【一旗上げるぞ!】〜女騎士、立身街道編〜
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■ショートシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 84 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月26日〜09月03日
リプレイ公開日:2004年09月01日
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●オープニング
「たーのもぅー!」
冒険者ギルドの扉を思い切り開けたのは一人の騎士だった、全身を鎧で身に包んでいるもその声音からは女性と察する事が出来た。
が、次の瞬間思い切り開け放たれた扉は反作用の力で彼女目掛けて戻ってくると、彼女に体当たりをする。
結果は一目瞭然、扉は鉄の塊にぶつかって儚い生涯(?)を終えた。
「はい、修繕費92c」
「あうぅー」
いきなりの事態にも関わらず冷静に告げる受付嬢の宣告に、彼女は外れた扉を前に崩れ落ちるのだった。
「今回の依頼ですが、彼女が持ち込んで来た依頼を一緒にこなして来て下さい。内容はオーク退治になります」
「よろしくお願いしますっ」
受付嬢の言葉に合わせて一礼する女騎士だったが、余りに勢いが良過ぎた為に兜がすっぽ抜けて飛んで行くと、一人の冒険者にブチ当たり昏倒させる。
「・・ぇ」
その場にいる一同はその様子に唖然とする。
「わーん、ごめんなさーぃ」
悶絶する冒険者に駆け寄り、ひたすら土下座をしている彼女。
頭が下がる度、彼の鳩尾にヘッドバッドが何発も入っているのは気のせいだろうか?
その様子を見て受付のお姉さんは溜息を付き頭を振ると、君達にだけ聞こえる程度の小さな声で
「・・ある村から出てきて一年近く一人で頑張ってきたそうなんですが、あの調子なので中々ねぇ・・でも村の期待を一身に背負って出てきた以上、このままじゃ帰れないんだって。彼女に自信を付けさせて上げたいなぁ、なんて思うんですけど・・」
区切り、彼女を見やる受付嬢に君達も視線をその女騎士に向けると
「なんかどんどん顔色が悪くなっていますよー、大丈夫ですかー?!」
先程までヘッドバッドで悶絶させていた冒険者を、今度は介抱させようとしているのか襟首を掴んでぐいぐい締め上げている彼女。
「あの調子でオークなんか倒せると思いますか?」
受付のお姉さんの問い掛けに一同は静かにその様子を見ながら首を振るのだった。
それでも依頼は依頼である、受けるか否か。
それは君達次第である。
●リプレイ本文
●最初から災難
「彼女の事についてだが、もう少し詳しい事を聞かせて貰えないだろうか?」
「とは言っても今回初めて来た子だしね、分かる事って言われてもあの程度しか」
受付のお姉さんに尋ねるヒカル・サザンテンプル(ea1884)に、彼女は視線をヒカルから外す、彼女も倣いお姉さんの見つめる方向を見やると
「オークかぁ。やっと冒険者らしい事が出来るね〜。今までは変態ばかり相手にしてたからなぁ〜、大丈夫かね俺?」
アギト・ミラージュ(ea0781)の呟きにシャルハは彼の右手に握るコップに親切心で水入れの壷から水を注ごうとした時、重さにバランスを崩し彼の頭に壷を被せてしまう。
「あぅー、ごめんなさいー」
「例えどんな人だろうと、同じ騎士として見過ごすわけにはいかん‥」
冷汗を一筋流しながら呟く彼女、その様子をロソギヌス・ジブリーノレ(ea0258)と彼女の背中に隠れてる萌月鈴音(ea4435)が見守る。
「シャルハさん、貴方の苦労分かります。黒猫にすら見向きされず、切れる以前に靴紐も買えないとか‥そんな自分とおさらばしましょう! 栄光とか希望とかそっちに進んでいこうじゃありませんか!」
一人拳を固めて泣き叫ぶロソギヌスに萌月が彼女の肩を叩く中、シャルハは彼を救う為に壷を殴り始める。
壷の中でその振動に脳みそをシェィクされながら彼は考えた。
(「あー、大丈夫かな?」)
