憂い円卓の騎士へ願い出ると
「私は、一連の結末を見た後に兄さんと義父さん、お友達と国に帰ります。あの日の貴方に戻らぬ事を望み、願っています」
「‥‥重々気を付ける事にします、本当に今までありがとうございました」
最後に心配をしての彼女の言葉へ彼は名残惜しく、その表情に影を落としたが
「はい、それともしもユーウェイン様がジャパンに来る事があったらお会いしたいです、その時は私がお茶を入れますから」
「その時は是非、お願いしますね」
それを見ても尚彼女の決意は変わらず頷くとその代わり、一つだけ約束を交わして二人は微笑む。
「あら、藍那もジャパンへ行くの? 私もお友達からジャパン行きのチケットを戴いたから行くつもりなのよね」
「ロア殿もですか‥‥それは寂しくなりますね」
もその場に割って来たロア・パープルストーム(ea4460)がその雰囲気を拭い去る様、努めて明るい声音を響かせると釣られ円卓の騎士、表情を僅かに綻ばせる。
「ユーウェイン、お土産にグリーンティーを買ってくるわ。今度はちゃんと美味しいお茶の淹れ方も調べてくるから。たった一度の渋い紅茶の味で私のイメージを固定されちゃ叶わないんだから‥‥待っていて」
「えぇ、その日を楽しみにしていますよ。二人ともお気を付けて」
「ユーウェイン様!」
だがロアは相変わらずたおやかな様子の彼へ怯まず、過去の因縁(?)に決別すべく簡潔にそれだけ約束を交わすと踵を返せば、藍那に勧められて今度こそようやく椅子へ座ろうとするも
「お願いがあるんですが‥‥」
再三にして、今度は初対面のチョコ・フォンス(ea5866)に引き止められるのだった‥‥がしかし肖像画を描かせて欲しいと言う彼女の願いにも、彼は最後まで微笑を絶やさず謹んでそれを引き受けた。
「喜んで」
オーウェンが未だクラリッサと舞う光景を見ながらレイ、珍しく静かに飲み耽る。
そして大天使の向かいにはアンドリュー、先程ふらりとやって来てから暫く時間は経つが、やはり彼も静か。
「『受諾した主命』が終わったら、貴方は何処へ行くの?」
そんな折、背後から響く声に彼は振り返らず
「天界に帰るさ、尤もそれはもう少しだけ先伸ばしになりそうだがな」
だがしっかりした声音で答えを返せば振り返り、その質問の主であるロアを見て僅かに自嘲めいた笑みを浮かべる。
「ゴミなんか貯めないで頂戴ね。私、もう‥‥掃除なんかしないわよ。ジャパンに行くから」
「そうか、まぁ気が向いたら掃除する事にする」
「頑張って」
続く彼女の言葉に身動ぎせずに頷きレイは笑うと半信半疑ながらもロア、釣られて笑い応援だけすると次いでその向かいに座るアンドリューへ
「私達、長い付き合いになったわね。いつも貴方の弓を頼りにしていたわ‥‥ありがとう」
「そんな事は、ない」
レイより先に彼へ礼を告げるが先から俯いたままの彼は一人、ごちる。
「自分は彼女を守る力が欲しい、今のままでは足止めは出来ても‥‥だから!」
「‥‥外は寒いからな、準備を整えてから来い。でなければ相手はせんぞ」
だが僅かな間を置いて大天使が立ち上がれば、弾かれた様に顔を上げればレイを僅かに見つめた後にアンドリューは慌て駆け出す。
「じゃあね、レイ。お疲れ様‥‥お元気で」
「ロアもな」
その後姿を見送りながらロア、伝えたい事が山程あるにも拘らず端的にそれだけ最後にレイへ伝えると、彼は振り返らず手を掲げれば彼女は暫く彼らを見送るも遂に踵を返してまた違う人の群れへ向かうが
「ねぇ、レイさん」
