【人の想い】望まぬ仇

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:7〜11lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 13 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:02月04日〜02月09日

リプレイ公開日:2006年02月12日

●オープニング

●発端
 薄ら寒い夜、月夜の下。
「‥‥黒門‥‥あ、あいつが‥‥‥私‥‥を、ち‥‥‥」
「おい、親父‥‥親父っ!」
 静かな闇の中で突如、微かに響いた金属音に目を覚ました貴枝真衛門は自室を飛び出すとその視界には血に濡れ、崩れ落ちている父親が映る。
 その突然な光景に真衛門は辺りを警戒する事無く、その元へ駆け寄るが一言も交わさぬ内に袈裟に切られた父は程無くして崩れ落ちると先まで辺りを包んでいた静寂が蘇る。
「黒門‥‥確か、聞き覚えが」
 その中で歯噛みだけして真衛門は父が遺した言葉の一端を呟くが、それは一度頭の片隅へ留めるだけに済ませると寒空の中で急速に冷たくなっていく骸を抱え、血に濡れる事も厭わず家の中へ戻るのだった。

●影
「今日も真衛門さんは此方に来ないのかい? お父上の葬儀が終わって間もないのも分かるけど、うちの恵を一週間も捨ておくだなんてねぇ」
「突然の事でしたから、しょうがないです‥‥まだ真衛門様も色々と気持ちの整理がついていないでしょうし」
 それから一週間を経て、とある屋敷。
 三条恵と言う名の女性が自身の屋敷が庭にて佇めば母親の呼び掛けへ、至って慎ましやかに返していた頃。
「全く、もう少し我侭を言ってもいいと思うけどねぇ? 祝言こそ先へ伸びてしまったけど、真衛門さんとはいずれ夫婦になるんだからね」
 だがそれでも続く母の言葉へ彼女は今度、静かに苦笑だけ返したその時。
「たっ、大変だー!」
「‥‥どうしたんだい、朝から騒々しい」
 二人の話に上がっていた真衛門の、何時もその傍らにいた従者の青年が地を蹴り、慌しくその場に駆け込んで来たのは。
「真衛門様が‥‥真衛門様が」
 何事かは分からないがその尋常ではない彼の様子に、それでも恵の母親は努めて冷静に尋ねると息を切れ切れに青年がその口を開くと同時、一枚の文を二人の眼前へ突き出す。
『意趣返しに赴く』
「でもどうして突然‥‥犯人の目星はついていないって言う話だったじゃないか」
「さ、さぁ。私にも分かりません」
 簡潔に認められている文の内容に恵の母は彼が意趣返しに赴く相手の心当たりなく、首を傾げれば青年にとってもそれは同様だった様でやはり首を傾げるが‥‥恵だけはそれを見て、一週間前に真衛門と交わした会話を思い出して、その相手に思い至る。

『黒門絶衣、と言う者が今何処にいるか‥‥知っているか?』
『いいえ、存じませんがその方が何か?』
『いや、何でもない』
『もし宜しければ、その手の話に詳しい者がいますので調べてみましょうか』
『‥‥頼まれて、くれるか』

 確かに彼はあれから一週間、恵が住まう屋敷には来ていないが‥‥つい先日その件に付いて調査がある程度済んだ事から彼女が真衛門の元へ赴いていた事はあり、その時の彼の惑い、張り詰めた表情を鮮明に脳裏へ過ぎらせると恵は青年が持つ文を奪い、駆け出した。
「もっと早く、気付くべきでした‥‥」


 それから暫く、冒険者ギルドにて恵はギルド員の青年へ一つの依頼を願い出ていた。
「‥‥意趣返し、か」
「彼を‥‥止めて下さい」
 乱れた髪を気にせずに、冷静な彼を睨む様に見据える恵の様子を彼は気に留めず、だが僅かに表情だけ歪め呟けば今になって漸く、彼女と視線を合わせる。
「珍しく真衛門様から頼まれた事とこの手紙を見て‥‥そう思ったのです。あの人はお義父様の事を尊敬していましたし、真面目で一つ決めるとそれしか見えなくなる方で」
「それで黒門絶衣は今、京都にいるのか?」
「えぇ、詳しい所在までは分かりませんでしたが確かな情報です」
「噂だけなら余りいい話を聞かない奴だな、急がないといけないか‥‥至急手配する」
 その彼の視線を何事か察し、恵が逡巡しつつも口を開けばギルド員の青年の更なる問いには今度、はっきり断言するとその名前から思い至る、良くない噂を思い出して彼は踵を返すのだった。
「意趣返しなど果たした所で‥‥誰にとっても虚しいだけだ」
 静かにそれだけ、呟きながら。

