【何でもござれ】子供は風の子、元気の子

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 72 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月05日〜03月14日

リプレイ公開日:2006年03月12日

●オープニング

●願い
「‥‥分かった、引き受けよう」
「助かるよ。気が早い事に新斎王来訪の準備も始めているものだから、こっちも人手が足りなくてねぇ」
 何時の日か、夜遅く。
 神野珠の家にて、エドが寝静まってから家の主と言葉を交わすのはレリア・ハイダルゼム。
 何事か、彼女からの依頼を引き受けたレリアが頷くと珠は苦笑いを浮かべ申し訳なさそうに頭を掻く‥‥その詳細は分からないものの、二人の様子からそれは急な申し出だった事だけ、分かる。
「気にする事はない、こちらも世話になっているからな」
 だがその珠の様子に銀髪の剣士は声音だけ、優しく響かせると剣士に次いで口を開こうとした珠だったがそれよりレリアが早く、再び言葉を紡ぐ。
「‥‥その代わりに一つ、こちらも申し出がある」
「なんだい?」
「エドを頼む」
「連れて行かないのかい? 私、子供の相手は苦手なんだけどねぇ‥‥」
「自ら選んだとは言え、エドには相応しい生活も送って欲しい」
 その彼女が紡いだ提案に巫女、先程まで浮かべていた苦笑を顰めれば僅かに年下の剣士へ抵抗こそしてみるも、レリアが最後の言葉には返す事出来ず呻く。
「‥‥あんたが言うと、説得力あるねぇ」
「身近にいる者だけでも、同じ道を歩いて欲しくはないが‥‥」
 昔のレリアを知るからこそ、嘆息を漏らしながらも珠はやがて渋々頷けば自身の想いだけ、呟く剣士。
「とにかく、頼んだ。一月もしない内に戻って来る」
「そうだね、あんたに頼んだ件に関しては今後対策を講じる必要もあるかも知れないし」
 だがそれを途中で区切り、話を先に戻して約束を交わせば珠は様々な話から複雑になった表情をそのままに、頷いた。

●沈黙
「おーい、エドくーん」
「‥‥‥」
「エードーくーんー」
「‥‥‥‥」
 ‥‥あれから一週間、レリアも何処かへ旅立てば珠の家に一人残されたエド。
 珠も日々の勤めから中々に彼を構ってやれない事から近隣の子供達に彼の相手をして貰う様、お願いするも‥‥彼女が旅立ってから更に三日目を経た今日も、エドを呼ぶ子供達の声に彼は自身の部屋から出て来る事はなかった。
「お姉ちゃん駄目だよ,やっぱり今日も出て来ないよー」
「そうだねぇ、ごめんね皆ー‥‥まぁ、こうなる事は目に見えていたけど、しかし参ったなぁ。思っていた以上に人見知りが強いかぁ」
 その、一人取り残されてから三日目の今日。
 相変わらずなエドの様子を勤めがない今日、初めて目の当たりにした珠は子供達の報告を聞いてから彼らを慰めれば、想像通りに手強い相手の部屋の前で嘆息を漏らす。
「こうなったら後は‥‥身近な所から慣らして行くしかない、よねぇ?」
 しかしレリアから任された以上、エドをこのままにもして置けず‥‥この事態を予想していた珠は思案していた事を実行する為に子供達を一先ず解散させた後、踵を返すのだった。
 冒険者ギルドへ、依頼として持ち込むべく文を認める為に。

――――――――――――――――――――
 ミッション:エドと一緒に遊ぼう!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は不要、依頼人が提供します。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 傾向等:まったりのんびり
 日数内訳:伊勢までの往復日数は六日、実働日数三日。
 その他:現状、割り当てられた自室に篭り切りのエド(食事等の時を除く)。
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●今回の参加者

 ea5001 ルクス・シュラウヴェル(31歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea7976 ピリル・メリクール(27歳・♀・バード・人間・フランク王国)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 ea9384 テリー・アーミティッジ(15歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb0601 カヤ・ツヴァイナァーツ(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb3983 花東沖 総樹(35歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