「ん‥‥なんだ、チョコ」
彼女の背後、いつの間にかレイへ歩み寄っては皮のコートの裾を引っ張るチョコが何事か耳打ちをしていた事にロアは気付かなかった。
●Saxifrage
「アシュドさーん、何処にいますかー!」
寒い屋外、パーティが始まってまだ一時間程しか経っていないのに姿を眩ましたアシュド・フォレクシーを探す為、ルーティ・フィルファニア(ea0340)とシェリル・シンクレア(ea7263)はルルイエを救う算段をしながら街中を駆け回っていた。
「むぅ‥‥やりますね、アシュドさん」
だが寒空の下を根気強く探す彼女らだったが、彼を捉える事は一度もなく呻くルーティだったが
「魔本は『魂』を封印する暗い入れ物、シャーウッドの森にある五つの封印はその『力』を封印していたのでしょうか〜?」
「恐らくそうだと思いますが、何かいいアイデアでも?」
「ルルイエさんとマリアさんの『力』をルルイエさんの一つの身体に抑えられる様、森の結界と似た封を掛けて力のバランスを拮抗させるとか〜」
「‥‥出来ない事もなさそうですが、難しそうですね。時間も掛かりそうですし」
色々と出て来るシェリルのルルイエ救助案にルーティも真剣に考え、的確に問題点を上げていく。
「それなら〜、マリアさんの仮の器をもう一つ用意してみるとかどうなんでしょうねぇ〜? 例えば‥‥ゴーレムなんてどうでしょう〜」
「人格の宿るゴーレムですか。ゴーレム自体、未だに謎だらけですからそちらの方が難しそうな気がします」
「‥‥どうしましょ〜?」
「どうしましょうね」
だが駆けながらの問答も結局は答えが出ず二人、苦笑を交わすと本来の目的に戻る事にシェリルが決めれば
「まぁ、その為にも肝心の人を探さないと‥‥ルルイエさぁーん!」
「間違っていますよ」
続く雄叫びにルーティは苦笑を浮かべながら突っ込むが、肝心の彼はそれからも見付かる事はなかった。
「言いたい事、沢山あるんですけど‥‥しょうがない」
「あれ、ルーティさんどうしたんですかー?」
その結果に何時もは明るいその表情を僅かに曇らせつつ、だがとある事に思い至るとシェリルの言葉を背に、会場とは違う方向へ足を伸ばすルーティだった。
「後悔はしたくないから今、私が出来る事を全力でやらないと‥‥」
「まぁ、こんなものか」
その彼女らが街中を駆け、アシュドを探していた頃‥‥パーティ会場の間近、未だ雪が降り積もる屋外で鳴り響いていた金属音が止めばレイは白い息を吐くと
「アンドリュー、お前にこれをやる」
「これは‥‥いいのですか?」
「イギリスに来てから手に入れた物だ、気にする程の物ではない。多分な」
先程まで振るっていた槍をアンドリューへ託すが、彼が言う割に槍の穂先がいやに煌いている事が気になり沈黙するも
「あそこまで言ったのだ、その意思は何があっても曲げるなよ‥‥だからその槍をお前に与える、多少の手助けにはなるだろうからな」
「了解、です‥‥っ」
「‥‥ブラボーだ」
彼の様子に気付いた大天使、皮の帽子を目深に被り直して正直な所を言えば僅かに声を詰まらせるアンドリューへレイも帽子に手を当てたまま踵を返す。
「寒い中ご苦労だな、レイ殿」
がその視界の片隅、いつから見ていたのかルクス・シュラウヴェル(ea5001)が声へ大天使が帽子を上げると、久々に見た顔からつい表情を綻ばせる。
「私は他の因縁の決着をつけに行っていたので、魔本の一件‥‥立ち会えなくて残念だったが黙って皆の前から消え、心配を掛けた償いはしたのであろうな?」