●闇
「お前が下手を踏んだせいで嗅ぎつけられている、寝首を掻かれない様に気を付ける事だ」
「やれやれ‥‥率先して動いている割にはどうにもこうにも、上手く行きませんねぇ。ですがこの仮面、気に入っているのでもう暫くは部下に任せます。いちいち付き合ってはいられません」
「これ以上、迂闊に動き過ぎるなよ‥‥」
「分かっています」

――――――――――――――――――――
 ミッション:意趣返し(=仇討ち)を止めろ!

 成功条件:???(完全成功)
 達成条件:五日以内に真衛門を見付け、意趣返しを止める事が出来た時。(成功)
 失敗条件:五日以内に真衛門を見付ける事が出来なかった時等。(失敗〜完全失敗)
 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 傾向等:捜索系、シリアス、戦闘が発生する可能性もあり。
 日数内訳:実働期間のみ、五日。
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea0425 ユーディス・レクベル(33歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 ea5243 バルディッシュ・ドゴール(37歳・♂・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea5794 レディス・フォレストロード(25歳・♀・神聖騎士・シフール・ノルマン王国)
 ea8703 霧島 小夜(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9679 イツキ・ロードナイト(34歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb1528 山本 佳澄(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2041 須美 幸穂(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2823 シルフィリア・カノス(29歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

リュミエル・フォレストロード(ea4593)/ イシュメイル・レクベル(eb0990)/ ビザール・スウィートネス(eb2443)/ 犬神 外道丸(eb3028

●リプレイ本文

●捜索
「こんなに心配している婚約者がいるのに、後先考えないんだから‥‥」
「大切な人を殺された故と言う事は分かるのですが‥‥それでも、やっぱり止めないと‥‥」
 三条家が門の前、依頼人である恵と会い見えた一行の中で父親の意趣返しをすべく姿を眩ました、貴枝真衛門へ対しイツキ・ロードナイト(ea9679)が黒髪揺らし笑顔を浮かべながらも、半ば呆れる様にぼやけばシルフィリア・カノス(eb2823)も彼に呼応して頷くも、やるせなさから瞳を揺るがせ顔を俯かせる。
「宜しく、お願いします‥‥」
「えぇ、分かっています。だから顔を上げて下さい」
 そんな二人の様子に対し、申し訳なさげに頭を下げる恵は改めて皆へ願い出ると須美幸穂(eb2041)が端整な面立ちをそのままに、彼女を宥め
「それで真衛門さんの人相と彼を説得する為の文を一筆、書いて貰いたいのですが」
「えぇ、私が出来る事であれば何でも致します」
 次いで静かな声音で恵へ協力を申し出ると、やがて彼女は幸穂へ頷き一先ず家の中へと駆け込む。
「‥‥何が何でも連れて帰って来ないと行けませんね」
「そうですね、頑張りましょう」
 その小さく見える依頼人の背中を見送りつつ、四枚の羽根で宙に浮かぶシフールのレディス・フォレストロード(ea5794)が目を細め呟けば、やんわりとした口調で山本佳澄(eb1528)が固く決意を紡ぎ、その彼女の言葉へ皆も頷いた。

 それから暫く、恵に真衛門の人相と自身の想いを綴った文を認めて貰っている間‥‥浪人である霧島小夜(ea8703)が涼しげな表情の端、僅か笑みを宿しジャパンの街中では目立つだろう、渡来して来たばかりのユーディス・レクベル(ea0425)とバルディッシュ・ドゴール(ea5243)らへ人目を和らげるべく変装を施していたのだが。
「うーむ、此処にある物だけではいささか微妙だな」
「‥‥ならやめた方がいいか」
 皆が手持ちの道具だけでは小夜の腕前を持っても如何ともし難いらしく、一つ呻くとバルディッシュは慌てる事無く早々に割り切り、静かに立ち上がる。
「とは言え、目立つのも確か‥‥済まないが行動でカバーしてくれ」
「了解、上手く立ち回る事にするね」
 詫びる小夜へユーディスは笑顔を浮かべると、持っていたシルクのスカーフで自身の金髪を覆うも‥‥小夜の目にはそれがほっかむりに映り、静かに彼女の近くまで行き何も言わずそれを直しに掛かった時。
「お待たせしました、それでは真衛門様を探しに参りましょう」
 探し人の人相が描かれた羊皮紙とその彼へ認められた文を携えた幸穂の声が響き渡れば、一行は真衛門の捜索と黒門絶衣の裏を当たるべく京の町へと飛び出していった。

