守れ、巫女装束を!

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:03月02日〜03月09日

リプレイ公開日:2006年03月10日

●オープニング

●風変わりな人々
「やれやれ、尻尾を巻いて帰って来るとはねぇ。英国で独り立ちしているもんだと思ったけど」
「‥‥しょうがないじゃない、人は増えたけどそれ以上に捕まって‥‥止むを得なかったの」
「無能」
 何処かの山中、ひっそり佇む屋敷‥‥その中の部屋が一つで嘆息を漏らし呆れる浪人風の男性へ拙いジャパン語を用い、何事かの失態に付いて言い訳をしている厳つい英国人の男性。
 尤もその彼が装いは何故かドレスを纏っており、何かがおかしいのだが浪人風の男はそんな事など別段気にせず彼の言い訳に対し、目を細めると
「そう言う根性、余り宜しくないわね‥‥お仕置きが必要かしら?」
「姐さんのお仕置きって言うと‥‥」
「姐さーん、例の物がこちらに向かっていると江戸にいる奴から連絡がありましたぜ!」
 静かに低く、『お仕置き』だと『姐さん』呼ばれた彼が言えば次には英国人を震え上がらせたが‥‥その途中、襖を開けて入って来た一人の浪人(因みに女性物の艶やかな色使いの着物を身に纏っていたり、かんざしを挿していたりするのが基本)が大声で叫ぶとそれを聞いて『姐さん』、すと立ち上がる。
「そう‥‥じゃあお仕置きは取り止めね。でもその代わりに貴方‥‥例の物を盗って来て頂戴、作戦は任せるわ」
「所で姐さん‥‥例の物って、何?」
 すると英国人へのお仕置き所ではなくなったのか、『姐さん』はそれをあっさり諦めるが‥‥その代わり、彼へ『例の物』の強奪を命じるも彼は強奪する物が何か分かっていない様で、その事を『姐さん』へ尋ねれば
「巫女装束よ。江戸から伊勢へ輸送される話は早めに掴んでいたから部下を数人、江戸に張り込ませていたんだけど‥‥やっとねぇ。一ヶ月は待ったかしら? そう言う事で宜しく、今まで楽しみにしていたんだから‥‥失敗したら今度こそ、お仕置きよ」
 彼へまだ話していなかった事に『姐さん』が気付くと、簡潔にその答えを言うも双眸を光らせ英国人を鋭くねめつければ、英国から来たばかりの彼を新天地で始めての仕事へと追いやるのだった。
「『各国に伝わる女性用の衣服を全て集めれば何でも五つまで、願いが叶うと言う地に行ける』‥‥ねぇ。一体後、幾つ集めればいいのかしら?」
 その彼の背を見送りつつ『姐さん』、組織に伝わる口伝を呟けば何とも不透明なそれに対しこれからどうした物かと暫し、頭を悩ませるのだった。

 実はその口伝、当然の事ながら単なるガセネタであるのだが何故かその事に気付かない女装好きな男性の集団『華倶夜(かぐや)』の面々。
 まともに考えるとそんな事ある筈がないのだが‥‥それに気付かない辺り、不思議でしょうがない。
 しかしそれでも彼らは口伝を信じ、今回は巫女装束を奪うべく動き出すのだった。

●数多響く嘆息
「伊勢へ運ばれる荷の護送を頼む、因みにその荷の届け先は伊勢神宮だ」
「伊勢‥‥てえと京都の近くか? まった随分遠いけど、一体何を運ぶんだ?」
 江戸の冒険者ギルド、新たに張り出された依頼書を興味津々に見つめる冒険者へその概要を一言で話すギルド員へ長距離の護送に荷が気になる彼、その中身に付いて尋ねると
「‥‥巫女装束だ、そして襲撃される可能性が非常に高い」
『‥‥‥』
 一瞬の間を置いて答えるギルド員‥‥至って真面目な表情で言う彼へ、その場に居合わせた冒険者達は皆、絶句する。
「誰がそんなものを‥‥まぁ、色々な意味で好きそうな奴はいそうだけどな」
「女装好きな男共だけで構成された盗賊団があってな‥‥『華倶夜』と言う名なのだが、その巫女装束を狙っていると言う情報を伊勢神宮が察知し、今回の依頼を出す事となった。意外に完成するまで手間が掛かるらしく、これを奪われると少し困った事になるらしいのでわざわざ江戸に来てまで願い出て来た依頼だ」
 ついで誰かの口から紡がれた嘆息にギルド員は頷きながら、しかし真面目な調子を崩さず此処に至るまでの事の顛末を語れば
「まぁ‥‥複雑だろう気持ちは分かるが、これも依頼だ。宜しく頼む」
 その話を聞いて尚、浮かない表情を浮かべる冒険者達を見て彼も難しい表情を浮かべるが、それでも皆へ頭を下げた。

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 依頼目的:伊勢神宮へ届けられる巫女装束を守り抜け!