竜 太猛(ea6321)/ フィーナ・グリーン(eb2535

●リプレイ本文

●部屋の中
「部屋に篭り切りって詰まらなくないのかな?」
 神野珠が家にて、エドワード・ジルスの部屋を前に佇む一行の中で彼に年近い一人、テリー・アーミティッジ(ea9384)が話で聞いた彼の様子に首を傾げるも
「太陽の下の笑顔が一番似合う子供時代‥‥エドさんにもその幸せを教えてあげたいわね」
「そうなのだな、頑張ろうぞ!」
「ま、腹が減るのは万国共通なので私は料理で何とか」
 神野より事情の一端を聞いていた花東沖総樹(eb3983)が微笑みながら、どこか物憂げに言えばエドと同じ年頃の緋月柚那(ea6601)も頷くと潤美夏(ea8214)は髭を撫で、自身が成すべき事を見出せば
「で、どうしよう。いきなり部屋に入るのは良くないよね?」
「こう言う時は積極的な方がいいよ、きっと」
 扉を前に次の行動を悩むテリーだったが、金髪を靡かせてピリル・メリクール(ea7976)がシフールの彼へ言えば同時。
「初めましてっ。私はピリルお姉ちゃんだよ♪ お姉ちゃん達と友達になろうっ」
 半ば驚かせるつもりで盛大に扉を開け放てば、それにも拘らず部屋の中にいたエドワード・ジルスは唐突な客の登場に一瞬、肩を震わせるも視線だけは何とか一行へと向ける。
「お友達、他にも沢山連れて来たから少しの間だけど皆で一緒に遊ぼうね」
「邪魔するぞ。私の事を覚えておるか?」
「この前の樹退治で同行したが、どうだろうか」
 その彼が示した反応にピリルは微笑むと次にエドへ声を掛ける、以前より彼を見知るガイエル・サンドゥーラ(ea8088)と愛犬を伴うルクス・シュラウヴェル(ea5001)が菓子折りを差し出せば、無表情ながらも二人へ頷くエドの様子からピリルは考え耽る。
(「周りの人に無関心な訳じゃないんだ。けど、それならどうして独りでいるんだろう?」)
「達者で何より。やはり、まだレリア以外は怖いか? 皆、仲良くなりたいだけなのだ。悪く思わんでくれ」
 だが彼女が考える間、ガイエルが自身の後ろに控える他の者達を代わる代わる見据えるエドへ苦笑を浮かべ、それだけ言えば拒絶の意思を示さない彼の様子から部屋にいていい事を何と無く察し、手近な所へ腰を掛けた。

「嫌だったらいつでも言ってね」
「‥‥‥」
「そう言えばエドとやらはえげれすから来た者なのかの?」
「‥‥‥」
 暫く時が立ちエドの部屋の中で一行は彼の様子を見守るも、ルクスの愛犬の相手を務めるだけの彼は年近い二人の問い掛けへは一行が言う通り、首の振りで肯定否定の反応だけ返して貰っていた。
 因みに今のエドは彼らの質問に対しては常に首を縦に振って、まだ会話とは呼べないやり取りに興じている。
「なー」
 とその時、エド目掛け駆け出したのは一匹の子猫で彼の懐に飛び込めば次いで鳴る、主の舌打ちに早く反応して踵を返す。
「初めまして、僕はツヴァイ。フルネームはカヤ・ツヴァイナァーツって言うんだけど‥‥長いでしょ? だから略してツヴァイ。あ、因みにこの子は『にゃん』、ジャパン語で猫の事を『にゃんこ』って言うらしいから『にゃん』なんだ‥‥単純かな?」
 その子猫の背中をエドは視線で追い、やがてその主であるカヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)へ辿り着けば静かなままツヴァイの、色素が異なる特徴的な瞳を見つめ彼の問いへ首だけ左右に振ると
「それと‥‥僕の事、間違っても『カヤ』って呼ばないでね。だってジャパン語だと『カヤ』って女の子の名前らしいんだもん。だからツヴァイ、ね?」
 ツヴァイは安堵して表情を綻ばせるが、次にエドへ大事な事を告げ‥‥暫しの間の後に彼は小首を傾げるも、やがて頷くのを確認して彼は笑顔のままでエドの髪を梳き、撫でる。
「感触はまぁ‥‥上々か?」
「そう、だな。がまぁ、ゆっくり行こう」
「これから楽しくしようぞっ!」
 そんな二人の様子から、ガイエルとルクスが顔を見合わせその表情を僅かながらも緩めれば、意気高く柚那の気合が籠もった声が部屋に響き渡り‥‥彼女へ振り返るエドと目が合えば、彼女は満面の笑みを浮かべた。