「どうして私達の周辺まで?」
 そしてその初日の日暮れ時‥‥やはり三条家、一人先んじて戻って来たレディスが屋敷周辺を飛んでは伺う様子に何事かと恵が尋ねると
「念の為、ですよ。悪い人はやる事が周到ですからね‥‥とは言え、まだ黒門が犯人と決まった訳ではないのですが」
 宙に浮いたまま彼女、始まったばかりの調査から犯人の断定こそ出来ず、がそれ故に恵を不安にもさせたくなく、レディスがそう返すと京の町並みを予断なく見回し彼女と共に他の面子の帰りを待つのだった。

●黒門
「あーもー、後先考えない人だなー‥‥」
 時間は僅かに遡り初日の昼、皆が三条家を出て暫くの事。
 すれ違う二人の想いにどうにもやるせなく、ユーディスが嘆息を漏らしていたその場所は貴枝家。
「でも何故、真衛門さんのお父さんは夜に外へ出てたんだろ? たまたま用事でなのか‥‥それとも犯人と面識があってなのか」
「そればかりは何とも‥‥」
 口をへの字に曲げながらもまだ見ぬ真衛門へ向け嘆息を漏らすが、やがて考えを切り替えると独り言とも質問とも受け取れる呟きを発し、従者の首を捻らせるが
「まぁそうだよね‥‥っと、それが?」
「えぇ。旦那様が切られた際、お召しになっていた着物です」
「メル、この匂いを良く覚えて」
 彼が抱える着物を見て、ユーディスへ頷く従者の手より着物を拝借すると彼女は愛犬の鼻面へそれを差し出し、染み込んでいるだろう真衛門の父の匂いを嗅がせる。
「ありがと。それじゃあ悪いけどその着物、厳重に保管しておいてね」
 そして暫くすると彼女、従者へ礼を言えば着物を託すなり嵐の様にその場を駆け去って行った。

 が時間は過ぎて翌々日、初日こそ友人知人の手を借りて人海戦術で京の何処かにいるだろう真衛門を探すも、彼の姿を見た者こそいたがその足取りは追えずにいた。
「そうですねぇ‥‥主に扱っている物と言えば武具の類でしょうか? まぁ尤も煩雑に扱っている様で、一概にそればかりとは言えないでしょうけど」
「そうか、それでその黒門は今京都にいると聞いたが‥‥何処にいるか分かるか?」
「えぇ、こちらに来ているのであれば黒門殿の住まいは一つしかありませんので知ってはいますが‥‥」
 そう言う事から期待が掛かるのは黒門絶衣の事に付いて調査している者達。
 黒門の居所さえ分かればそこに必ず真衛門も現れる筈‥‥そう踏んで交易商人に付いて調べている内の一人、バルディッシュは拙いジャパン語で尋ね回った末に彼を良く知る人物へ行き当たり安堵するも、黒門の居場所が容易く分かった事から逆に引っ掛かりを覚える。
(「余程の自信があるのだとしたら‥‥一筋縄では行きそうにもないが、疑い過ぎか?」)
 だが表情はあくまで平静を装い、商人へ礼を告げると白髪の戦士は巨躯を翻して沈む夕日の中、皆と合流すべく三条家へ向かった。

