お話、聞かせて!

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月05日〜01月08日

リプレイ公開日:2006年01月16日

●オープニング

 昼下がりにも拘らず雪が舞い、寒さが走るキャメロット。
 その中においても普段と変わらず賑やかなのは酒場と冒険者ギルド位か。
 そんな年の瀬とは言え、関係なく舞い込む依頼の多さに辟易としながら受付嬢はその日も慌しく内外問わずあちこちを駆けていた、そんな時だった。
「ねぇお姉さん、冒険者ギルドの人?」
「ん、そうだけど‥‥どうしたの?」
 不意に呼び止められる声から彼女が振り返れば、そこには一人の青年と呼ぶにはまだもう少しだけ早い少年の姿。
 そして腰には背丈の割、いささか長く大振りの不釣合いな剣をぶら下げている事から戦士か若しくは騎士を目指しているだろう事が伺えるその彼の問い掛けに頷けば次いで、その呼び掛けからどうしたのかと疑問を紡ぐと彼は笑顔を浮かべてその理由を口にした。
「『冒険者』になりたいんだ! でも実際、どんな事をしてどんな苦労や喜びやあるのか分からなくて少し、不安で‥‥」
「うーん、それは『冒険者』に付いて話を聞きたいって事?」
「うん、そう」
 だが徐々に惑いをその表情に浮かべながら語る彼の理由を聞いて受付嬢が顎に手を当て、首を傾げながらも本質だけ見抜き改めて尋ねると頷く少年に暫し逡巡するが、やがて。
「それなら構わないけど、どうせ聞くなら本物の『冒険者』から話を聞いた方がいいと思うよ? それに何よりここで話すにしても外だから、寒いしね」
 笑顔を浮かべる受付嬢に今度は少年が悩む手番、暫く呻いて首を回すも
「‥‥お金、ないけれど依頼としてお願いしても‥‥いいのかな?」
 恐る恐る言う彼に対して受付嬢は再び笑顔を、今度は満面に浮かべて断言するのだった。
「そう言う事なら大丈夫! たまにはこう言った依頼もあるし、悩める人を救うのが『冒険者』だからねっ!」

――――――――――――――――――――
 ミッション:皆さんが体験して来た、様々な依頼に付いてお話して下さい!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)やお金は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(販売されていないアイテムに関して、使う場合はプレイングにて根拠の明示を忘れずに)

 概要:将来、冒険者になりたいと言う少年の為に皆さん、今までに体験してきた事等お話して貰えませんか?
 夢多き冒険者を目指す少年がお相手ですが、真実をあるがままにお話して貰えればきっと喜んでくれる事でしょう。

 傾向等:今までの思い出話等、ノリは皆さん次第、のんびりしたい人推奨
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●今回の参加者

 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1137 麗 蒼月(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5984 ヲーク・シン(17歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 ea6065 逢莉笛 鈴那(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea9098 壬 鞳維(23歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb2322 武楼軒 玖羅牟(36歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb2373 明王院 浄炎(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2435 ヴァレリア・ロスフィールド(31歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

皇 蒼竜(ea0637)/ エミリエル・ファートゥショカ(ea6278

●リプレイ本文

●静かな昼下がり
 新たな年を迎えて間も無く‥‥閑散としている冒険者ギルド。
「どうせ、暇だし‥‥話し相手に、なる位なら‥‥構わないわ、よ? 私は‥‥色々、食べた物を‥‥教えて、あげようかしら‥‥。世の中‥‥弱肉、強食‥‥」
「‥‥程々にしてくれよ」
 その片隅、淡々とした口調で依頼人であるアルフレドと言う名の彼に向き合い麗蒼月(ea1137)の第一声はルシフェル・クライム(ea0673)の窘めと彼女が友人達の肯定を現す頷きによって釘を刺されると、不服そうな表情を浮かべる結果と相成るも
「わたくしは神聖騎士のヴァレリア・ロスフィールドと言います。宜しくお願いしますね」
「私は冒険者の依頼、って言っても色んな依頼があるからね。覚悟して聞く様にっ!」
 その両サイドからヴァレリア・ロスフィールド(eb2435)と逢莉笛鈴那(ea6065)がそれぞれ、依頼人へ向けて微笑み挨拶をアルフレドと交わす。
「まぁ鈴那殿、話を聞くだけではあれだろう。そう言う事でアルフレド殿、もし何かあれば遠慮なく尋ねて貰って構わないからな」
 だがその彼女へ今度も銀髪の騎士、やんわりと宥めれば次いで少年へ笑い掛けると
「宜しくお願いします!」
 不釣合いながらも携える大振りな剣を鳴らしアルフレドが立ち上がれば、勢い良く皆へ頭を下げるのだった。