「したつもりだが‥‥皆がどう思っているかは知らん」
「相変わらずだな、いずれにせよ‥‥無事で良かった」
だがルクスが手厳しい問い掛けへは何時もの様にしらばっくれるレイだったが、その様子に心の底からルクスが微笑むと両の手に持つワインと器を掲げれば
「外は寒いな、冷えただろうが此処で再び乾杯をしないか? アンドリュー殿もどうだ、これから大天使と乾杯する機会は早々あるまい?」
表情はそのままに落ち着いた声音で二人へ呼び掛けるのだった。
●At Party.2
「最近の挙動不審からお家の用事でジャパンに行かれるのは想定の内でしたが‥‥ご挨拶も無しはいけません、まるで夜逃げですよー」
「そんなつもりはなかったが‥‥そう見られてもしょうがないか」
「はい、せめて理由を聞かせて下さいな」
様々な卓から様々な料理を持って来ては妹へそれを託す小次郎、あれから各々あった蟠りはどうやら氷解した様子で、その光景に安堵を覚えたカンタータと緋雨が二人の元へ来ればハーフエルフの彼女が志士へ声を掛け、急な旅立ちに付いて問い質す。
「まぁ簡単に話せば、俺達の親父が行方不明になったって事だ」
「行方不明?」
「あぁ、親父もいい年なんだが未だに冒険者をやっていてな‥‥だが昨年の終わり頃に受けた依頼を最後、姿を眩ませたと近所のおばさんから連絡があったんだ」
するとぼやく小次郎、あっさり彼女へその理由を告げれば嘆息を漏らす‥‥と言うかそれ以前に近所のおばさんから連絡を貰うのってどうよ。
「‥‥ごめんなさい」
「謝らなくていいから、私達は友達でしょ。それに謝るのは小次郎さんであって、アリアさんじゃないわ」
「もっと言えば、俺の親父のせいだがな」
そしてその兄の後を継いで二人へ詫びるアリアだったが、緋雨が宥めるとその傍らに佇む志士を見つめ言うと密かに小次郎が反抗するも、緋雨は聞く耳持たずアリアと語らえば
「そう言う事にしておきましょうかー。あ、小次郎さんにこれを‥‥餞別ですよ、此処で是非着て下さい♪ そしてその代わりに羽織を下さいな」
「遠慮する」
「あら、もう始まるのかな。折角だから他に誰か名乗りを上げてくれる方、いないの?」
カンタータはフリーウィルの女子用制服をそっと差し出し小次郎の羽織と交換をせがむ‥‥無論小次郎は断るが、そこにやって来たセルアンは女装大会の始まりだと勘違い。
「この人なんてどうですかー?」
「何でだー!!!」
「理由はないです、何となく」
するとその呼び掛けにいつ戻って来たかルーティが会場を騒がしくも盛り上げていたヴィーを連行し、微笑みながら彼をセルアンへ差し出す。
尤も騎士の問いに対し彼女が答えた理由は適当だったが、それはなくて構わない‥‥言わずともセルアンが指を弾けば済む事だから。
「ほら、小次郎先生も是非にー」
「いーやーだー!」
「‥‥先生って言うなよ! いや、ちょっと待てー!」
そして彼女、指を弾けば叫ぶ騎士の人権を気にせず部下達の手で即座に捕縛するとその傍らの志士は元生徒に僅かな間の後、突っ込んでから迫るセルアンの部下達へ抵抗を試みるも‥‥後はお察し下さい。
「賑やかだな」
「そう、だな」
「行かなくて、いいのか?」
「私には無縁で苦手なものだ、気にせずとも良い」
「ならいいが」
「そう言えばその子を連れてジャパンへ行くらしいが‥‥当ては?」
「こう見えても一応はある、行ってみて肝心の当人がいなかったら笑うがな」
「そうか‥‥」
宴もたけなわ、会場全体のボルテージが上がる中‥‥その片隅でレリアとガイエル、それとは反して静かに語らう。