●家の中
「さ、何をして遊ぼうか?」
 それから、ルクスがエドの部屋の中へチェスやら絵双六を早々に展開すれば初日は簡単な顔見せから希薄な反応を示すだけの彼が興味を覚えた物を用い、部屋での遊びに終始した皆‥‥その翌日、先日はエドと僅かに顔を合わせただけの総樹が今日は一番に彼の部屋を訪れれば開口一番。
「人間って着る物や髪型が変われば気持ちも変わるものなの。騙されたと思って試してみない?」
 一つの提案を彼へ告げ微笑むと、その問いへエドは変わらず沈黙こそ続けるも答えを静かに待つ総樹へやがて頷けば尚、顔を綻ばせる彼女は彼の手を引き部屋の外へと連れ出した‥‥がまだ、僅かにその手は震えていた。

「まぁ朝から面倒ですが、こう言うのも悪くないですわね」
「あんたさぁ、もう少し言い方選べないかなぁ」
 そして台所、珠の隣で総樹同様に先日早くから姿を消した美夏が紡いだ言葉とは裏腹に包丁を躍らせれば、巫女より窘められるも
「性分ですわ、今更どうしようもありません」
「‥‥ま、私はいいけどね。おや、おはよう」
「おはようございます」
 自身の事を一番に理解していると珠へ返せば、彼女は肩を竦めるが次に総樹とエドが台所に顔を覗かせるなり、笑顔で二人へ挨拶を交わすと
「おはようですわ、と丁度いい所に来ましたわね。朝食の準備も整った事ですし、まだ寝ている方を起こしに行きましょう」
「‥‥何をするつもりなの?」
「秘密、ですわ」
 それに遅れ、美夏も二人の存在に気付くとエドを見るなり寝室へと誘えば、彼女の考えを図りかねて総樹は尋ねるが、美夏は髭を撫で微笑むとエドの手を引き一行に宛がわれた寝室へと向かうのだった。

「これで‥‥と」
「‥‥‥」
 意外に広い、神野家の客間にて八人分の布団が敷かれている部屋へ着くと、美夏は未だに寝ている柚那に何事かしている‥‥勿論、エドは静かに見守るだけ。
「花が鼻に、ですわね」
 そして次に彼を振り返り、エドへ笑えば言葉の通りに華から何時摘んだのか一輪の花を挿せば微笑む美夏。
「むにゃ‥‥うどんが鼻から‥‥」
 すると次に寝起きの悪い彼女がそれから暫くして完全に覚醒すれば一騒動あったりするが、ちょっと見苦しいので此処では割愛するもその中でエド、騒々しい場にも拘らず静かに佇むのみだったのは言うまでもなく。
 だが心なし、僅かにだけ彼の表情が緩んでいた事に二人は気付かなかった。