「確かに評判はいいみたいです、安いという事はないですが決して暴利でもなく程良い値段であちこちへ様々な商品を卸している様ですよ」
「それはわたくしも聞きました、人当たりに評判もいいみたいで確かに話の通りではあります。が‥‥」
 その三条家、一行が集えばイツキの情報を皮切りに彼のそれへ頷いてから黒門に付いて情報屋より仕入れた話より分かった事を続き、口にする幸穂の最後の言葉はバルディッシュによって遮られる。
「その裏では各地を転々とし、人を殺して回っている‥‥か」
「何それ?」
 その彼の言葉にユーディスも黒門の事を調べていたものの初耳だったらしく、白髪の戦士へ尋ね返すが
「噂の一つです‥‥他にも似た話こそありましたが、どれもそれ以上に詳しい話が聞けなかった事から私達が思っている以上に黒門の裏には大きな何かがあるのかも」
「‥‥黒門を捕まえる事は容易ではなさそうですね」
 バルディッシュに幸穂もそれ以上の事は分からなかったらしく眉根を顰め陰陽師が呟くと、佳澄は上品そうな面立ちに影を落として嘆息を漏らす。
「そこは一先ず依頼の範疇外だ、割り切る他にあるまい。それで黒門が滞在する場所は分かっただろうか?」
「‥‥此処だと思う。ねぇ、メル?」
 だがそれはそれ、とあっさり割り切り小夜が話を戻して黒門が居場所に付いて尋ねるとユーディスはレディスの持つ、洛中洛外図に指を彷徨わせ‥‥やがてその一箇所を差し、愛犬も肯定に鳴けば笑顔を浮かべ次いで、彼の住居に行き当たった者達も頷く。
「どうやら場所は此処で間違いないみたいですね〜、それでどうしましょうか?」
「夜の帳が落ちるからこそ、動くべきだろう。この頃黒門は外を出歩いていない様だから、奴がいるだろうそこに真衛門が」
 するとシルフィリアはのんびり、他の者を見回し尋ねると決断早く小夜の提案に皆頷けば、次には揃って一斉に踵を返すのだった。

●接触
「うーん、どうやら余計な介入が入った様ですねぇ」
 部下より報告を受け、黒門絶衣は京都にある屋敷の自室で頬を掻く。
「まぁ‥‥彼はまだ踏み込んで来る様子もない様ですし、動いている方々が揃ったら纏めて薙げばいいだけですか」
 ちらりと外へ視線を走らせ辺りを伺いつつ佇んでいる真衛門を見つめ、そう判断するも
「‥‥どうやら調べた所、その冒険者達は奴を連れ帰る事が目的かと」
「あ、そうですか‥‥でしたら無理をする必要はありませんね、恐らく今回の詳細に付いて彼は何も知らない筈ですし、適当に相手をして上げて追い払いますか。監視は暫く付ける事にしても、これ以上事を荒立てれば私が大目玉でしょうからあくまで丁重に、ね」
 続く部下の情報から先の判断をあっさり翻すと即座に指示を下して立ち上がり、闇夜の中にいる真衛門へ気付かぬ振りをすれば黒門は内と外を隔てる障子の窓を閉めた。

「伊達に生まれてから今日まで、京都で生活していませんのでこれ位は」
 黒門がそんな思案を巡らせている頃、一行。
 特徴ある京都の道に詳しい佳澄らの先導を受け一路、黒門邸を目指していた。
「けど纏まっていては真衛門さんを見付けるのも難しそうですね、散りませんか?」
「そうですね‥‥その方がいいかも、知れません。黒門の住まいを遠巻きに四方から四組で回れば‥‥」
 そして黒門邸が近くなると駆けながら一つの提案するシルフィリア、その彼女の提案に対し何時もは涼しげな面立ちを駆けっ放しな事から僅かに歪ませて幸穂が詳細を纏めると
「分かりました、行きましょうっ」
 頷く一行の中、暗き虚空を一人駆るレディスが見た目、クールな割に静かな声音ながらも皆へ檄を飛ばせばそれぞれ、二人ずつ四組に分かれ散開した。