「明王院殿、武楼軒殿‥‥御無沙汰しておりました‥‥!」
 その彼らの傍ら、以前より幾つかの依頼にて世話になった武楼軒玖羅牟(eb2322)と明王院浄炎(eb2373)らを見付け、依頼人よりまず先に彼らへ挨拶を交わす壬鞳維(ea9098)だったが
「ふむ、久しいな。元気そうで何よりだ」
「積もる話もあるが‥‥今はまず、彼に話を聞かせるのが先だろう」
 巨人が武道家は笑顔を湛え律儀に返すも浄炎が彼を嗜め、肝心な目的を彼に告げれば
「あっ‥‥そ、そうでした。それではまた後で‥‥!」
 依頼人との挨拶がまだだった事に気付き、一度話を区切ると赤黒く染まる髪を揺らしてアルフレドの元へ駆け出せば、二人も一度顔を見合わせてから彼の後を追う様に駆け出すのだった。

 さて彼らの口から少年へ、一体どの様な話が紡がれる事となる事か‥‥。

●緩やかな話
「えーと、皆さんが初めて受けた依頼に付いて、聞いてみたいんですが‥‥やっぱり勝手が分からなかったですか?」
 一通り皆がそれぞれ椅子へ腰掛けると第一声、アルフレドの問い掛けに対してまず、口を開いたのは浄炎だった。
「まぁ、そうだな。俺もやはり初めて受けた依頼の時は何も判らず不安で一杯だった、無論アルフレド殿もそうだろうが‥‥」
 彼より一回りも大きなその体に圧倒されながらアルフレドが彼を見やれば、やがて語り出す自身が初めて受けた依頼の話。
 誰しも戸惑いや迷いは覚えて当然だろう、初めての依頼の事を淡々と語り出す彼の口調は時に荒々しくはあったが
「‥‥そんな時に導いてくれたのが、そこに居る壬殿ら先輩冒険者達であった。彼が居たからこそ今の俺が居る、今でも感謝し切れぬ思いだ」
「や、そんな‥‥とんでもない!」
 話の途中、同郷の出である武道家二人を見つめ笑えば鞳維は激しく頭を左右に振って否定するも、それを宥める様に彼の肩を玖羅牟が叩けば
「お前が冒険者として旅立つ時もきっと手を差し伸べてくれる者が居よう、その手を離さぬ事だ」
 笑みは崩さぬまま、浄炎がそこまで言えば目の前の少年が頷くのを見て彼はその頭に大きな手を乗せ一度だけ、撫でた。
「私は初めての依頼を通してそれぞれの得意な事を分担、協力し依頼を達成する大切さを基本ではあるが体感した‥‥」
 その光景の中、玖羅牟は出会った時から変わらず真面目な顔を崩さず淡々と、浄炎の後を継いで自身が彼と一緒に受けたその依頼の中で感じた事をそのままに語り出すも
「だが尤も、当初の目的は未だに果たせておらぬのだがな‥‥まぁそれは冒険者としても自身、未熟である事だし焦らないようにと考えているよ。上手く行かない事も多いと思う、だがそれに負けぬ様にな」
 次の句が紡がれた時、僅かだけ玖羅牟は男性とも見受けられる時がある表情を緩めると未だにおろおろしている鞳維と厳かに佇む浄炎を交互に見つめ、今度は小さく呟く。
「因みに先に話をされた明王院殿とは、そこにいる先輩でもある壬殿の補助の元で初依頼を一緒に受けた仲だ。お二方共、そう言う意味では非常に印象に残る大切な仲間‥‥初めての人は忘れられぬと聞くが、本当だな」
「‥‥それ、ちょっと皆勘違いしそうです。玖羅牟さん」
 しかしその後半、何か違う意味にも受け止められる彼女の発言にやっと慌しかった動きを止めた赤と黒の髪持つ武道家が彼女同様、やはり静かな声音で突っ込むと
「む、そうか?」
 一切動じず、最初の真面目な表情に戻った巨人の武道家が彼を見下ろし素で尋ねれば途端、場に笑いが弾けた。