ウィザードながら呑気にそんな事を考える彼に、壷の隙間から
「割れませんー、全力で行きますよっ」
そして彼女は全力のパンチを繰り出すも壷の表面は結露しており、そのせいで拳は流され代わりにエルボーが壷に入る。
壷は砕け、アギトの顔面もその勢いを殺す事無く打ち据えて吹き飛ばした。
「‥‥彼女からお話聞くなら、外で聞いてもらえるかな?」
それを見て受付のお姉さんは請求書を書き始めながら、ヒカルに懇願するのだった。
ギルドの片付けを済ませ彼女を外に連れ出すと、町を歩きながら彼女から話を聞く一同。
「昔からそそっかしくて、村にいた頃からよく迷惑を掛けていたんですよね。でもある時、村を襲った獣の群れをたまたま滞在していた一人の騎士さんが全部退治してくれたんですよー。それを見てこんな私でも誰か、何かに困っている人達を守れればな、と思ってその人から師事を受けて色々と教えてもらったんです」
一人で大仰に頷く彼女のヘッドバッドを隣で、それが当たらない位置で話を聞きながら頷くヒカルに
「何かを守りたい、か。立派な心掛けだな」
その話を隣で聞くレクルス・ファルツ(ea0231)が褒めると、彼女は照れながら
「そんな事ないですよー」
彼の方に向き直ってそう言う、だけが向きを変えた体と連動して右腕が鞭の様に振るわれ、不意をつかれたレクルスはそれを鼻柱に食らい地に倒れ伏す。
「また私ってばー」
彼に駆け寄ろうとしたシャルハだったが、レクルスは手で彼女を制し
「この位でどうにかなる程、軟弱ではない」
言ったが、言葉の割りにその姿は少々様になっていなかった。
そんな二人の様子を静観していた羽紗司(ea5301)は
「少し気になるので、試しに腕前を見せて貰おう」
そう言うと、ちょうど目の前に開けた広場に出る一同の中で羽紗は人が少ない一角を選び、すと拳を構えた。
「来い、但し一振りだけだ」
「そうですね、この調子では皆さんに信用して貰えないでしょうし」
そして真面目な表情を浮かべスラリと鞘から長剣を引き抜く彼女、しかし何故か鞘だけはあらぬ方向へ飛んでいく。
「ご遠慮願うわ」
クリオ・スパリュダース(ea5678)目掛けて飛んできた鞘は彼女の盾によって弾かれその方向を変えると、アギトに直撃し昏倒させた。
そして彼が地に倒れた音を合図に、シャルハが動く。
「っ!」
そして振るわれる一刀は今までの彼女とは裏腹に意外な速度で羽紗へと向かう、油断をしていなかったと言えば嘘になるも、彼はその真直ぐに向かってくる刃を何とか一歩踏み込み掌底で弾いた。
そこまでは良かった、がその一刀で彼女の本質を喪失した事が羽紗にとって不幸だった。
剣が弾かれたシャルハは勢い余って背中から後ろへ転ぶと勢い良く上がる左足が彼の‥‥男性諸君は結果を見届ける事を拒絶し、視線を逸らした。
次の瞬間、下半身に走る余りの痛さで声にならない声を上げて蹲る羽紗を見て
「これからが本番なのに、大丈夫なのかしらね?」
一人冷静にその様子を見ていたクリオはそう思わずにはいられなかった。
●廃屋のオーク
「廃屋の地図なんかはあるのか?」
一同は無事、とは言えない人が若干名いるも廃屋を眼前に休憩と打ち合わせをしていた。
道中シャルハにやられたロソギヌスにレクルスは萌月の応急手当をしてもらい、彼女の隣にいながらも無傷なヒカルは疲労困憊で地べたに伸びていた。
そんな彼等の中でも比較的元気な羽紗の問いに、シャルハは満面の笑みを浮かべ
「ありますー、これですよっ」
道中で巻き起こした事を反省してか、口調だけは変わらずアクションは大人しめにシャルハは懐から一枚の紙片を差し出した。
「なるほど。となるとオークは図体でかいし、でもその割に臆病だからこの辺りか?」
その地図を見て、クリオが指したのは一階中央の大広間。
「床の抜ける場所を知っているのは、あちらさんだしな」
「とは言え進まなければ依頼は解決しない、休憩も終わりにして退治と行くか」
続くクリオの言葉に羽紗が言うと、一同は立ち上がり廃屋へと歩を進めた。
「たのもーーー!!!」