「静かだなー、どうしたのかなー?」
「エドが寝てしまってな」
静かな者同士、淡々と話す中に突如現れたのはさっきまで鈴やリュートや竪琴等、自身が持ち得る楽器の全てを駆使して様々な曲を言われるがまま楽しげに奏でていたハンナだったが、レリアの答えに傍らで寝るエドワードを見れば慌ててトーンを落とす。
「っとと、それは失礼ー」
そして即座に詫びれば彼の頭を撫でながら、ついさっき誰からか聞いた話を思い出す。
「そう言えば‥‥この子、聖人なんだっけ?」
「今はもう、普通の子だ。それ故にあの戦争で両親を失った事が不憫でな‥‥」
首を傾げるハンナに頷きながらも剣士が目を伏せ言えば
「‥‥っ!」
「だ、大丈夫?!」
「‥‥いつもの事だ、大丈夫」
レリアが頷いた直後、突然咳き込むとハンナが再び慌て彼女の背を摩るがそれを手で制して両人へ心配ない旨だけ告げたが‥‥口を押さえていた左手が血で濡れていた事に彼女は顔を顰めると二人に悟られない様、その手を腰に下げる布でさりげなく拭いた。
「こんな物しか準備出来ませんでしたが、もし宜しかったらどうぞ」
何故か数日に渡って繰り広げられたパーティも終わりの日を迎え、円卓の騎士が皆へ小さな包みを一つ渡す。
「良き縁があります様に、と私が言えた言葉ではありませんが」
「ふむ、全くだな」
その包みを紐解いて出て来た二つのペンダントにユーウェインが苦笑を浮かべ言えばあれから様々な依頼を通して知り合った者達に再会したノースが皆のその後、それぞれに幸せだと言う話を思い出しつつ彼へ突っ込むも自身とて突っ込める資格がない事は言わず終い。
「でも円卓の騎士様からの頂き物ですし、ありがたく頂戴しますね〜」
「正確に言えば、セルアン殿からですけどね」
だがそんな彼女の意図は知らずシェリルが明るく円卓の騎士へ礼を述べれば皆も倣い、一礼するも彼は女装好きの貴族を見やり、苦笑を浮かべる。
その彼女、パーティが始まるより肌が艶々しているのは気のせいだろうか。
「アリアさんもお健やかに。春までには移動手段を確保して遊びに行きますよ、待っていて下さいな」
「ジャパンでまた、会いましょう」
「えぇ‥‥こちらこそ、その時は宜しくお願いしますね」
「あ、それと小次郎さんもですねー!」
「おまけか、俺は‥‥」
その犠牲者が一人、小次郎はそれでも元気に振舞うもアリアと一時の別れを告げるカンタータと緋雨の二人におまけ扱いされ地団太を踏むが、今では元とは言え生徒達が笑顔を浮かべれば二人の頭を撫でると
「また、会えるよね? ううん、必ず会えるよ。生きているんだからきっとね」
「縁があればな」
静かに佇むだけのガイエルとレリアへハンナは名残惜しく、最後の言葉を切り出せずにいたが
「それじゃ、ほんのちょっとだけサヨナラ‥‥うぅん、サヨナラじゃない‥‥またっ!」
「あぁ、まただ!」
うんと一つ頷けば相変わらずの明るさを取り戻して笑顔で二人へ再会を願いつつ、一時の別れを告げた。
「全く、無理のし過ぎだ」
「アンドリューに言われたくないけどなぁー」
「それも‥‥そうだな」
その帰り路。アンドリューとチョコは今日もキャメロットに降る雪の中、肩を寄せ合い互いを暖めるかの様に歩いていた。
そんな中、ふと先の依頼を思い出して僅かな苦笑を浮かべ嘆息を漏らすが彼女に言い返されるとぐうの音も出ず、レイから託された槍をふと見やる。
「これは?」
「少し遅れたが、誕生日のプレゼントだ。チョコ‥‥」