「馬、皆で狙ったのに食べ損ねた‥‥」
 その三人が話で場が和むとアルフレド、次の話を期待して辺りを見回せば次に口を開いたのは蒼月‥‥だったが、その口から語られたのは食に関する依頼ばかり。
 しかもその依頼に関する肝心な内容は、ない。
「猿、捕まえられなくて食べられなかった‥‥残念‥‥」
 ある意味では先に宣言した通りなのだろう、食うか食われるか‥‥と言うよりは食ったか食えなかったか、そんな話を独特の間を持って語る彼女の姿は何処か鬼気迫っている様に見えた。
「奥さんの手料理を、満喫した依頼もあった‥‥でもその後に非常食(注:愛馬の名前らしい)、酷く痩せて焦ったわ」
「‥‥はへ」
 そして続々と、同じ様な話が語られる中で何故か一人顔を赤らめたりとか百面相をしているルシフェルがいたりするが、そんな彼の様子に気付かず少年はぽかんと口を開け間抜けな返事をするも蒼月の話はまだ続いたり‥‥よく話すネタが尽きないと感心はするが。
「パピヨンの幼虫‥‥毒があるから、食べる時は気を付けてね‥‥」
(『それは余程の事がなければ誰も口にしないと思うから大丈夫だと‥‥』)
 内心、一行は突っ込むが何故か誰も表立って止めようとはしない‥‥彼女が放つ重圧から静止したらきっととんでもない事になると察してだろう。
 と言うか食の話で何もそこまで重圧を放ってまで話さなくてもいいだろうに‥‥まぁ食に拘りのある者なので止むを得なしか。
「お菓子の家、欠片を手に入れて喜んだ‥‥嬉しかった」
「しかし私が止めなければ、どうなっていたか」
 最早意味不明な話だが、次に紡がれたお菓子の家の話になると遂に沈黙と言う名の均衡は破られ、ルシフェルが爽やかに笑みを浮かべ口を挟んだ‥‥次の瞬間だった。
「‥‥うる、さい」
 言葉と同時に蒼月、腰に挿す鉄扇を即座に抜けば僅かな間も置かず振り返り背後にいるルシフェル目掛け全力で全速を持ってそれを彼の頭頂部を打ち据える。
 しかもその鉄扇、どう命中したのか分からないが何故か見事に彼の頭部へ突き刺さり血が噴き出している様な気がする‥‥も一同、その場を動けず。
「後は‥‥演劇の役で、桃を食い破って生まれた事も‥‥」
 だがそれで気を取り直したのか蒼月は改めて振り返ると皆を見回した後、恍惚とした表情を浮かべては新たな話を語り出した‥‥食べ物の恨みとは恐ろしいものである、ってちょっとそれは当て嵌まらないか。
 とにかくアルフレドは彼女に怯えつつ、内心僅かにその先輩冒険者が一人に呆れるのだった。
(「どうしてそこまで食べる事に拘るんだろう‥‥」)
 そして漏らした嘆息と疑問は、彼女の耳に届く事無くまた紡がれた新たな話によって掻き消されるのだった。