 成功条件:巫女装束を全数、無事に守り通した時。(完全成功)
 失敗条件:巫女装束を全数、奪われた時。(完全失敗)
 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 傾向等:一応戦闘系、リプレイのノリはギャグ、対抗は許可(何)。
 日数内訳:依頼期間は丸々護送、実働日数とする。
 その他:江戸から京都への移動依頼となります、参加の際は間違えのない様に。
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●今回の参加者

 ea0061 チップ・エイオータ(31歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1628 三笠 明信(28歳・♂・パラディン・ジャイアント・ジャパン)
 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6226 ミリート・アーティア(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7694 ティズ・ティン(21歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 eb0050 滋藤 御門(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ヴァルフェル・カーネリアン(ea7141)/ ライル・フォレスト(ea9027)/ 天山 万齢(eb1540)/ 景山 清久(eb1803)/ 野乃宮 美凪(eb1859)/ ミア・シールリッヒ(eb3386

●リプレイ本文

●旅立
「えーと、女装好きな男ばかりの盗賊団でしたか‥‥?」
 伊勢神宮へ届ける巫女装束が積載された荷台の周囲を皆が警護する中、木箱の中から和紙に包まれた白と紅の衣装を丁寧に取り出し、別に準備した古ぼけた木箱へ移し替えながら滋藤御門(eb0050)が確認の為、誰にでもなく尋ねていた。
 今回の依頼人である伊勢神宮からあった話を信用していない訳ではないのだが、英国にいた頃に聞いた噂を思い出した為に何故ジャパンでもその話を聞く事となったのか、気になってしょうがなかったからだったのだが
「あぁ‥‥だがその様な趣味は人様に迷惑の掛からない範囲でやって欲しいもんだな」
「本当に全くだね〜。でも‥‥なんか英国に居た時もこんな感じの依頼を受けた様な気がするんだよね〜、どんなだったかな?」
 その彼へ隣で同じ作業に耽る月代憐慈(ea2630)が頷くと共に溜息をつき、畳んだ扇子の先で頭を掻けばその様子を見守りながらも、テレパシーの巻物で今回世話になる馬達の全てへ挨拶を終えた男性らしい装いを纏うミリート・アーティア(ea6226)も依頼の内容から既視感に囚われ、ポツリと漏らす。
「しかし巫女装束に目をつけるとは‥‥見所があるでござるな。感覚とかではなく、見聞から考え抜いた末であろうとものぅ」
「‥‥ともかく、女装軍団になんか神聖な巫女装束は絶対渡さないもん」
「そうですね」
 間違いなく呆れているだろう面々が多い中、一人真面目な表情を湛え感心する天城月夜(ea0321)だったが、子供らしい面持ちにその小さな体に似つかわしくない大剣を背負うティズ・ティン(ea7694)と真剣に周囲へ厳しく目を光らせる侍の三笠明信(ea1628)が紡いだ言葉を聞けば志士の彼女は苦笑いを浮かべ、詫びの代わりに頷いた。
「へぇ、これが巫女装束って言うんだね。結構可愛い‥‥でも私は段々メイドっぽくなくなってるなぁ」
 とまぁ女装盗賊団と対するに当たり、いつもと違う意味で複雑な想いを抱く面々だったが肝心の荷である巫女装束を見てティズはうっとりし、次いで自身の姿を見つめては溜息を付いた時。
「うぅむ、これでは引っ掛かってくれないかね〜」
 一つの木箱を弄るトマス・ウェスト(ea8714)の声が聞こえ、覗き込めば彼の持ち物だろう千早と紅白二色の褌で巫女装束を模そうと悪戦苦闘の真最中。
「それなら簡単に、後ですぐ戻せる形で私が縫うよ? 同じ様な事、考えていたしね」
「ふむ‥‥それならば、お願いしようか」
 その光景に見た目、冒険へ出るにはまだ早そうな少女が提案すれば暫し顎を撫でては思案を巡らせるトマスだったが彼女の提案に頷くと、次いで彼女は満面の笑みを浮かべ懐から裁縫セットを取り出すのだった。