「悔しいが‥‥見直したのじゃ」
「当然ですわね」
 さて朝食後、野菜が好きだと頷いたエドの為にガイエルらから英国の料理を聞いて拵えた英国風の料理を食し終わった一行、先の騒動でへそを曲げた柚那が持参した湯飲みで茶を啜り、その出来から止むを得ず隣で同じ様に茶を啜る調理人へ賛辞を述べると美夏は誇らしげに胸を反らせ言えば、柚那は釈然としない想いが積もるも茶を更に啜り落ち着こうとした時。
「さ、これでどうかしら?」
 食後よりエドと共に姿を消した総樹が戻ってくれば彼女の後ろ、今はくたびれたローブではなくジャパンらしい大人しい色使いの着物姿を身に纏い、少しぼさぼさだった髪も彼女の手で僅かに切り揃えられ、さっぱりとした姿でエドは皆の前に現れた。
「‥‥うん、良く似合っている」
「そうだの、その方がうちも好きじゃ!」
「あたしもレリアも飾りっ気ないからねぇ‥‥」
 その姿にルクスを筆頭に皆が感心し、褒めれば一行の感想から無表情なエドを見つめぼやく珠へ次に一行は苦笑を浮かべると
「外にはお日様、季節も春が近付いているの。ね、エドさん。少しでも外に出て私達と遊んでみない?」
 ピリルの視線に気付き頷いてから総樹、朝に彼の部屋を訪れた時と同じく手を差し出し外を見てエドへ呼び掛けると、彼は外へ初めて視線を向ければ彼女の差し出した手を握るのだった。

●青空と陽光の下
「しかし、変わった遊びだね」
「面白いぞ、緊張感が堪らんのじゃ!」
 屋外に出て少し、さっきまでテリーとエドを従えては笹舟を川に流し遊んでいたが何事にも飽きっぽい彼女は今、彼らが見守る中で大人しく座る自身の愛犬の周りに石を積むと言う謎の遊びに興じていた。
 因みに柚那曰く、愛犬が動いて石の山が崩れたら終了らしい。
「‥‥しかし何処となく、上の空だな。エド殿」
「柚那との遊びが詰まらない‥‥とは言わせないぞっ!」
 だがその中、一行に馴染んで来ている感触こそあったが今は何処か呆けている様なエドに目聡く気付いたルクスの声に反応して振り返る彼は次に柚那の激昂に当てられるも、動じる事無く首を左右に振る。
「‥‥詳しい事情は知らぬが、柚那も両親の元を離れてかなり経つのじゃ。じゃがちっとも寂しくはないぞ」
 そんな彼の相変わらずな反応に柚那は珠がエドに付いて僅かだけ知っていた、両親がいないと言う話を思い出し、胸を張って言うが‥‥彼は今度、珍しく反応を返さない。
「そう言えば、君もウィザードなんだっけ? じゃ、ちょっと待っててね」
 そのエドの様子から不意に周囲へ沈黙が宿るも、それを意に介せずツヴァイが彼へ呼び掛ければ詠唱を織り、地へ向けて何事か呟くと
「はい‥‥どうぞ、魔法ってこう言う時便利だよね。勿論万能じゃないけれど」
「‥‥‥」
「それは僕も皆もエド君も同じ、出来る事もあるけれど出来ない事だってある」
 やがて一輪の花を手折り、エドへ差し出し微笑めばそれをおずおずと受け取る彼へ諭す様に優しい声音を紡いでは見つめ返すエドへ続け真直ぐに、変わって欲しいと言う想いを織る。
「けどね、自分を変える事は出来るんだよ。だから、エド君も皆と‥‥」
 だが一行と逢ってから、初めてエドは激しく体まで揺すり首を左右に振って抵抗の意思を見せる。
「どうしたのかな?」
 その突然な反応に、周囲にいた面子は驚くがピリルは動じずに尋ねるも顔を伏せるだけの彼に対し、自身の前髪を掻き揚げれば互いの額を合わせ巻物を紐解き、心の中で再度尋ねた。
『何がそんなに嫌なのかな、皆と遊ぶ事‥‥嫌い?』
『皆、何時か死んじゃうから‥‥もう、泣きたく‥‥ないから。だから‥‥』
「そっか‥‥でも、本当はちゃんと言葉で話さないと思っている事は相手に通じないよ?」
 ピリルの声は静かにエドの心へ響くと‥‥初めて返って来る彼からの、たどたどしい言葉での答えに間近で彼の目を見据えたまま一つ呻いてから、接していた額を離すと
「それに、エド君のその考えは少し違うかな。確かに言う通りかも知れないけど‥‥だからこそ、皆と接して沢山の思い出を作らないと。生きている時にだけ出来る、簡単だけど一番に大事で‥‥楽しい事だからね」
 押し黙ったままの彼から視線だけは逸らさず、頭を撫でるが
「ちょっと難しい話、しちゃったね」
 次にはエドへ詫び、舌を出して苦笑を浮かべるピリル。
「正直、以前よりお主が戦う姿を見て驚いたが‥‥レリアは心配しておった。エドはどうしたい? 私はレリアの役に立ちたいのだと解釈したのだがな」
「‥‥‥だ」
 その時、二人に影が落ちてはすぐに声が響けば振り返るエドの視界にガイエルの姿が映ると彼女の問い掛けへ、彼は懸命に口を開き言の葉を紡ぎ出す。
「‥‥誰も、もういなくなって‥‥欲しくない、から。僕が出来る‥‥事、は‥‥したい」
「ならば後で、教えられる事を教えよう」
「レリアに心配を掛けない様にしないとな」
「でもさ、それよりも今はまず‥‥」
「遊ぶのだ! 珠が鬼でかくれんぼじゃ!」
 そしてか細い声で初めて、自分の意思を皆へ告げるとガイエルは珍しく微笑み、その後をルクスが継いで言うも‥‥テリーと柚那に今は遮られれば、指名された珠を除いて一行は弾かれた様に駆け出す。
「あたしかいっ、はぁ‥‥でも悪いけど此処で私が鬼のかくれんぼで挑んだ事、後悔させてあげるわ。けどこの調子なら明日、もう一度試してみよっかな」
 そして取り残された珠は嘆息を漏らすも次に決断すれば、自身の庭でもある川原で次々と、一方的に皆を見付けるのだった。