●真面目な話
 その後、十分に自身が体験して来た(食に関する)依頼を話し終えた蒼月が後‥‥他愛のない雑談で少しの間を置いてから継いだのはヴァレリアと鈴那。
「さて、貴方は冒険者になってどう言う事をしたいのかしら?」
「うーん‥‥誰か困っている人を助けたいな、とか」
「冒険者になりたいのなら何の為かちゃんと見極めて、目的を見失わない様にしないと‥‥冒険者としてこれからやっていくのなら、確かな信念が必要だよ」
 問うヴァレリアに対し少年は明朗な声音ながらも、何処かはっきりしない答えに鈴那は優しく諭すもアルフレドは彼女の言葉に難しい表情を浮かべ、首を傾げる。
「‥‥大丈夫、かしら?」
『‥‥‥』
 因みに蒼月はその傍ら、今頃になって友人と共にルシフェルを静かに介抱する‥‥介抱する位なら最初からやらなければいいのに、とやはり内心でだけその場にいる皆が思ったのは秘密だが。
「鈴那さんが言う通りです、尤もそれは貴方次第なのですけど‥‥でもそれは最初に決めておいては如何かしら? そうすれば、多くの依頼の中から自分に合ったものを見付けやすいと思いますよ」
 さて話を戻そう‥‥その静かな武道家が様子を視界の片隅に捉えつつ、鈴那より先に口を開いたヴァレリアが一つ、アルフレドへアドバイスすると
「わたくしの場合、受けた依頼は主にアンデットと呼ばれるものに関わる事が多かったですね」
「アンデット‥‥ズゥンビとか、幽霊の事だよね? そんな怖いモンスターとお姉さんはどうして戦うの?」
 次に自身が今まで受けて来た依頼を思い出し、彼の背後にある窓が外に広がる空を見つめればその神聖騎士の様子には気付かず少年が二つ、彼女へ問い掛ける。
「えぇ、そうです。そしてどうしてかと言いますと、わたくしは神聖騎士である自分に誇りを持っています。そして、アンデットは神に仕える者としてその存在を許す事が出来ない者ですから‥‥」
 その一つには肯定を、後の一つには揺らがない自信を持って断言すれば一息ついて手近にあった果物を意識せず手に取り、口に含むと話の続きを語り出す。
 因みに余談だが、蒼月にのされたルシフェルも神聖騎士だ。
「だから一体でも多くのそれらを退治する事が自分に課せられた崇高なる使命と心得ていますし、その事が様々なアンデットに悩まされている人達を救うのですからこれ程やりがいのある仕事は自身、ないと思います」
 自身が神聖騎士と言う立場に付いて、誇りと自信を湛えた表情を持って熱く語れば
「勿論ただ退治するだけでは駄目で、アンデットになった者達の魂の救済も考えていますよ。その身は不浄に落ちたとは言え、最後の安らぎを与えるのも神に仕える者のなすべき事ですからね」
 今度は微笑を浮かべ優しく語れば、全てを話し切るとヴァレリアはその時になって場の沈黙に気付き慌てて皆へ深々と頭を下げ、詫びた。
「あぁ、すいません‥‥つい話過ぎてしまった様ですね。えぇと、話が逸れてしまいましたがアルフレドさんがやりたい事を見出せたなら私の様に、とは言いませんけれどそれをやり通せる様に頑張って下さいね」
「はいっ!」
 だが顔を上げれば彼女は最後にそれだけ伝えようと自身の話を纏めれば、勢い良く何度も頷く彼を見て彼の様な者の為にもこれからまだまだ頑張ろうと硬く、硬く心に誓うのだった。