「よっし、準備完了! それじゃあ‥‥行こうっ!」
 そして、暫くの時を経て一通りの準備を整えればパラのレンジャーであるチップ・エイオータ(ea0061)が自身の肩程まである弓を担ぎ直し元気な声を辺りへ響かせると、彼の掛け声を合図に馬車と一行は遂に動き出す‥‥友人達の餞別と見送りを背に、伊勢を目指して。
「‥‥漸く動き出したわね。伝令、『鉄陣』へ伝えなさい‥‥『例の衣装は予定通りの道を進む、すぐに布陣を済ませられる様、準備を怠るな』と」
「はい〜」
 その一行を見守る、露骨なまでに怪しい女装ものの着物を着崩す浪人二人がいたりするのだが‥‥その存在は隠れていたとは言え、目立つ身形から一行はおろか周囲の一般人にまでその存在が察知されていた事は言うまでもない。

●道中 〜『鉄陣』〜
 街道も途中、既に全行程の半ばにまで至るが一行と巫女装束を積んだ馬車は未だ何事に見舞われる事なく、予定通りに街道を踏破していた。
「何処までも流れ行く〜、雲が行く先、私達の‥‥」
「あれ、何‥‥」
「‥‥迷惑極まりないな」
 その平和な道程の中で荷馬車の後方、チップより借りた駿馬に跨り何処までも通る様な声音で素晴らしい歌を紡いでいたミリートだったが、彼女が乗る駿馬の持ち主が視界の片隅に何かを捉え、御門の友人が託した餞別を思い出せばチップの隣を進む憐慈もやがてそれに気付くなり、扇子を大きな音と共に閉じれば肩を竦めた。
 その彼らの視界に映っていたものとは‥‥。

「暫し待てば道を開けるが‥‥申し訳ない、今此処を通ると言うのなら駄賃に巫女装束を置いて行って貰う」
 と丁寧に街道を通ろうとする者へ告げては一列になって道の先を阻む、十二単を着た集団。
 数は十と数人程で無論、皆が皆男性である事とその駄賃の意味不明さからそれより先へ進む者などいる訳もなく、その辺りは非常に閑散としている。
 ‥‥と言う事でそんな、摩訶不思議な光景が一行の目の前に広がっていたのだった。

「‥‥何て言うか、あからさまだね」
「あそこまで堂々としていると、何とも言う気が‥‥」
 その光景に誰よりもそれを早く捉えたチップはある程度耐性があるからか呆れるだけで済むも、一行の先頭を務める明信は初めて見る光景から愛馬に騎乗したままでも覚える疲労感から前のめりに突っ伏したくなる衝動に駆られて呻けば
「どうしよっか?」
「悩むまでもないな、押し通る!」
 生真面目そうな侍のうな垂れる様子に苦笑を浮かべながら、索敵手の問いに戸惑う事無くトマスは嗤い言い切れば、皆へ一つの‥‥単純な策を告げた。

 それから暫く、道を塞ぐ彼らの目の前に待ち望んでいた一団が現れた。
「や、お前達丁度いい所に‥‥巫女装束を素直に置いて行けば‥‥のぶうぁ!」
 その光景に安堵を覚えてか一行を待っていたと露骨に言い放つ、十二単の中央に位置する派手派手な女性物の着物に身を包む英国人の男性だったが直後‥‥暴れ馬と化したミリートが乗る駿馬の暴走によって幾人かの十二単共々宙高く、跳ね飛ばされる。
「素直になんか渡さないもんねー‥‥ってあ、ちょっと。も、もう良いからぁー!」
「ま‥‥待てぇい! ほべぁ!」
 そして彼女の絶叫が消えるより早く地へ叩き落されるが、英国人の彼は即座に立ち上がるも‥‥次は月夜が駆る戦闘馬に先と逆、地へと叩き潰される。
「待てと言われて待つ馬鹿などいないでござる」
「‥‥‥っ、もう許さ‥‥ぺぎっ‥‥」
 だがそれでも叫んで執念で立ち上がり、額に青筋を立てては遂に激昂したが‥‥最後の止めは荷馬車、それに轢き潰されれば彼の体の半分程は完全へ地に埋まり、ついでに嫌な音も響かせるが‥‥一行は聞こえない振りをしてその上を堂々と、嵐の様に駆け抜けた。
「‥‥っきぃー! お前達、早くあいつらを追い駆けなさいっ!」
「私達『鉄陣』は有事の際における防壁、敵の進行を留める事が主な役目で‥‥追跡には」
 しかしまだ元気な彼、ガバリと立ち上がれば一行の背中を悔しげに見送りつつも、頑丈さが取り得の十二単を纏う集団『鉄陣』を叱咤しては追撃を命じるが、十二単とその下に着る鎖帷子やら何やらが彼らの行動を阻害している為にそれを統率する一人のいかつい男が口篭り、不可能である旨を告げれば次に彼は地団太踏むと
「折角いいアイデアだと思ったのに、いいわっ! お前達は手近な拠点まで撤退!」
 何がいいアイデアだったのか分からないが、怒鳴り散らして『鉄陣』へ次の指示を出せば旅人達が唖然とする中で集団は散開し、漸く街道に平和が訪れるのだった‥‥なんだかなぁ。