『『『『『『まてやーーーーー!』』』』』』
大きな音を立てて廃屋の扉を開け放つシャルハに、萌月以外の皆が一斉に思いっきり突っこむと言ったアクシデントはあったが
「まぁ逆にやりやすくなったかもな」
とのクリオの言葉に一同は複雑な表情で頷くとその中へと踏み込む。
「ここらの空気を澱ませた奴らってどこ行ったか分かる?」
廃屋に入ってすぐ、オーク達の吐いた息で空気が廃屋内に澱みこもっていると珍しく察したアギトは、即座にステインエアワードを唱えオークの居場所を大まかに確認する。
完成した呪文の使い手からの質問に澱んだ空気は、オーク達は中央広間の方へ行ったとの情報を得、一同はそこへと突貫した。
広間の入り口で影から不意打ちしようとした一匹の攻撃を、物音を察し駆け抜けて回避するシャルハにヒカルと萌月にロソギヌス。
大声を上げて倒れるそれに後に続くクリオが足の腱を断ち切って即座に行動不能にする。
「この程度?」
「ハイハイ、痺れといてね〜」
詰まらなそうに呟く彼女の背後からアギトが放った電光の束がクリオを攻撃しようとしたもう一匹を焦がし、下がる隙を与えずにレクルスが切り掛かる。
「余りかかずり合っている時間はないのでね、手早く済ませて貰う」
直後、飛び退る彼と入れ替わりに再び下段を狙っての突きを繰り出すクリオの刃はオークの腿を貫いて地に転がした。
その一方、ロソギヌスの放つ矢が注意を引く為に三匹のオークを牽制しつつ放たれる中、その一匹を着実に切り刻む萌月、彼女の持つ得物には先刻見つけた毒が塗布されている。
「‥‥‥‥‥‥」
軽度な麻痺毒ではあるもそれは徐々に効き始め、動きの鈍くなったオークに
「ほら、眠っとけ」
後方からそれに飛び掛るや首筋へ両手で当身をかまして昏倒させる羽紗は地に倒れ伏すオークを傍目に残る二匹を見やると、ヒカルとシャルハに一匹ずつ襲い掛かっていた。
ロソギヌスの初めて扱うとは思えぬ弓の援護でヒカルの方は攻勢だったが、彼女と肩を並べて戦うシャルハは少々動きに荒さが目立つ。
「もう少し、落ち付いてっ」
「あれだ、もっと冷静に周りを見る事だな‥何にしても、慌て過ぎている様だ」
ヒカルの言葉に続いて、飛蹴りでシャルハを襲う一匹の顔を打ち据えて彼女の近くに降り立ち、そう言い終るやヒカルが受け持つオークをに向かう。
そして彼と同じ目標に駆ける萌月もシャルハと目線を合わせて一つ頷く。
「てやぁー!」
彼等の心遣いに感謝し一閃するシャルハだったが、それは容易く避けられる。
「闇雲に振り回すもんじゃない」
隙の出来たシャルハ目掛けて振り下ろされる槌を受け、流して返す刃で牽制するのは変わらずクールなクリオ。
「気楽に〜」
そして一人だけ緊張感がないアギトの言葉と同時に放たれるウィンドスラッシュはそれを怯ませ、その隙にシャルハはオークとの距離を再び詰める。
その時、降り注ぐ神の祝福。
「後もう少しだっ」
飛んで来たレクルスの檄に、彼女は皆の想いを乗せた一撃を振るった。
「うぁあぁーっ!」
●エピローグ
「ありあとやしたー」
オーク達が持っていた武器を洗って売り払ったクリオだったが、彼女の話術でもオークが使っていた事もあって然程高くは買い取って貰えなかった。
それでも儲けはそれなりで、彼女はそれを持って皆が待つ冒険者ギルドに戻るとそれを分配し手近な席に腰を下ろした。
「本当にありがとうございました。今回の事で何か見えてきた、そんな気がします」
「それは良かった」
クリオが席についてからシャルハのお礼を口にすると、先程席に着いたクリオはそっけなく言ったが、シャルハはその言葉を受けて微笑んだ。
「お互い、これからも頑張ろうね」
「そうですね、私も皆さんに負けない様頑張りますっ」
ロソギヌスの言葉に頷くと元気良く宣言した彼女だったが、振り上げた拳からまたしても手甲がすっぽ抜けると天井を打ち砕き、暫くして落ちてきたそれがロソギヌスの頭に刺さる。
「私ってやっぱりついてない?」
「どちらかと言えば、ね」
流血しながら呟くロソギヌスにクリオは冷静な表情を変えずに返すと、その場にいた一同は声を上げて笑うのだった。