●人情の話
 その後、ヴァレリアに先に手番を取られた鈴那がもう遅れまいと皆の前へ一歩、椅子ごと進み出れば語ろうとしたのは竜退治の話‥‥アルフレドは竜と言う単語を聞いて目を輝かせるが
「でも、実際にその竜は親子連れで私達はその全部を退治していないんだよね」
 苦笑を浮かべての鈴那の先んじて出た答えに彼はがっかりしてうな垂れる。
「だけど、依頼された事をそのままにやるのが冒険者の勤めじゃないんだよ」
 その様子に彼女はアルフレドの気持ちを察しつつも苦笑を浮かべつつそう言い諭し掛けると、とある騎士であり領主でもある人物から引き受けた竜退治の依頼について本題を切り出した‥‥領民の家畜を獲りに来ていた竜を退治して欲しいと言う、依頼の話を。
「今は冬だし、その竜が棲んでいた山はきっと食料が少なかったんだろうね。だけど私達は困っている人達を救う為にその竜を何とか工夫して退治したの‥‥でもね」
 だが話し始めて間も無く、少しの間を置いて鈴那はその竜に奥さんと子供がいる事が分かったのだと後になって知ったとポツリ、漏らす。
「勿論、その依頼を受けたのは私一人じゃないから皆悩んで色んな意見が出たよ‥‥けど私はまだ何もしてない竜の退治は嫌だったから、話し合いを推したの」
 そしてその結果、話し合いを試す事になったと彼女が話すと
「竜が賢い生き物だから?」
「そうそう、確信はなかったけどね」
 アルフレドの疑問に頷いた後に彼女はその話を続けた、最初こそ意志の疎通が叶わずに竜と戦うけれど、その最後には母親の竜が鈴那らの意見を受け入れ子竜を連れては餌の豊富な山奥に去ったと言えば、その時の情景を思い浮かべてだろうその表情を綻ばせる。
「竜を殺そうって言った仲間の意見、それはそれで正しい‥‥だけど私には出来なかった、でも私はその時の私の考えが間違っていたとは今でも思っていないよ。依頼を解決するには色んな手段がある、どんな手段で依頼をこなすかは自分次第‥‥しっかりした信念を持って後悔しない方法を決めないとね」
 すると鈴那、話し終えてから難しい表情を浮かべるアルフレドを見れば
「因みにアルフレド君ならどうしていたかな?」
「鈴那、余りアルフレド殿を困らせるな」
 少し意地悪な質問をするも浄炎に宥められると
「‥‥似た様な話で恐縮だが、人間の親子が情を強く覚えた依頼の話でもしよう」
 僅か、不服そうな表情を浮かべる彼女へ苦笑だけ返してその次に浄炎が語ったのは病に苦しむ娘を思う余り、盗賊へと身を落とした男の話だった。
「依頼は直接、その者から請け負った‥‥自らの罪にケジメを付けたいとも言ってな」
「それって‥‥」
 彼の言い回しに何事か気付いてアルフレドは口を開くも、頷くと同時に浄炎はその彼の真意‥‥盗賊団を捕らえる手助けをした上で、己ごと裁きの場に送ってくれと依頼人であり盗賊でもある彼の口から告げられたと語る。
「その漢は娘の事が無くば決して罪など犯さぬ、周囲の者にも慕われる良き漢だったが既に母は無く幼い娘には父しか頼るべき者は居なかった‥‥だから俺達は」
 僅かな間、そして浄炎は自身が子供の事を思って‥‥その彼にもそうなって欲しいと願ってだろう、その後に取った行動をアルフレドへ提示する。
「俺達は請け負った依頼とは関係ないながらも彼の減刑を求め、娘に父の想いを伝え親子の絆を守ろうとした」
 次いで溜息を漏らすと目の前にいる冒険者を目指す彼へ改めて、願う様にその最後を締めた。
「‥‥依頼の趣旨を言えば俺らのやった事は余計な事だが、割切るだけが全てではない。先に鈴那が言った通り、手段は様々にある‥‥その者達が如何に幸せに成れるか、そう言った情を持つ事も俺達冒険者には必要なのだ。その事を覚えておいて欲しい」
「‥‥それから、その人はどうなったんですか?」
「その漢か?」
 だが最後、肝心な事が語られていない事に気付いたアルフレドが頷くより先に尋ねると浄炎は勿体ぶる事無くその答えを静かに告げる。
「先日無事に勤めを終え、父娘暮らせる様になった。これ以上の報酬など無い」
「確かに‥‥冒険を続けていると嬉しい事もありますわね。親に結婚を反対されていたあるカップルを無事結婚させられただけじゃなくて、ある事件を切掛けに親にも認めさせる事が出来た時なんか心から安堵させられましたからね、私も」
 続く彼の笑顔を見てヴァレリアも自身が体験した一番に嬉しかったのだろう話を思い出し、やはり笑顔を浮かべて仲良きカップルを結婚まで至らせる事が出来た話をするが
「‥‥でも、世の冷たさを感じる依頼もあります」
 その時にポツリ、和む場と言う水面へ鞳維が発言は一粒の水滴となり静かに広がる波紋が如く場の雰囲気を変えた。
 その彼が沈痛な面持ち浮かべ語る話はハーフエルフだと言う事だけで迫害され、無実の罪を背負って投獄された冒険者の話‥‥先までとは全く逆の、未だに拭う事の出来ない種族の壁についてを口にする。
「私達は彼を脱獄させ家族の待つ故郷へと逃がしましたが、待っていたのは母妹が殺害されると言う悪夢でした‥‥」
「‥‥そんな」
 淡々とした調子で語る彼は声を詰まらせるアルフレドを気にせず、その続き‥‥母妹の血に触れ狂化し、親友すらも見境無く殺める殺戮者と化してしまったその冒険者の話を紡ぐ。
「‥‥それを止める手立ては唯一つ。彼を悪夢から救う為に‥‥同族の、自分達の手で‥‥殺める事」
 そして鞳維、その最後を話すとうな垂れては今もまだ血で赤く濡れているのではないかとの感覚に襲われ、己の開かれている手に視線を落とすが‥‥しかしそれでもその手を握り締め顔を上げれば心配そうな眼差しを注ぐアルフレドと視線を合わせ、口を開く。
「此の生が続く限り自分はハーフと言う業を憾みます‥‥でも、そんな自分で良いと言ってくれる人がいる。兄者や公主様や友人達が居る‥‥唯、その事だけが自分の希望です。だからアルフレド殿も出来る事なら‥‥」
 だがその途中で彼は気付く、場の静けさに。
「じ、自分の拙い話で場を盛り下げてしまって済みませんっ‥‥」
 少年の為にと思い、語った話だったがその静けさから皆へ頭を下げ詫びる鞳維だったが‥‥アルフレドはその表情こそ影を落としたまま、最後まで語られなかった話だったものの静かに首を横に振るとその冒険者の為にか目を伏せ、黙祷を捧げた。
 静かに、静かに。