するとその次、不意に頭に乗せられた何かをチョコが尋ねれば声音だけ彼女へそれを送った彼は普段と変わらず素っ気無く、だがその表情には確かに柔らかな笑みを浮かべこれから護るべき者の名を呼べば
「‥‥好きだ」
これからも変わる事のない決意だけ告げるとチョコを抱き寄せ、次いで二人はキスを交わした。
それは誰にも見られる事の無い、無言の誓いだったが降る雪だけはその光景を確かに見つめ‥‥二人を祝う様にその身を闇の中でもより一層輝かせるのだった。
「さようなら、きっとずっと愛してる」
その頃、ロア。
一人佇み今はもう誰もいないパーティ会場を見つめ呟き‥‥想い人へ自身が抱える真意を告げる事無く気持ちに整理をつければ、踵を返し躊躇わずその場を後にしようとするも
「どうした?」
「っ、何でもな、ってちょ‥‥」
いつの間にか彼女の背後にいたレイとぶつかりそうになり、次に思わず後ずさるが彼はロアが片手に持つペンダントの片割れをひょいと取り上げ、微笑む。
「貰うだけなら、貰っておこう。どうせあげる相手もいないのだろう?」
「この‥‥」
だがその彼女、レイの態度に顔を俯け己が肩をわななかせれば
「この‥‥馬鹿ぁ!」
次に闇夜の中、真赤にした顔を勢い良く上げるとロアは先程決別したばかりの自身が馬鹿らしくなって憤慨の余り、大天使を殴り倒す暴挙に打って出る。
「でも、ありがとう‥‥」
「こちらこそだ、気にするな」
それを甘んじて受けレイ、降り積もる雪の中へ仰向けで倒れ込めば彼女はそっぽを向くが二人はそれぞれ、お互いへ感謝を述べると
「気を付けて行って来い」
雪の中に埋もれながらも大天使は改めてロアへ、一時の別離を告げた。
だがこれは決して終わりではない、終わりに見えるかも知れないが、これからが始まりである。
終わりはあるが始まりも生きている限り常にある‥‥だから『さようなら』なんて言葉は死ぬまで使わなくても問題ないと私は思う。
そして出来るなら、別れが最先の出逢いである事を証明して欲しいと私は願って止まない。
〜Go To Next A New Story in Japan. Thanks To All!〜
●‥‥At Japan
「着いたぞ、エド」
長々と続いたあのパーティから数日を経て、ジャパン。
何時までも服の裾を握るエドワードへ静かに呼び掛けると漸く彼は手を離せば次いで、辺りをキョロキョロと見回す。
「久し振りに月道を使ったが、やはりどうにも慣れん」
その様子をやはり静かに眺めつつ、嘆息を漏らすがレリアも彼に倣って辺りを見回す。
尤も彼の、好奇心から取るその行動とは違い沢山の人が月道を使って渡り来る中で誰か見知った者がいないかのそれだったが、別段目に付く者はいなかった。
「あの兄妹は自身らの道を行ったか‥‥ん」
ふとキャメロットで招かれた最後のパーティにいた兄妹の事を思い出すもその二人の顔はなく呟くが彼女の視界に一人、何処かで見た時のある顔が目に止まり記憶を弄るレリア。
『キャメロットにいる間だけでいいんですが、もしこの人を見掛けたら家へ戻る様にと伝えてくれませんか?』
そして暫く、赤毛の魔術師が描いたのだろう非常に上手な絵を思い出しそれに描かれていた人物が彼だと言う事に思い至ると
「そう言えば」
『もし見付かったらこれを渡して貰えませんか? 写しですけれど』
次いで銀髪の魔術師から託された、手紙の事も思い出してそれを取り出せば視界の片隅で蹲っている男性へ突き付けると、彼女は尋ねる。
「アシュド・フォレクシー、だな」