「気付かれたか? ならば‥‥」
 しかしその時、黒門邸では僅かに動きがあった。
 さっきまで闇に身を潜めていた男が黒門邸の入口より人が吐き出されるのを見て警戒すると、徐々に厚くなりそうな黒門邸防衛の布陣にいよいよ痺れを切らし、潜む闇より男は飛び出そうとしていた。
「光陣よ、御身を守る楯になれっ」
 そしてその時、闇より飛び出そうと姿を現した貴枝真衛門目掛け矢が放たれたのと柔らかな声音で紡がれる、英語の詠唱がその場に響いたのはほぼ同時。
 彼の元へ矢が飛来するより先に効果を成した結界は、真衛門の背へ突き立とうとしていた矢を弾き、次いでその場へ駆け込んで来たシルフィリアとレディスを飲み込む。
「っ‥‥何だ、お前た‥‥」
「‥‥視野が狭いな、易々と背後を取られている様じゃ駄目だ」
「ユーディス君、何もそこまで」
 突如現れた結界と二人の姿に気を取られ、真衛門は振り返り尋ねようとするもその途中‥‥彼の背面を取り、冷ややかな言葉を紡ぐユーディスだったが周囲の状況からレディスが急ぎ、嗜めると
「どうする?」
「無論、黒門を討‥‥」
「まぁまぁ、少し落ち着いて下さいね」
 一つ息を吐いた後、彼から身を離してユーディスが改めて周りを見回し次に取るべき行動こそ決めているも皆へ確認の為、尋ねれば続く真衛門の言葉をやはり遮り金髪のクレリックが宥める。
「穿てよ月の矢、狙うは‥‥真衛門様がお父様の下手人」
「真衛門を連れて戻る、相手がそれを許してくれるのならな」
 すると次‥‥不意に闇から姿を現し凛とした声を響かせた幸穂、生み出した月の矢を放てばそれは黒門邸の二階へ飛び込み、次いで場に僅かな混乱を齎すと追い着いた小夜が手早く真衛門の手を引き、有無を言わさず踵を返すと残る面子も二人に続く。
「あら、意外にあっさりと見逃してくれましたね」
「相手も何か考えあっての事でしょうが‥‥」
「恐らく真衛門さんを害する気がないと判断して間違いなさそうですね、黒門もどうやら出て来そうにありませんし」
「暫く気は抜けないだろうが、大方そうだろう‥‥戻ろう」
 だが一行は直後、誰も追い駆けて来ない事に訝るが最後に合流したバルディッシュが表情だけ変えず、それだけ告げれば一行は足早にその場を去るのだった。

●後日
「敵討ちだ何だと飛び出す前に、恵さんの事も考えろよ」
「そうですよ」
「‥‥むぅ」
 黒門の屋敷前で彼を捕まえ、暫く駆けては辿り着いた冒険者ギルドにてやっと落ち着いた一行、駆けっぱなしで荒くなった息を整えれば今は連れ帰った真衛門へ恵より預かった文を渡すも次には皆、それぞれ彼へ詰め寄り説教を紡いでは呻かせていた。
「黒門のやってきた事の証拠を握って、官憲に突き出す等の解決法も考えられるのですが‥‥それでは駄目なのでしょうか? 仇討ちでなければならないのですか?」
「それ、は‥‥」
 呆れるユーディスとイツキへ苦悶の表情を浮かべる真衛門の様子に苦笑を浮かべシルフィリアが問いに、彼は言葉を詰まらせる‥‥恵から聞いた話や先程の直情的な行動から、彼の視野が狭い事に改めて皆気付くと
「‥‥仇討ちは結構だが、その後はどうなると思う? 黒門を斬ったのがお前と知れれば、お前や恵、その周囲の人間にも害が及ぶ。それに、お前の親父はそんな事をされて喜ぶ男だったのか?」
「霧島の言う通りだ。君はそれでもいいかも知れないがその後、残された縁者にもたらされる不名誉や災厄を考えた事があるのだろうか‥‥まずは動くよりも先にそれを整理するべきだったな」
「‥‥‥」
 その彼の反応へ嘆息を漏らす小夜、淡々とした調子で真衛門へ尋ねればその彼女に続きバルディッシュもまた彼を諭す様、語り掛けると返す答えが見当たらなかったのか途端、押し黙る。
「‥‥恨みではなく愛に生きて幸せになって欲しいし、それを望むと思うんだ。亡くなった人も、恵さんも」
「そう、だな。だからもう一度、良く考える事だ‥‥だが真実を暴く事になら手を貸すさ」
 だがその侍へイツキはそれでも優しく言葉を掛ければ途端、和らぐ場の雰囲気に小夜が言葉と共に不敵な笑みを浮かべると
「ならば‥‥もう少しの間だけ皆の力を、貸して貰ってもいいだろうか?」
「えぇ、勿論です!」
 まだ何処か割り切れていないのだろう、複雑な面持ちを湛える彼だったが何とかそれだけ言葉にするとイツキは笑顔で、そして皆も彼に続いて頷いた。

 ‥‥それから残された時間を使って一行と真衛門は黒門絶衣の、あるだろう悪事を明らかにすべく東奔西走するのだったが、確たる証拠が見付けられないまま‥‥だが無事に恵と真衛門を再会させる事だけは果たし、三条家にて二人の一礼を背に一行は帰路へ着くのだった。
「しかし黒門絶衣‥‥ただの交易商にしては、どうにも」


「大丈夫か」
「この程度であれば、まだね」
「‥‥念の為に暫く、監視を置け。が、勘付いていなければ手を出す必要はない」
「杞憂だとは思いますが‥‥まぁそう言うのであれば、私は貴方に従いますよ」

 〜終幕〜