●戦いの話
「そう言えば、聖杯がアーサー王の手元に渡ったみたいですけど皆さんはそれに関わる依頼に参加した時はあるんですか?」
 長く、真剣な話をした事から一行は再びアルフレドの為も思って少し長めの休憩を取る事にする‥‥因みに未だ、ルシフェルは昏倒したまま。
 そして休憩の後、聖杯に付いて尋ねて来た彼へ答えるのは浄炎。
「少しだけならあるが‥‥先の聖杯戦争で妻が経験した話で一つ、面白い話がある」
 そして語られる、輸送部隊を襲撃すると言う作戦‥‥その戦端が開けるだろう場所は非常に見晴らしの良い平原、身を隠す場所もなければ盾もない中で弓兵より身を守らねばならなかったと言う、彼が話に
「さて、どうする?」
「‥‥うーん」
 その途中、状況まで語り終えてからその話を一端区切るとその答えに付いてまずアルフレドへ尋ねる、先に意地悪をした鈴那を窘めた武道家の前で少年は首を捻るだけ。
「皆は機転を利かし、魔法で馬を凍らせ盾に使い敵を翻弄したそうだ」
 だが浄炎は無理もない、と言って笑えばあっさりとその答えを言うと次に少年の表情は話に出て来た氷漬けの馬とは逆、疑問が氷解し明るくなる。
「常識に囚われず機転を利かす事も必要だと言う事だな、難しいかも知れないが時にはそう言った事も冒険者になるならばいずれ必要になるだろう。覚えて置いて損はないと思う」
「なるほど、それは勉強になる‥‥私はその戦争の後、戦場での遺体処理と遺品回収の依頼を請け負った」
 はい、と少年が返事するより早く口を開いたのは玖羅牟、真剣な表情で浄炎の話に頷けば巨人の彼女が次に重々しい口調で話を紡ぎ出すとアルフレドは遅れた返事と同時、息を飲む。
「明王院殿が先に話した通り、戦争があった事は誰もが知っておろうが‥‥斯様な依頼があった事はご存知か」
 そして問い掛けられると少年、静かに首を振れば
「冒険者とは否が応にも『死』と表裏一体の職業である事、自身が振るった業の責任を取らなければならない事を‥‥今はまだ分からないだろうが、出来る事なら覚えていて欲しい」
「‥‥はい」
 深くまでその話を彼女は語らず、しかし冒険者が受ける依頼の暗部の一端に触れれば間を置き発せられる彼の返事に続き、場は沈黙に包まれる。
 少々重い話をしてしまったかと玖羅牟が反省して自身の頭を掻いたその時、立ち上がるルシフェル‥‥皆が語る話を殆ど聞く事無く、今に至って漸く。
「やっと、参加出来るな‥‥私の話をしてもいいだろうか?」
 だが彼は近くに佇む諸悪の根源である蒼月へは何も言わず、固い床に長い間寝そべっていた為に強張る体を解してから何時もの正しい姿勢に戻ると、手近な椅子に腰を掛ければ頭を振って脳を覚醒させ皆を見回し苦笑の確認を頂いてからやっと、自身の体験を語り出した。
「とある経緯から賞金首と依頼を共にする事があったのだが‥‥」
 その話‥‥ルシフェルは彼に対して自信の信念を曲げる事が出来ず単身で賞金首に戦いを挑んだと言うが懸け離れた実力の差から自身はおろか、他の仲間まで巻き込み大怪我をさせてしまったと自身に対し、歯噛みしながら厳かに話す。
 その表情から察する事の出来る感情は、後悔‥‥。
「‥‥結局賞金首には逃げられ、その後にまた闘う事があったがやはり返り討ちにされた。だがその中から私は冒険者として、様々な経験を積んで学んだ一番に大事な事がある」
 だがそれでも一通り話し終えれば真剣な眼差しを向けるアルフレドを正面から見据え、本当に伝えたい、教えたい‥‥これから学んで欲しい事を口にした。
「それは、守りたいものが在るからこそ、生きたいからこそ、本当の強さが得られると言う事だ。少なくとも私はそうであった‥‥昔は騎士として人々を守りたい、邪悪な者を排除したいと言う想いはあったが、今にして思うとそれは漠然としていた様に思う。それに‥‥自身の命を軽く見ていた」
 そしてちらりと、傍らに相変わらず静かなまま佇んでいる蒼月を見やればすぐに視線を少年へ戻すと
「今は‥‥ある人を守りたい、その人と共に歩んで行きたいと言う想いが私を強くしていると思う。だからアルフレド殿も‥‥」
 僅かに己の頬を掻いて、話を締めようとするがそれは途中で途切れ
「‥‥まぁ、まだ早いか」
 苦笑を浮かべ、彼を見つめるがアルフレドは首を横に振って声高に叫んだ。
「そ、そんな事ないっ! 僕だってルシフェルさんの想い分かるよっ!」
「じゃあ、アルフレド君の恋のお話‥‥聞いてもいいのかな〜?」
 が、それを聞いて再び‥‥今度は意地悪げな笑みを浮かべ問う鈴那には彼。
「え‥‥?」
 言わずがなもし、戸惑うがそれでも彼女はアルフレドへ迫るのだった‥‥最後に答えから一端の冒険者と彼の事を一応、認めた上で。