●夜営 〜『森精』〜
 それから二日を経て‥‥翌日には伊勢へ着くだろう距離まで迫った一行、今日の野営場所を決めると少し早いながらも休息に入っていた。
「保存食って、こうやって食べると全然違うよ」
「なるほど、勉強になります」
「ボクにも後で教えて〜」
 その夕食時、ティズが保存食へ簡単に手を加えて作った夕餉を食せば御門とミリートを筆頭に皆の賛辞から、可愛らしく頬を染め照れる調理人だったが
「‥‥来ます、数は多くありませんが周りを囲まれています」
「確かに、誰か来た様だ」
 そんな平和も束の間、地の振動を感じ取る魔法の効果から敵が迫る事を静かに御門が告げれば次いでミリートが設置した鳴子が乾いた音を奏でると、それに反応したトマスが油断なく辺りを見回した‥‥その時だった。
「うわーはっはっは!」
 文字通り、場の空気を震わせる高笑いが響けば一行の周囲より露出の高い外国製だろう緑色に染められたブラウスに、やはり丈の短い緑色のスカートを纏った筋骨隆々の男達が現れたではないか!
「‥‥うっ」
 その信じ難い光景を見て、得物を構えようと立ち上がった明信は直後に地へ膝を突く‥‥その様子から彼が精神的に大打撃を受けた事が明らかだったが、彼らはそれから一行へ攻撃をしてくる訳でもなく高笑いと共に辺りを跳ね回るだけ。
「‥‥どうする?」
「どうするも、こうするも」
 その筆舌し難い光景に一行、どうしたものかと困り果てながらも明信を除く皆はやがてそれぞれ、嘆息と共に得物を抜いた。

「ジャパンの『森精』は目立ちたいだけなのね‥‥あれじゃ役に立たないわ、最後の準備に掛かりましょう」
 そしてその頃、影から見守る『華倶夜』首領代行は英国でもあった『森の妖精』と比較し、一行と同様に嘆息を漏らすと結果を最後まで見る事無くその場を後にした。

●神宮を前に 〜『桜舞』〜
 太陽は真頂点に昇り、昼時を指し示した頃。
 『鉄陣』に『森精』を下した一行の視界に目的地である伊勢神宮の鳥居が視界に入れば同時、行く先を立ち塞ぐ者達も飛び込んで来た‥‥その集団は間違いなく『華倶夜』。
 今度はそれぞれ、派手派手しい女性物の着物を着崩す浪人風の集団が一行とほぼ同数現れるも
「げっ、気持ち悪い! 着付けも悪い! 最悪!」
「‥‥っ。いきなり精神攻撃とはやるわね、小娘」
「もうやだっ、早く何処かに消えてよ!」
『‥‥‥』
 それを見るなり誰よりも早くティズが絶叫を木霊させれば、はなじろむその女装集団率いて再三現れた、『華倶夜』の中で誰よりも色々な意味で目立つ英国人の男。
 今までと違う着物を纏う彼の表情は引き攣っていたが、余裕を持ってその幼き剣士へ返すも、続けて捲くし立てる彼女の前で遂に彼はおろか『華倶夜』の皆も沈黙する。
「あ、兄貴‥‥相手は小娘ですから、俺達の高過ぎる芸術性にきっとついて来られないだけですよ」
「‥‥そうね、そうよね」
「甘いねぇ、君達」
「な、何ですってぇ!」
 そんな、年下の子供に攻められて意気消沈する首領格の男だったが、部下の慰めにやっと我を取り戻しすも‥‥続くトマスの意味深な発言に再び揺らぐ。
「けひゃひゃひゃ、流行り廃りは時の流れで変わるものだね〜。因みに今の流行りはこの蒼い半纏だ〜!」
「それは嘘よっ!」
「‥‥ちっ」
 身を翻してはトマスが今、羽織っている半纏を舞わせ『華倶夜』の一団を見下し言い放つがそれはキッパリ否定されれば、舌打ちするしかないトマス。
 だが心配するな、決して君が負けた訳ではないのだから!
「行きなさい、『桜舞』! 此処が最後よ、姐さんの為にも必ず巫女装束を奪いなさいっ!」
『おうっ!』
 と、そうこうしている内に『華倶夜』首領代行の男が号令を下せば、それぞれはやっと刀を抜き放ち動き出す。
「‥‥向かって来ると言うのなら、手加減はしないぞ」
 そして男達が纏う着物が舞う中で、その光景にもう何度目か分からない嘆息を漏らし硬直しかかる体を無駄口で解して憐慈は扇子を畳み掲げれば、動き出した『華倶夜』が『桜舞』の一人を扇子で指すなり呪文の詠唱を織っては淡い緑の燐光を身に纏わせた。