●春の光、雪解けは
 それからエドの心の一端に触れた一行は遊びだけでなく、彼へ限りある時間の中で様々な事を教えるも、時はあっと言う間に過ぎ‥‥最終日。
「そうそう、後は自己紹介も出来ればいいんだけど‥‥」
「‥‥‥」
「ん、大丈夫。ゆっくりいこっか。書き取りはしっかり出来ているからね」
 あれからエドは言葉を発する事こそなかったがテリーのジャパン語教室を受ける様子を見る限り、一行とは大分馴染んだ様子が窺い知れる。
「何とかなったかい?」
「簡単な挨拶だけだから、問題ないだろう。しかし子供は飲み込みが早いな」
「そうだねぇ、羨ましい限りだよ」
 その傍ら、彼らに口を挟む柚那の姿に苦笑を浮かべると外から帰って来たルクスを見止めるなり尋ねれば、返って来た答えから肩を竦めれば
「それと‥‥ありがとう、助かった。あんたらが来てからまだ喋りこそしないけど雰囲気は変わったよ」
「‥‥きっかけを与えただけだ、これからはエド次第だろう」
「そうだね」
 次いで誰へとなく礼を言うが、それへも厳しく返すガイエルの言葉に同意して珠も頷く。
「お日様、綺麗ね。エドさんも他の人達と同じ様に大地から生まれて、愛されているの。そう考えるとエドさんも大地を愛する気持ち、沸いて来ない?」
 そしてその時、縁側で日の光を浴びながらエドら子供達のやり取りに微笑んでいた総樹の声が場に響けばエドは何時もの様に無言で‥‥しかし彼女を見つめ、首を縦に振れば
「エドくんー、遊ぼうー!」
「大丈夫。怖がらず、行って来ると良い‥‥皆きっと喜ぶ」
「私も一緒に行くからね、ほらっ! それと他にも行く人!」
 次に外から響いてくる、少し呂律が回っていないながらも英国語でエドを誘う子供の声。
 珠とルクスの手配でやって来た子供達の声に対し、エドは暫く固まったままだったが自身への誘いである事にやっと気付けば周囲を見回すも、ガイエルが彼を立ち上がらせればその手をピリルが握り皆へ呼び掛けると、彼を引き摺る様に外へ飛び出すのだった。

 だがそれにエドは抵抗する事無く‥‥やがて自分の足で大地を踏み締めた。

 〜一時、終幕〜