●笑顔
「色々とありがとうございました!」
「何、こちらこそ‥‥ありがとう」
 やがて皆から紡がれた話が終わると鞳維は終始低頭にアルフレドへ頭を下げるが、彼を宥め笑顔を浮かべると釣られ、浄炎も少年へ礼を述べるとその次‥‥彼の肩にパサリと何かが掛けられる。
「‥‥これは?」
「君にはこれから頑張って貰いたいから、ちょっとした贈り物だ」
 それがマントだと理解して振り返るとその背後、ルシフェルがそのマントを羽織らせてくれた事に気付き尋ねると、アルフレドにそう答えた銀髪の騎士は静かに微笑む。
「本当はもうちょっと、ゴミ屋敷のお話とかしたかったんだけど‥‥これから頑張ろうねっ!」
「頑張れよ」
「頑張ってね」
「‥‥‥」
 そして少し名残惜しそうにしながらも鈴那を筆頭に、その後に続いて響く皆の激励‥‥アルフレドは皆の顔を見回し、暫し沈黙するも
「頑張りますっ!」
 やがて満面の笑みを浮かべ、今の自身でも皆へ誓える決意だけ簡潔に叫んで頭を下げれば、何処からか響いて来た拍手に一行もまた自身の手を打ちアルフレドへ送るのだった。

 そしてアルフレドの冒険は此処から始まった‥‥更に付け加えるなら、一行の冒険もまた此処から始まる事だろう。
 まだ若き、多くの冒険者達をより良き方向へと導く為にこれからもまた‥‥。

 〜Thanks To All!〜