「絶対に、渡さないよ!」
「悪い事する人には、その分だけお仕置きしちゃうんだから!!」
「気持ち悪いんだってばぁー!」
「ごぶるぅぁっ!」
 放たれた矢は一度に四本、駆けては荷馬車へ迫ろうとする『桜舞』の一人の手をチップが狙い、穿てば怯んだその暇にその後ろへいる者諸共、正確に狙いを付けたミリートの矢が彼らの動きを縫い止め抑止し、芸術性の欠片もない彼らへ怒りを覚えたティズがその想いを乗せ、豪快に大剣を振るい吹き飛ばすと
「コ・ア・ギュレイトォ!」
「この剣を下さった方に誓いし志を果たす為、この荷を渡す訳には参りませぬ」
 なんとも暑苦しいその中でもしなやかに舞い、一人涼しげに風の魔法を放つ憐慈の隙間を埋めるトマスの拘束魔法が五人を同時に捕らえるも、抵抗した一人が馬車へと迫るが託された想いを乗せて御門が奔らせる剣閃を前にすれば、彼らの野望など紙切れが如く切り伏せられる。
「人数が少ない割、良くやるわね!」
「当たり前だ、拙者の好みに合わぬ者に後れを取ってなるものか」
 同じだけの数に、手練ばかりの面子を揃えたつもりの『華倶夜』首領代行は続々と打ち倒される部下達を目にして呻くが、囮を務めながらも一行を代表して月夜が意味不明な理由を挙げ断言すると
「お前の好みなんて知らないわよっ! だから私はこの格好を臆せず貫き通すわっ!」
「そうか。それは残念だ、拙者の好みに合えば更正を誓った上で見逃したものを‥‥」
 無論、対峙する彼は怒鳴るも‥‥月夜は怯む事無く小太刀を抜いて一際凄惨な笑みを浮かべれば
「だが着物はともかく既にお主らは拙者の趣味から外れておる。故に着物には悪いが‥‥細かく刻んだ上で、帰って頂こう!」
 次に自分勝手な理由を掲げて、彼に後悔させる時間すら与えず幾多の剣閃を閃かせた。

「許せよ、着物‥‥」
「うわぁぁーん! 怖かったよー!!」
「そうだろう、ティズ殿も良く頑張ったでござる。もう見苦しい者はおらぬ故に落ち着かれよ」
 切り刻んだ着物へ供養を捧げ、澄んだ音を立てては振るいに振るった小太刀を月夜が鞘へ収めて吐息を吐けば、恐怖から解放されたティズが先とは裏腹に泣き叫んでいる事に気付き、純粋な少女を宥める。
 願わくば、あの様な大人にならない様にと思いながら。
「これで一先ず終わりだね‥‥でも、これはやらない方が良かったかな」
「そう、ですね‥‥これでは余りにも」
 そんな彼女らの傍ら、捕らえた盗賊団の者達を縛り上げていたチップと御門ら男性陣だったが‥‥チップのアイデアから彼らの頭上まで捲り上げた着物を茶巾状に縛りあげてみて、後悔していた。
『見苦しい』
 もぞもぞと幾つかの動く茶巾に、それから生えては暴れる丸太の様な足‥‥その不思議な物体が蠢く様には皆が皆、異口同音にそう呟いたのは言うまでもなかった。

 〜終幕‥‥?〜